LOGIN クラスメイトさんの名前は
「残念だったわね。あいつ、陸上部だもんね。陸上部が徒競走に出るなんて反則だわ」
眉を寄せてそれだけ言うと、月子はそのまま立ち去った。ちなみに彼女が参加した種目のすべてに陸上部員が参加していたという事実を彼女は知っているのだろうか?
ぼんやりと月子の背中を見送っていると、背後から唐突にヘッドロックをかけられて、聞き慣れたバカっぽい声が耳元で聞こえてきた。「おいっ、三日森! なんでお前が月子さんに声をかけられてんだよ!」
絡んできたのは僕がいつもつるんでいる友人の片割れ、滝沢弘樹だ。
ややガタイのいいお調子者で勉強はダメだが運動神経はいい。この体育祭でもかなりの活躍をしていたはずだ。ただし、不良ではないのだが、どことなく不良っぽく、目つきが悪いせいで女子にはモテない。 僕は暑苦しい腕を引きはがそうとしながら、滝沢に苦情を言う。「なんでって、クラスメイトなんだから、べつに不思議じゃないだろ? だいたい、ぜんぜん羨ましがられるような言葉じゃなかったぞ?」
「それでも羨ましいよ。僕なんかぶっちぎりのドンケツだったのに誰も慰めてくれない」 滝沢の後ろから、もうひとりの友人、田中
「僕の場合、たまたま彼女の進路上に居たからだろ? わざわざ近寄ってきたわけじゃないぞ」
「だとしても、お前はもうちょっと嬉しそうな顔をしろよ。相手は学園のアイドルなんだからさ」 「アイドル?」 「知らねえのか? 沢木南姉妹って言えば有名だぜ」呆れたように言う滝沢に続いて、田中が補足してくる。
「物静かなお姉さんのほうは我が校のマドンナ。快活な月子さんはアイドルって呼ばれているのさ。ふたりは双子だから、顔はソックリなんだけど印象は正反対なんだよ」
なるほど、またどうでもいい知識が増えてしまったようだ。
まあ、いつもの特技ですぐに忘れるだろう。 そう思っていたのだが、あの日以来、不思議と月子に関する情報を僕は忘れずじまいだった。 ◆ やがて夏休みが近づいたある日のこと、その日は夜中に室内に入り込んだ何匹もの蜂のせいでひどい寝不足だった。奴らは闇夜の中では活動しないと聞くが、明かりの点いた室内では普通に飛び回るようだ。 だからといって電気を消して蜂と夜明かしする気にもなれず、なんとか駆除しようとしたのだが、適切な道具もなくて四苦八苦させられた。 しかも、こんな日に限って陽射しは異常に強く、おまけに掃除当番が中庭だったため、うだるような熱気に晒されて僕は完全にグロッキーだった。 今日は半日授業だというのに、放課後になっても冷房の効いた教室から動きたくなくてずっと机に突っ伏している。 頭がひどくガンガンする。軽い熱中症だろうか。そんなことをぼんやりと考えていると、不意に冷たい手が僕の額にあてられた。「熱があるんじゃないの?」
聞き覚えのある女子の声。こんなふうに話しかけてくる女子の知り合いなんてひとりしか居ない。それでもぼんやりした頭では、それに気づくのにも多少の時間が必要だった。
うっすらと目を開けて、その顔を視界に入れると月子は心配するように僕の顔を覗き込んでいる。「やあ、クラスメイトさん」
「いつまでその呼び方なのよ」怒ったというよりも困ったような顔で月子は言った。
「とりあえず立てる? 保健室に行かないと」
「いや、大丈夫。もう帰るから」 「でも……」 「本当に大したことはないんだ。家で寝てればすぐ治るよ」それだけ告げると、なるべく自然に見えるように気をつけながら席を立った。
さりげない足取りで出口に向かうと教室の扉を開ける。「なんで掃除用具入れを開けてるの?」
月子の困惑した声に誤魔化しの笑顔で応えると、今度こそ教室のドアを開けて外に出た。
