INICIAR SESIÓN体中が痛い。 「う……」 動こうとして更に激痛が走った。 「目が覚めたのか、人間」 「っ!」 先程、自分を襲った魔族に呼びかけられて、飛び起きる。痛みはあるものの、手足が動かせることに安堵する。 縛られたりしていなくて良かった。 「ここは……?」 周囲を確認したリィーンは、見慣れた小屋にいることに違和感を覚える。 キースと一緒にいたあの小屋の中だったからだ。 「……うさぎさん!」 部屋の隅に放置されるようにして、ウサギが倒れているのが目に入る。 「どうしてこんな酷いことを……」 うさぎの側へ駆け寄ろうとした所、ミハイルによって行く手を阻まれる。 「おーっと、大人しくしてもらおうか人間」 「どいてください!それに、私は人間という名前ではありません!」 咎めるようにきつく睨むリィーン。 「随分、威勢がいいなぁ人間。ちっぽけな人間に興味などないが、そこまで言うなら、名前くらいは聞いてやろう。それで?名前は?」 「……リィーンです……」 素直に答えるのが癪だったが、拒む理由もないので名前を口にする。 「リィーン。へぇ、アレクセイ様がこんなのが好みなのか」 上から下まで舐め回すような視線を向けられて、思わず後ずさる。 「さっきまでの威勢はどうした?」 「っ!やめてっ!」 ミハイルは、片手でリィーンの首を掴み徐々に力を入れていく。 必死にもがくけれど、リィーンの力では敵わない。息をするのもできなくなってくる。 苦しい……。 「おい!ミハイル、まだ殺すな!アレクセイ様が目を覚ますまで待て。アレクセイ様の目の前で殺せ」 「そうは言うが……おい、シド、お前が蹴ってでも起こしてくれないか。俺は、もう、殺したい……」 ミハイルの瞳が飢えた獣のように爛々と輝きを増す。恐怖に震えながらも、リィーンは、必死に抵抗を続けた。 ぐるしい……。息が……できない……。やっぱり、脇役は……幸せにはなれない……。 このまま、私、死ぬの……?うさぎさん……。カイン様……せめて、もう一度会いたかった……。もう……だめ………。 「っと、何だ⁉︎クソッ!誰だ!」 突如ミハイルは、リィーンの首を絞めていた手を外し飛び退く。いつの間にかミハイルの手は鋭い刃物で切られた跡があり、生温かい血が流れている。 鉄のような匂いと、一気に肺に空気が入ってくる感
「ぐぁ!」 「痛い」 むぎゅっと柔らかい感触がする。何かの上に倒れ込んだようだ。何かを確認するのも怖くて、リィーンは動けないでいた。 「さっさと、どかんかーーー⁉︎」 耳をつんざくような怒声が自身の下から聞こえて、慌てて飛び退く。 「あ、あ、ごめんなさい!って……うさぎさん?うさぎさんじゃない。どうしたの?あ、捕獲されたの?」 リィーンは、網を被った状態でジタバタするウサギから、網を取り外した。 「だから、何度も言っているが、私はうさぎではない!この程度の網、どうってことはない」 「じゃあ、取らなくてもいいの?」 助けようとして文句を言われたリィーンは、網をウサギに戻そうとする。 「なっ⁉︎止めんか!」 ウサギはリィーンから網を奪い取り、瞬時に燃やして消し去る。 「うさぎさん、魔法が使えるの?」 ウサギの足から炎が出てきて驚くリィーン。 「さっきの音はウサギさんだったのね。狩猟者から追われてたんだ」 「あんな奴らどうってことはない。」 「え?でも……」 「うるさい、この網は後で外そうと思って、敢えてこのまま動いていたのだ。この姿では、思うように魔法が使えない。というか、リィーン、お前は解放されたのか?そうか、マリアが伝えてくれたか」 「え⁉︎マリアちゃん?ねぇ、今マリアちゃんって言った?ねぇ、マリアちゃんを知っているの?会ったの?ねぇ!」 リィーンはウサギを持ち上げ、ブンブンと身体を揺さぶり詰問する。 「こら、リィーン、やめろ。頭が揺れる!落ち着け」 ウサギはリィーンの手から逃れると、地面に着地する。 「ごめんなさい、うさぎさん。つい、興奮しちゃって。マリアちゃんと会ったの?いつ?」 「小屋を出てすぐだ。マリアとかいう娘がウロウロしていた。不審に思い問い詰めたら、王子の婚約者と言うではないか。この姿で、ルナリア王にどうやって会いに行くか悩んでいたから、利用させてもらった。リィーンのことも解放を約束させたが、あの娘……。私のことを、まるで、ぬいぐるみかペットのように扱い始めた。天然なのかあの娘は。まぁ、悪い娘ではなかったが、あれは、おそらく魅了もちだろう。周りの者が誰も止めない。一歩間違えば……と考えると恐ろしいな。シリルとかいう魔法使いがいたので、転移させてもらった。ところが、今度は、あいつらに追われてこのざまだ。まぁ
