成田国際空港。———私達は目張りのあるレンタカーを借り、俳優組は怪しい変装をして、キャスリンを見送りに来ていた。
運転席に佐久間さん、助手席に昴生。 後部座席に私、キャスリン、キャスリンのマネージャーという変な組み合わせ。 ちなみに鳥飼さんはマネージャーの仕事で、お留守番だ。「キャスリンさ〜ん!楽しかった〜!
またいつかお会いしたいです〜」と、キャスリンとの別れを心底惜しんでいた。
さすがに空港の中まで行くと大騒ぎになるので、空港内の駐車場の中で別れの挨拶をする事にした。
「あー楽しかった!本当に帰りたくなくなっちゃう!
侑、今度はアメリカにも遊びに来てよ、ね?」「はい。分かりました、キャスリンさん。」
「もー、堅苦しいわね!でも、そんな侑も好き!」
キャスリンがバイである事は別に気にしないけど、狙われてる感があるのはちょっと警戒している。
「行く時は俺も一緒ですけどね。」「ちょっと!コーセー!二人できたら、どちらともイチャイチャできないでしょ!?」
相変わらずキャスリンはキャスリンだった。
最後は握手を求められて———「侑、私達はもう友達よ!
コーエーに思いなさい。この天下のハリウッドスター、キャサリン・カヴァデイルが貴方の友達になったんだから。」「ふふ。ありがとう、キャスリンさ…
キャスリン。」そう言った途端、後部座席にいた私は隣にいたキャスリンに腕を引かれて、「チュ」っとキスをされてしまった。軽めだったけど。
「うふふ!侑の唇、貰っちゃった〜!」「キャスリン・カヴァデイル!
それはルール違反では!?」助手席にいた昴生が本気っぽく怒り、キャスリンはきゃあ!と言いながら楽しそうに車を降りた。
「キスくらいは許してよ!コーセー!
それじゃ、まけれど、私と昴生はまさに今、遅い夏休みを取って、余暇を楽しんでいた。 忙しいプロダクションの業務は、優秀な副社長の佐久間さんに任せているから、何の心配もない。彼には悪いけど。 私達は相変わらず仲良しで、あの家のオープンテラスから芝生の広い庭を眺めていた。 「ママー、パパー。」 私と昴生を呼ぶ小さな愛娘。 テラスにいる私達を見つけて、テクテクと歩き、段をよじ登ってきた。 庭には小さなプールが張ってあり、大きなシベリアンハスキーがいて、庭を駆け回っていた。 洗濯物が風にはためき、娘の遊具があちらこちらに散乱している。 慣れた手つきで昴生が娘を抱えて微笑する。 「歩夢《あゆむ》〜は元気だなー。」 「ふふ。誰に似たのかな。」 昴生は愛娘と頬擦りしながら私の方を見た。 「誰だろうね。そうだ、分かった。 …俺の可愛い奥さんだな。」 「も、もう!」 「ははは。侑さん、赤くなる癖は抜けないんだね。 また、そこが幾つになっても可愛いんだけどね。」 相変わらず昴生は、今日も昔と変わらないイケメンぶりで、私を揶揄ってくる。 「昴生だって…相変わらずカッコいいよ。」 「え〜本当?それ嬉しいな。本気で。じゃあ侑さん、今すぐ俺にキスしなきゃね。」 「ええ〜、娘が見てるのに?」 「大丈夫、歩夢の目は一瞬俺が塞いでおくから。ね?早く。」 「もー…しょうがないなあ。」 相変わらず私は昴生の手の上で転がされ、愛おしく、幸せな日々を送っている。 愛する夫と、愛する娘。大きな犬がいる家。 ここに幸せがいっぱい詰まっている。 今私は、昔は知らなかった、幸せな人生というものを謳歌している真っ最中だ——————。※本編・after story完結です。
結婚式は盛大に行われた。 本当に天気も良くて、何もかもが私達の結婚を祝福してくれているみたいだった。 憧れのチャペルで私と昴生は愛を誓いあった。 神父を呼んでやるあたり、かなり本格的に。 私達の誓いには「健やかなる時も」ではなく、「病める時も」の方がしっくりとくる。 これまで本当に色々あったけれど———— 「誓います。」 「誓います。」 その時ふと、これから先の、二人の明るい未来のイメージが見えた気がした。 私達ならどんな困難があろうと、きっと乗り越えていける。そんな予感がした。 それでも、もし万が一。 