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第4話

Auteur: 七々
夕子は自分がどのくらいの間、入り口に立ち尽くしていたのかわからなかった。

個室の中から聞こえる、自分を蔑むようなからかいの声や、遥が手慣れた様子で景祐とイチャつく物音を聞いているうちに、全身の力が抜けていくのを感じた。

よろめきながら立ち去ろうとした時、景祐たちが部屋から出てきた。

遥が先頭を走っていたが、振り向いた拍子に夕子にぶつかる。

夕子は全く備えていなかったため、その衝撃で前方によろめいた。とっさに手をついた先は消火栓で、手のひらからはたちまち血が流れ出した。

「あっ――私の服!」

遥は服が汚れたのを見て鋭い声を上げ、次の瞬間、夕子の頬にビンタを浴びせた。

「このバカ!私の服を汚して、弁償できるの?」

夕子はその一撃で呆然となり、片側の頬は瞬く間に赤く腫れ上がった。乱れた髪が、その姿を一層みじめに見せている。

一方、景祐はその流れで遥を抱き寄せ、怪我はないかと慌てて尋ねた。

周りの連中はすぐに夕子に詰め寄った。

「どこのホステスだよ?景祐の女にぶつかるなんて、死にたいのか?」

「すぐに土下座して謝れ!景祐の大事な女に危害を加えたんだからな!」

夕子はその言葉を聞き、心が完全に冷え切った。

これだけの人間が遥の特別扱いを知っているなら、景祐が普段からいかに彼女を大切にしているかは明白だ。

彼女は目を閉じて、これ以上もう関わりたくないと、そう思ってくるりと背を向けて去ろうとした。

すると、景祐の冷たい声が響いた。

「待て!」

その口調は威圧的だった。

「謝れ!」

たった二文字の言葉だが、夕子はその中に明確な怒りを感じ取った。

まるで彼らが付き合い始めた頃に戻ったようだった。あの時も、チンピラに絡まれていた夕子のため、景祐は同じように陰険な目つきで謝るよう要求した。だがそのチンピラは謝るどころか、さらに口汚く罵倒し続けたのだ。

景祐は激怒して前に進み出ると、チンピラを掴み、窒息させるほど殴りつけた。結局、二人は揃って警察署に連行された。

警察から釈放された後、景祐は泣き腫らした目をした夕子を見つめ、胸が締め付けられるような思いで彼女を抱きしめた。

「怖がるな、夕子。俺がいる限り、これから誰にもいじめさせない」

あの明確な誓いの声がまだ耳元に残っているのに、今、景祐が守っているのは夕子ではない。

そう思うと、夕子はゆっくりと赤く腫れた顔を上げ、もつれあった前髪の奥から、まるで流血するかのような目を現し、喉を潰したかのような笑い声を零した。

「鹿野社長、私にどう謝罪してほしいのですか?」

「ゆ……夕子!」

景祐は夕子の顔を見て驚愕し、慌てて駆け寄ると彼女の手を掴んだ。

「なぜここに?どこを怪我した?さっきの手は――」

傍らにいた遥はその様子を見て表情を曇らせ、景祐の焦る様子に、目の奥に嫉妬と憎しみが浮かんだ。

夕子は手を引っ込め、再びうつむいた。

「運転手からあなたが酔ったと連絡があって、迎えに来ただけ。側にいてくれる人がいるなら、私は帰る」

そう言うと彼女は踵を返して立ち去ろうとしたが、目の前が突然真っ暗になり、足元が崩れて、意識を失った。

「夕子――」

景祐は即座に駆け寄って夕子を抱き上げ、叫び出した。

「車を手配しろ!急いで病院へ!」

一同が慌てて駆け寄る中、遥だけはその場に立ち尽くし、拳を握りしめ、瞳に激しい嫉妬と憎しみが燃え上がっていた。
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