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愛し尽くした私が、あなたを捨てるまで

愛し尽くした私が、あなたを捨てるまで

By:  安田徹Completed
Language: Japanese
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大学進学を機に遠距離恋愛になってから4年。連休を利用し、小宮山紬(こみやま つむぎ)は電車を乗り継いで何時間もかけ、恋人の瀬川智也(せがわ ともや)が通う帝北大学を訪れた。 ところが、智也は寮にいなかった。 寮の管理人は紬を上から下まで見てから、笑って言った。 「瀬川くんに会いに来たの?あの子なら外泊届を出してるよ。連休中はずっと寮に戻らないって」 紬はキャリーケースの持ち手を強く握った。 「何かの間違いじゃありませんか?さっき本人に聞いたら、大学にいるって……」 LINEの一番上には、智也とのトークがピン留めされていた。つい2分前にも、二人はメッセージを交わしたばかりだった。 疲れたから、寮で少し寝る。 智也はそう言っていた。 「私が嘘をついてどうするの。ほら、これが外泊届」 寮の管理人は書類を紬の前へ差し出した。 「この子、休みになるたびに南陵大学へ彼女に会いに行くのよ。雨の日も風の日も欠かしたことがないの。彼女をよほど大事にしてるみたいで、同じ部屋の子たちもみんな知ってるよ。ほら、あの子たちがそう」 その時、数人の男子学生が笑いながら紬の前を通り過ぎていった。 「せっかくの長い休みなのに、智也いないのかよ。いたらチーム組んで大会に出られたのにな!」 「あいつ、彼女のことしか頭にないから、休みのたびに会いに行くだろ」 「南陵大まで電車で結構時間かかるんだぜ。よくやるよな。彼女に来てもらえばって言ったら、疲れさせたくないんだと。マジで彼女しか見えてねえよ」 その会話は、一言残らず紬の耳に届いた。 キャリーケースを握る手に力がこもり、胸に膨らんでいた期待は、たちまち不安へと変わった。 南陵大学? 私が通っているのは、南陵大学ではない。 では、智也は雨の日も風の日も、いったい誰に会いに行っていたのだろう。

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松坂 美枝
松坂 美枝
サイテーな奴らだった… 応援してた女マジタチ悪い 周囲の男からあの女ブスじゃんと言われてから嫌悪して吐いたりマジでサイテー そんで最後しらっと生きてるしもう関わるなよ
2026-09-12 10:32:30
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22 Chapters
第1話
大学入試で、彼女の点数は智也より10点低かった。智也は帝北大学へ進み、彼女は遠く南にある青陵大学へ行くしかなかった。大学の4年間、まとまった休みは20回もあったが、智也は一度も会いに来なかった。会いに来てほしいと頼んでも、遠すぎると言われた。移動に8時間もかけるくらいなら、実験をいくつもこなせるとも言っていた。紬が自分から会いに行くと言っても、まだ学生なのだから、恋愛にばかり時間を費やすべきではないとたしなめられた。この4年間さえ乗り切れば、ずっと一緒にいられるとも言っていた。では、智也はこの4年間、休みのたびに誰に会いに行っていたのだろう。紬の頭に、南陵大学へ通う親友、松井菜月(まつい なつき)の姿が浮かんだ。そんなはずはない。紬と智也は高校時代から付き合っていた。二人は愛し合っていた。紬には一度も会いに来なかった智也が、菜月のもとへ通っていたはずなどない。紬はキャリーケースを引き、うつむいたまま帝北大学をあとにした。南陵大学までの切符を買い、自分の目で確かめることにした。出発する際、智也にLINEを送った。【智也、今何してるの?】【疲れたし、ちょっと眠い。少し寝たいから、またあとで連絡する】続いて、菜月にもLINEを送った。【菜月、今何してるの?】【友達が遊びに来てるの。これから一緒に買い物して、ご飯を食べに行くところ!】【その友達って男の子?もしかして、彼氏ができたの?】【当ててみて】返ってきたのは短い言葉だけだったが、紬の手はすでに震え始めていた。菜月の恋人が、自分の恋人である智也なのではないか。それが怖くてたまらなかった。紬が南陵大学に着いた頃には、すでに日が暮れていた。菜月の学生寮の前まで行き、電話をかけようとスマホを取り出したとき、見覚えのある人影が建物から勢いよく飛び出してきた。そのまま、待っていた男子学生の胸に飛び込んだ。「ずいぶん待ったでしょ?寮の管理人さんには外泊するって言ってきたから、今夜は戻らないよ!」男子学生は鞄からハンディファンを取り出し、女の子に風を送った。「ホテルは予約してある。暑くない?ほら、冷たいマキアート。好きだろ?さっき買ってきた」女の子は彼の腕に抱きつき、甘えた声を出した。「もう、智也って最高。大好き