空調の効いた広々とした廊下を歩き、下駄箱で靴を履き替えると両開きのガラス扉を開けて外へ出る。 むわっとした熱気と夏のニオイ。目に映るすべてのものが目映い陽射しに晒されて白く輝いているようだ。なんだか目眩がしそうだった。 その場に座り込みたい誘惑に駆られたが、それではなんの解決にもならない。とにかく家に帰って、ゆっくり休もう。 けたたましくセミの声が響く道を僕はゆっくりと歩き始めた。顔がほてって喉が渇く。身体に熱がこもってるようでひどく不快だ。手足は重く、駅までの通い慣れた道が、ずいぶんと長く感じる。オアシスを求めて砂漠を彷徨う旅人は、こんな気分なのだろうか。
だが、ここは日本だ。道に迷う危険はない。その証拠にセミが今もうるさく鳴き喚いている。うるさい、少し黙れ。そうつぶやいていると不意に奴らの声が遠くなった気がした。「三日森くん!」
身体に加わった衝撃と月子の声で我に返る。
気づけば僕は月子にしなだれかかるようにして立っていた。 いや、倒れそうになった僕を彼女が支えたのだ。どうやらずっと後ろからついて来ていたらしい。 月子は青ざめた顔で、ひどく不安そうに言ってくる。「やっぱり病院に行ったほうがいいわよ」
「だ、大丈夫。ただの立ちくらみだよ」 「ただのじゃないでしょ」 「本当に大丈夫。ほら、もう駅だし」そう言って駅のプレートを指さした僕だが、実を言えば今の今まで、ここまで来ていたことを自覚してさえいなかった。自分でも、ちょっとヤバイかなって気はしていたが、わざわざ医者にかかるのはごめんだ。
「じゃあ、僕はこれで」
軽く手を振って歩き出そうとする。その途端、足がもつれてよろめいた。
「きゃあっ」
驚いた拍子に短い悲鳴まで上げた月子に向かって、僕は誤魔化すように笑って見せたが、さすがに今度は通じなかったようだ。彼女は即座に歩み寄ってきて僕を手近な椅子に座らせると、怒ったように言った。
「まったく、君って子は! ちょっとそこで待ってなさい!」
そう言って切符売り場へと小走りで駆けていった。
◆
月子に貰ったスポーツ飲料を飲みながら、僕は帰りの列車に揺られていた。
頭には濡れたハンカチを押し当ててくる柔らかい手。もちろん隣に座った月子のものだ「なんか、カッコ悪いな」
「病人に格好いいも悪いもないわよ。熱中症を甘く見てたら死にかねないんだからね」月子は本気で腹を立てているようだ。腹を立てているのに僕を助けてくれている。
「なんでだろ?」
つい、声に出していた。
「なにが?」
「君は不機嫌だ」 「そうね」 「不機嫌なのに僕を助けてくれる」 「それが不思議なの?」 「有り体に言うと」ずっと怒ったままの月子に告げると彼女は小さく嘆息した。
「わたしが不機嫌なのは、あなたがわたしに心配をかけているからよ」
「どうして他人なんかを心配するんだい?」 「どうしてって……」たぶん、意識が朦朧としていたからだろう。
「僕はね、誰も信じない、誰も頼らない、誰もアテにもしないって、ずっと子供の頃に誓ったんだ」
「なんでまた……」 「小学四年生の頃の話さ」これまでずっと黙ってきて、これからもずっと誰にも話さないつもりでいたことを、僕は月子に話し始めた。
公園で爽子にすべてを話し終えたとき僕はまた泣いた。背中から回された彼女の両腕が僕をぎゅっと抱き留めてくれている。「爽子、僕は本当にバカな男だ」 「ええ」 「本当はずっと昔に月子に救われていたのに、それを忘れてよけいな面倒をかけていた」 「ええ、そのとおりね」 頷く爽子。だけど、その声はやさしい。「月子はずっと僕を覚えててくれたんだろうな。何度もヒントをくれていたのに僕はそれに気づかないままで……」 「いい人ね、彼女」 「うん」 頷いて月子の顔を思い浮かべる。 いつも明るく笑っていたけれど、本当は彼女こそがいちばん傷ついていた。それはきっと冷たい雨に打たれ続けるような凍えるような痛みだったはずだ。 それなのに彼女は自分の痛みをそっちのけにしてまで僕に手を差し伸べてくれた。