私は沙織に、「うん。あの人のターゲットは私だよ」と答えた。 そんな私を見て、沙織は「なんで瑞紀に復讐したいのよ?」と問いかけてくる。「……課長を取り戻すためだよ」「課長を?」「うん。……藤堂さん私が憎いの。私を嫌ってるのよ」「じゃあそれが……」 と沙織が私を見るから、「私に対する宣戦布告、なのかもね」と沙織を見た。「……藤堂さんは、私に復讐したいのよ」「復讐……?」「うん。あの人のターゲットは私だから」 そんな私を見て、沙織は「なんで瑞紀に復讐したいのよ?」と問いかけてくる。「……課長を取り戻すためだよ」「課長を?」「うん。……藤堂さん私が憎いの。私を嫌ってるの」「じゃあそれが……」 と沙織が私を見るから、「私に対する宣戦布告、なのかもね」と沙織を見た。「宣戦布告……ね」「あの人は課長を取り戻すためなら、きっとなんでもする。……あの人は、そういう人だから」 藤堂さんは、私を課長から引き離すためならどんな手をも使ってくるはず。「だからって、瑞紀を憎むなんて許せないわよ。瑞紀は何も悪くないじゃない」「彼女は多分、私が課長をたぶらかしたって思ってるのよ」「たぶらかしたと思ってるなら、それはただの思い込みなのにね」 そう、私はたぶらかした訳ではないのだけど。「とにかく、絶対あの女に課長を取られちゃダメよ。 いいわね?」「……うん、分かってる」 私は藤堂さんに課長を渡す気なんて、さらさらない。 絶対に渡さないーーー。 「よし、とりあえず私は、あの女が課長に近づかないようになんとかするわね」「いいの?」「当たり前じゃない。私に任せて」「……ありがとう」 なんだか沙織がいてくれるだけで安心する。 確かにちょっと不安はあるけど、沙織がいれば不安もなくなるような気がする。「沙織、この後の会議って何時から?」「この後? えっと……あ、営業部と企画部の合同会議だわ」「そう、分かった」 営業部と企画部の合同会議か……。長くなりそうだな。「瑞紀も他に会議にも入ってなかった?」「うん。二つくらい重なってる」「そう。 じゃあ今日は、お互いに忙しくなりそうね」「本当にね。今日は徹夜かも」 なんて言ったら「大変ね。くれぐれもムリはしないでちょうだいね」と沙織が優しい言葉をくれる。「分かってる。ありがとう」「
「一つ言っておきます。私はあなたなんかに課長を渡しません。……絶対に」「あっそ、好きにしたらいいわ。 でも私は諦めないわよ。絶対恭平さんを取り戻してみせるから」「私だって負けません。課長は絶対に渡しません」「……勝手にしなさい」 藤堂さんはそう言い残し、そのまま私の前から立ち去っていった。「おや、佐倉さん?」 ホッとしたのもつかの間だった。 会議室を出たところで、課長と鉢合わせしてしまった。「か、課長……!?」 どうしよう、今の課長に見られてないかな……?「どうしたんですか?こんなとこで」 私はそう聞かれたので、「いえ、なんでもありません。……ちょっと営業部に、用がありまして」と答えた。「営業部に……ですか?」「は、はい。 渡し忘れていた資料があったので、届けに行ってたんです」「そうですか。 それはご苦労様でした」「……はい。失礼します」 良かった……。なんとか誤魔化せたかな。 課長との関係がバレないように振る舞うのは、正直言ってすごく大変。 会社での私たちの関係は、ただの上司と部下。 さっき課長は常務と一緒にいたけど、常務の前で話すのも結構苦労する。 まあ、藤堂さんこともあるから、ハッキリ言って今すごく気まずい。 課長と私は同じ部署で働いていて、しかも地道に交際を重ねている。 なのにそこに藤堂さんが入ってくることで、課長との関係がギクシャクするような気がしてならない。 しかも藤堂さんは課長の元奥さんで、今私たちは彼女たちと新しいプロジェクトの開発を進めている。 でも藤堂さんは課長がまだ好きで、課長とやり直そうとしている。 課長は私をすごく愛してくれているし、私だって課長のことを誰よりも愛しているの。「私たちの関係を……あの人なんかに壊されたくない」 私たちの恋は、この先もずっと続いていくものだから。……私は彼を、ずっと支えていく覚悟なら出来ている。 なのにそこに大きくて深い溝ができそうな気がして、なんだか悲しい気持ちになってしまう。 もちろん課長が私を裏切ることはないって信じてるし、ずっとそばにいてくれるって信じてる。 だからこそ、不安になってしまう。 * * *「今日の会議はこれにて終了です。 皆さん、お疲れ様でした」 会議が終わると、課長は何かの資料をジーッと眺めていた。「課長?」「
