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かつてあなたを愛しただけ

かつてあなたを愛しただけ

By:  マツリカCompleted
Language: Japanese
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Synopsis

後悔

高嶺の花

御曹司

しっかり者

結婚してから恋愛

目覚め

甘々シリアス

逆転

婚約式の三日前、久我真一(くが しんいち)から電話がかかってきた。 「婚約式、ひと月延ばしてくれないか。その日は詩音が帰国して初めての演奏会なんだ。行かないわけにはいかない」 「延期になるだけなら、大したことじゃないわ」 これで一年の間に三度目の延期だ。 最初は氷川詩音(ひかわ しおん)が海外で虫垂炎になり、入院したからだと言って、彼は看病のために慌ただしく飛んで行った。 二度目は詩音が「気分が落ち込んでいる」と言ったから、彼はうつ病になるんじゃないかと心配して、すぐに飛行機のチケットを取った。 そして今回が三度目。 私は「分かった」とだけ答え、電話を切ると、隣に座る端正で気品ある男性に向き直って尋ねる。 「結婚に興味はない?」 その後、詩音の演奏会の最中、真一は彼女をためらいもなく置き去りにし、赤い目をして私の婚約式に駆け込んでくる。 「神崎優奈(かんざき ゆうな)……お前、本当にこの男と結婚するつもりか?」

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Chapter 1

第1話

婚約式の三日前、久我真一(くが しんいち)から電話がかかってきた。

「婚約式、ひと月延ばしてくれないか。その日は詩音が帰国して初めての演奏会なんだ。行かないわけにはいかない」

「延期になるだけなら、大したことじゃないわ」

これで一年の間に三度目の延期だ。

最初は氷川詩音(ひかわ しおん)が海外で虫垂炎になり、入院したからだと言って、彼は看病のために慌ただしく飛んで行った。

二度目は詩音が「気分が落ち込んでいる」と言ったから、彼はうつ病になるんじゃないかと心配して、すぐに飛行機のチケットを取った。

そして今回が三度目。

私は「分かった」とだけ答え、電話を切ると、隣に座る端正で気品ある男性に向き直って尋ねる。

「結婚に興味はない?」

「本気なのか?」隣にいた男性が顔を上げる。「だって君たち、何年も付き合ってきたんだろう?」

私は眉を軽く上げる。

「三度の婚約のチャンスを全部逃すなんて、多分それほど私を愛してないのよ。彼が私を好きじゃないなら、私だってしがみつく必要はない。それなら彼を自由にして、私も解放されるわ」

