Home / 恋愛 / たとえ、この恋が罪だとしても / 2・理想のモデルはどこに?

Share

2・理想のモデルはどこに?

Author: 泉南佳那
last update Last Updated: 2025-06-07 06:35:13

「首尾はどう?」

「ばっちり。もうIDも教えたし」

ぱしっと頭をはたかれる。

「イテっ」

「そっちじゃなくて撮影のほうよ。順調に行けた?」

「ああ。里奈ちゃん、なかなか勘のいい子でさ。今日は楽勝だった」

「そう。終わったばかりで悪いけど、ちょっと話があるの。事務室に来てくれる?」

 そう言って、先に立って歩いていく。

 そうするとどうしても魅惑的に左右に揺れるヒップに目が行ってしまうは男の性(さが)だよな。

 おれ、会社勤めじゃなくて良かった。

 セクハラで、3日で首になりそうだ。

********************************

「さっきね、ある会社からオファーがあったの」

打ち合わせ用のテーブルにつくと紗加は早速、話を切り出した。

いつも冷静な彼女には珍しく、頬が少し上気して、あきらかに興奮している。

「オファーなら珍しくないだろ。別に」

「でも……〝MOGA〟誌からのオファーなんだけど」

「えっ、MOGAって、あのMOGA? フランスの雑誌の?」

「そうなのよ! しかも巻頭で! 瀧人の名前も前面に出すって」

老舗ファッション誌からのオファー?

もしかして、十把ひとからげのグラビア写真家から抜け出せるチャンスじゃないか、それって。

 
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • たとえ、この恋が罪だとしても   4・見つけた!

    きちんとメイクをすればものすごく映える顔立ちだ。くせのないストレートの黒髪もいい。身長は160㎝ぐらいでバランスも上等。 顔が小さく手足が長くてスレンダー。 こっちも合格。もっとよく観察して、直観に間違いがないか確かめたかった。チラシを受け取って入口のほうに歩いていくと、後ろから「ありがとうございます」と明るい声がはじけた。固い木の椅子に腰をかけて待つこと15分。コンサート開始。お世辞にもうまいとは言えないコーラスだったが、そんなことはどうでもよかった。周りで見ている人たちもほとんど出演者の家族や友人のようで、おれの存在はかなり浮いていたが、そんなこともどうでもよかった。上手前列の端から二番目にその子はいた。緊張のせいで顔がこわばっていたが、歌いだしたとたん柔らかい表情に変わった。でも甘さだけでなく、一本筋の通った凛とした風情も漂っている。イメージにぴったりだ。 頭のなかに次から次へとこれから取るべき写真の構図が浮かんでくる。衣装はクラシカルなドレス。清楚な白もいいが、意外に赤も似合いそうだ。   見つけた。おれが探していたのはこの子だ。 さて、どうやって口説き落とそうか。まずはスタジオに来させないと。おれは頭のなかで策をめぐらしていた。

  • たとえ、この恋が罪だとしても   4・見つけた!

    「ありがとうございました」 椅子から立ち上がると、店員の女の子が挨拶した。軽く会釈を返すと頬を赤らめた。バリスタ風の制服がよく似合っていてちょっといい感じだけど、モデルにするにはインパクトが足りないし、イメージにも合わない。  さて、これからスタジオの近くをぶらついてモデルを物色するかな。 幸い天気もいいし、今日みたいな日は女子たちが大挙してあの辺りを闊歩しているはずだ。   そんなことを考えながら、駅に向かっていると、坂道の途中に小さな教会があった。 入口の横に立て看板があって『クリスマスコンサート』と書いてある。もう、そんな時期だよな、とそのまま通り過ぎようとしたら、白いスモッグに赤いベレー帽をかぶった人に「どうぞ」と水色の紙を手渡された。手書き文字で〝讃美歌コンサート〟と書かれている。へたくそなサンタの絵とともに。「お時間があればどうぞお入りください。もうすぐ始まりますから」とか細い声で問われる。ごめん、忙しくて、と言おうとして顔を上げて、はにかんだ表情を浮かべている顔に目をとめた。あれっ? この顔……じゃないか。おれが探していたのは。今はほとんど化粧っ気がなくて地味に見えるけど、よく見ると整った骨格をしている。

  • たとえ、この恋が罪だとしても   4・見つけた!

