LOGINモラハラ夫に家政婦扱いされ、給料まで没収される日々を送るアプリ会社員・五代紀美。セックスレス、暴言、経済的DV――離婚したくても所持金はゼロ。そんな中、夫と後輩の不倫現場を目撃する。 企画のためRPGを遊ぶうち、Lv1で無一文の勇者が成長して魔王を倒す物語に、自分の境遇を重ねた紀美は決意する。「私もLv1から始めればいい」 勇者“ノリミ”として装備と仲間を集め、酒場で情報を掴み、知恵とITスキルで反撃開始。目指すは魔王(=クズ夫)討伐と、離婚完全勝利! 笑ってスカッとする、新感覚・不倫復讐RPG物語。
View More「お前となんかデキねえよ」
「結婚したのに家族に勃つわけないじゃんw」 嘲笑交じりの夫の声が耳に残っている。 彼の酷い暴言を聞いたのは1年ほど前なのに、つい昨日のことのように鮮明に思い出して悲しくなった。はあ、とため息をついて隣のベッドを見た。ダブルベッドの右側は盛り上がっていて、まだ夫が眠っているので彼を起こさないようにそっと寝室兼自分の部屋を抜け出す。酷い暴言を吐いてくる夫に騙されて結婚して2年半。もはや私の中に結婚式で誓ったはずの彼への愛は微塵も残っていない。
(なんでこんな人と結婚しちゃったんだろ…) 夫は大学のサークルで知り合った2つ上の先輩。特になにも考えていなかったけれど、長く続けていたテニス部に彼が入部を勧めてくれたのがきっかけ。結婚して2年半だけど、学生の時から付き合っているから一緒にいる時間と歴史は無駄に長い。 (当時はぐいぐい引っ張ってくれる俺様で強引なところがいいって思ってたけど…) 結婚してから夫――五代建真(ごだいけんしん)は変わってしまった。幸せにするって言ってくれたのに、それが守られていたのは新婚3か月目くらいまで。だんだん帰りは遅くなるし、態度は横柄になるし、何度やめてと言っても同僚や先輩を勝手に家に連れてきては宴会するし、最近では私のことを家政婦扱いしてくる。最初は専業主婦だったけれど、狭いマンションに閉じ込められるのに嫌気がさして自ら志願して働きに出た。
私はゲームが好きなので、パートでアプリの仕事を制作・補佐するアルバイトを始め、腕を買われてめでたく正社員に昇格した。今度新作アプリの企画を任されることになったが、パートの時から無駄遣いをしないようにと夫の建真に口座の管理をされてしまい、給料は全額没収されたままでわずかな生活費しかもらえない。仕方なく夫に伺いを立てて買い物し、食費をもらい、生活している。私だってちゃんと稼いでいるのに、まったく無能の家政婦扱いは相変わらず。
(離婚したいなあ…) 世の中にはクズ夫とうまく別れられたり、見事な逆転劇でスカっと復讐して幸せを勝ち取る人が多いというのに。私は一生このままなのかな。 (離婚するにもお金かかるもんね…) (いきなり一人になっても、無一文じゃ生活できないし…) 夫は朝から必ずご飯を食べてから出勤するので、おかずを作るのが日課となっている。私も会社で働くようになってから、自分の分は朝ごはんの残りでお弁当を作っている。以前は夫の分もお弁当を作っていたが、後輩とランチに行くことが増えたのでババ臭い弁当なんかいらない、と言われてからは二度と作っていない。向こうもその方がいいと思っているのでなにも言ってこない。 『ババ臭いって思うなら、朝ごはんも自分で作れ――!!』 …って言えたらいいのになぁ。どうにも気が弱くて、自分の意見をはっきり言えないのが私の悪いところだ。こんなに傷ついて不満ぶちぶち言ってることなんか、きっと建真はわかっていない。それでも私は夫のためにせっせと朝食を作っていた。不満に思っていても、夫婦とはこんなものだと諦めていたから。幸せな結婚なんて絵空事。漫画やドラマの世界のお話なのです。
「飯は?」
おはようの挨拶もなしに夫がリビングへやって来た。開口一発がそれ?
