Mag-log in物心ついた時には既に軟禁されていたリィーン。 なぜ、ここにいなければならないのかも分からず、ただ毎日を過ごしていた。 ある時、前世の記憶が蘇り、自分が乙女ゲーム「君のために」の脇役に転生していることに気づく。脱出を試みるものの、ゲームの強制力によって逃げ出せない。 そんなある時、偶然通りがかった中年の騎士カインとの出会いから、リィーンの閉ざされた世界が、広がっていく。 いつしか、カインの訪れを心待ちにするようになるリィーン。 だが、カインにはとある事情があった一一。
view more「セシー?セシリア?顔色が悪い。大丈夫か?」
「大丈夫です……」 王城の一室で、ソファーに隣り合わせで座っている魔族と人間。その寄り添う姿から、二人は深い絆で結ばれているのが伝わってくる。 「セシー、君も薄々気づいていると思うが、君のお腹の中には私達の子が宿っている。セシー、ありがとう。私達の子供だ」 「アレク様……」 「どうした?浮かない顔をしている。もしかして……後悔しているのか?もしそうだとしても、すまない。離すことはできない」 窓から柔らかな風が入り込む。長く美しい髪がサラサラと揺れる。血のように赤い瞳、不気味だと忌み嫌われる魔族。その特徴を濃く持つ魔族のアレクセイ。 セシリアは、アレクセイに恋してしまった。人間と魔族が結ばれるなど言語道断。侯爵令嬢であるセシリアは、家族の反対を押し切り、逃げるように駆け落ちしたのだ。 妊娠?私のお腹の中に赤ちゃんがいるの? セシリアは、そっと腹部に手を当てる。 「嬉しい……。でも、不安です。この子は、受け入れてもらえるでしょうか」 人間と魔族のハーフ。このまま、魔族が暮らすこの国で生きていけるだろうか。 「この子は、魔力が強い。まだ妊娠初期なのに、ここまで感じ取れるのは異例だ。きっと大丈夫だ」 「ふふ、アレク様がそうおっしゃるのなら、安心です。っ!」 ぐらりと視界が揺れる。 どうしたのかしら。 「セシリア!セシリア!誰か!おい、すぐに医者を!」 「どうされたのですか?王妃様‼︎ すぐに医者を呼んで参ります」 だめだ……。力が入らない。 「陛下、魔力が強すぎて王妃様の身体に影響がでております。つわりの症状とも違います。このままでは王妃様の命の危険にも繋がりかねません」 「なんだとっ‼︎ セシー、なんとしてでも助ける……」 「恐れながら申しあげます生まれ育った人間の国へ、連れて行かれた方がいいかと思われます。魔力の強い子は意図せず、母体を傷つけることがあります。周囲に魔力の強い者が多いここにいては、魔力が暴走しかねません」 「だが……」 アレクセイは、ベッドに横たわる血の気の失せたセシリアを見つめ、言葉に詰まる。 「ごめん……なさい……迷惑かけて……」 「セシリア……愛してる……」 私もよ。アレク。 だからこそ、あなたとの子どもである、この子を産みたいの。 もし、国に帰ったら、この子の力を利用しようとする者が現れるかもしれない。 守らなければ。 「産まれるまで、一緒にいる」 「陛下!なりません。王妃様と駆け落ちしたことが知られれば、戦争になりかねません。どうか軽率な行動はお控えください。王妃様は一一なのですから」 「分かっているが……」 「大丈夫よアレク……心配しないで」 「どうにかして、人間の王に話をつける。産まれたらすぐに連れ帰る。それまで待っててくれ」 待ってる。 私の決断は正しかったのかしら。 きっと過去に戻れたとしても、私はあなたに恋をする。後悔はしていないわ。でも、一つ心残りがあるとすれば、アレクとこの子と一緒に暮らしたかった……。 ねぇ、一一ン、こんな私を許してくれるかしら。どうか、幸せになって。あなたの幸せが、私達の希望なのだから。 ✴︎ ✴︎ ✴︎ウサギは、家の中に入ると椅子へ飛び乗る。 「ふーん、随分殺風景な家だな。ソファーもないのか。おい、娘、ここにセシリアがいるはずなんだが……」 「もう、ウサギさん、怪我しているのに歩くの速いよ。セシリア?マリアの間違いじゃない?マリアちゃんなら、まだ来てないけど、いずれ来ると思う。それよりも、怪我の手当てをするね」 リィーンは、昨日カインからもらったハンドクリームをウサギの怪我の箇所に塗っていく。すると、みるみる怪我が回復した。 「このくらいの怪我など、すぐに治る。な⁉︎ 娘、何をした?