この先昴生に、万が一、何か耐え難いほどの困難が訪れたとしたら————その時私は、そっと彼の隣にいよう。 昴生が何かに傷つけられて、心が壊れそうな時。 それ以上壊れないように、側で傷を癒そう。 寄り添って、対話しよう。 どんなに拒まれても諦めずに、力になれるよう努力しよう。 あの時、昴生が私を無性の愛で支えてくれたように。 私もまた、昴生を愛してるから、そうでありたいと願う。 「おめでとう〜!」「おめでとう、侑さん!綿貫さん!」 「おめでとう、侑ちゃん、昴生!」 鳥飼さんに、佐久間さん。 事務所の先輩後輩達。俳優仲間。米本さん。 我妻監督に、その家族。お世話になった映画のスタッフ。結局、両親は呼ばなかった。 それに変装したキャスリンも祝福で手を叩いてくれていた。 「侑、コーセー、おめでとう!悔しいけどお似合いよー!」 誰よりも熱く、誰よりもユーモラスな祝福に、私も昴生も顔を見合わせて、笑い合った。 ねえ…渉。見てるかな。 ありがとう。貴方が私にこの縁を繋いでくれたんだよ。 貴方を救えなかった私を、今だけは許してね。 その分
「あ……はあ。だ、だめ。」 「何が駄目なんです?侑さん。……っ、俺的にはいい眺めですけど。」 その夜、さっそく私は昴生にお仕置きされていた。 今夜はやっと二人きり。早めにご飯を済ませて、お風呂に入って…。 嬉しかったけれど、やっぱり・・・これが待っていた。 二人の寝室は広く、大きな窓、ドレッサーやクローゼット、軽く腰掛ける椅子もある。 薄く暗くついた照明が、私のほぼ裸の姿を映し出していた。 「俺、本気で嫉妬したんで」 「でも、あれ、私のせいではなくない?」 「いえ、侑さんのせいです。侑さんがあまりに魅力的だから悪いんです。…っ、はあっ。」 言っている事は荒々しいのに、昴生は顔を熱らせ、甘い息を吐いていた。 「う、ん……っ、い、これ、深い……」 今夜はお仕置きなので———私が昴生の上に乗り、さっきから腰を沈めたりして律動を繰り返している。下着がずり落ち、下から昴生にそれをじっくり見られて変な気分だ。 「これがお仕置き?…んんっ、はあっ、」 確かに格好は恥ずかしいけど…私だって気持ちいい。 だからこそ、昴生のいうお仕置きってやっぱりよく分からない。 淫らな姿の二人。淫靡な音が室内に響く。 私の下に、胸板が厚く、腹筋が割れた立派な昴生がいる。 甘い声で…私が動くたびに、気持ちよさそうに顔を歪める。 だがしかし、あまりにも私がゆっくり動きすぎたらしく、昴生に我慢の限界が。 眉間や首筋に青筋を立て、私の腰を掴んで、上下に激しく揺さぶり始めた。 「侑さん、っ、すごく気持ちいいです。」 「あ、それ!だめっ昴生…は、激しっ…」 「はあ。侑さん、侑さん、侑———愛してる。」
成田国際空港。———私達は目張りのあるレンタカーを借り、俳優組は怪しい変装をして、キャスリンを見送りに来ていた。 運転席に佐久間さん、助手席に昴生。 後部座席に私、キャスリン、キャスリンのマネージャーという変な組み合わせ。 ちなみに鳥飼さんはマネージャーの仕事で、お留守番だ。 「キャスリンさ〜ん!楽しかった〜! またいつかお会いしたいです〜」 と、キャスリンとの別れを心底惜しんでいた。 さすがに空港の中まで行くと大騒ぎになるので、空港内の駐車場の中で別れの挨拶をする事にした。 「あー楽しかった!本当に帰りたくなくなっちゃう! 侑、今度はアメリカにも遊びに来てよ、ね?」 「はい。分かりました、キャスリンさん。」 「もー、堅苦しいわね!でも、そんな侑も好き!」 キャスリンがバイである事は別に気にしないけど、狙われてる感があるのはちょっと警戒している。 「行く時は俺も一緒ですけどね。」 「ちょっと!コーセー!二人できたら、どちらともイチャイチャできないでしょ!?」 相変わらずキャスリンはキャスリンだった。 最後は握手を求められて——— 「侑、私達はもう友達よ! コーエーに思いなさい。この天下のハリウッドスター、キャサリン・カヴァデイルが貴方の友達になったんだから。」 「ふふ。ありがとう、キャスリンさ… キャスリン。」 そう言った途端、後部座席にいた私は隣にいたキャスリンに腕を引かれて、「チュ」っとキスをされてしまった。軽めだったけど。 「うふふ!侑の唇、貰っちゃった〜!」 「キャスリン・カヴァデイル! それはルール違反では!?」 助手席にいた昴生が本気っぽく怒り、キャスリンはきゃあ!と言いながら楽しそうに車を降りた。 「キスくらいは許してよ!コーセー! それじゃ、ま
