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第9話

Author: ジャイアン
ドアが閉まりきる、その直前。

蓮がぽつりと言った。

「今日、母さんに聞かれたんだ。……花嫁さんは、まだ来ないのって」

私の手が、一瞬止まった。

「言えなかった、俺が、自分で花嫁を失くしたなんて」

そう言って、蓮は一歩後ろへ下がった。

昔の蓮は、この家に入るのにノックなんてしなかった。

冷蔵庫を勝手に開けて水を飲み、私の人生にだって、自分自身の居場所があって当然だと思っていた。

でも今は、ドアの外に立っている。

つま先ひとつ、敷居の内側へ入ろうとはしなかった。

私はドアを閉めた。

背後では料理の香りが漂い、同僚たちの笑い声が聞こえていた。

その日は結婚式ではなかった。

それなのに私は初めて、何かを失ったような気がしなかった。

半年後。

私は部屋の内装をすべて終えた。

デザイナーに聞かれた。

「二人でお住まいできるよう仕上げますか?」

「いえ」

私は答えた。

「もう、その必要はありません」

寝室のマットレスは、自分で寝心地を確かめて選んだ。

カーテンの色も、自分で決めた。

玄関に、男性用の靴を置くスペースを空けておく必要もない。

ダイニングテ
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  • あなたたちからの新居祝いはいらない   第9話

    ドアが閉まりきる、その直前。蓮がぽつりと言った。「今日、母さんに聞かれたんだ。……花嫁さんは、まだ来ないのって」私の手が、一瞬止まった。「言えなかった、俺が、自分で花嫁を失くしたなんて」そう言って、蓮は一歩後ろへ下がった。昔の蓮は、この家に入るのにノックなんてしなかった。冷蔵庫を勝手に開けて水を飲み、私の人生にだって、自分自身の居場所があって当然だと思っていた。でも今は、ドアの外に立っている。つま先ひとつ、敷居の内側へ入ろうとはしなかった。私はドアを閉めた。背後では料理の香りが漂い、同僚たちの笑い声が聞こえていた。その日は結婚式ではなかった。それなのに私は初めて、何かを失ったような気がしなかった。半年後。私は部屋の内装をすべて終えた。デザイナーに聞かれた。「二人でお住まいできるよう仕上げますか?」「いえ」私は答えた。「もう、その必要はありません」寝室のマットレスは、自分で寝心地を確かめて選んだ。カーテンの色も、自分で決めた。玄関に、男性用の靴を置くスペースを空けておく必要もない。ダイニングテーブルだって、わざわざ六人掛けにする必要はなかった。一人で暮らす家なのだから、いつか誰かが帰ってくることを前提にして、無理に余白を残しておく必要なんてない。莉奈はその後、この街を離れた。引っ越す前、長いメッセージが一度だけ届いた。最初の一文は――【美月。私たち、子どもの頃はあんなに仲がよかったから、少しくらい美月のものを借りても気にしないと思ってた】そこまで読んで、私は画面を閉じた。莉奈は最後まで、本当の意味では分かっていなかった。貸せるものもある。でも――譲れないものもある。兄からは、ときどき、【今度、飯食いに帰ってこないか】と連絡が来る。ある日、こんなメッセージが届いた。【豚汁、今度は塩分控えめにした】私は、【また今度ね】と返した。兄はそれ以上、何も言わなかった。ただ、【分かった】とだけ返してきた。花乃も、以前のように頻繁には連絡してこなくなった。誕生日や年末年始になると、短いメッセージが届く。私も、ときどき返す。やり取りはどんどん短くなっていった。それでも昔の、「ずっと親友だからね」「何があっても私たちは

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