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第2話
「それは、こっちの台詞じゃない?」紬が口を開いた途端、涙が次々とこぼれ落ちた。5年間も愛し合ってきた恋人と、10年来の親友が、二人そろって自分を裏切っていた。そんなことを、どうやって信じられるだろう。しかも自分は、今まで何も知らずにいたのだ。智也は菜月の手を離すと、急いで紬のそばへ来て釈明した。「たまたま近くまで来たから、様子を見に寄っただけだ。それ以上の関係じゃない」「智也、私を馬鹿だと思ってるの?二人がキスしてるところを見たのに、何もないって言うつもり?」怒りに駆られた紬は、肩に掛けていた鞄をつかみ、智也めがけて力いっぱい振り下ろした。智也は避けなかった。頭に鞄が当たり、身体がわずかによろめいたが、その場に立ったままだった。「紬、やめろ。俺たちの話を聞いてくれ」「紬、落ち着いて。ちゃんと説明するから」菜月は泣きながら智也の前に立った。だが、紬は言い訳を許さず、その頬を平手で打った。乾いた音が響き、周囲にいた学生たちの視線が集まった。見物する人が増えていくなか、菜月は頬を押さえ、信じられないという顔で紬を見た。「紬、私たち親友でしょ?どうして叩くの?」「自分が私の親友だって、まだ分かってたんだ?だったら、どうして私の彼氏に手を出したの?どうして隠れて付き合ってたの!どうして……どうしてよ!」紬は我を忘れ、何度も菜月の頬を叩いた。菜月の顔は赤く腫れ上がったが、最後まで避けることも、やり返すこともしなかった。「私が悪かった。でも、本当に自分でも気持ちを抑えられなかったの!」菜月は泣きながら首を振った。「紬を傷つけるつもりはなかったの。大学の4年間だけ付き合って、卒業したら別れるって決めてた。紬、許してくれない?」「傷つけるつもりはなかった?4年間だけ付き合って別れる?気持ち悪い。二人とも、本当に気持ち悪い!」紬がさらに強く手を振り上げると、見かねた智也がその手首をつかんだ。「もうやめろ、紬。ここには菜月と同じ大学の学生が大勢いる。これ以上騒いだら、菜月の評判に関わる」こんなときにまで、智也は菜月の評判を気にしていた。別の女をかばう智也と、その背後で震えている菜月を見て、紬は悟った。自分は、完全に負けたのだ。「菜月の評判に関わるなら、私は?智也、私のことを考え
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第3話
南陵大学をあとにしても、誰一人追いかけてこなかった。すでに夜の8時を回っており、その日のうちに街を離れられる便はもう残っていなかった。紬は、もう一人の親しい友人がこの街に住んでいることを思い出した。しばらくすると、吉岡彩乃(よしおか あやの)が車で迎えに来た。「紬、来るなら先に連絡してよ。菜月に会いに来たんでしょ?」「智也に会いに来たの」智也の名前を口にした途端、紬はまた涙をこらえきれなくなった。「彩乃……智也が……菜月と付き合ってたの」彩乃は突然強くブレーキを踏み、車を路肩に止めた。そして驚いた顔で紬を見た。「紬、全部知ったの?」目尻にたまっていた涙が止まった。紬はゆっくりと顔を向けた。「全部って何?彩乃も知ってたの?」「ごめん、紬。確かに前から知ってた。でも、そんなに深く考えないで。二人とも、この先までどうこうするつもりはなかったの。大学の4年間だけ付き合って、卒業したら別れるって約束してただけ。智也がいちばん好きなのは今も紬だし、結婚したいと思ってるのも紬だけだよ。菜月はかわいそうな境遇だし、多くを望んでるわけでもない。何も知らなかったことにしてあげてよ。卒業まであと数か月なんだから、それが過ぎれば二人は別れるよ」彩乃も、高校時代からの友人だった。