    おれは当時付きあっていた子をありとあらゆる角度からクローズアップで撮った写真を出品していた。「へえ、虫も殺さないような優男風情なのに、ここまで女の子の粗(あら)を暴けるのは才能ね。気に入ったわ」と言って、名刺にプライベートの携帯電話の番号を書くと、おれに手渡した。  2日後再会して、すぐにシティホテルにしけこんで(もちろんホテル代は紗加持ち)、それから4年、ビジネスパートナーとして、そして愛人としての関係が続いている。彼女よりも20歳ほど年上の紗加の旦那は、某有名企業の重役で資産家。 旦那の会社が紗加の務める画廊に出資していた関係で知り合ったらしい。旦那のほうは紗加を愛人にしたかったらしいが、なんでも自分のものにしないと気がすまない彼女は、結局先妻を追いだして妻の座についた。いわゆる略奪婚ってやつだ。旦那は紗加にべたぼれで、浮気もなかば公認。 紗加にとって旦那の価値は最初から金だけ。愛情は微塵もない。それに彼女の浮気相手はおれだけってわけじゃない。ただ、おれ以外はみんな一晩かぎりの相手だけど。そういうおれも、ひとりの子とだけ付きあうのは苦手な性質だから、今の紗加との関係は気に入っている。他の子と遊んでも文句を言われないのはありがたい。

  • たとえ、この恋が罪だとしても   4・見つけた!

    そして、夜に都合3回。今朝起きてからも1回と、紗加の身体を責めに責めて十二分に堪能し、まだベッドでぐったりしている彼女を残してマンションを後にした。紗加の自宅は職場から電車で30分ほどの、「都内で住みたい街ランキング」トップクラスの人気を誇る住宅街にある。その界隈には洒落た店が多く、よく雑誌で特集が組まれたりしている。おれはマンションのすぐそばの雰囲気のいいカフェに入って遅めの朝食をとった。紗加を抱いているあいだも、つねに頭から離れなかったのはMOGAの件だ。 最近はモデルありきの仕事ばかりで、少々鬱屈していたところだった。「ただの撮影屋で終わる気はない」と事あるごとに紗加に訴えてきた。 彼女もおれの才能を買ってくれている。 紗加とはじめて会ったのは、専門学校の友達と開催したグループ展の会場だった。彼女はそのころ京橋の画廊でキュレーターをしていた。紗加が画廊に現れたとき、おれが留守番役でひまを持て余していたときだった。入ってきた瞬間、息を飲んだ。同級生の女子たちとはくらべものにならない大人の色香に圧倒されてしまった。   目を離せず、無遠慮に見つめていると、彼女はまったく臆することなく嫣然(えんぜん)と微笑みながら「あなたの作品はどれ?」と尋ねてきた。すこしかすれたハスキーなその声にもやられてしまった。 

  • たとえ、この恋が罪だとしても   4・見つけた!

    なんだか下半身がむずむずしてきた。おれは紗加に流し目をくれて、そっと手を握る。そして口もとに引き寄せて、しなやかな指に口づけする。「……職場ではなし、でしょう……」 「この間の夜のこと思いだしちゃってさ。なあ、サヤ……したい」今度は紗加の手を固くなったおれの股間に導いた。 情事の時だけ、おれは紗加を「サヤ」と呼ぶことにしている。 どうもそれが紗加のスイッチになっているらしい。「もう……仕方ない人ね」そう言うと、紗加はいきなり激しく唇を重ねてきた。 完璧に仕上げられていたルージュが取れてしまうほどに。おれの舌の動きにこたえて紗加の舌もエロティックに蠢く。ぴったりした皮のパンツに押さえつけられている分身が痛みを感じるほどだ。 でもすぐに何事もなかったかのように唇を離すと、紗加は言った。「今はここまで。けじめはつけないとだめよ。旦那が出張から帰るのは明後日だから、今日、わたしの家でゆっくり最後の夜を楽しみましょう、ね」そう言って、口紅を直しに事務室に入っていった。こういうふうに焦らされるのもいつものパターンだ。 どうも紗加の手の上で踊らされているようで癪に障る。 ベッドでたっぷり仕返ししてやらないと。で、その旦那が留守の夜、おれは約束どおり、紗加の家に行った。

  • たとえ、この恋が罪だとしても   4・見つけた!

    〈side Takito〉紗加の家で夜を過ごした日から1週間後。過去に撮った写真をスタジオの床いっぱいに広げてモデル候補を探すけど、そう簡単には見つからない。 「どう? めぼしい子はいる?」「うーん、どうもみんな、手垢がついてるっていうか、モデルずれしてるっていうか」「そうね。昔の女優のように、気高くて気品あふれるモデルが撮りたいって話だもの。まあ、この子たちじゃ無理だわね。たんなるコスプレになっちゃう」とにかく難航した。 連日のように付きあいのあるプロダクションに打診して、これまでに何人か面接に来てもらったが、なかなかピンとくる子に出会えない。「やっぱもうちょっと大々的にオーディションするかな」「オーディションねえ……余計野心的なギラギラした子が集まりそう」「個人的にはギラギラした子も嫌いじゃないんだけど……イテっ!」「あなたの好みを聞いてるんじゃないの。真面目にやんなさい」紗加に鼻を思いっきりひねられた。 この女、Sっ気があるのか、こういう時には容赦なくおれを痛めつけて笑ってやがる。でもベッドでは、どっちかっていうとMっぽいんだけど……。執拗なおれの愛撫に反応して震える紗加の肢体や声や匂いでふいに頭がいっぱいになった。

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status