「……っ、うるさいっ! 私の気持ちなんてあなたには分からないくせに、大きな口叩かないでちょうだい!」 私に怒鳴りつけてくる彼女に、私は「なにも分かってないのは、あなたの方です」と彼女を睨んだ。「なんですって……?」「なんで私たちの邪魔するんですか?私と課長は愛し合ってるんです。 ずっと一緒にいるって、約束したんです。……なのにどうして私の邪魔ばかりするんですか?」 もう本当にいい加減にしてほしい。 こんなのもう、うんざりだ。 彼女はきっと、強気でいれば私が泣くと、きっとそう思っているのだろう。 「やだ、誤解しないで? 邪魔なんてしてないわよ。……いい?これは私からあなたへの゙警告゙よ」 藤堂さんは私を見て怪しく微笑みを浮かべる。「……警告?」 警告って……なに?「そうよ。あなたと恭平さんはね、不釣り合いなのよ。 前にも言ったわよね?あなたたちは、格が違うって」 そう言われた私は、彼女に向かって「……それって、そんなに大事なことなんですか?」と問いかけた。「はっ?」「あなたは、私たちが不釣り合いとか格が違うって言いますけど、それってそんなに大事なことなんですか?」 お互い愛し合ってるのに、不釣り合いだとか関係あるの?「……なに言ってるの?」「確かにあなたの言う通り、私たちは不釣り合いですし、格も違います。 でも私は別に、不釣り合いでも構わないし、格が違くてたって構いません。……いいですか?藤堂さん。これだけはよく覚えといてください」「……なに?」 藤堂さんの私を見る目は、まるで「アンタの意見なんて聞きたくない」というような顔だった。 でもそんなの、私には関係ない。「例え不釣り合いでも、例え不格好でも、お互い愛し合ってれば上手くいくと思います。…… それが別に元妻からの脅しだろうが、私はそれに屈したりはしませんから」 その時私は、自分で自分を褒めた。よく頑張ったと、褒めてあげてもいいよね?「……なんですって?」「課長が今好きなのは、私なんです。……あなたじゃありません」 ギュッと唇を噛み締めた藤堂さんは、拳をぐっと握りしめた。「あなたがまだ課長を好きだとしても、課長の気持ちがあなたに向くことは、もうないんですよ。……いつまでも相手を想い続けてるだけじゃ、自分が惨めで情けなくなるだけですよ?」「うるさい!……わかった
* * * それはある日の昼休みのことだった。 お手洗いを出た後で、急に「佐倉さん」と後ろから声をかけられた。 ーーードキッ。 思わず、その足が止まった。 ゆっくりと振り返ると、そこにいたのは、やはり藤堂さんだった。「……なんですか?」 藤堂さんは私に「ちょっといいかしら?話があるんだけど」と言ってくる。 この声を聞くと、本当に嫌気がさす。 もう顔も見たくないというのに。「……わかりました」「着いてきてくれる?」 藤堂さんが歩きだしたので、私も少し距離を置いて藤堂さんの後を追った。 藤堂さんは誰もいない会議室に入ると、私の方に向き直った。「……なんですか。こんなとこまで連れてきて」 多分、課長のことじゃないかとは思う。 多分、それ以外ない。「決まってるじゃない。恭平さんのことよ」 なんなの? 今さら、課長がなんだって言うの……。「ねえ、佐倉さん?」 藤堂さんに名前を呼ばれるだけで、寒気がする。「ねえ、聞いてんの?」 藤堂さんに顔を覗きこまれる。「ねえ、聞こえてるんでしょ? なら、なんとか言いなさいよっ!」 何も言わない私に苛立ったのか、藤堂さんは私に怒鳴りつけてくる。「……藤堂さん、本当にいい加減にしてください」 そんな私を見て、藤堂さんは「なんですって……?」と私を見る。「ここば職場゙なんですよ。 自分の職場に、プライベートを持ち込まないでもらえますか?……すごく迷惑です」 私が藤堂さんを睨みつけると、藤堂さんは「なっ……」と唇を噛みしめる。「あなたは、私より人生長く生きてるんだから、そのくらい分かりますよね? 自分の職場に自分の事情を持ち込まれると、みんないい迷惑なんですよ」 本当は課長がいないと、すごく怖い。 心臓がバクバクしてるし、足も震えそうだし。 背中には汗が流れていて、緊張もしている。……それでも私は彼女だから、藤堂さんには負けたくないの。「アンタ、私にそんな口叩いていいとか思ってるの……?」 そう言われた私は、「だったらなんですか? クビにしたければどうぞ」と伝えた。 藤堂さんは私の言葉に更に苛立ったのか、「なんですって……!?」と再び怒りを顕にする。「私のことが気に入らないのであれば、どうぞ勝手にクビにしてくださって構いません。……ただしその時は、課長が黙ってないと思
