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第4話

作者: Hayama
last update publish date: 2026-08-05 16:24:24

オートロックの扉が重い音を立てて閉まると、部屋の中は完全な静寂に包まれた。

壁際のデスクに向かって椅子を引き、どさりと腰を下ろす。

小さく息を吐き出してから、先ほど手渡されたばかり台本をデスクの上に広げた。

台本に描かれていたのは、誰もが平伏すような富と権力を持つ財閥の御曹司と、ごく普通の家庭で育った平凡なヒロインの美しい身分違いの恋だった。

人前では決して隙を見せず、冷たい男の仮面を被って生きる彼。けれど、その裏にある不器用で深い優しさに、ヒロインだけが少しずつ気づいていく。

住む世界の違いや、一族からの容赦ない反対。周囲からの冷たい悪意に晒されながらも、ふたりは決して手を離さず、過酷な茨の道を歩みながら愛を育んでいく。

ページをめくるごとに、彼女が背負っている過去や、表面的な明るさの裏に隠された複雑な感情が浮き彫りになっていく。理不尽な運命に翻弄されながらも、決して自分を見失わず、逆境に立ち向かっていく姿。

「……芯が強い女性、って感じかな」

資料の余白にペンを走らせながら、ぽつりと呟く。

ただ守られるだけのひ弱なヒロインじゃない。

自らの足で立ち、運命を切り開く泥臭い強さを持っている。

今の私が抱えている意地や反骨心を重ね合わせれば、きっと血の通った演技ができるはず。

全体像を掴んだところで、明日の審査で使われるシーンのページを開く。

明日は今日のようなグループ演技ではない。相手役との、一対一のセリフの掛け合い。

この量のセリフを、明日の朝までに完全に自分のものにし、さらに感情の乗せ方を何パターンも用意しておかなければならない。

台本に視線を落とし、ヒロインのセリフと交互に書かれている、相手役のト書きとセリフを目でなぞる。

これを声に出して読むのは、あの人なのだ。

「悠と、演技を……」

無意識にその言葉を口にした瞬間、声が微かに震えた。

彼と同じ世界に立ち、カメラの前で、同じ作品の登場人物として言葉を交わすこと。それは私にとって、血の滲むような努力の末にようやく辿り着いた究極の夢であり、最高に嬉しい出来事のはずだった。

それなのに。

あの氷のように冷たく、激しい憎悪を含んだ声が台本の文字の向こう側にちらつく。

明日、彼とは台本上の愛に溢れた言葉や切ない視線を交わすことになるのだろう。けれど、その奥にある彼の本心は、私に対する強烈な拒絶で。

胸の奥がギュッと締め付けられ、視界が微かに滲んだ。

私はそれを誤魔化すように強く頭を振り、ペンを握る手にぐっと力を込めた。

泣いている暇なんてない。彼に拒絶された悲しみに浸って立ち止まるくらいなら、その痛みも絶望もすべて、このヒロインの感情に乗せてぶつければいい。

私を否定した彼自身に、私の芝居を正面から受け止めさせる。

私は深く息を吸い込み、目に止まったセリフをはっきりと声に出して読み上げ始めた。

「私は、あなたのことが好きです。あなたじゃないと…駄目なんです」

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