九条貴臣(くじょう たかおみ)は迷いなく立ち上がり、私に手を差し伸べる。

「じゃあ決まりだな。婚約の段取りは全部俺がやる。君は何も心配しなくていい。約束する、この京市で俺たちの婚約式より豪華なものは存在しない」

目の前の彼を見上げる。オーダーメイドのスーツが端正な立ち姿を際立たせ、整った顔立ちは社交界の女性たちの憧れそのもの。

何より、貴臣が私を見つめる瞳には、真一が一度も見せたことのない誠実さと確固たる意志がある。

「ええ」

微笑みながら、その手に自分の手を重ねる。

別荘に戻り、私物をまとめていると、突然真一が戻ってくる。

私を見るなり眉をひそめる。

「また何するつもりだ?家出か?婚約式が一か月延びただけだろ。いい歳して、いつまで子供みたいに騒ぐんだ」

私は淡々と答える。

「ただの出張よ」

彼は眉を緩める。

「なんで先に言わないんだ?」

「会社で急な用事ができたの。それに、あなたも忙しいでしょう?邪魔したくなかったの」

彼はうなずき、当然のように続ける。

「ああ、それと詩音が数日後、うちに泊まるかもしれない。まだ帰国したばかりで、住むところが見つかってないから」

「分かったわ」

私は無表情のままスーツケースを引き、玄関へ向かう。

「構わないわ。執事に任せる。彼女の好きにさせて」

一瞬彼は固まったが、すぐに私の腕を掴む。

「……いつ帰ってくる?」

「未定よ。決まったら連絡するわ」

彼は安心したように手を放し、そのまま詩音にメッセージを送り始めた。私がどこへ出張するのか、聞こうともしなかった。

私は自宅に戻った翌日、芸能ニュースで真一が空港で詩音を迎える写真を見た。

雨の中、真一は詩音のために傘を差し出し、自分がずぶ濡れになるのも構わない様子だった。

見出しには太字で【久我真一、千里を駆ける愛、ついに実を結ぶ】

コメント欄も賞賛一色。

【なんて素敵な恋愛!】

【やばい、ロマンチックすぎる!】

【誰が見てもお似合い】

まれに【婚約者がいたのでは?】【婚約者の立場は?】といった疑問もあったが、すぐにコメントの波にかき消された。

私は鼻で笑い、画面を閉じると、貴臣からの電話に出る。

「婚約用のドレスとアクセサリー、もう出来上がった。今日試着に来られるか?」

「そんなに早く?」と、私は思わず驚く。

現地に着くと、そこにはなんとデザインチーム全員が集まっている。

「まあ、この方が花嫁様ですね」金髪のデザイナーが私を見て笑う。

「道理で九条様がそんなに急ぐわけだ。こんな美しい婚約者がいるんですから」

照れる間もなく、数着のドレスを次々と試着させられる。

「全部、九条様からいただいたサイズで仕立てました。どうぞご試着ください」

裾を持ち上げて一回りすると、どれも驚くほどぴったりだ。

耳がほんのり熱くなり、そっと彼に尋ねる。

「……どうして知ってたの?」

彼は無邪気な笑みを浮かべる。

「たいしたことじゃない。ただ、君のお母様に伺っただけさ」
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第1話
婚約式の三日前、久我真一(くが しんいち)から電話がかかってきた。「婚約式、ひと月延ばしてくれないか。その日は詩音が帰国して初めての演奏会なんだ。行かないわけにはいかない」「延期になるだけなら、大したことじゃないわ」これで一年の間に三度目の延期だ。最初は氷川詩音(ひかわ しおん)が海外で虫垂炎になり、入院したからだと言って、彼は看病のために慌ただしく飛んで行った。二度目は詩音が「気分が落ち込んでいる」と言ったから、彼はうつ病になるんじゃないかと心配して、すぐに飛行機のチケットを取った。そして今回が三度目。私は「分かった」とだけ答え、電話を切ると、隣に座る端正で気品ある男性に向き直って尋ねる。「結婚に興味はない?」「本気なのか?」隣にいた男性が顔を上げる。「だって君たち、何年も付き合ってきたんだろう?」私は眉を軽く上げる。「三度の婚約のチャンスを全部逃すなんて、多分それほど私を愛してないのよ。彼が私を好きじゃないなら、私だってしがみつく必要はない。それなら彼を自由にして、私も解放されるわ」九条貴臣(くじょう たかおみ)は迷いなく立ち上がり、私に手を差し伸べる。「じゃあ決まりだな。婚約の段取りは全部俺がやる。君は何も心配しなくていい。