「僕は……月子になにもしてやれてないのに……」 今さらながらに僕は悔やんだ。もっと月子に踏み込むべきだった。気になることがあったのに不安と向き合うことを怖れて僕はそれを怠ったんだ。「なのに、月子はこんな僕にありがとうって……」 「あなたの好意が月子さんを守ったのよ。もし彼女が自分で自分を傷つけるようなまねをすれば、あなたと交わした――わたしは君を裏切らない――という約束に反してしまうから」 爽子は僕の背中に顔を埋めるようにして囁いた。「だから、彼女は今もきっと……」 その呟きを聞いて僕は黙ったまま空を見上げる。 あの台風の日、月子は自分の命さえ投げだそうとしていた。 なのに僕との約束を守るためだけに、それをあきらめて生きることを選んだのか。 今も癒えぬ悲しみを抱えたまま、それでも僕を悲しませないためだけに幸せを探すと約束してくれたのか。 彼女はきっと、その約束を守りつづけるだろう。沢木南月子とは、そういう娘なのだから。「わたしは君を裏切らない――か。まるで魔法の言葉だな。彼女はその言葉で僕を救い、自分自身をも守っているんだ」 「それだけじゃないわ」 背中から回された
「なにも言わずに一日つき合って欲しいんだ」 僕の唐突なお願いを爽子は快く聞き入れてくれた。 その日も晴天で、鮮やかな青空の向こうには霞のような雲が薄くかかっている、山間の道を抜ける風は爽やかで散歩をするには最高の日和だ。 あの日、学校で盗人扱いされて親父にまで殴られた僕は、家を飛び出して線路沿いの道を無我夢中で走り続けた。 その道を僕は今、再び辿っている。 僕が冴えない顔をしていたためか、爽子は僕の手をぎゅっと握り続けている。実際、それは僕に勇気を与えてくれていた。 道すがら今日までのことをできる限り詳しく爽子に説明した。あまり他人に聞かせたくない失敗も、もしかしたら爽子が怒るかもしれないことも、包み隠さずにできるだけ正確に伝えたつもりだ。 爽子はそれを静かに最後まで聞いてくれた。 子供の頃、転校していく彼女と僕は永遠の友情を誓い合った。だけど、そのとき僕たちは指切りはしていない。それは今日、あらためて爽子にも確かめてみた。 僕は爽子と爽子以外の女の子の記憶を混同させてしまっていた。その相手が本当は誰だったのか。どんな約束を交わしたのか。それを僕は確かめなければならない。 爽子の手を引くように、あるいは爽子に手を引かれるように歩いていく。 山中を通って線路脇を走り続ける長い道だ。急な勾配はないが、ゆるやかに上がり続けるか、下り続けるかを、ひたすらに繰り返している。古びたアスファルトはところどころ舗装し直されているが、ひび割れが多く、白線も薄れて消えかけているところが多い。 いくら我を忘れていたとしても子供の脚で動ける距離などたかが知れている。そう思っていたのだけど、当時の僕は呆れるほどのガッツ?を見せたらしく、それらしい場所には、なかなか辿り着かなかった。 それでも山をいくつか越えたところで、ようやく開けた場所へと辿り着く。 低い山を切り開いて作られた住宅地だ。周囲にはいくつもの田園が連なるように広がっている。 見覚えがあるというほど記憶は鮮明ではなく、昼夜の違いによって印象も異なるだろうが、体力的に考えても、ここを抜けて次の町に行ったとは考えにくい。 とりあえず闇夜