何でも話せるほど親しい間柄だと思っていた。それなのに彩乃は、智也と菜月が付き合っていることを知りながら、紬には黙っていたのだ。「智也にはもう連絡したよ。すぐに迎えに来て、ホテルまで送ってくれるから。二人できちんと話して、もう騒ぐのはやめて」その瞬間、紬の心は完全に凍りついた。冷気が胸の奥から全身へ広がり、身体の震えが止まらなくなった。紬は何も言わずに車を降りた。後ろへ回ってトランクからキャリーケースを取り出すと、そのまま黙って歩き出した。彩乃が慌てて声を上げた。「紬、何してるの?こんな時間に一人でどこへ行くつもり?」紬は答えず、ひたすら前へ進んだ。「紬!」智也が駆けつけた。その後ろには、菜月もいた。菜月の目は泣き腫らし、頬も大きく腫れていた。見るに堪えない姿だった。もともと菜月は美人とは言い難く、顔立ちもスタイルも紬には遠く及ばなかった。むしろ、ブスと言ってもいいほどだった。それなのに智
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第4話
智也は首を横に振った。「紬、もう嘘はつきたくない。あの日は菜月が熱を出したんだ。心配で、北央市から南陵市まで会いに来た」「去年のお正月、私が胃を悪くして3日間入院したとき、電話でそばにいてほしいって頼んだよね。でも智也は、先生から課題を任されていて離れられないって……」智也はためらいながら答えた。「あの日はちょうど、菜月が歌唱コンテストに出る日だった。どうしても俺に見に来てほしいって言われたんだ」紬は唇を強く噛み、涙がこぼれないように耐えた。「冬休みに、青陵市まで迎えに来て、一緒に帰ろうって頼んだときは、もう実家に帰ったって言ったよね」「菜月と雪野市へ旅行に行った。雪を見たい、スケートをしたいって言われて……」智也は、それ以上言えなくなった。紬を強く抱き締め、声を詰まらせながら謝った。「ごめん、紬。わざと騙そうとしたわけじゃない!ただ、菜月と付き合うのは4年間だけだって約束したんだ。4年が過ぎたら、全部なかったことにする。あと3か月しかない。もう3か月だけ待ってくれ。卒業したら結婚しよう。それからはずっと紬のそばにいる。紬の望みなら、何でも聞くから!」「もう3か月も待たなくていい」菜月が泣きながら、智也の言葉を遮った。「私たちは今日で終わりにする!智也、私はもうあなたの彼女じゃない。あなたは紬の恋人だから、二人の邪魔はもうしない!」それから涙で潤んだ目を紬へ向けた。「紬、私たちはこれからも親友だよね?」紬は、智也の熱い胸元と力強い鼓動を感じていた。だが、心の中は凍りついたままだった。それでも彩乃は、また菜月をかばった。「そうだよ。もう許してあげよう、紬。菜月がかわいそうなのは知ってるでしょ。両親を亡くして、ずっと一人で生きてきたんだよ。菜月はずっと前から智也のことが好きだった。でも紬に悪いと思って、言い出せなかったの。みんなで紬には黙っていようって決めてたのに、まさか突然知られるなんて思わなかった!」「もういい!全員黙って!」紬は勢いよく智也を突き放した。智也が車道側へよろめくと、菜月が駆け寄り、力いっぱい彼を押し戻した。「智也、危ない!」激しい衝突音が響いた。猛スピードで走ってきた車のフロントガラスに、菜月の身体がぶつかった。そして糸の切れた人形のように、路上へ
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第5話
紬は一人でタクシーに乗り、病院へ向かった。車内では腰を少し動かすだけでも激痛が走った。額から冷や汗を流し続ける紬を見て、運転手が心配そうに声をかけた。「こんな遅い時間に、どうして一人で道にいたの?誰も助けてくれなかったのかい?そんなに痛そうじゃ、一人では病院の中に入ることもできないだろう」「大丈夫です。ありがとうございます」紬は痛みに耐えながらタクシーを降りたが、数歩も歩かないうちに地面へ倒れ込んだ。見かねた運転手は車を止め、紬を病院の中まで連れていった。「誰か来てください。この子、腰をひどく痛めてるみたいです」看護師が車椅子を用意し、紬を救急外来へ運ぼうとした。運転手は紬に手を振った。「心配しなくていい。きっと大丈夫だから」見ず知らずの人から気遣われ、紬はまた涙をこらえられなくなった。「ありがとうございました」看護師が車椅子を押して歩き出して間もなく、菜月の受付手続きを終えた智也と彩乃に出くわした。