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第10話

Author: にがうり玉子
一方、その頃――

学校のグラウンド。

涼太はうつむきながら、7回目のゲームをプレイしていた。

顔を上げると、周りにさらに多くの見物客が集まっているのに気づいた。

写真を撮る者、噂話をする者。

「これが学内一のイケメン、早川涼太か!マジでカッコいい!」

「見た目だけじゃないわよ!こんなに一途なんだから!朝早くから謝るために待ってるなんて!」

「でももう10時過ぎてるのに、彼女まだ来ないの?まだ許してないのかな?」

「信じられない!こんなにイケメンが公衆の面前で謝ってるんだから、どんな過ちだって許すべきでしょ!」

「まあ、もう少し待てばきっと来るわよ……」

涼太は眉をひそめた。

夜明け前から、彼はこのグラウンドで待ち続けていた。

葵ならすぐに来てくれると思っていたのに、昼近くになってもまだ現れない。

涼太はイライラしながら髪をかきむしった。

昨日のことはやりすぎたのか。普段は穏やかな葵があんなに怒るなんて。

仕方ない。

もう少し待ってみよう。

午後になれば、きっと葵も心を痛めてやって来るはずだ。

そう考えていた時、群衆の中から声が上がった。

「涼太!」

顔を上げると、友人数人が人混みをかき分けて近づいてくる。

涼太が本当にグラウンドで葵を待っているのを見て、彼らは目を丸くした。

「マジかよ涼太、本当に葵さんを待ってたのか?」

涼太は不機嫌そうに答えた。「あたりまえだろ?冗談でやってるように見えるか?」

友人たちはさらに驚き、顔を見合わせた。

「俺たち、涼太はもう葵さんと別れるつもりで、謝罪ごっこはただ恥をかかせるためだと思ってたのに!」

「そうそう、昨日玲奈さんに聞かれた時もそう言ったし……」

玲奈の名を聞いて、涼太のまぶたがピクッと動いた。

彼は話をしている友人の襟首をつかみ、冷たい声で詰め寄った。

「玲奈に何を吹き込んだ」

友人は涼太の険しい表情に震え上がり、言葉もろくに続けられなかった。

「だ……だって涼太自身が言ってたじゃん?葵さんは進学せずに就職するって。

だったらもう時間無駄にしたくないと思って……今日の謝罪もただの嫌がらせだと思って……」

涼太の瞳が収縮した。

他の友人もおずおずと口を開いた。

「そういえば昨日のクラブ
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