我がクラス最後のホームルームはやたらと盛り上がった。担任の先生には悪いのだけど月子に会っておきたかった僕は、ただひたすら早く終わってくれとばかり念じていた。 しかし、実際に終わったのは月子のクラスよりも30分遅れで、校庭にはまだまだたくさんの生徒が残っていたが、そこに彼女の姿はなかった。 後輩の女子に呼び止められて一緒に写真をとせがまれたので、そのついでに聞いてみたところ、どうやら月子は告白しようとする男子達から逃れるために、猛ダッシュで校門を飛びだしていってしまったらしい。 なんとも情緒に欠ける卒業式だと呆れる一方で彼女らしいとも思う。振り向くことなく前向きに突っ走っていくのが彼女のスタイルなのだろう。 しばらくしてから僕はようやく自分などが記念撮影をせがまれたことに気づき、遅ればせながら感動しつつ、卒業の余韻に浸っていると滝沢と田中が現れて、そこからまた大いに盛り上がった。 けっきょく二時間近くも校庭で時間を潰したあとで、お互いに手を振ってそれぞれに帰路へと向かう。 滝沢と花屋敷さんの大学は関西圏で、田中は関東だけど僕の大学からは遠い。それでも、ふたりとは落ち着いた後で連絡先の交換を約束したし、いずれまた会えるだろう。 残念ながら爽子の学校とは卒業式の日程がズレているうえに、今日は用事があるらしくて夕方まで会うことはできない。今から彼女の町まで行ったところで時間を持て余すように思えたので、僕は取り立てて目的もなく商店街へと足を向けた。 何度となく利用した書店やCDショップ。ファーストフードのお店に、たまに利用していた弁当屋。見慣れた街並みも、これで見納めかと思うと寂しさが込み上げてくる。 ここは地元の町以上に僕にとって故郷も同然になっていたようだ。 いつかまた来たいとは思うが、その頃にはきっと、いろいろなものが変わってしまっているはずだ。それは寂しいことだけど僕が高校で変わったように、街も変わっていくのが自然なことだ。そう思えば納得できないことではない。 そして、僕はいつぞやの映画館の前で足を止めた。 かつてホラー映画のものだった看板は、今はよく知らない洋画のものに変わっている。 思い返せば、ここでの
「結局、これが報いってものか……。神よ……僕は本当に愚かだった」 二学期が始まって間もない頃、ミュージカルの舞台俳優のように田中は身振り手振りを交えて天を仰いだ。「名演だ。完全に田中葉太になりきっている」「いや、当人だから」 花屋敷さんが滝沢のボケに突っ込んだ。田中は、それを無視してチラリと僕を横目で見ると演技(?)を続ける。「ああっ、滝沢のみならず、三日森にも美人の彼女ができて僕だけが独り身だなんて……」 名優田中は片膝を突いて両手を広げ、まるで神を呪うかのように言った。 それを半眼で見つめながら僕は思ったことを口にする。「ほっとくと、このまま歌い出しそうだな」「美声に期待させてもらうわ」 つづいて言ったのは花屋敷さんだ。 田中はガックリとうなだれたあと、恨めしそうな目で僕を見てきた。「お前だけはずっと独り身のまま歳を取って、寂しい晩年を送るものだと心の底から信頼していたというのに、この裏切り者め」「いや、そんな信頼はいらないから、お前も早く彼女を作りなよ」「作ろうったって、そんなに簡単にできたら誰も苦労しないよ。だいたい、お前らの彼女に釣り合うような女なんて――」 そこで言葉を止めると田中は月子を見た。 彼女は少し離れたところで別のクラスメイトと楽しげに話し込んでいる。 田中の視線を追いかけたところで滝沢は言った。「無いな」「うん、あり得ない」 花屋敷さんがつづけると田中は渋い顔をしたが、結局なにも言い返さずにうなだれた。 夏休みの間中に田中と滝沢の関係は修復されていた。どうやら田中が、きちんと頭を下げてあやまったらしい。そうなれば気の良い滝沢が許さないわけもなく、仲直りは思った以上にすんなりいったようだ。 僕としても殴った責任があるので田中に頭を下げようとはしたけれど、それは当の田中に断られてしまった。「ダチが間違ったことをしたんだから、殴ってでも目を覚