二人のほかにも、南陵市内の大学に通う友人たちが病院へ来ていた。紬が車椅子に乗っているのを見るなり、数人の男子学生が怒り出した。「お前、よくここに来られたな?」「心が狭すぎるだろ。菜月と智也が隠れて付き合ってたからって、菜月を車道に突き飛ばして事故に遭わせるなんて。お前、怖すぎるよ!」「本当だよ。こんなことになるなら、大学に入ったときに智也をお前と別れさせておけばよかった。そうすれば、二人だって苦労して隠し続けなくて済んだのに!」そこで紬は初めて気づいた。智也と菜月の関係は、大勢の人が知っていたのだ。自分はどうして、これほど愚かだったのだろう。一度も疑ったことさえなかった。だが今は、腰がひどく痛んでいた。彼らと言い争っている余裕などなかった。「すみません、通してください。この方は怪我をしています。救急外来へお連れしますので」看護師は眉をひそめ、道を空けるよう求めた。ところが、真っ先に立ちはだかったのは彩乃だった。「怪我?どこが?私には元気そうに見えるけど」彩乃は紬の前で両手を腰に当て、怒りをあらわにした。「紬、車椅子から降りて!菜月はまだ危険な状態なの。私たちと一緒に手術室の前で待つのよ!菜月が出てきたら、真っ先に謝って!」ほかの者たちも次々と同調し
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第6話
引きずられるたびに、紬の腰へ激痛が走った。段差があっても、彼らはためらわずに紬を引きずって進んだ。紬が痛みで意識を失いかけていても、誰一人気に留めなかった。「痛い……」紬は唇を噛み締め、たまらず智也に懇願した。「智也、腰は本当に怪我してるの。あなたに車道へ突き飛ばされて……すごく痛い……みんなを止めて。先に診てもらってから、菜月に謝りに戻ってくるから……お願い」智也は紬を見下ろした。「まだ芝居を続けるのか?俺は軽く押しただけだ。そんな大怪我をするはずがないだろ。菜月はお前のせいで、生きるか死ぬかも分からない状態で手術を受けてるんだ。その程度の痛みが何だっていうんだ?」胸の奥を切り裂かれ、そこへ冷たい風が吹き込んでくるようだった。痛かった。死んでしまいたいほど、痛かった。紬はもう声を上げず、抵抗することもやめた。そのまま手術室の前まで引きずられ、床へ乱暴に放り出された。「ここで待ってろ!菜月が出てきたら、すぐに謝れ!」「本当だよ。こんな心の狭い女、見たことない。よく友達なんて言えたな!」激痛は絶え間なく広がり、紬の視界は何度も暗くなった。意識も少しずつ遠のいていった。紬はかろうじて顔を上げ、智也を見た。だが智也は、一度も紬を見ようとしなかった。頭上のまぶしい照明を眺めているうちに、高校3年生の体育祭を思い出した。徒競走に出た紬は、途中で足をくじいた。智也は自分が出場するはずだった走り高跳びを放り出し、すぐに駆けつけると、紬を背負って保健室へ向かった。教師が追いかけてきて、智也を止めた。「瀬川くん、あなたはまだ競技中でしょう!早く小宮山さんを下ろしなさい。こちらで保健室へ連れていきますから、あなたが行く必要はありません!」「嫌です。俺が保健室まで連れていきます!紬は今、痛がってるんです。放っておけません!」保健室へ向かう途中、紬は痛みで涙を流した。智也は心配そうに声をかけた。「怖がらなくていい。もうすぐ保健室に着くから」紬は智也の背中にしがみつき、泣きながら尋ねた。「智也は、どうしてそんなに優しくしてくれるの?」「馬鹿だな。俺は一生、紬を大切にする。紬が痛がるのも、泣くのも見たくないんだ」だが今の智也の目には、もう紬は映っていなかった。どれほど
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第7話