お前は魔法が使えるのか?だが、魔力が感じられないが……」 ウサギはジロジロとリィーンを観察する。 「ウサギさんの目って、本当に赤いのね。この世界のウサギさんだからかな。なんだか宝石みたいね。綺麗」 「な⁉︎」 「ふふふ、どうしたの?うさぎさん、もしかして照れてる?」 「照れてなどいない。それに私はウサギではない。名前がある。アレ……。いや、私の名前のことはいい。それよりも、セシリアはいないのか?お前はここに住んでいるのか?名前は?」 「セシリア?という人は知らない。そうだよ、私はここに住んでる。名前はリィーン」 「⁉︎」 「ちょ、ウサギさん、どうしたの、やめて、くすぐったい」 ウサギは、リィーンに慈しむような眼差しを向ける。椅子から降りると、リィーンの足元を旋回し、ベタベタと触る。 「リィーン……本当にリィーンなのか……なぜ、魔力が消えている。でも、かすかに感じる。この感じは、あの時感じたものだ。リィーン……こんなに大きくなって……それにセシリアは……」 「ウサギさん、もしかして私のことを知っているの?」 「あぁ……お前は……私の娘だ」 「………。そっかぁ、じゃあ、私はウサギから人間に進化したんだね。ふふ、面白いウサギさん」 「信じてないな⁉︎ 私はウサギではない。私は……、この姿では説得力がないな。いずれ、話そう」 ウサギは、自身の両手を確認した後、気落ちして黙り込む。 「リィーン、お前の母親はどうした?」 「母は……、分からない。気がついたら、一人で暮らしていたから。あ、でも、食べ物の心配はいらないからね。パンだったらあるから。ウサギさんは草を食べるんだっけ?だから、話し相手として、いてくれると嬉しいんだけど……」 「……分からない?ど
翌日。 リィーンは、いつも通りに朝から洗濯物を干していた。 今日は、パンが届く日だ。カイン様も来ると言われていたから、そわそわして落ち着かない。 リィーンは、一通り家事を済ませると、カゴを回収しに行く。大事に抱えて家へと戻る。はやる気持ちを落ち着かせるように、軽く深呼吸をする。 今日は、どんな種類のパンが入っているのかなぁ。 ウキウキとした気分で、カゴに被せてある布を丁寧にめくる。布を持ち上げた拍子に、パサリと何かが床に落ちた。 何? リィーンは、落ちた紙を拾いあげる。メモが書かれていた。 「白いパンから食べるように」と、記されていた。裏も確認したけれど、他にメッセージや差出人の名前はない。 白いパンが入っているのかな。 リィーンは、カゴの中身を確認する。 こんなに沢山! いつも以上に様々な種類のパンが入っていた。その中に、白いパンがある。 「イングリッシュマフィンみたい」 白いパン生地に、レタスや目玉焼き、フィッシュフライがサンドしてあった。 傷みやすいものから、早めに食べるようにと注意なのかな。メモなんて初めてだ。 どうして最近は、以前とは比べ物にならないくらいに豪華なんだろう。 配達に来る人が、交代したのかな。 長期間パンを届けてくれているから、配達する人も年を取っているはず。 手紙をカゴに入れてみたら良かったんだ。こんな簡単なことを、どうして気づかなかったんだろう。直接交流する手段なのに。 メモを残してくれたから、親切な人……なのかな……? 単純に喜んでいいのか分からない。 最近頻繁にパンが届くようになったのも気になる。安心させて、そのうちに…? ううん、悪い方向に考えるのはやめよう。 今まで、殺そうと思えば、いつでもできたはず。毒を入れたり、パンを届けなかったら、いずれ餓死してしまうもの。 もしかして、何かの実験をされているとか……? 何かの成分を、長期間摂取した場合の観察とか?パン生地に何か入れられていても気づかない。ま、まさかね。そんなこと誰がするのよ。 そういう場合は、もっと設備の整った施設で行われるはず。こんな誰もいない小屋みたいな家に、放置したりしないはず。 あっ、そういえばあの時……。 外に出ようとした時に、誰かに口を塞がれて、小屋に連れ戻された。 その時の恐怖が蘇り、血の気が引いて
