ログイン優等生の秋連(あきつら)は、隣に住む幼なじみの忠成(ただなり)に絶賛片思い中。でも忠成の恋愛対象は女の子で。男子高校生二人のじれじれ恋模様です。オムニバス形式の短編集。
もっと見る「ずっと我慢してたけど……
燦々と降り注ぐ柔らかな日差しの下、猫と老婆と園児が二人、心地良さそうに日光浴を楽しんでいる――。「ばあちゃん、ばあちゃん」 そう言っては嬉しそうに老婦の顔を見上げながら、他愛のない質問を矢継ぎ早に投げ掛ける男の子。「アレはなに? こっちのは?」 庭に咲き乱れる花を指差す小さな手に、優しい声が応じる。「あれは合歓、こっちは椿」 どの花を指差しても、まるで魔法のように答えてくれる皺まみれの顔を、男の子は尊敬の眼差しで見つめる。「ばあちゃんはすごいや! なんでも知っとるんじゃね!」 孫が生き生きとした声でそう言うと、老女は目を細めて嬉しそうにはにかむ。「伊達に年は取っとらんよ」 ひざ上に載せた白黒模様の猫を優しく撫でながらそう言う。「アキチュラもすごいけどばあちゃんには負けるね~♪」 本当はアキツラ、と言うべきところなのだが、彼が言うと呂律が回らずいつもアキチュラになってしまう。 幼児らしいたどたどしい口調でそう告げた男の子を、もう一方の少年がムッとした顔で睨み付けた。「俺、ばあちゃんには負けるけど、忠成には勝ってる」 老婆は負けん気の強そうなその子を、にっこり笑って見つめると、 「アキくんは賢いもんね。だから、っていうのも変だけど……たーくんのこと、末永くお願いね。たーくんは猫チュウのことしっかり面倒見てやってちょうだいねぇ」 刹那寂しげな笑みを浮かべてそう言った。 その言葉に、突き放されたように感じた幼子たちが息を飲んで彼女を見遣った。その視線の先で、老婆はいつものように何事もなげなのほほんとした顔で庭を見つめていた。 あれは何年前の光景だったろう。 向かい家の庭から迫り出した椿が、路上へポタリと花を落とした気配に、ふと立ち止まって思考をめぐらせる。 ニャーン。 いつの間にやってきたのか、足元にまとわりついてきた牛柄の猫を片手で抱き上げると、 「チュウ、お前、ま
「……その、この間は俺が悪かった。あんなことするつもりじゃなかったんだ。お前が俺を受け入れてくれるまで、絶対に手なんて出すつもりはなかった……」 どういう状況であれ、俺を信じ切ってくれていた忠成を、俺は裏切ったのだ。 心底申し訳ないと思っている。 「……けど」 そこまで言って、忠成には分からない程度に、俺は唇を噛み締めた。 けど、と言って言葉を区切った俺を、忠成がどこか不安げな表情で見つめてくる。 「……お前が彼女だのなんだの言うから焦ったんだ。今、何とかしとかないと取り返しが付かなくなると思って……」 そこまで言うと、無性に恥ずかしくなって、俺は初めて忠成から目を逸らした。 こんな風に感情を吐露するのは俺らしくない気がして。 「……ね、秋連、それって……ひょっとして……ヤキモチ?」 こういうときに限って、どうしてこいつは追い討ちをかけてくるんだろうな? 「……ったり前だろっ。俺だって……嫉妬くらい、する……」 言ってて物凄く恥ずかしくなった俺は、今度こそあからさまに彼から目を逸らす。こんな情けない姿、忠成には見られたくない。 俺はくるりと踵を返すと、机に置いたままの眼鏡を手に取った。それをかけると、俺は仮面をつけたような感覚に陥って、少し冷静になれる。 眼鏡をかけただけで、さっきまでの動揺なんて嘘みたいに俺は不遜な態度になれた。 俺の豹変振りに気が付いた忠成が、思わず一歩後ずさる。 そんな忠成を逃がさないよう、彼が下がった以上の距離を削ると、俺は余裕の笑みを浮かべて忠成を見下ろした。 「同性相手にいきなりこっちを見ろ、というのは難しい話だとは思ってるよ。……だから、とりあえず今はお前が逃げずに考える、と言ってくれただけでも良しとするさ」 逃げ腰の忠成をなだめるように……声のトーンを柔らかくしてそう告げる。 俺の言葉に、忠成がホッとしたように笑顔になった。
