地味で目立たない、大学2年生の――篠宮 沙良(しのみや さら)。 誰にも気づかれないその魅力に、八神 朔夜(やがみ さくや)だけは1年生の頃から気づいていた。 〝メガネを外したら可愛いのに〟 朔夜からの、ふとした言葉がきっかけで、沙良は少しずつ変わっていく。 だが、沙良に向けられる周囲の好奇の視線が、朔夜の胸に苛立ちを芽生えさせる。 やがて、噂話が沙良を孤立へと追いやり、沙良はただ一人、手を差し伸べてくれる朔夜へ依存するようになっていく。 それが、朔夜からの罠とも知らずに――。 「大丈夫。僕だけは、君の味方だから」 これは、執着と依存が織りなす、歪んだ〝愛〟の物語。 誰にも見せたくない――僕だけの君でいて?
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ベッド上。 ぐったりと、背後へ座る僕にしなだれかかっている沙良の首筋へ、そっと指先を這わせる。わざと爪を当てるように頸動脈付近を撫でたのは、キミの生死は僕が握っているんだよ? と彼女に知らしめたかったから。 「朔夜《さくや》……さん?」 意識のハッキリしない様子でぼんやりと僕の名を呼んでこちらを見上げてくる沙良の身体は、まだ微かに熱を宿していた。僕が指をスルスルと動かすたび、沙良の身体が反応して背中越し、か細い震えが伝わってくる。 「……なにかな?」 汗で首筋に張り付いた沙良の髪の毛を払いのけるようにして愛らしい彼女の耳を甘く食《は》みながら囁けば、沙良がビクビクと身体を震わせた。それはきっと快楽の名残だよね? 「それ、もぉ、イヤ……です」 口では拒絶しながらも、沙良は僕から逃げようとはしない――。 そのことに、僕は酷く満足した。 「それってどれ?」 言って、わざと意地悪くチュゥッと音を立てて沙良の耳たぶを吸い上げてから、首筋へ這わせた指先をツツツッと沙良の華奢な肢体に沿って下ろしていく。 余り大振りではないけれど程よく手にフィットする、形の良い双丘。 昨日から僕が夜通しかけて散々可愛がったそこは、全体がほんのりと赤く色付いて……ツンと天を突くように起ち上がったままの小さな乳首が、フルフルと震えながら懸命に存在を誇示している。 僕は愛らしいそこをわざと避けて色素の薄い控え目な乳輪に沿ってクルクルと指先を遊ばせて沙良を翻弄する。 「んっ」 触って欲しそうに身体を震わせる沙良が愛しくてたまらない。 「こんな……の……」 涙をにじませた瞳が僕を見上げてくる。か細い声で、拒むように……けれど縋るような声音で、沙良が吐息を落とした。 僕は、そんな沙良にふっと微笑んで、期待に震える沙良の乳首をキュッとつまんだ。 「やぁ、んっ」 「可愛いね、沙良」 素直に身体を震わせる沙良の耳元へそう声を落とせば、沙良の肩がふるふると震えてゆっくりと僕の手に白い手が添えられる。 「どうしたの?」 沙良がなにを求めているかなんて本当は分かっている。 だって、触れなくても沙良の秘所から、僕を誘うような甘酸っぱい蜜の香りがしてきているから。 「朔夜……さ、ん……」 沙良の小さな手が僕の指先を〝下も触って?〟と言いたげにギュッと握ってくる。 「ちゃんと言わなきゃ分からないよ?」 僕の意地悪に、沙良が泣きそうな顔をしてキュッと下唇を噛んだ。 「お願い……下も……」 その声音に僕は沙良をトンとうつぶせに布団へ突き倒すと、背後から何の前触れもなく欲望をゆっくりと侵入させる。 シーツのあちこちに、沙良が昨日までは確かに未経験の女性だったと知らしめるように赤いシミが付いている。 今はすっかり〝僕の形〟に馴染んだ彼女の蜜壺へ、僕はゆるゆると抽挿《ちゅうそう》を開始した。 ――沙良、もう、逃げられないよ? ――キミが、僕をこんなふうにしたんだ。責任は取ってもらわなきゃ。 そんな思いを注ぎ込むように、グイッと沙良の顔を自分の方へ振り向かせると、僕は薄く開かれた彼女の唇を塞いだ。 「んんっ」 息が苦しいと沙良が僕の手を握ってくるけれど、そのたびにギュッとキミの膣内《なか》が僕を甘やかに締め付けているのに気付いてる? わざと絡めた舌先をチリッと噛んで、沙良のベロを傷付ける。 