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第5話

Auteur: 九葉(くよう)
飛行機が着陸したその瞬間、私はすぐに弁護士に連絡を取った。

弁護士の動きは早く、離婚届はすぐに悠川の元へと送られた。

父の目尻の皺を見つめながら、どこか胸が締め付けられるような思いがした。

かつて父は、私が悠川と結婚することに反対していた。「あいつは見た目は穏やかでも、腹の底は何を考えてるかわからん。楓が損するだけだ」と。

でも私は父の言葉を信じず、意地を張って大浜市に住む悠川の元へと押しかけるように嫁いだ。

あの頃の悠川は、何も持っていないただの青年で、事務所を立ち上げる資金さえ、父が出してくれたものだった。

あの時の愛は本物だったけれど、今の冷めきった気持ちも、紛れもない現実だった。

「夢を叶えた途端、一番近くにいた人を真っ先に切り捨てる」なんて言葉があるけれど、誰も未来の変化なんて予測できないのだ。

父は私をじっと見つめながら言った。「このまま進んで奈落に落ちるくらいなら、今ここで引き返す方がまだ救いがある」

その言葉に、私はどうしようもなく後悔の念が湧いた。

母は早くに亡くなり、私と父は二人っきりで生きてきたのに、私はまた父をがっかりさせてしまった。

「お
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