「もうできるよ」
あと1分で鮭が焼ける。ご飯はもう炊けているし、味噌汁も完璧。
「は? 俺が起きるときには全部揃えるようにって言ってるのに、いつまで経ってもできないなんてほんとに無能すぎ」
『は?』ってなに? こっちが『は?』だよ!!
「…」
また、不満だけが溜まっていく。言い返したら100倍になって返ってくるので我慢するしか――今日もお腹の底に消化不良の憎悪だけが沈殿していく。せめて子供でもいたらまだ救われたのだろうけれども、暫くは新婚を楽しみたいという嘘を鵜呑みにして、レスになって今に至る。
建真が私の尊厳をはぎ取って心を痛めつけるこの少しずつの積み重ねが離婚理由にならないのなら、私はこの地獄を一生送らなきゃならないってことだよね。世の中にはどのくらいの人が結婚に成功して、結婚に失敗しているのだろう。
漫画やゲームのように、完全勝利の素晴らしいシナリオを歩ませてくれたらいいのに。 やり直したい。 転生して新しい人生を歩みたい。 今流行りの転生漫画やゲームの主人公のように。 そしたら私は絶対、建真を伴侶に選ばないから――!!「無料で差し上げますので、ぜひ味や効き目のご感想をいただけると幸いです」 栄養ドリンクを受け取った義母は、なんの疑いもなくそれを口内に流し込んだ。「あら、意外に美味しいわね」「ほんとうですか? ビタミン成分を多く配合し、飲みやすさを重視したもので――」 金さんがうんちくを語っていると、義母の体がぐらりと傾いた。「よっと」 金さんがナイスキャッチで彼女の体を支えた。頬をつついてみるが、まったくの無反応。「よし、寝た」「即効性抜群ですね」「なんせ”眠り姫”って名前のドリンクだからな」 目覚めじゃなくて寝かせる方なのね。「さあ、仕掛けるぞ」「ラジャ」 眠らせた義母をソファーに横たえ、私たちは盗聴器を仕掛けにかかった。監視カメラ、盗聴器、ありとあらゆるものを仕込んだ。もちろん、彼女には見つからないように巧妙に。機材はぜんぶ金さんが用意してくれた。 代金やレンタル代は請求されなかったので、一安心だ。「ひととおり終わったな」「はい。ありがとうございます!」「よし、起こして帰るか」 金さんは鞄から別の粉を取り出し、義母の鼻に向かってサラサラとそれを振りかけた。「ふぁ…ふぁくしょん!!」 今のってもしかして胡椒…?「くしゃん、くしゃん!」 くしゃみを連発している。それにしても醜い顔だ。 「大丈夫でしょうか? アレルギーでもおありですか?」 しれっと聞く金さんに拍手。「おかしいわね。別になにもアレルギーはないのだけれど…」「そういった心配がないなら安心しました。それより、すっかりお邪魔してしまいました。あなたのような美しい方とのおしゃべりの時間は、大変楽しくあっという間に過ぎてしまいます。また次も楽しいひと時をお願いします」 甘く囁くように言う金さんの言葉に有頂天に
「初めまして。わたくし、こういう者です」 アッシュグレーのかつらを装着し、深いグリーンのコンタクトを着けた金さんがふたりに名刺を差し出した。見るからに別人である。声色も若干変えている。変装の名人だなぁ。 ”なんでも売買屋” 営業 千時 銀也(せんじぎんや) という偽名の名刺だ。場所はGPSで既に知られているため、店の名前だけは同じにしておいた。「この度はせっかくのプレゼントにご購入いただいた品に不備があり、大変申し訳ございません。至急取り替えさせていただきます」 金さんは新しい時計を持ってきて、前のものと交換してくれた。 義父はしきりに礼を言い、麻雀サークルへ出かけて行った。ふふ、これはしっかりリサーチ済。義母がひとりになるこの時を狙っていた!!