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15.俺はただ、整えているだけだ

Author: 中岡 始
last update Last Updated: 2025-10-29 16:14:51

会議室のドアがゆっくりと開いた。

まだ照明が点けられていない薄暗い部屋に、静かに差し込む朝の日差しが、ブラインド越しにテーブルの上に筋を描いている。整然と並んだ椅子と、中央のプロジェクター、ガラス張りのホワイトボード。人の気配が薄いぶん、空気は冷えて張りつめていた。

「おはようさんです」

岡田の声が響いたのは、そんな空気を割るようにしてだった。

手に抱えていた資料がふた束。左腕に挟むようにして、片手でノートパソコンを持っている。姿勢がやや崩れ、そのせいか、ジャケットの裾が捲れていた。

晴臣はすでに部屋の隅にいた。プロジェクターの接続を確認し、スクリーンを下ろしている途中だった。

「おはようございます。資料はそこに置いてください」

「了解」

岡田は笑いながらテーブルの端に資料を置き、ようやく手が空いたらしい。すっと伸びをしてから、席のひとつに腰を下ろす。

だがそのとき、晴臣の視線は一箇所で止まっていた。

やはり今日も、ネクタイは少し曲がっている。結び目が微妙に左寄りにずれており、シャツの襟がわずかに浮いていた。締め方が甘いせいか、ネクタイの結び目そのものもゆるくて、首元に隙間ができている。

いつも通りだった。なのに、今日はどうしてこんなにも気になるのだろう。

プロジェクターの電源を入れ終えると、晴臣は何も言わず、岡田のほうへ近づいた。

岡田は椅子に腰かけたまま、資料の順番をぱらぱらと指先でめくっている。無防備な横顔に、いつもの気の抜けた笑み。ネクタイの歪みも、襟の乱れも、気にする様子はまったくない。

「……失礼します」

それだけ言って、晴臣は手を伸ばした。

岡田が驚いたように目を上げるよりも早く、ネクタイに指を添え、そっと結び目をほどき始める。結び直すというより、“整える”という動作だった。

指先がシャツの生地とネクタイの間を滑る。

その下にある岡田の喉が、わずかに動くのが見えた。

瞬間、彼が息を飲んだ気配がした。

晴臣は視線を上げない

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  • そのネクタイ、俺が直してもいいですか?~ズボラな課長のくせに、惚れさせるなんて反則だ。   56.夜のコンビニ前、ポケットの中の片想い

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