鉄臭い彼女の血が、唾液と混ざって鼻腔を突き抜けた。それは……甘く、蕩けるような、狂気の味――。 唇を離して沙良の口端を伝う血の混ざった唾液を舐めとって、僕は彼女を烈々に犯しながら問い掛ける。 「……ねえ、沙良っ」 「……っ」 「……キミはっ、僕のものだって、証明してっ?」 沙良は小さく啜り泣くようにイヤイヤをした。だけど、拒む力は、もうどこにもないよね? 僕は優しく手を伸ばして、沙良の首に両手を掛ける。 そうしながら下腹部の繋がりをより一層深めた。 「沙、良っ」 「……な、に……?」 「僕のこと、愛してる、って言って?」 沙良はぎゅっと目を閉じ、かすかに首を振った。 僕はふっと微笑んで、彼女の耳元で囁く。 「言わなくてもいい、よっ? ……だって、キミは、もう僕から離れられない、からっ。キミの呼吸も、心臓の音も、みんなみんな……僕のもの、だっ」 キミが僕にくれるものが、心か身体かなんて、どうでもいい。 これからキミには僕の部屋で、僕だけの手で、何度でも同じことを繰り返させてあげる。 誰にも見せない。誰にも触れさせない。 ……僕以外のすべてからキミを隠して、閉じ込めて……壊れるまで何度でも可愛がってあげる。 ――だって、ねぇ? 僕はやっと、大好きなキミを独り占めできたのだから。篠宮《しのみや》沙良《さら》の美しい素顔を見たあの日から、僕は以前にも増してより一層彼女のことを目で追うようになっていた――。(……あ、いた! 沙良だ!) 時間が許す限り、ずっとキミのことを見詰め続けていたからかな? いつの間にか自分の中でキミのことが〝篠宮さん〟から〝沙良〟に昇格《へんか》していたことにも気付けないくらい、僕はキミに夢中だった。 校内でキミのことを見かける度、心がうるさいくらいに反応して踊り騒ぐ。……だけどそれを態度《おもて》に出さないよう素知らぬ顔をするのが結構大変だった。(沙良、今日も一人ぼっちだね……) ずっと沙良だけを見ているから分かる。 沙良はとにかく誰ともかかわろうとしないし、人と目を合わせることすら避けているように見えるんだ。 そのことに妙に安心すると同時に、僕はその理由が知りたくてたまらなくなった。 だってそれを知らないと【僕だけを除外】してもらう術が見いだせないからね? 試しに、僕は沙良と同じ文学部の子たちに何気なく聞いてみたんだ。「篠宮沙良って子、知ってる?」 って。 けど、返ってきたのは「え? あの陰キャ?」と鼻で笑うような反応だった。(……何様だよ、お前ら) 明らかに彼女のことを小バカにしたような物言いをする女の子たちに、僕の胸の奥で微かな苛立ちが膨らんでくる。(キミたちよりよっぽど彼女の方が可愛いからね?) そう思ったけれど、僕はそれ以上なにも言わなかった。 だって沙良の魅力は、僕だけの秘密だもの。わざわざそれが分からないやつらに教えてやる必要なんてない。 〝誰にも気づかれないその美しさ〟を独り占めするように、僕はそれからもずっと……静かに彼女を見守り続けた。 ――そうして迎えた二年生の春。 キャンパス内の掲示板前で、僕は沙良が手にしていた資料を落とした場面に偶然遭遇した
篠宮さんは、いつもレンズの厚い、太フレームの角張った眼鏡を掛けている。それがとても野暮ったく見えるのだ。 同じように眼鏡を掛けた女の子でも、彼ほど冴えない感じには見えないから、きっと……デザインが彼女の顔に合っていないんだろう。 篠宮さんの|儚《はかな》げな顔の雰囲気なら、いま彼女が掛けているような角ばった印象の太いフレームのウェリントン型より、丸みを帯びた華奢なラインのラウンド型やボストン型の方がしっくりくる。 髪の毛も、周りのキラキラした女子たちは割と明るめの色に染めてみたり、毛先を軽くしてエアリーさを出していたりするけれど篠宮さんは黒髪を切りそろえただけといった雰囲気。 一応美容院で軽く|梳《す》いて毛量は減らしているようではあるけれど、圧倒的に美容院へ行く率が低いんだろう。黒髪というのもあって、どんよりと重く見える。 (もう少し明るめの色合いの髪にしたら似合いそうなんだけどな?) ついでに眼鏡はない方がいい気がするけれど、外したところを見たことがあるわけじゃないのでこの辺はあくまでも僕の勝手なイメージだ。 いつものようにぼんやりと篠宮さんを観察していたら、どうしたんだろう? 彼女がしきりに目をしばたたいているのに気が付いた。 (目にゴミでも入っちゃった……?) だとしたら洗いに行った方がいいんじゃないかな? そう思って、彼女に手を差し伸べるべく僕が立ち上がりかけた時だった。 篠宮さんが不意にギュッと痛そうに目をつぶったかと思うと、ポロポロ……と右目から涙を落とし始めた。そうして幾分オロオロした様子で鞄の中をあさって小さな手鏡を取り出すと、眼鏡を外して目の辺りをチェックし始める。 (えっ? ちょっと待って? 嘘だろ……?) 僕はその時、初めて彼女の|裸眼《すがお》を見たんだ。 (ヤバイ……。めっちゃ可愛いじゃないか) 篠宮さんが眼鏡を外していたのはほんの十数秒足らず。束の間の出来事だった。 しかも篠宮さんはその間もいつもどおり。ほぼうつむいて一連の作業をこなしていたから……きっと僕くらいしか彼女が眼鏡を外した顔に気付いていないんだ。 そのことが、僕にはたまらなく幸運なことに思えた。 彼女の素顔は、誰にも見せたくない。 篠宮さんが、眼鏡を外したら物凄い美人さんになるということは、僕
僕の方を見ようともしないってどういうこと? そんな〝|稀有《けう》〟な存在に、僕は初めての敗北感を覚えた。 最初は本当、そんなくだらない理由で僕はキミに興味を持ったんだ。絶対に彼女に僕を認識させてやるんだ、ってね。 だけど――。 その後も、気が付けば僕は学内で彼女を見かける度に、妙に篠宮さんのことを気にしていることに気が付いて……ああ、これは〝よくない兆候〟だなって思った。 だってこの感じ。高校生の頃にクラスメートの女の子を好きになった時に似てるんだもの。あの時は僕が未熟過ぎて、せっかく好きな子と恋人同士になれたのに……彼女との距離の詰め方を間違えてしまって、最終的には彼女に気味悪がられて逃げられてしまった。 僕は誰かを好きになり過ぎると後先考えられなくなるところがあるらしい。 その子しか見えなくなって、世界が狭まってしまうんだ。 でも大丈夫。……僕は成長のない子供じゃない。 あのとき負った痛手からちゃんと学習しているし、あの時と同じ轍《てつ》は二度と踏まないつもりだ。 そのために、大学では心理学系の授業を取れるだけ取るようにしている。 先に篠宮さんと一緒のクラスになった心理学概論もそうだったし、今から受ける犯罪心理学入門にしてもそう。 まさか心理学概論に続いて犯罪心理学入門の講義でも、またキミに会えるだなんて思っていなかったけれど、僕は文学部の身でありながら心理学系を沢山取っている彼女に、さらに興味をそそられたんだ。 篠宮さんは何のためにこんな授業を取っているんだろう? 僕みたいに弁護士を目指す法学部の人間というならば、犯罪者の心理や依頼者の心理を知るためにそういうのもが役立ちそうだというのは何となく分かる。現に、同じ学部からそれ系の講義を選択している人間は多いし、中には必須になっている科目だってある。 けど、文学部の彼女がそれを学ぶ理由は何だ? 僕はいつも行動をともにしている――勝手についてきているだけだけど――法学部のメンバーからうまいこと言って離れると、わざと彼女が見える近くの席を陣取った。 〝文学部の篠宮《しのみや》沙良《さら》さんだよね? 僕は心理学概論でグループワークを一緒にした八神《やがみ》朔夜《さくや》。――覚えてる?〟 喉のところまで出かかったそんな言葉を、僕はあえて呑み込ん
