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第14話

Author: にがうり玉子
涼太は一瞬呆然とした。

顔を上げると、中年の男が玲奈に絡んでいるのが見えた。

涼太はすぐに怒りが込み上げた。

「何してやがる!」

駆け寄ると、一言も聞かずに男を掴み、顔面に拳を叩き込んだ。

玲奈は慌てて涼太を引き止めた。

「涼太、落ち着いて!この人は……私の父よ」

涼太の動きが止まり、信じられないように玲奈を見た。「父親?」

玲奈は恥ずかしそうにうつむいた。

そばで玲奈の父親も涼太に気づき、慌てて口を開いた。

「そうそう、私は玲奈の父です。あなたが早川家の若様ですね?

いやあ、噂には聞いておりました。私たちは家族同然ですから、これはまさに『喧嘩して仲良くなる』ですね!」

玲奈は冷たく言い放った。

「早く帰って!」

父親は娘の大事を台無しにしないよう、ニヤニヤ笑いながら去っていった。

涼太は玲奈を見つめ、戸惑いながら聞いた。「本当に父親なのか?」

玲奈はうつむいたまま頷いた。

「うん」声はかすれていたが、最終的に打ち明けた。

「父は幼い頃から母に暴力を振るっていて……母は私が5歳の時に家を出た。その後父は罪を犯して刑務所に入って、最近出所してからずっと私に付きまとっているの」

これまで涼太に話したことのない過去だったが、もう隠し通せないと悟ったのだ。

玲奈は涼太を見上げた。「どう?もう私を見下してるでしょう?」

涼太はようやく我に返った。「馬鹿言うな。親がどうであろうと、お前とは関係ない」

玲奈は軽く笑った。「あなたは想像以上に優しいのね」

涼太が呆然としていると、玲奈が続けた。

「以前はあなたにふさわしくないと思って、一緒になる勇気がなかった。でももう全てを打ち明けたわ。あなたが私を嫌わないなら……涼太」

玲奈は勇気を出して言った。「私たち、よりを戻さない?」

涼太はその場で凍りついた。

玲奈の笑みが薄れた。「やっぱり……私の生い立ちが気になるの?」

「違う」涼太は即座に否定した。「お前の生い立ちなんて気にしない。ただ……」

涼太の言葉は突然止まった。

自分でもどうしてかわからなかった。

以前なら玲奈がよりを戻したいと言ってくれるのを待ち望んでいたはずだ。

なのに今実際に言われても、なぜか全く嬉しくない。

「ただ……」涼太は口を開いた。「
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