「あの…失礼ですが、水谷佐千恵(みずたにさちえ)さんではありませんか?」 外商マンに扮した金さんが言った。どこからどうみても小売りの人だ。黒いスーツに眼鏡、爽やかに見えるが時折鋭い行商人の顔をする。 水谷佐千恵とは、単なる偽名。彼の親戚の叔母に似ているという設定を利用し、義母の懐に入り込む作戦だ。「いえ、違います」 さすがの義母も他人がいるから私をいびってこない。「そうですか…奥様があまりにお綺麗で、叔母に似ていたのでつい声をかけてしまいました。不愉快でしたよね、すみません」 綺麗というワードにしっかり反応する義母。実の息子を溺愛するキモイおばさんは、恐らく他の人から褒められることはないのだろう。しっかり過剰に反応している。 「不愉快なんてとんでもない。その…叔母さんに私が似ているというのですか?」「はい。美しいお顔立ちなどがそっくりです。子供のころから可愛がってもらっていました。僕の母は忙しく、彼女が母親代わりだったのです。実は彼女はもう亡くなっていて…まさかとは思ったのですが」「そうだったのですね」「これもなにかの縁です。商品にまた不具合が出てはい
その日、私はまた丹治さんを眠らせた。盗聴器が仕込まれていないか確認するためだ。金さんから買った薬はほんとによく効く。 夫が高いびきで眠っているので、まずは玄関から調査。異常なし。リビング、異常なし。トイレバス、もちろん異常なし。考えられるのはコンセント周りなので、ここを重点的に確認したけれど、なにも反応はなかった。 やっぱり残るは――寝室! 入ってすぐは反応なかったけれど、ベッド付近に近づくにつれて…借りている機械のゲージが増えた!! ベッドの近くにあるコンセント。3つまたのよくあるタイプのものだ。これに盗聴器が…。機械を近づけると、なんとゲージが赤にふれてマックスの数値を叩きだした。 私は無言でシャッターを切った。スマートフォンに写真を撮って証拠として残す。 これをうまく使って、なんとか誘導したいな。 思えば丹治さんといい雰囲気になってコトをイタした翌日、決まって義母から嫌味の電話があったような気がする。 盗聴していたのね。 ほんと気持ち悪い! 高圧で思いやりの欠片もなくて、嫁イビリが大好きな義母。 あんたの悪事は私が暴いて、夫も義母も、仲間と共にたおーす!! 義母と夫の不祥事は、ご近所さんの格好のネタにしてもらいましょう。 計り知れない社会的ダメージを喰らうがいいわっ。 翌日。私は打ち合わせ通り義理宅へ向かった。義父は快く迎えてくれたが、義母は『なにしに来たんだよテメエコラ』みたいな雰囲気がプンプン伝わってくるのだ。「昨日、お義父様に置時計をプレゼントしたのですが、さっきお店の人から電話がかかってきて、不具合のある製品番号だとわかったので、取り替えたいと連絡があったので来させていただきました」「は~ほんとハズレが好きなのねぇ芽衣さんは」「はい、運がなかったです」 しゅんと落ち込んで見せると、義母は嬉々として私を攻撃する。「たーちゃんを放って外出するからそんな目に遭うのよ」「ほんとうですね。気を付けます」「口は一人前なのよね~。気を付けると