「……帰れ」 俺は忠成を振り返らないままに何とか一言、それだけを告げる。 「で、でも……」 俺の言葉が信じられないという風に、忠成が言葉を連ねる。恋愛感情で迫られるのは勘弁して欲しいけれど、俺に背を向けられるのは怖い。そんな雰囲気がまざまざと感じられて、忠成はずるい、と思った。 「……聞こえなかったのか? 帰れ、と言ったんだ」 忠成に背を向けたまま。怒っているのか悲しんでいるのか自分でも良く分からなかったけれど、心が千々に乱れて肩が震えた。 俺は我知らず、両の拳をぐっと力を入れて握っていた。 俺からの完全な拒絶に、忠成が背後で息を呑むのが分かった。 背中を向けているから見えないけれど、多分今、忠成は泣きそうな顔をしてるんだろう。 こんな状況下にあってもそんなことをつい考えてしまう俺は、相当重症だと思う。 「……秋連、ごめん。……俺、そんなつもりじゃ、なかったんだ……」 ややして、忠成が縋るような声音で一言一言区切るようにそう言った。だが、俺はあえて無反応を貫く。 「お、俺、秋連にあんなことされて……どうしたらいいか分からなくてっ。自分のことじゃないって思って逃げ出したかったんだ……。ホント、ごめん!」 そこまで言ってから、小さな声でしゅん……としたように「自分のことばっかで、秋連や結衣の気持ち、考えていなかった」とつぶやく。 その声の感じから、俺の後ろで泣きそうになっている忠成の姿が目に浮かんできて……俺は我慢できなくなって振り返っていた。
「お前が何をしたか分からない俺だと思うか?」 そればかりか、忠成の手を壁に押し付けるように押さえつけて、その身体をその場に縫いとめた。さらに空いたほうの手を彼の顔の真横について壁際に閉じ込めると、至近距離から幼なじみに詰め寄る。 「……だ、だって前に俺と妹、似てるかな?って聞いたら……秋連、うん……って言ったじゃんっ。……だからっ!」 今まで俺から視線を逸らすように俯いていた忠成が、キッと俺の顔を見上げるようにして睨みつけると、そう言った。 俺より10センチばかり背の低い忠成の、懸命な牽制。 悪いけど、俺はそんなのには怯んでやらない。 ばかりか、冷え冷えとする心を隠そうともせず、忠成を冷めた目で見つめ返した。いや、見つめ返したというより、睥睨したといったほうがしっくりくるかも知れない。 馬鹿なことを言う幼なじみに、あからさまにため息をつくと、 「兄妹が似てるのは当たり前だろう?」 視線だけは忠成から離さずにそう告げる。 「だ、だったらっ!」 俺に睨みつけられて一瞬気圧されたように視線を泳がせかけた忠成だったが、俺に掴まれていないほうの拳をギュッと握りしめて言い募る。 俺はそんな忠成を静かに見つめながら 「お前、俺がお前の外見だけを好きになったと思ってるのか?」 そう、問いかけた。 「……っ」 忠成は、一瞬瞳を見開いて俺のほうを見たけれど、何も言わなかった。ばかりか、視線はまたしても逸らされ、俺の問いから逃げるように俯いてしまう。 そういう反応を見るにつけ、また互いに言葉を重ねれば重ねるほどズレを感じてしまって、俺は心の奥底に淀んだものが、少しずつ凍り付いて冷たく