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第7話

Autor: リスボンの海
翌日、透花が予定を前倒しして研究プロジェクトに参加したことは、あっという間に学校中へ広まった。

校長自ら、全校生徒の前で発表した。

冬月透花は理系で全国トップクラスの成績を収め、国立先端エネルギー研究機構の特別選抜研究員として採用された。

透花が署名した早期受入同意書は、単なる大学進学に関する書類ではなかった。

彼女は特別選抜を受け、研究員として採用されていたのだ。

白凪市から選ばれたのは、透花ただ一人。

昨日、校舎で透花を取り囲んで嘲笑していた女子たちは、それを聞いた途端に顔色を変えた。

そのうちの一人は、わざわざ朔臣のところまでやって来た。「私たち、ちょっとふざけてただけだよ。まさかあの子があんなに根に持って、本当に行っちゃうなんて思わなかったし」

朔臣は彼女を一瞥した。「バケツを倒したのは誰だ?」

女子の笑顔が強張った。「手が滑っただけだよ」

「カメラは?」

「あれも、わざとじゃなくて……」

朔臣は手を伸ばし、彼女が持っていたスマホを奪うと、そのまま近くの噴水へ放り投げた。

女子が悲鳴を上げる。「ちょっと、何すんのよ!頭おかしいんじゃない!?」

「手が
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  • あなたたちのゲームから降りた日   第10話

    研究成果発表会が終わった翌日、両親が私のために家族だけの食事会を開いてくれた。朔臣たちは呼ばなかった。母は長い間、私を抱きしめて離さなかった。一方、父はキッチンで三皿も料理を焦がし、結局はデリバリーを頼むことになった。食事の途中、母がふいに尋ねた。「これからは白凪市に戻ってくるの?」私は首を横に振った。「プロジェクトの第二段階も北嶺で続くから」「また5年?」「もっと長くなるかもしれない」父の箸が一瞬止まった。けれど最後には、こう言った。「やりたいなら、やってこい。家の扉はいつでも開けておくから」鼻の奥がつんとした。「うん」……北嶺へ戻る前に、私は一度だけ官舎街へ足を運んだ。梨の木はまだそこにあった。木の下にあった、タイムカプセルを埋めた穴はすでにきれいに埋め戻されている。その上には、新しい金属製の箱が一つ置かれていた。蓋には紙が貼られていた。【冬月透花へ 本人だけが開けてください】私は開けなかった。ただ、その横を通り過ぎた。すると梨の木の陰から、朔臣が姿を現した。彼は私の行く手を塞ごうとはしなかった。「箱の中には、俺たちからの謝罪が入ってる。お前が見たくないのは分かってる。だから、開けなくてもいい」私は頷いた。「うん」朔臣は私を見つめた。「雛乃は去年、海外へ行った。俺たちも、もうずっと連絡を取ってない」「私に言わなくていいよ」「分かってる」彼はどこか苦しそうに笑った。「ただ、説明したかったんだ」「朔臣」私は彼の言葉を遮った。「あなたたちが私を騙して北嶺へ行かせたのは、雛乃がそれほど大切だったからじゃない。私が絶対に離れていかないと思ってたからでしょ」朔臣の顔から血の気が引いた。「私を傷つけても平気だったのは、どうせ最後には許してくれるって信じ切ってたから。だから、そのあと雛乃を選んだかどうかなんて、もうどうでもいいの。大事なのは、私がもう二度と、いつも後回しにされる場所へ戻りたくないってこと」彼は長い間、黙っていた。「分かった」「本当に?」「ああ」「だったら、もう待たないで。前に進んで」とうとう彼の目から涙がこぼれ落ちた。「お前は?」私は官舎街の外に停まっている研究機構の送迎車へ目を向けた。「私はずっと、前に進んでるよ」

  • あなたたちのゲームから降りた日   第9話

    5年目、プロジェクトはいよいよ最終段階に入った。私は23歳になっていた。チーム最年少の若手研究員だった私は、今ではコアモジュールの開発責任者を任されている。閉鎖研究期間の終了を前に、一度だけ外部との私的通信が許可された。外部との通信制限が解除され、スマホの電源を入れた瞬間、雪崩のように大量のメッセージが届いた。朔臣からは、2000件以上届いていた。一番古いメッセージは――【どこにいる?透花、いつまで拗ねてるんだ。いい加減、返事しろ】そして最後のメッセージは、昨日送られたものだった。【もう、許してもらえるのを待ってるわけじゃない。ただ、お前が無事だって知りたい】岳は大会でメダルを取るたびに、その写真を送ってきていた。理玖からは、復元できた昔の動画が一本ずつ送られてきていた。奏多は、五人の18年間をたどるムービーを一から作り直していた。タイトルは、『空席』。タイトル画面に使われていたのは、あの日、梨の木の下に残されていた、まだ埋め戻されていない穴の写真だった。私はすべてに目を通した。そして、すべて削除した。恨んでいるからではない。もう、残しておく必要がなかったからだ。研究成果発表会は、白凪市で開催されることになった。基地が用意した車で、私たちは白凪市へ戻った。5年ぶりに、あの高速道路の料金所が見えてきた。お守りを落としたコンクリート台は、とっくに改修されている。あの水晶のお守りも、もうそこにはなかった。同行していた先輩が尋ねた。「何か探してる?」「いえ、何も」車はそのまま白凪市へ入った。沿道の大型ビジョンでは、研究成果発表会の告知映像が流れていた。中核研究チームの主要メンバーとして、私の名前が大きく表示されていた。発表会当日、朔臣たち四人も会場へ来ていた。座っていたのは、最後列だった。5年という歳月が流れていた。岳は以前よりずっと落ち着いた雰囲気になっていた。理玖は、以前のようにいつも眼鏡をかけているわけではなくなっていた。奏多は髪を短く切っていた。そして朔臣は、ずいぶん痩せていた。私が壇上へ上がった瞬間、四人は示し合わせたわけでもないのに、揃って席から立ち上がった。司会者が発表する。「冬月透花研究員をはじめとする研