電車や徒歩を利用しない分、さっさと家に着くことができた。自宅へ入る前に北都さんに連絡を入れる、っと。「お疲れ様です。芽衣です」『あ、おつかれ。そのままビデオ通話にして』 ビデオに切り替えると、なんと丹治さんの好きな美少女キャラ、黒髪ロングの清楚華憐な”セイコ”そのものだった。すごい! かわいい制服までまったく同じ…。あ、金さんのお店でレンタルしたんだ! 金さんのお店はほんとになんでも売っているからすごいな。「ただいま」「遅いッ、なにやってたんだッ」 帰ってくるなり文句がお出迎え。いつものことだ。そしてこれはスマートウォッチで録画済。「ごめんなさい。久々にゲーム友達に会ったの。遅くなったお詫びにお話がしたいって。電話代わってくれる?」 私はビデオ通話にしてあるスマートフォンの画面を丹治さんに向けた。彼は驚き固まっている。ふふ、そりゃ、推しのキャラが画面に映っていたらびっくりするわよね。「阿久尾聖子さんって言うの。お話したいって。ほら、電話対応してよ」「あ、ああ、悪い」 丹治さんはとびきりの笑顔で彼女に話しかけた。「すみません。妻がお世話になりました。今日は櫂君のパーティーだとか」『ええ。櫂さんの彼女が私を誘ってくれて、芽衣さんと久々に会えたのです。嬉しくてつい話し込んでしまいました。申しわけありません』「いえいえ。そんな、大したことありませんよ、ははッ」 じゃあ遅いとか文句言うな(怒)。『あの…実はとても話が盛り上がって、よければ明日、芽衣さんの家にお邪魔してもよいでしょうか? すごく素敵な旦那様だって芽衣さんが自慢するから、ぜひお目にかかりたいなーって思ったんです。予想通り素敵な方で、びっくりしました♡』「あ、いや、その…あはは…」 丹治さんはまんざらでもなさそうだ。鼻の下が伸びている。キモ。 『お食事、ご一緒してもよろしいですか?』「もちろんです。我が家で
決戦の金曜日をこなし、準備の土曜日。大決戦の日曜日に向けて私は『なんでも売買屋』を訪れた。そして北都さんの協力を求め、彼女も適当に店に来るように頼んである。「いらっしゃいませ! …なんだ、里緒菜さんでしたか」 張り切って損したみたいな言い方をされ、お客として歓迎されていないと知る。「今日はお洋服買いに来たのに」「そうでしたか。それはそれは。ゆっくり商品を見て行ってください」 手のひらを返され、手厚い歓迎を受けた。わかりやすい人だ。「金さん、買い物の前にレンタルしたブローチを返し
「麗華さん。僕はあなたが好きです。こんなに綺麗で料理も上手で、家庭的な奥さん…羨ましいです。正直、宇治川さんに嫉妬しています」「そ、そんな、私なんか…」「何度も家にお邪魔させてもらったのは…麗華さん、あなたに会いたかったからなんです。僕はあなたと出会い、運命を感じてしまった! 宇治川さんには悪いけれど…別れてもらえませんか?」「聖さんっ」 麗華は自ら北都さんを抱きしめた。「私も…あなたを、お慕いしていました。でも、主人がいるから…」「宇治川さんがいるのに、あの男と付き合っていたんですよね?」
「萌絵――――っ!」 「パパおかえり~!!」 ぎゅーっと愛娘を抱きしめた。 僕はあれから『麗華と葛野の不倫の証拠』を手に入れ、紀美さんに呼び出されたので彼女の夫へ制裁するお手伝いをして、無事に任務が終わったので帰ってきたところだ。実家に預けていた萌絵と対面し、ハグを交わしたところ。「萌絵、今日はどうだった? パパはモンスターを2匹も退治したんだ」「ええ~カッコいい! どうやって?」「んーと、キュアキュアが悪者をやっつけるみたいに、こう、ズバーっと!」「すごー
翌日の昼休み。紀美さんから貴重な証拠データが送られてきた。五代建真をやっつける武器だ。これを駆使して爽やかクズモンスターを撃破! よ~し。腕が鳴るぞ。家に帰って動画編集だ。 プレゼン資料作る時の技術が役に立つ。動画編集はお手のものだし、ライターみたいなこともやるから、僕の手にかかったら一撃で社会的に死んじゃうぞ!! そうと決まれば明日はプレゼン。 僕は五代建真に電話をかけた。「あ、五代さんですか? お疲れ様です」『あ…どうも……お疲れ様です。宇治川さん、どうされました?』 ん。なんだ