「恭平さん……?」「瑞紀は、お前なんかよりずっとイイ女だ。俺のことを理解してくれてるし、俺が悩んでる時は、一緒に悩んでくれる。……彼女はそんな心の優しい人なんだよ」 俺がそう話すと、静香は下を向いて唇を噛み締めている。「俺のことを本当に好きでいてくれてるし、愛してくれてるんだ。……それにちゃんと、外見だけじゃなくて中身も見てくれる」「……私だって、そうだった」 違う、静香は違ったんだよ……。「お前は俺の中身なんて、一度も見てくれなかっただろ? 俺がエリートでカッコイイって理由だけで結婚したんだろ?お前は」 俺が静香にそう言うと、静香は顔を上げて「それは違うわ!誤解よ!……私はあなたの全部を好きになったの。 あなたとだから、結婚しようと思ったの」と俺の腕を掴む。「……悪いけど俺は、お前と結婚したことを今さらながらに後悔しているよ」 俺が静香の腕を引き離すと、静香は「えっ……?」と悲しそうな顔で俺を見る。「お前みたいな重い女とは、離婚して正解だったかもな。……俺にはお前の言うことが、信じられない」「そんな……!」「ハッキリ言って、俺はお前みたいな女、今はすごく嫌いだよ。自分勝手でわがままで、傲慢な女がな。……金輪際、相手にしたくない」 自分でもひどいことを言っていることは、充分理解している。 だけどそこまでしないと、静香はきっと俺を諦めてはくれないだろう。「恭平さん、そんなこと言うなんてひどいわ……」「何を言っている。俺よりお前の方がよっぽどヒドイと思うけどな。 彼女は俺の大切な人なんだ。瑞紀のことを傷つけたり苦しめたりしたら、俺は絶対お前を許さない」「私はただ……!」 そう口にを開く静香に、俺は「言い訳なんてしなくていい。 聞きたくもない」 と突っぱねた。「待って、恭平さん……!」 腕を掴まれ阻止させれるが、掴まれた腕を「……離せ。帰ってくれ」 と、無理矢理引き離す。「恭平さん……!」 「いい加減にしてくれ! 俺はお前とは違うんだよ!」「……っ」 静香は唇を噛み締めると、その場に座り込んだ。「わかっただろ。 俺が幸せにしたい女は、お前じゃない。 わかったなら、さっさと帰ってくれ」「私にはもう……望みはないの?」 その問いかけに、俺はすぐに一言「ある訳ないだろ」と冷たく返答した。「なんで……私たち、あんなに愛し合
「俺はお前にはふさわしくない。 俺はお前は幸せにはしてやれないし、俺だって幸せになれない。 この意味がわかるだろ?」「そんなことないわ!私たち一度は結婚してたじゃない。 それなりに夫婦生活だって、上手くいってたじゃない。だったらまた一からやり直せる、と思わない?……ねっ?」 焦りを見せているのか、静香は必死な顔で俺を取り戻そうとしているのが、目に見えて分かる。「静香、それとこれは違うだろ」「……え?」 そんな静香が見苦しくて、見ていられない。「確かに表面上では、上手くいってたかもしれないは。……でも結局、俺たちは上手くいかなかった。それが事実だろ?」「でも私には、あなただけだった。 あなたとだから、結婚しようと思ったの」 「俺だってお前と結婚したいと思ったから結婚した。 でも結局、お互い結婚する相手を間違えた。俺たちは合わない」 なんで静香は、こんなに俺に執着するんだ。 瑞紀が気に入らないからか? それとも、自分の地位を手に入れたいからか? 寂しさを埋めたいからか?「いいか、俺にはもう瑞紀がいる。瑞紀のこと、幸せにしてやりたいと思う」「なんで……私じゃダメなの?」 「ダメとかじゃない。……俺たちはもう終わったんだよ、あの日に」 お願いだからわかってくれよ、静香……。「……私のあなたへの想いは、もう届かないってこと?」「そうだ。 静香、俺はもうお前のそばにはいられない。……やり直すことなんて、出来ないんだよ」「そう……やっぱりもうダメなのね」 静香は下を向いてしまうからか、どんな表情なのかは分からない。 「ごめんな。俺は静香じゃなくて、瑞紀を大切にしたいんだ。この先もずっと」「そうよね……。ごめんなさい」 静香はわかってくれたのか、小さく声を漏らす。「いや、わかってくれたならいいんだ」 俺はてっきり、わかってくれたのかとばかり思っていた。「じゃあ、身体だけの関係でもいいわ」「……はっ?」 俺には静香が何を言ってるのか、わからなかった。「もう恋人じゃなくてもいいわ。ムリにやり直してとも言わない。 せめて身体だけの関係でもいい。だから、あなたのそばにいさせて」 身体だけの関係って……何を言ってるんだ。「なに言ってんだよ。そんなこと出来る訳がないだろ」 そんなことしたら瑞紀を余計に苦しめることに