昴生と二人、ベランダに出た。 この辺りは閑静な住宅街だ。夜の静寂に混じって、微かな風が吹いてくる。 少し火照った顔で、昴生は不満を口にした。 「何で皆、我が家に集まるんですかね。」 「ふふ。皆昴生を慕っているからだよ。」 「理由は、俺だけじゃないと思いますけど。」 私は改めて昴生に頭を下げる。何だか申し訳なくて。 「…昴生。ありがとう。母にお金を貸してくれて。相当な金額だったのに。」 私がそう言うと、突然、昴生がこちらを真剣に見つめ返した。 「侑さん。さっきは、侑さんのお母さんなのに、冷たくしてしまい、ごめんなさい。 そして…もしも侑さんが望むなら、結婚式に招待してもいいんですよ?」 「母を?」 「ええ。お父さんでも構いません。侑さんが望むなら、今ならまだ間に合いますから。」 昴生の黒髪が風に揺れる。 私のお母さんもお父さんも、招待リストには載せてなかったのに。 とっくに二人とは縁が切れたとばかり。 普通の娘なら許せていただろうか。 普通の娘なら、結婚式に来てと… その瞬間、昴生の逞しい手が私の長い髪に触れた。 「侑さん。無理にいい娘をやらなくてもいいんですよ。」 「え?でも、自分の親を招かないなんて。」 「さっきキャスリンも言っていたじゃないですか。家族って言うのは、血のつながりだけじゃないって。 辛い時にそばに寄り添ってくれる人を、本当の家族と言うのだと。 侑さん、俺があなたの家族になります。」 髪に触れる昴生の眼差しが熱い。 こんな風にいつも昴生は私を、情熱的に、躊躇いもなく見つめてくれる。そんなところも… 「侑さんが辛い時は、俺が支えます。 苦しみは一緒に背負います。 楽しいことは二人で分け合いましょう。 二人で幸せになりましょう? 恋人から夫に。家族に。 俺が侑
「侑!あなたもっと、ビシッと言ってやれば良かったのに!私を甘く見ないでって! しかも何なの〜!お金の話を終えたとたん、帰るとかありえな〜い!」 どうしてキャスリンが酔い潰れてるんだろう。 しかも私と昴生の新居で。 この惨状は一体…… 「侑さん〜、そうですよー!ずっと侑さんが苦しんでいた時は知らんぷりで、自分が苦しい時だけ頼ってくるなんて…ブツブツ」 鳥飼さんも私が作った料理を勢いよく食べ、お酒をたくさん飲み、いつもの事ながら酔っ払っている。 「も〜!まさかキャスリン・カヴァデイルとこうして食事する事になるなんて! 私ってやっぱりついてるわ〜!この仕事していて本当に良かった!」 「うーん!和食サイコウ!」 米本さんに、キャスリンのマネージャーもすっかり酔って、上機嫌だ。 あの後、おかずが足りず、急遽私と米本さんの二人で増えた人数分の食事を用意する事になった。 私はリクエストにあった通り、昼と同じ照り焼きチキン、和風つくしの食事を用意。 米本さんは色々アレンジを効かせ、家事代行サービスならではの、まさにプロのご飯を作ってくれた。 皆それを食べているうちに酔っ払ってしまった…というわけなのだが。 「キャスリンさんって、侑さんのお母さんの事、何か知ってるんですか?」 お酒に強い昴生が、向かい側に座るキャスリンを怖い顔して問い詰める。 「そう言えばそだね。キャスリンさん、あなた、私の事を何か知ってるの?」 キャスリンが、ああやって母をバッサリ切り捨てる理由は何だったんだろう? 何だか母に怒っているようにも見えたし。 「…調べたのよ。ロサンゼルスで初めて二人に会った夜に。 どうしても悔しくて! 私の大好きなコーセーのハートを奪った侑は、一体どんな人なんだろううって!」 キャスリンは顔を真っ赤にし、半ばキレ気味に私の過去などを調べたと、暴露した。 その事に対し、なぜか昴