「まだ、身体がたるい……戻ろう」 走り去るキースを見送った後、リィーンは小屋へと戻る。 キースに言われた通りに鍵を閉め、念入りに再度確認する。 ほんの少し動いただけなのに、既に倦怠感がある。やっぱり、大人しく今日も安静にしていよう。 リィーンは、ベッドに横になることにした。目をとじると、すぐに泥のように眠ってしまった。 窓から差し込む日差しが明るくなり、目が覚める。 どれくらい眠ってしまったのだろう。熟睡したので、幾分身体が軽くなっている。 リィーンは、ゆっくりと起き上がり、隣の部屋の扉をノックをしてみる。 「キース、帰ってる?キース、いる?」 何度かノックをしたものの、返答はない。 キースは、まだ戻ってないようだ。 窓辺に近づき、外の景色を眺めると、太陽は既に真上に昇っていた。 「ちょっとだけなら、外に出ても大丈夫だよね」 戸締りをした後、キースに言われた場所へと鍵を保管する。 小屋の周囲を見渡すと、見覚えがある箇所がある。 毒草が生えてるいるのは、あの辺りなのかな。倒れた場所。何となく見覚えがある。 キースに、今度、毒草を教えてもらおう。 リィーンは、毒草が生えているのとは、反対の方向へと、進んでみることにした。 しばらく進んで行くと、開けた場所にでた。 「わぁ」 思わず感嘆の声が漏れる。小高い丘だったので、遠くまでの景色が一望出来た。絶景ではないけれど、初めてみる景色に胸が踊る。家が建ち並んでいる場所も見える。 かなり距離はあるけど、あそこまで行けば人に会える。行ってみたい。 リィーンは、好奇心に負けそうになるのを必死に堪えた。 このまま黙って出ていくような、失礼なことはできない。 しばらく風に当たった後、来た道を引き返すことにした。 「キース、そろそろ戻って来てるかな」 黙って出て来た事に、今頃になって罪悪感を感じる。急ぎ足で進むリィーンは、何かが爆ぜる音に気づく。 「何の音?」 何かを燃やしているのだろうかと、キョロキョロと周囲を見るも、煙は見えない。 「あっちだ!追え!」 「本当に殺るのか」 「当たり前だろ、こんなチャンス逃す手はないだろ」 複数の足音と不穏な会話が耳に届く。 誰?追っ手……?まさか、私を連れ戻しに……?なんで……。命の危険に晒される描写なんてなかったはず。私が脱出したこ
「ちょ、先輩」 「キース!」 「俺より先輩の方が詳しいでしょ!先輩と俺くらいっすよ」 「団長は、お前を見て何も言わなかったのか?」 「何をですか?会議の内容は聞きましたけど。団長も、先輩が来てるなら教えてくれたらいいのに。まぁ、呼ばれない限り、団長と話す機会なんて、ないんですけどね」 「お前は、今まで何をしていたんだ?」 「だから、俺は、最近入った新人の相手というか、指導まがいのことを押し付けられていたんです!やる気のない奴で、面倒だからと!団長にバレたらまずいとかで、強引に別棟に押し込められてたんでよ! 普段先輩が任務に加えてくれないから、暇人だと思われてるんです!雑用ばかり押し付けられる身にもなってくださいっすよ。こっちは、隙を見つけて、先輩を探してたのに!」 何ということだ!私達二人がリィーンの側から離れていたんて……。 1ヶ月近くだ。1ヶ月近くも放置した状態……。私は何をしているんだ! 自分が許せず、怒りが抑えきれずに拳を木に叩きつけていた。 「先輩……?どうしたんですか?」 キースが不安気に問いかけてくる。 「キース!私は、会議の報せを待つ間、ずっと宿舎にいたんだ!その間対象者は……」 「そ、それって!何も食べてないってことじゃないですか!大変だ、助けにいかないと」 一気に血の気が引き、顔面蒼白になるキース。リィーン不在の家の中に駆け出そうとしたキースの腕を、カインは咄嗟に掴む。 「おい、どこに行く?」 「どこって、何言ってるんですか。家に入るんですよ!中で倒れているかもしれない」 「落ち着けキース!倒れている訳ないだろ?お前が既に助けたのだろう?」 「は⁉︎今から助けに行くんすよ!だから、離してください先輩」 「落ち着けキース!お前、さっきリィーンと一緒にいただろう」 「え、先輩、リィーンのこと知ってるんですか?今は、そんなことよりも……」 「お前、本当に知らないのか?対象者はリィーンだ!」 「は?リィーンが……?対象者……?対象者?いやいやいや、だって普通のお嬢さんですよ?先輩……?本当なんですか?俺、知らずに……」 動揺するキースの腕から、カインはゆっくりと手を離した。 「キース、お前の言う通りだな。一人では限界がある。対象者の顔を知らせておくべきだった。どうしても……(リィーンを見せたくなくて)。