約束する、この京市で俺たちの婚約式より豪華なものは存在しない」目の前の彼を見上げる。オーダーメイドのスーツが端正な立ち姿を際立たせ、整った顔立ちは社交界の女性たちの憧れそのもの。何より、貴臣が私を見つめる瞳には、真一が一度も見せたことのない誠実さと確固たる意志がある。「ええ」微笑みながら、その手に自分の手を重ねる。別荘に戻り、私物をまとめていると、突然真一が戻ってくる。私を見るなり眉をひそめる。「また何するつもりだ?家出か?婚約式が一か月延びただけだろ。いい歳して、いつまで子供みたいに騒ぐんだ」私は淡々と答える。「ただの出張よ」彼は眉を緩める。「なんで先に言わないんだ?」「会社で急な用事ができたの。それに、あなたも忙しいでしょう?邪魔したくなかったの」彼はうなずき、当然のように続ける。「ああ、それと詩音が数日後、うちに泊まるかもしれない。まだ帰国したばかりで、住むところが見つかってないから」「分かったわ」私は無表情のままスーツ
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第2話
数日後、真一から電話がかかってくる。「まだ出張中か?早く戻れ。詩音が久しぶりに帰国したから、みんなで集まりたいらしい。お前にも会いたいと言っている」私は眉をひそめる。「まだ用事が終わっていない。あなたたちだけでどうぞ」すると、彼の声が一気に不機嫌になる。「お前、仕事なんて後に回せないのか?詩音がわざわざ呼んでるのに、空気読めないのか?とにかく来い、東区の土地が欲しければな」私は一瞬躊躇した。あの土地の設計は私が一から手がけ、工事も半分まで進んでいる。ここで真一に裏切られたら、私の努力は全て水の泡だ。行くだけ行こう。どうせこの関係はもうすぐ終わる。最後の顔見せだ。彼から送られてきたホテルの住所に向かうと、個室にはすでに多くの友人たちが集まっていた。真一と詩音は、部屋の中央に並んで座り、しかもお揃いの色の服。まるで本物の恋人同士のようだ。私を見るなり詩音が立ち上がる。「優奈、来てくれたんですね。ずっと待ってたんですよ。あっ、もしかして私、優奈の席に座っちゃってます?ごめんなさい、すぐに譲りますね」だが、真一は冷たい顔で彼女の肩を押さえる。「譲る必要ない。遅れて来た奴は後ろに座れ」詩音は困ったふりをして、自然に彼の胸に身を寄せて言う。「真一がそうおっしゃるなら、ごめんなさいね、優奈」私は全く気にせず、近くの椅子を引いて座る。「気にしないで」もう、この二人が何をしようと、私には関係ない。途中で洗面所に行き、戻ろうとしたとき、個室の中から彼の友人たちの声が聞こえてくる。「やっぱり詩音と真一が一番お似合いだよな。幼なじみで、昔から気心知れてるし」「そうそう。あの優奈なんか比べ物にならない!」「詩音が帰国したんだし、元サヤに戻れば?」「やめろよ、詩音はこれからピアニストになるんだぞ」そう言いながらも、真一は否定せず、むしろ優しい眼差しで詩音を見つめている。どうして、私はこんなクズ男を愛していたのでしょう。私が扉を開けたとき、彼の友人たちはさらに盛り上がる。「聞いたか?真一が詩音の新しいコンサートのために、四十億円のピアノを買ったって!」「すげえな、そこまでするなんて、本気だな!」真一が私を見下しているのは昔からだが、彼の友人たちもそれにならい、私の存在など最初から眼
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第3話
「さすが真一、豪快だね」私は薄笑いを浮かべる。「あのティアラ、久我家が10年前に競り落としたブルーサファイアの原石で作られたものでしょう。本来は久我家の嫁に着けさせるためのものだったんだ。真一は本当に詩音のことが好きなんだな」個室は水を打ったように静まり返った。どんなに言い繕っても、表向き私はまだ真一の婚約者だ。詩音が最初に反応し、すぐに目を赤くして手を伸ばして取ろうとしている。「ごめんなさい、優奈……こんな高価なもの、私には勿体ないです。すぐお返しします」彼女は髪を何本か引きちぎりながらティアラを引き抜き、目元に涙を浮かべている。真一は苛立って彼女の手を押さえつける。「送ったものを返すなんて話はないだろ?俺があげたんだから、そのまま持ってろ!誰が文句を言えるっていうんだ!」私を見るや、彼は嫌悪の表情を浮かべる。「優奈、そんな細かいことでいちいち揚げ足を取るな。まだ結婚もしてないのに、何様のつもりだ?俺を舐めてるのか?」