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人気俳優の告白/死なせません

Author: Kaya
last update Last Updated: 2025-06-18 21:00:00

 好⃞き⃞だ⃞よ⃞。⃞侑⃞。⃞

 鳥飼さんに送って貰い、誰も待っていないマンションに戻った。

 ライトアップされた水槽の中で、元気に泳ぐ熱帯魚だけが私を出迎えてくれる。

 いよいよ完全に仕事がなくなる。

 そしたら収入がゼロに。

 それなりに家賃が高いこのマンションも、すぐに引っ越さなければならないだろう。

 軽く夜飯を食べ、お風呂を済ませ、後は暗くした部屋のベッドの中でスマホを見つめた。

 ———今も思い出すのは別れたばかりの一般人だった元彼。

 情けない事に私は今だに未練を引きずっていた。

 つい見てしまうのは、まだ消しきれない彼の電話番号やSNS。

 中学が一緒だった同級生の聖《ひじり》とはまだ人気が低迷する前に偶然再会し、それから付き合うようになった。

 『好きだよ、侑。』

 『侑は人気女優だから、すぐに他の芸能人に取られるんじゃないかって凄く不安だよ。』

 『大丈夫だよ。

 私は浮気なんか絶対しない。信じて。』

 そう言っていた彼も、私の人気の低迷と共に心が離れていった。

 『今…侑仕事ないんでしょ?

 俺、お前を養えるほど稼ぎないから』

 聖。誰もあなたに食べさせて欲しいなんて思ってないよ。

 『侑の事好きだけど…ごめん。

 それに今、俺の事好きだって言ってくれる子がそばにいる。

 そもそも女優と付き合うなんて……俺には初めから無理だったんだ。

 ……だからもう俺達、終わりにしよう。』

 確かに私達は、普通の恋人のように頻繁には会えなかった。

 女優なんだから週刊誌に撮られないようにしろとか、会う頻度を減らせとか、社長からは口を酸っぱくして言われていた。

 実際にまだ人気のあった時期は、スケジュール調整が難しくて、全くと言っていいほど会えなかった。

 今彼のSNSを開けば、新しい彼女との日々を惚気るツイートが、ひっきりなしに上げられている。

 〈今日彼女の家でお家デート〉

 〈肉じゃが美味い〉

 〈やっぱり家庭的な子は落ち着く〉

 私は————聖。

 私はあなたの何だったのかな。

 女優という仕事をしていて、あなたに寂しい思いをさせたのは分かっていた。

 だけど私は、あなたを忘れた事は1日もなかった。

 いつか女優《しごと》を辞めて結婚しようと思うくらい、好きだった。

 最後の電話でも、つい私は自分を偽った。

 『分かった。

 新しい人と、お幸せに。』

 こんな時に、馬鹿みたいに職業病が出るなんて。

 『嫌だ』

 『別れたくない』

 『まだ好きだよ』

 どうしてそう言えなかったの。

 明日からどうしよう。

 社長の提案を断れば解雇される。

 例えパワハラによる不正解雇だとしても、仕事がないのを理由にされれば太刀打ちできない。

 そうなると、女優を続ける事すら難しくなる。

 そしたら何をして生きていこうか。

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