紬が目を覚ますと、誰かに手を強く握られていた。智也だった。一晩中そばにいたらしく、握られていた手は痺れ、思うように動かなかった。腰にはまだ鈍い痛みが残っていた。紬が小さくうめくと、智也はすぐに目を覚ました。「紬、目が覚めたのか?まだ痛い?」紬は手を引き抜いた。「出ていって」「ごめん。本当に怪我をしてるとは思わなかった」智也は眉を寄せ、罪悪感に満ちた目で紬を見た。「怪我してるって分かってたら、見捨てたりしなかった」「いや。あなたなら見捨てた」紬はためらうことなく、その言葉を否定した。「あのとき、あなたの目には菜月しか映ってなかったから」「まだ、俺と菜月のことを怒ってるのか?」智也はため息をついた。「騙していたことは悪かったと思ってる。でも、わざと傷つけようとしたわけじゃない。菜月がずっと俺を好きだったと知ったのは、大学入試が終わってからだ。俺が頼まれると断れない性格なのは、紬も知ってるだろ?菜月は、ほかには何も望まない、大学の4年間だけ付き合えれば満足だと言ったんだ。紬の前には絶対に出ない、すべて隠し通して傷つけないとも言っていた。あまりにも悲しそうに泣くから、4年間だけ付き合うことにした。でも、本当に4年間だけだ。紬が嫌なら、菜月の身体が回復したらすぐに別れる。これからは紬としか付き合わない」紬は目の前の智也を見つめた。まるで知らない人間のように思えた。高校時代の智也は良識があり、誠実で、爽やかな青年だった。たった4年で、どうしてこれほど嫌悪を覚える人間に変わってしまったのだろう。「勝手にすれば」「許してくれるのか?」智也は喜び、紬を抱き締めた。「やっぱり紬は優しいな。約束する。卒業式の日には青陵大へ迎えに行く。それから一緒に北央市へ行こう。前に、北央大学の大学院を受けたいって言ってただろ?二人で受験して、これからもずっと一緒にいよう」智也は二人の未来を思い描いていた。一方、紬が望んでいたのは、智也のもとを去ることだけだった。連休は、あと5日残っていた。紬の入院期間は4日だった。退院すれば、ここから完全に離れられる。「智也、菜月が目を覚ましたよ。あなたの名前を呼んでる」彩乃が病室の入口に現れた。紬を見る目には、どこか恨めしそうな色が浮か
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第8話
病院。紬からのメッセージを受け取ったとき、智也はまだ彼女の好きなカフェラテを手にしていた。カフェラテはすでに冷め、手のひらからも温もりが失われていった。別れる?紬は本気で言っているのか?二人は5年間も付き合ってきた。本当に自分と別れられるのだろうか。だが、この数日間、紬が向けてきた冷たく失望に満ちた眼差しを思い出すと、智也は急に不安になった。菜月と付き合っていたとはいえ、智也がいちばん好きなのは、最初からずっと紬だけだった。菜月のことは、ただ放っておけなかっただけだ。紬が二度と自分を相手にしてくれなくなるのが怖くなり、智也はすぐに電話をかけた。しかし、紬のスマホはすでに電源が切られており、つながらなかった。LINE通話をかけても同じだった。智也は眉をひそめ、切符を予約する画面を開いた。今すぐ新幹線に乗り、青陵市まで紬を捜しに行こうとさえ思った。「どうしたの、智也?顔色が悪いよ」彩乃が歩み寄り、智也からスイカを受け取った。「早く病室に戻ろう。菜月がさっきからスイカを食べたいって言ってるよ」「紬に別れようって言われた」智也は届いたメッセージを彩乃に見せた。彩乃は一目見るなり、笑い出した。「そんなことで悩んでるの?まさか本気で慌ててる?紬に別れようって言われたのは初めてじゃないでしょ。前に喧嘩したときも言われたけど、結局仲直りしたじゃない」彩乃は智也の肩を軽く叩いた。「心配しなくていいよ。脅してるだけ。前に別れるって言ったときも、私に電話してきて、智也を慌てさせたかっただけだって話してたから。今回もきっと同じ。迎えに来て、機嫌を取ってほしいんだよ」「なぜか嫌な予感がするんだ。今度の紬は、本気のような気がする」「考えすぎだって。今はいちばん大事なのは菜月でしょ。二人には約束があって、あと3か月で完全に別れるんだから。そのとき青陵市へ紬を迎えに行けばいいよ。私が知ってる紬なら、少し機嫌を取れば、すぐに許してくれるから」「そうかな?」「そうだよ!」彩乃は智也を菜月の病室へ引っ張っていった。「菜月、もう智也のことばかり言わなくても大丈夫。ほら、来てくれたよ!」智也の姿を見た途端、菜月の顔に恥じらうような笑みが浮かんだ。その表情には、わずかな不満も混じっていた
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第9話