私は冷笑いながら立ち上がる。「ただ事実を述べただけよ。別にこの髪飾りが私のものでなきゃいけないなんて言ってないでしょ。そんなに焦ること?」詩音は困ったように私を見ている。「優奈、本当にこの髪飾りが気に入ったんです。少しだけ借りてもいいですか?演奏会が終わったらちゃんとお返ししますから」真一の友人も口を挟む。「神崎さん、もう少し大人らしければどうだろう?神崎家の令嬢なのに、詩音も借りるだけって言ってるさ、そんなケチな真似しなくてもいいだろう。せっかくの食事が台無しだ」私は無表情で椅子を引く。「では失礼します。ゆっくりどうぞ」私の態度が真一の怒りを買ったらしい、彼はテーブルを叩いて立ち上がる。「優奈!その態度は何だ!久我家の嫁になる身で基本的な礼儀も学べないのか?今すぐ詩音に謝れ!」私は嗤いそうになる。「婚約すらしてないのに、何を謝る必要があるの?久我夫人気取りしたいなら、お好きにどうぞ」真一の顔色が変わり、詰め寄ってくる。「どういうつもりだ?こんな些細なことで婚約破棄するつもりか?契約精神というものはあるのか!」私は彼の手を振り払い、貴臣からのボイスメッセージを再生する。「婚約式のブーケはユリにする?それともバラ?」「じゃ、ユリにするわ。ウェディ
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第4話
一瞬で周囲の視線が集まった。貴臣は私のそばに立ち、身長1.9メートルの威圧感で周囲を見渡す。「大丈夫か?」彼は私を胸元に抱き寄せ、低く囁く。「何もされてないよな?」「何も」私は軽く首を振る。私をしっかりと後ろに護りながら、振り返って真一に冷たい声で言う。「俺の婚約者がどんなウェディングドレスを着るかは、我々の問題。部外者のお前がとやかく言う筋合いはないだろう」「部外者だと?」真一の顔が歪む。「優奈、こいつは何を言ってる?」貴臣は表情を冷たくし、片手で真一を押し留める。普段から冷徹な雰囲気を漂わせ、市内でも一目置かれる存在の彼が本気で睨みつけると、周囲の者たちは息を殺す。しかし真一も空気を読めない男だ。私を追いかけ、執拗に食い下がってくる。「優奈!はっきり言え!お前こんな大事なことを他の男を呼んで芝居してもらったのか?調子に乗ってんじゃねえぞ!立ち止まれ!」私は振り返りもせず、貴臣の車に乗り込む。車内で、私は貴臣に尋ねる。「どうやって私を見つけたの?」彼はスマホの画面を見せて言う。「真一が朝からグループチャットで詩音の歓迎会と大騒ぎしていた。ラッパでも持って叫ぶ勢いだった」私は思わず噴き出してしまう。なんて幼稚な男でしょう。あんな男を好きになった昔の自分が信じられない。するとスマホが突然鳴り、真一からの着信だ。私はすぐに切ったが、彼は何度もかけ直してきて、最後にはメッセージを送ってくる。【優奈、よくも俺の電話を平気で切ったな!】【貴臣を呼んだのはどういうつもりだ?お前と彼は一体何の関係だ?】【詩音がお前のせいでずっと泣いてるんだぞ、すぐ戻って謝れ!】私は深く息を吸い込み、スマホをバッグにしまう。知らぬが仏というものだ。翌日、久我の家に立ち寄ると、前回の荷物はもう取り戻されていて、化粧品などの細々したものが残っている。リビングには人影はなく、寝室から詩音の甘い声が聞こえてくる。「真一の手料理が食べられるなんて、私、本当に幸せものなんです」真一は低く笑う。「何言ってるんだ。どうせここに住んでるんだから、いつでも食べたい時に食べられるだろ」「でも、もうすぐ優奈と結婚するんでしょう?彼女が怒ったらどうしよう……」と詩音は躊躇いがちに言う。そして、真一は嘲るように言う
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第5話
貴臣は若くして九条家の当主となり、その影響力は市内の半分を揺るがすほどだった。彼の婚約式は当然、空前の規模で執り行われる。会場は市内で最大のホテルに決められ、わざわざ生中継も手配されている。私の両親はむしろ喜んでいて、「やっとまともな相手が見つかった」とばかりに嫁がせたがっている。両親はずっと真一に不満を抱いていたが、私という娘が一心に彼に夢中だったため、今まで表面化しなかっただけだ。今や私が彼と別れた以上、気兼ねする必要もなくなった。母はにこやかに言う。「覚えてる?小さい頃、ずっと貴臣君の後ろをついてお兄ちゃんって呼んでたでしょ。