いつの間にかリィーンの家の近くまで来ていた。いい歳をして自分の行動が情けない。 リィーンと他の男が一緒にいる所など見たくもない。例えその相手がキースだとしても……。 くそっ!この感情はどうしたらいいんだ……。リィーンの幸せを、願っている。好きな相手と結ばれるのは、喜ばしいことだ。だが、まだ早すぎる。リィーンは、外の世界を知らなさすぎる。悪い奴に騙されるかもしれない。 キースは、どこまで真剣に考えているのか。悪い奴ではないが、リィーンの全てを受け止めれるのか。長年、苦しんできた彼女の心を癒せるのか?私が納得できなければ、無理にでも別れさせる!だが、リィーンの気持ちはどうなる?どうしたらいいんだ……。様々な感情が交錯する。 カインは、虚無感に苛まれながらリィーンの家の前に立ち、虚空を見つめていた。 「リィーン……」 キースが、助けたのだな……。軽い若造と思っていたが、なかなか大胆なことをする。リィーンに懸想したのか……。助けたくなるのは、当然のことだ。私だって、何度そう思ったことか……。任務放棄する勇気が出なかった。くそっ!私の行動は正しかったのだろうか。もっと早くにキースのように、助け出していれば、今頃は……。若さ故の行動力かもな。出来ることならば、私がこの手で連れ出したかった。もう、過ぎたことか……。 「ぱーい!せんぱーい!」 間の抜けた声が聞こえてくる。カインは現実に意識を戻すと、気怠げに振り向いた。颯爽と駆けて来るキースの姿を捉えると、醜い感情が芽生えてくる。 「キース……」 心なしか、いつにもまして鼻につく。無性に腹立たしい。なぜか、殴りたい衝動に駆られる。 「はぁ……、やっと、追いついた。先輩速いですよ。ちょ、ちょ、なんで睨んでるんすか?俺、先輩に何かしました?怖いですって!こっちは、ずーっと捜してたというのに。俺の苦労も知らないで。さっきも、急に駆け出して行くなんて酷くないですか?こっちは、真面目に仕事してるのに……。 はい、とにかくこれをそうぞ。ちゃんと渡しましたからね」 言葉とは裏腹に、全く怖がっていない様子のキース。案外肝の据わった奴なのかもしれない。だからと言って、リィーンとのことを、簡単に認める訳にはいかない。 キースはカインへ強引に書簡を手渡すと、急いで距離をとるように後ずさる。 「これは?」 「必要な書類です
ハンドクリームの感想を聞く、という名目で、私は堂々とリィーンの元へ通う口実ができた。 知り合いに頼まれたというのは、嘘だ。レオナルド殿下の婚約発表と共に、一躍有名になったハンドクリームだ。殿下の婚約者愛用品だとかで、爆発的に人気が出たらしい。女性への贈り物として、外せないとか。荒れた手も元通りになる効果もある。 美容にこだわる女性達に、大人気だと。聞きたくもないのに、キースは色々な話を耳に入れてくる。 キースからその情報を初めて聞いた時は、全く興味がなかった。だが、リィーンの手を見て、そのハンドクリームを贈りたいと思った。ふとした瞬間に見えた荒れた手。 過酷な境遇の中、一人で耐えてきた現実を痛感させる。頼れる者もいない、全て一人で耐え忍んできたリィーン。せめて、少しでも、救いになれたらと……。人気すぎて、入手困難だというが、無理を言いキースに購入を頼んだ。 任務規定に違反している自覚はある。けれど、どうしても放ってはおけなかった。 パンを美味しそうに食べて涙を流すリィーン。その姿は、庇護欲を掻き立てられた。 私は、最低な人間だ。罪もないリィーンに、固いパンだけを与えていた。 痩せ細り、日焼けしたリィーンの姿が、頭から離れない。栄養失調の一歩手前ではないか。いや、既にビタミン含め、全てにおいて不足している。これは……虐待だ……。 誰もが口にしたことがあるお菓子も、見たことすらなかった。当たり前だ。届けていないのだから。お菓子一つでも、涙を流す。まるで宝物のように大切に、口にする。 それに、衣服のことだって……。暑いのに長袖を着ていることに、今頃気づいた。 何故、気づかなかったんだ……。いくら任務とは言え、扱いが酷すぎる。 人として最低だ。自分が情けない。 リィーンを少しでも喜ばせたい。ただの自己満足かもしれない。こんなことをしても、許されないことだと分かっている。 酷い境遇に育ったにも関わらず、リィーンは、心根の優しい娘だ。 ありがとうとお礼の返事をくれた。天使なのか。そのメモは、捨てられなかった。 そのメモは、私自身への戒めとして永久に保管する。肌身離さずこうして、服の下に袋に入れて首から下げている。 リィーンを、一生をかけて守ると心に誓った。決して、傍を離れないと。だが、キースが言っていた会議のことが引っかかる。会議の内容を詳し