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    朔臣は三人を連れ、国立先端エネルギー研究機構の白凪連絡室へ駆け込んだ。職員が尋ねたのは、たった一言だった。「冬月さんとは、どういったご関係ですか?」朔臣は即座に答えた。「恋人です」職員は端末で登録情報を確認した。「冬月さんの緊急連絡先に、そちらのお名前はありません」朔臣の表情が強張った。「今は俺と喧嘩して、意地になってるだけなんです。どこへ行ったのか教えてください」「申し訳ありませんが、所在地に関する情報を開示する権限はありません」岳がデスクを叩いた。「俺たちは子供の頃からずっと一緒に育ってきたんです!」職員が顔を上げた。「それほど親しいのであれば、冬月さんが今日からプロジェクトに参加することもご存じだったのでは?」四人は同時に黙り込んだ。知らなかった。昨日、透花の部屋を隅々まで勝手に探しておきながら、あの同意書だけは誰一人まともに目を通していなかった。理玖は無理やり気持ちを落ち着かせ、口を開いた。「具体的な所在地は聞きません。こちらから本人宛ての荷物を預けて、転送していただくことはできますか?」「できません」「では、いつになれば連絡を取れますか?」「第1期完全閉鎖期間の終了後、プロジェクトの進捗状況を踏まえて判断されます」朔臣は長い間、その場に立ち尽くしていた。「どうかお願いです。透花は……出発するとき、俺たちに相談しなかったんです」職員は眉をひそめた。「冬月さんは成人です。ご自身の進路について、必ずあなた方に相談しなければならない理由があるのでしょうか?」その一言に、四人は何も言い返せなかった。研究機構を出ると、朔臣は車を飛ばして高速道路の料金所へ向かった。けれど、透花を乗せた送迎車がそこを通過してから、すでに何時間も経っていた。彼らが見つけられたのは、料金所脇のコンクリート台のそばに落ちていた、ひびの入った水晶のお守りだけだった。岳が腰を屈めて拾い上げる。水晶の裏には、二文字が刻まれていた。――透花。朔臣が手を差し出した。「よこせ」岳はお守りを握り締めた。「なんでお前に渡すんだよ?これは透花のものだろ」そのそばに立っていた雛乃が、小さな声で言った。「でも透花、昨日は私にくれるって言ってたよ」三人の視線が一斉に彼女へ向いた。雛乃の顔がさっと青ざめる。「

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    車が機密管理区域へ続く道路に入ると、担当者が改めて機密保持について説明した。「ここから先、冬月さんはプロジェクトIDで管理されます。これまでの個人情報、人間関係、通信記録はすべて一時的に切り離されます」私は頷いた。「分かりました」車窓の外では、街並みが少しずつ遠ざかり、やがて見渡す限りの荒野へと変わっていった。私は座席にもたれかかった。誰かから突然メッセージが届いて、物を届けてほしい、動画を編集してほしい、面倒事を片づけてほしいと頼まれる心配をしなくていいのは、これが初めてだった。あまりにも静かで、少しだけ不思議な気分だった。――同じ頃、白凪市では雛乃の合格祝いがすでに始まっていた。岳は脚立に乗り、最後に残ったイルミネーションライトを飾っていた。理玖はプロジェクターの調整を担当し、奏多は五人をかたどったデコレーションケーキを切り分けている。朔臣は時間を確認した。午後7時5分。透花はまだ姿を見せていなかった。彼はメッセージを送った。【どこにいる?】しばらく待っても、既読はつかなかった。朔臣は眉をひそめ、もう一度送る。【透花、いつまで拗ねてるんだ。いい加減、返事しろ】それでも、既読はつかない。岳がそばへ寄ってきた。「まだ拗ねてるのか?」「既読がつかない」奏多が鼻で笑った。「子供じゃあるまいし。どうせそのうち自分から我慢できなくなって、また連絡してくるだろ」けれど理玖だけは、作業していた手を止めた。「SSDは?」雛乃がきょとんとする。「透花に持ってきてもらうんじゃなかったの?」その言葉が終わると同時に、玄関のチャイムが鳴った。朔臣はほとんど反射的に立ち上がった。だがドアを開けても、そこにいたのは配達員だけだった。「椎葉奏多さんですか?当日配送のお荷物です」段ボール箱を開けると、中にはあのポータブルSSD、そして差出人不明の四通の手紙が入っていた。奏多がSSDをパソコンにつなぐ。フォルダの中は空っぽだった。初めてキャンプへ行った日の映像もない。16歳の誕生日もない。五人で海へ行ったときの写真もない。そこにあったのは、新しく作られた文書ファイルが一つだけだった。【私がいない過去が欲しかったんでしょう。望みどおりにしてあげたよ。】リビングが突然、静まり

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