それがどういうわけか、青春期になったら急に久我家のあの子に目がいっちゃってさ。あの子は落ち着きがないとずっと言ってたのに、聞かなかったわね。でも今はよかったわ、やっと目を覚ましたのね。貴臣君は本当に良い子よ。大切にしなさい」過去に真一に振り回された愚かな思い出を思い返すと、顔が赤くなり、穴があったら入りたい気分だ。「お母さん、もうやめてよ!」結婚が突然の決定だったが、九条家は温かく迎えてくれた。初対面で九条家伝来の翡翠のブレスレットを遠慮なく私の手首に嵌めた。「こ、こんな高価なもの……」私は貴臣にこっそり聞いた。「いくらするの?」彼は意味深に笑った。「気にすることない。そのままつけていればいい」後でこっそり調べると、値段の桁数に思わず声を上げそうになる。貴臣の母親は私の手を握りしめながら言った。「優奈、心配いらないわ。これからは家族なんだから、誰かが優奈を困らせようものなら、私が一番に許さないから」偶然にも、私と貴臣の結婚式の日は、詩音の演奏会の日でもある。真一の後押しで、演奏会のニュースはあちこちに広まり、多くの人が招待を受けている。しかし、すぐに誰もその件に興味を持たなくなる。神崎・九条两家の縁組に、上流社会の人間はこぞって顔を出そうと押し寄せたのだ。比べるまでもなく、小さな演奏会など取るに足らないものだった。演奏会が終わった後、真一は大々的に皆に祝宴の招待を送る。しかし、予約したレストランに着くと、来た客は片手で数えられるほどしかいない。真一は不機嫌にスマホを取り出す。「連中はどこだ?どうして誰も来ない?俺の顔が効かなくなったとでも?」すると
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第6話
式場に真一が乱入した時、ちょうど私と貴臣が指輪を交換している最中だ。真っ赤な目で私の前に駆け寄り、しっかりと私の手を掴む。「優奈、ふざけるな。俺と帰れ」貴臣は眉をひそめ、彼を押しのける。「久我さん、招待した覚えはないが、もし邪魔をするつもりなら、容赦はしないぞ」久我家の両親も慌てて駆け寄り、衆人環視の中で息子を引きずろうとしている。「何をするの!こんなに人がいるのに、会場をめちゃくちゃにするつもり?」だが、真一は聞き入れず、強引に私を引き離そうとする。「何の婚約だ、俺は納得いかない!彼女は俺の婚約者じゃないのか?まだ別れてもいないのに、なぜ貴臣が新郎になるんだ!優奈、俺が本気で怒る前に、さっさと帰るぞ!」詩音が横で無邪気そうに言う。「そうよ、真一は婚約を解消するなんて一言も言ってません。ちょっと前に用事があって遅れただけで、まさか優奈が他の男に乗り換えたなんて、ひどすぎますよ」私は思わず白目を向く。「黙れ、ここで清純ぶるんじゃない。なぜ何度も婚約を延期したか、あなたが一番よく知っているでしょう?毎回のように彼を引き止めておいて、今更被害者面なんて厚かましいにも程がある」詩音は泣きそうな顔で真一の後ろに隠れる。「私、本当に悪気はなかったんです!真一が本当に婚約を延期するなんて……」真一は怒りに震えながら詰め寄る。「優奈、一体何が目的だ!俺たち長年一緒にいたじゃないか、どうして他の男と婚約できるんだ?俺のことをどう思っているんだ!」私は平然と答える。「なるほど、私たちが長年一緒にいたことを知ってたのね。でも、最初にこの関係を大事にしていなかったのは誰なの?あなたでしょ?あなた自身、詩音が一番大事だって公に発表したじゃない」真一の顔が歪む。「そ、それは……口で言っただけだ。そんな些細なことでいつまでもしがみついてみっともないぞ」貴臣は黙っていられず、一歩前に出て私の前に立つ。「久我さん、優奈はお前と別れた。これ以上執着するのはみっともない。やってきたこと、自分で恥ずかしいと思わないのか?男として、俺まで恥ずかしくなる」そう言い放つと、貴臣は婚約指輪を取り出す。「優奈、指輪をつけてあげる」「だ、だめだ!絶対に許さないぞ!」真一は狂ったように飛びかかってきたが、逆に貴臣に叩
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第7話