それからの3か月間、智也は何度か紬に連絡した。しかし、メッセージを送っても電話をかけても、紬からは何の反応もなかった。どうせ3か月後には菜月と別れ、完全に紬のもとへ戻れる。そう考えた智也は、これ以上気にするのをやめ、卒業する頃に紬を訪ねて驚かせようと思った。そのため、この3か月間は、ほとんど毎日のように菜月と電話やビデオ通話をし、メッセージを交わした。菜月が数時間かけて、帝北大学まで智也に会いに来たこともあった。クラスメイトたちは、二人をからかった。「智也が4年間も通い詰めた彼女を、やっと生で見られたな!」「ずっと隠してた理由が分かったよ。お前の彼女……まあ、かわいいんじゃない?」「今夜は寮に戻らないんだろ?管理人さんに外泊届を出しといてやるよ!」その晩、智也は本当に寮へ戻らなかった。菜月と外泊するのは、これが初めてではなかった。だが以前は、同じベッドに横になって抱き合い、キスをするだけで、それ以上のことはしなかった。智也は紬と、お互いの初めては結婚するまで取っておこうと約束していたからだ。しかし、その夜はとうとう我慢できなかった。菜月は肌の露出が多いナイトウェアに着替え、バスルームから出てきた。菜月は美人ではなかったが、化粧をして薄暗い照明の下に立つと、それなりに魅力的に見えた。智也も一人の男だった。目の前の女から誘われて、抗うことができなかった。智也は菜月をベッドへ押し倒した。それでも一線を越える前に、震える声で尋ねた。「本当にいいのか?」「いいよ」菜月は智也の首に腕を回し、自分から唇を重ねた。「智也が私を嫌わないでいてくれるなら、ずっとそばにいたい。たとえこの先もずっと浮気相手のままでも、私はそれでいい」「馬鹿だな」そう言われるほど、智也の中で菜月への罪悪感は大きくなった。菜月を強く抱き締め、さらに激しく唇を重ねた。その夜、二人は何度も身体を重ねた。翌朝、智也は授業に出るため、大学へ戻ることになった。菜月は名残惜しそうにしながらも、おとなしくホテルで帰りを待つことにした。「一緒に夕食を食べたいから、待ってるね」「ああ」授業が始まる前に、智也は一度寮へ戻った。教科書を寮に置いたままだったが、まだ時間には余裕があった。ところが
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第10話
智也がそう言っても、クラスメイトたちは信じようとしなかった。「智也、冗談はやめろよ。彼女じゃないって?昨日はお前にべったりくっついてたじゃないか」「そうだよ。もしかして、さっき俺たちが話してたことを聞いたのか?ただの冗談なんだから、気にするなって。好みなんて人それぞれだろ!」「もし失礼なことを言ったなら謝るよ。俺たちのせいで彼女との関係を悪くするなよ」「本当に彼女じゃない」智也は紬の写真を取り出し、彼らの鼻先に突きつけた。「こっちが俺の彼女だ」「この子は本当にきれいだな!」「そうそう。智也には、こういう子が似合うよ!」「でも、この顔どこかで見た気がするな」「思い出した!連休初日の夜、寮の前にいた女の子だよ。あのとき、あんな美人と付き合ってるのはどこの羨ましいやつだと思ったけど、智也だったのか!」その話を聞き、智也はようやく事情を理解した。あの日、紬は遠路はるばる帝北大学まで智也に会いに来ていた。だが智也がいなかったため、南陵市まで菜月を訪ねたのだ。そこでまさか、恋人と親友がそろって自分を裏切っているところを目にするとは思わなかっただろう。一人が不思議そうに尋ねた。「でも、あの日はお前も彼女に会いに行ってたんだろ?どうして本当の彼女はそれを知らずに、大学までお前を捜しに来たんだ?」智也は言葉に詰まった。どう説明すればいいのだろう。二人の女と同時に付き合っていたと、正直に話すのか。しかも、きれいな紬を何度も騙してまで、見た目の劣る菜月と付き合っていた。そんなことを話せば、きっと一生笑いものにされる。その日の授業中、智也はまったく集中できなかった。授業が終わると、菜月から何度もメッセージが届いた。だが智也は一度も返信しなかった。やがて菜月が学生寮の前に現れ、智也の名前を呼び始めた。クラスメイトたちが笑った。「智也、また例の子が来てるぞ!」「でも、あの子も勇気あるよな。自分の見た目がよくないのを分かってるのに、あんな堂々と智也に言い寄れるんだから」「どうする?俺たちが下へ行って追い返してこようか?」智也は窓から菜月を一度見ると、自分で決着をつけることにした。急いで階段を下りると、何も言わず菜月の腕をつかみ、人目のない場所へ連れていった。「何するんだ
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