デートの当日は実に夏らしい陽気だった。 ほとんどの民家で、朝から室外機が唸りをあげて、エアコンがその存在意義をいかんなく発揮していることだろう。 家を出て坂道を見下ろせば、あざやかな青空の下には輝く海原が広がっている。入道雲を背景にして白いヨットが行き交い、砂浜にはすでに大勢の海水浴客が繰り出していた。 今すぐにでも彼女を連れて、そこに向かって駈け出したいところだが、まずはその彼女――七未貴爽子を連れてこなければ話にならない。 僕は逸る鼓動を抑えながら駅へと急ぐ。 通い慣れた坂道は太陽の光が降り注ぎ、焼けたアスファルトで陽炎が揺れている。 朝からこの陽気だと昼の暑さはたいへんなものになりそうだ。でも、だからこそ海水浴には最適だと思える。 電車に乗って彼女が現れる駅までおよそ30分。僕はどんな言葉をかけようかと、そればかり考えていて、彼女が来ない可能性については、ほとんど気にしなかった。 そもそもが電話番号さえ知らない相手との曖昧な口約束だったけど、他ならぬ月子の推察だ。外れているとは思えない。 不思議なことに名前を思い出して以来、爽子との思い出は次から次へと甦ってきていた。僕は電車の窓から覗く流れる風景の中に、それを映し出しながら時を過ごす。 大人しくて、どちらかといえば引っ込み思案だった彼女が、今のような強気な美人になるまでに、どんな時を重ねたのだろうか。それが有意義な時間だったことを願わずにはいられないが、その変化の中でも変わらず僕との約束を大事にしてくれていたのなら、それはこの上なく嬉しいことだ。 僕は長らく自分が不幸なつもりでいた。だけど本当は逆かもしれない。 爽子のような女の子に、ずっと想われ続けていたのだとすれば、これほど恵まれた男も希なはずだ。(まったく、ダセえ話だ) なんとなく滝沢ふうに内心で呟いてみる。 でも自分の愚かさには本当に苦笑するしかない。今まで僕は過去のトラウマを相手に、ずっと独り相撲をとり続けていた。 でも、まだ間に合うはずだ。 目的の駅に列車が止まり、約束どおり8時前に待ち合わせのホームに降り立った僕は、足早に階段を駆
若いカップル、恋人同士――そんな言葉が当たり前に思い浮かんだけど、そのまま言っても月子は怒らないだろうか。 いや、怒るわけはないけど僕の方が恥ずかしい。 少し迷った末に僕は朴念仁っぽい答えを返すことにした。「仲のよいクラスメイトかな」 「それだとムチャクチャ鋭い人たちってことになるわね。実態を言い当ててる」 気分を害したふうもなく自然に笑うと、月子は砂浜に向かって歩き出した。 その手を僕が掴む。「三日森くん?」 「頼むから、君は海へは近づかないでくれ」 強ばった顔で告げると月子は困ったように笑った。「いや、今日は大丈夫よ。天気もいいし、変な声も聞こえない」 「ダメだ。原因だって判ってないんだし、もし万が一のことが君にあったら……」 「そんなこと言われても、まさかこれから先、一生海に近づかないってわけにはいかないでしょ?」 「できればそうして欲しいくらいだ」 「いや、さすがにそれは、わたしがイヤなんだけど……」 月子が笑みを引きつらせても僕は手を放さなかった。 そんな僕を見て月子は困ったように笑う。「わかったわ。それなら手を繋ぎましょう」 「え?」 「もしわたしが変になっても三日森くんが手を握っててくれれば大丈夫でしょ?」 「それはまあ……」 浜辺を見ると風が強い分、波はやや高いが危険を感じるほどではない。僕は渋々頷いて手を放した。 月子はそんな僕を見て、はにかむように微笑むと、そっと手を差しだしてくる。 その手の白さに今さらながらに気後れしながら、それでも僕は手を伸ばして、そっと握り返した。月子の手は海辺の風にさらされていたせいか思ったよりも冷たかったけど、やわらかくて心地良い感触に僕は秘かに胸をときめかした。「じゃあ、行くよ」 月子は僕の心境に気づいた様子もなく、なにげない足取りで波打ち際に近づいていく。「濡れるよ」 「じゃあ脱ぎましょう」 平然と言うと月子は手にして







