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第325話

Autor: ルーシー
雅子は怒りを抑えきれず、宮下の肩を力任せに突き飛ばした。

「宮下さん、どうして止めるの!

あの女が母親ですって?

笑わせないで。

愛莉を連れて上がったのは、きっと叩くつもりよ。

もし怪我でもさせたら――私の沙羅がどれほど悲しむか分かってるの?

どきなさい!

私のかわいい孫に何かあったら、あなたが責任を取れるの?」

けれど宮下は、両腕で彼女をしっかりと抱き止めた。

「雅子様、奥さまはそんな方じゃありません。

とても穏やかで優しい方です。

手を上げるようなこと、絶対になさいません。

どうか、落ち着いてください」

「離して!」

雅子は必死に腕を振りほどこうとしたが、年季の入った宮下の力は意外と強く、どうしても外せなかった。

結局、彼女は苛立ちを抱えたまま、ソファに沈み込んだ。

しかし宮下はまだ警戒を解かず、雅子のそばを離れなかった。

――また階段を駆け上がる気配があれば、すぐ止めるつもりでいた。

そのころ、二階。

泣き疲れた愛莉は、ソファにうつ伏せたまま、いつの間にか眠りに落ちていた。

玲奈はその小さな寝顔を見つめ、胸の奥が締めつけられるように痛んだ。

怒りも悲しみも、いつのまにか静かな哀しみに変わっていた。

やがて、そっと腕を伸ばして愛莉を抱き上げ、ベッドに寝かせ、毛布を丁寧にかけてやった。

髪を撫でながら、彼女はぼんやりと考えた――どうすれば、この子の心をまっすぐに育てられるのだろう。

そうしてどれほどの時間が過ぎたころか。

廊下の向こうから、低く抑えた男の声が聞こえた。

「......玲奈、少し出てきてくれ」

その声を聞いた瞬間、彼女は幻聴かと思った。

だが再び同じ声が呼ぶ。

「玲奈」

確かに――智也の声だった。

玲奈は静かに立ち上がり、寝息を立てる愛莉を起こさないよう気をつけながら部屋を出た。

智也を案内したのは、かつて二人が夫婦として暮らしていた部屋。

扉を開けると、そこには見慣れぬ化粧品や香水が整然と並び、薄いブルーのシーツからは微かな香りが漂っていた。

――沙羅の匂い。

胸の奥が、音を立てて冷えていく。

そんな玲奈の表情をよそに、智也は焦ったように口を開いた。

「愛莉を病院に連れて行きたい」

「......今から?」

時計の針はすでに夜の十一時近くを指していた。

「こんな時間に?
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