キミのことを好きになってしまった瞬間、僕の中で何かが静かに音を立てて壊れていくのを感じた。 今までの僕ならば、素敵なものを見つけたらみんなに共有したいって思ったはずなのに。 なんでかな? キミのことは……キミの|魅力《こと》だけは……誰にも教えたくないって思ったんだ。 キミが誰よりも綺麗で……誰よりも可愛いことは、僕だけが知っていればいい。 誰にも知られたくない。 〝地味子ちゃん〟と揶揄われている眼鏡っ子のキミが、誰よりも美人で、誰よりも可愛いってこと――。 *** 全国各地に数ある国公立大学の中でも偏差値が高くて有名な『|明都《めいと》大学法学部』へ首位で入学したのは、実家が創業八〇年近い法律事務所を営む法律一家の跡取りたる僕には当然のことだった。 父も母も、そんな僕の頑張りを褒めてくれることなんてない。 いつもそう。 出来て当たり前。出来なければ両親から軽蔑の目で見られ、結果を出せなければ問答無用で|蔑《さげす》まれる。けれど……出来たときにはそれが当然なのだという顔をされてしまう。 それが、僕が育った|八神家《やがみけ》の日常だった。 大学入学を機に、そんな両親から離れて一人暮らしが出来るようになったのは僕にとって行幸だった。 表向きはニッコリ笑顔で誰にでも優しく。 生まれ持った美貌と、物腰柔らかな微笑み。 幼い頃から、両親に〝そうあるべき〟だと押し付けられ、自然と身についていたクソみたいな表の顔。 そうしていさえすれば、周りの人間も僕に好意を持って接してくれるということが分かってからは、人生をイージーモードに運ぶためにもこの〝仮面〟は重要だと学んだ。 そんな感じで一年生の春。 そもそも入学式で新入生代表として祝辞を述べた時から、僕は学内では有名な存在。 誰も彼もが僕に近付きたがったし、そんな|輩《やから》に対して僕はにこやかに応対した。 成績優秀でお高く留まったやつ。そんな風に思われないために、最新の注意を払って学生生活をスタートしたのだ。 その甲斐あって、僕のことを女子たちが密かに(?)『明都大の王子様』なんて恥ずかしいあだ名をつけて噂しているのを僕は知っている。 (ホント、みんなチョロいよね) なんて本心は、もちろんおくびにも出さないよ? でも、そんな僕
「沙良《さら》」 ベッド上。 ぐったりと、背後へ座る僕にしなだれかかっている沙良の首筋へ、そっと指先を這わせる。わざと爪を当てるように頸動脈付近を撫でたのは、キミの生死は僕が握っているんだよ? と彼女に知らしめたかったから。 「朔夜《さくや》……さん?」 意識のハッキリしない様子でぼんやりと僕の名を呼んでこちらを見上げてくる沙良の身体は、まだ微かに熱を宿していた。僕が指をスルスルと動かすたび、沙良の身体が反応して背中越し、か細い震えが伝わってくる。 「……なにかな?」 汗で首筋に張り付いた沙良の髪の毛を払いのけるようにして愛らしい彼女の耳を甘く食《は》みながら囁けば、沙良がビクビクと身体を震わせた。それはきっと快楽の名残だよね? 「それ、もぉ、イヤ……です」 口では拒絶しながらも、沙良は僕から逃げようとはしない――。 そのことに、僕は酷く満足した。 「それってどれ?」 言って、わざと意地悪くチュゥッと音を立てて沙良の耳たぶを吸い上げてから、首筋へ這わせた指先をツツツッと沙良の華奢な肢体に沿って下ろしていく。 余り大振りではないけれど程よく手にフィットする、形の良い双丘。 昨日から僕が夜通しかけて散々可愛がったそこは、全体がほんのりと赤く色付いて……ツンと天を突くように起ち上がったままの小さな乳首が、フルフルと震えながら懸命に存在を誇示している。 僕は愛らしいそこをわざと避けて色素の薄い控え目な乳輪に沿ってクルクルと指先を遊ばせて沙良を翻弄する。 「んっ」 触って欲しそうに身体を震わせる沙良が愛しくてたまらない。 「こんな……の……」 涙をにじませた瞳が僕を見上げてくる。か細い声で、拒むように……けれど縋るような声音で、沙良が吐息を落とした。 僕は、そんな沙良にふっと微笑んで、期待に震える沙良の乳首をキュッとつまんだ。 「やぁ、んっ」 「可愛いね、沙良」 素直に身体を震わせる沙良の耳元へそう声を落とせば、沙良の肩がふるふると震えてゆっくりと僕の手に白い手が添えられる。 「どうしたの?」 沙良がなにを求めているかなんて本当は分かっている。 だって、触れなくても沙良の秘所から、僕を誘うような甘酸っぱい蜜の香りがしてきているから。 「朔夜……さ、ん……」 沙良の小さな手が僕の指先を〝下
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