気まずい。どうしよう。 私から何か言うべきかな。 二人は、無言のまま立ち尽くしている。しばらくして、沈黙を破ったのはカインだった。 「その、私が今日ここへ寄ったのは、リィーンにお願いがあったからなんだ」 「お願いですか?私にできることですか?」 何だろう。頼られて嬉しい。力になれるといいけど。だって、ここから出られないという制限があるから……。迂闊に引き受けることもできない。けれど、即答で断るのも申し訳ない。 動揺するリィーンの様子に気づかずに、カインは言葉を続ける。 「あ、あぁ。リィーンに、頼みたい」 カインは、ポケットから何かを取り出した。 「これを」 差し出された物を、リィーンは無意識に受け取る。 「これは?」 「開けてみてくれ」 「私が開けてもいいんですか?」 「あぁ」 不思議に思いつつも、丁寧に包みを開封していく。 「これは!」 包みの中から出てきたのは、ハンドクリームだった。 これは、ゲームの中に出てきたアイテムだ。はやる気持ちを抑えて、容器を観察する。 やっぱり! 容器にはユリの花のモチーフと、“riri” という文字が刻印されている。 ユリのリリー(Lily) ではなく、ririと記されているのには理由がある。 このハンドクリームは、手が荒れているマリアちゃんの為に、シリルが特別に魔力を込めて調合したもの。 手荒れ防止効果と、荒れてしまった肌を改善する治癒効果もある。チートなハンドクリームなのだ。 愛を込めて、Maria とCiril の共通の文字の「ri」 をもじってつけたもの。 マリアちゃんが別ルートに入った時も、シリルは、このアイテムをこっそりと届けていた。 このアイテムを魔法で、ウサギの形の雲に変えて、マリアちゃんの部屋へと飛ばしたりしていた。その健気な行動のシーンが、切なくて。別ルートに入っているから、無自覚にシリルを傷つけるのだけれど。まさか実物を見られるなんて、感慨深い。 あまりにも効果がすごいので、マリアちゃんが多くの人へと普及させたいと望んだのだ。もう、マリアちゃん、一歩間違えば悪女だよ。このハンドクリームには、シリルの無類の愛情が込められているのに。無自覚って残酷。 ハンドクリームを手に持ち、物思いにふけるリィーン。 「実は、知り合い、そう、し、知り合いに、頼まれたんだ
「いや、そんなに見つめられたら…ちょっ、困る!」 ふいっと顔を逸らすカイン。 カイン様の顔が少し赤くなっている? もしかして、カイン様も人見知りなのかもしれない。私も、人前で話す時にすぐに赤面していた。 人に視線を向けられるのが苦手。見られていると意識してしまって、逃げたくなる。上がり症とでもいうのか、いつも真っ赤になっていた。 今は、他人に乗り移っているような感覚がする。自分ではないみたい。だから、今なら大勢の前で、赤面せずに話せるかも。 いけない、また自分の世界に入ってしまった。 カイン様は、騎士だもの。色々な人と関わっているはず。だから、人見知りということは、ないか。顔を逸らしていたし……。 私の行動が、おかしかったのかもしれない。あの時は、意識しすぎて凝視してしまったのかも。 こちらの世界では、相手の目を見て話す習慣がないとか? 「カイン様、すみません。私、世間知らずで。先程、見つめてしまって……、気を悪くされたでしょうか?」 「あ、いや。そんなことはない。むしろ、見られて嬉しかった!あ、自分に驚いたというか…その……、いや、なんでもない!」 ん?見られて嬉しい? カイン様は、人から見られることが好きなのね、きっと。人前で話すことが得意なんだ。 もしかして、ナルシスト?では、ないか。 「そ、そうですか。それなら、良かったです。すみません、見つめながら話す癖があるようで……」 「そうなのだな…コホン。ま、まぁでも、ほどほどにした方がいい。リィーンは、若い娘なのだから。勘違いする輩が、いないとも限らない。私は、勘違いなどしないから、遠慮なく見つめてほしい」 「勘違い?そうですね。私なんかが見つめては、迷惑に思われる方もいるかもしれませんね……。すみません、気をつけます」 いけない、つい妄想ばかりしていて、相手の気持ちなど考えていなかった。 自分の行動が、相手に不快をあたえることもあるのに。 リィーンは、自然と俯く体勢となる。 すると、突然カインに肩をつかまれて、見上げる姿勢になる。 驚いて声を出すこともできなかった。 「!」 「いや、そうじゃない!好意と勘違いする輩がいるかもしれないということだ。自分を卑下してはいけない。もっと、自信を持つべきだ。 リィーンは、可愛い。 話すと大人びているギャップもまたいい。