私はそんなことどうでもいいとばかりに、言葉を放つ。「そもそも真一がいつも彼女に甘い顔するから、この女は図々しくも私の前に現れたのよ。家に妻、外に愛人という快楽が欲しかったんでしょ?本当に最低の男だわ」詩音は横で涙をぽろぽろ零しながら震える声で言う。「ごめんなさい…私が悪いんです。あなたたちの間に割って入るべきじゃなかった。今すぐ消えますわ」私はうんざりして眉をひそめる。「出て行くならさっさと出て行け。どこへ行こうか誰も気にしないわ。氷川家も三代続けて没落し、あんたの代で完全に落ちぶれたね。だから忠告しておくわ。真一だけは逃さないようにしてよ、彼を逃したら二度とチャンスなんて来ないわ」詩音は顔を真っ赤にして屈辱に震え、そのまま駆け出して行く。真一はなおも私に食い下がろうとするが、貴臣の部下に殴り飛ばされ、その場から放り出される。婚約式の後、友人たちが祝福に訪れ、入ってくるなり興奮気味に話し始める。「優奈、聞いた?その後あのビッチ女は大変な目に遭ってるわ」「社交界ではもう完全にネタ扱い。実家に逃げ帰ろうとしたら、後母の連れ子だけが氷川家の娘だと宣言され、正式に絶縁されたらしいわよ!」「その場でショックで気絶したんだって!」「そのあとも久我の家に泣きついたみたいだけど、婚約がなくなったため、門前払いで追い返されたそうよ」私は興味深そうに眉を上げる。「真一がそのことを許した?あんなに大事にしていたのに?」友人は大笑いして言う。「さすがよく知ってるわね。結局、彼女を連れていけるのは前の家しかなかったのよ。泣きながら必死に縋りついてるらしいけどね」私は鼻で笑う。「真一はあの女と結婚しないわ」あの日以来、彼は人が変わったように私への執着を燃やし始めた。毎日のように謝罪と復縁のメッセージの繰り返し、私は七つも八つも番号をブロックしてようやく静かになった。「神崎社長、またあの人が来てます」と秘書が慌てて報告に来る。窓の外を見下ろすと、真一がバラで大きなハートを作り、しかも横断幕には「神崎優奈―生涯唯一の愛」と大書されていた。私はうんざりと吐き捨てる。「警備員を呼んで追い出して!あのゴミは全部処分して。二度と私の前に現れさせないで、会社の敷地内にも入れないように!」会社で待ち伏せに失敗すると
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第8話
詩音の頬を二筋の涙が伝い落ち、怨嗟に満ちた瞳で私を睨みつける。「全部あんたのせいよ、優奈!あんたさえいなければ……なんで真一を奪うの?なんでそんなに欲張るの?」私は呆れ果てて鼻で笑う。「はぁ?誰が奪うつもりなの、あんなゴミ屑、あなただけが欲しがるんでしょ?むしろお願いするわ、一緒に連れて、私の人生から消えてくれない?」その時、真一が現れる。噂を聞きつけて駆けつけたらしい。「優奈!優奈!」彼は必死に私に近づこうとする。「俺とこいつはもう何の関係もないんだ!」詩音は涙でぐしゃぐしゃになりながら、歯を食いしばって叫ぶ。「真一、どうしてそんなこと言うの?お腹に真一の子供がいるのに!これはあなたの血なんだよ、どうして捨てられるの!」場が水を打ったように静まり返る中、私は冷笑して言う。「はぁ?何もなかったって言ってたくせに?子供が空から降ってくるとでも?」だが真一は必死で否定しようとする。「嘘だ!俺はこいつなんて好きじゃない!優奈、俺が好きなのは最初からずっとお前だ!今まで間違ってた、もう一度やり直そう!今度こそ大事にする、だから俺を許してくれ!」私は視線すら向けずに吐き捨てる。「真一、もう諦めなさい」そう言いながら頭に載せられた貴臣が特注したピンクダイヤのティアラをそっと撫でる。「見える?これは貴臣が私のためだけにデザインしてくれた唯一無二のもの。最高のものを手に入れた私が、あなたの中古品を欲しがると思う?消えて、私と貴臣はもうすぐ結婚するの。お願いだから二度と現れないで、永遠にね」その言葉に真一の顔は見る間に灰色になり、魂を抜かれたようにふらつきながら、九条家の警備員に追い出される。その後、詩音が真一の子を妊娠したという噂が瞬く間に広がる。彼女は「責任を取って」と泣きながら迫ったが、久我家の対応も冷酷というものである。「誰が信じるとでも?国外でさんざん遊び回って、腹の子が誰のものかも分からんだろう!うちの名を汚すな、さっさと消えろ!」しかし、詩音は久我家の門前で毎日泣き続け、さすがの久我家もDNA鑑定をせざるを得なくなる。まさかの結果は確かに久真一の子だ。久我家は顔を引きつらせながらも、歯を食いしばって受け入れるしかない。そのため、真一は父親に鞭で打ち据えられ、病院で半月も寝込む羽目になり、
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