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第4話

Author: 飛べるドラゴン
会議室の電子ロックの扉が彼の背後で閉まり、イヤホンから広報部長・山野真海(やまの まみ)の声が流れてきた。

「まもなく配信を始めます。全員、画面の外へ」

スタッフたちは素早くガラス扉の外へ下がった。

カメラの赤いランプが点灯する。

ライブ配信の視聴者数は、たちまち10万人を超えた。

テレプロンプターに表示された原稿が流れ始める。

私はそれを読むことなく、口を開いた。

「みなさん、こんにちは。尾高浅香です。

婚約式で起きたことについて、自分で経験した事実だけを話します」

ガラス扉の外にいた真海の顔色が変わった。

私はカメラをまっすぐ見つめた。

「天城斗亜は、私のエピペンを持っていきました。

エピペンを鍵のかかった戸棚にしまって、私を控え室に閉じ込めたんです」

コメント欄が一瞬で埋め尽くされた。

【やっぱり誤解じゃなかった!】

【天城家は前に、防犯カメラの映像は悪意を持って編集されたって言ってたのに】

【彼女、顔色が悪すぎない?】

【まず患者を休ませてあげて!】

真海がガラス扉を強く叩いた。

「尾高さん、原稿どおりに読んでください」

私は無視した。

「私が今日ここにいるのは、斗亜が――」

喉が突然締めつけられた。

その先の言葉が胸の奥でつかえて出てこない。

ふと腕を見ると、広い範囲に赤い発疹が一気に浮かび上がっていた。

医者が警告していた、二度目のアレルギー症状が本当に起きた。

私は胸を押さえ、よろめきながらガラス扉へ駆け寄った。

「先生……先生を中に入れて」

真海が呆気にとられた。

「尾高さん、先に原稿を読み終えてください」

私は力いっぱい扉を叩いた。

「アレルギー症状が出てる!エピペン……」

ようやく異変に気づいた斗亜の秘書・向坂弘樹(こうさか ひろき)が、エピペンを手に扉へ駆けてきた。

けれど、扉の電子ロックはすでにかけられていた。

二度カードキーをかざしても、赤いランプは緑に変わらない。

「権限が天城社長に書き換えられています!」

パーソナルドクターの斉藤武司(さいとう たけし)が私の腕の発疹を見るなり、顔色を変えた。

「すぐに開けてください!

二相性アナフィラキシーを起こしている可能性があります!」

真海は動揺した。

「でも、社長は、彼女は緊張すると体に症状が出ると言いました……」

「尾高さんにはアレルギーでショックを起こした既往歴があります!」

武司は乱暴にカードキーを奪い取った。

「こんなとき、本人が演技しているかどうかを君たちが判断していいなんて、誰が決めたんですか?」

真海は震える手で斗亜に電話をかけた。

斗亜の声は冷たい。

「斉藤先生、昨日の検査結果も見ただろ。

体の反応は感情に左右される。緊張すればするほど、症状は強くなる」

「これはアレルギーです!感情の問題じゃありません!」

「エピペンはそっちにある。本当に危なくなったら使え」

「ショックを起こしてからじゃ遅いです!」

「今はまだショックを起こしてない」

斗亜は一言ずつ、言い聞かせるように言った。

「まず原稿を最後まで読ませろ。

今日も具合が悪いからって逃げられたら、これから先、向き合いたくないことがあるたびに同じことをする」

私はガラス扉にもたれ、そのまま少しずつ床へ滑り落ちていった。

コメント欄は完全に騒然となった。

【演技じゃない!】

【今すぐ扉を開けて!】

【エピペン、すぐそこにあるじゃん!】

【誰が鍵をかけたの?】

【これって生放送で人を殺してるの?】

【もう通報した!】

武司が消火器を手に取り、電子ロックへ叩きつけた。

ガラス扉が大きく揺れたが、開かなかった。

真海もようやく事態が手に負えなくなったと悟り、慌てて警備に連絡してロックを外させようとした。

そのとき、廊下の奥から慌ただしい足音が響いた。

斗亜が百合美を庇うようにして、足早にやってきた。

百合美はただ顔を青ざめさせ、彼の服の袖をぎゅっとつかんでいる。

武司が手にしている消火器を見て、斗亜の顔が曇った。

「誰が扉を壊せって言った?」

武司が中を指さした。

「尾高さんが重いアレルギー症状を起こしています!早く開けてください!」

斗亜はガラス扉の前まで歩いてきた。

倒れている私の姿を見ると、足が一瞬止まった。

私はもう声が出せず、必死に腕を持ち上げ、秘書の弘樹の手にあるエピペンを指さすことしかできない。

斗亜は私を見つめた。その目には、吐き気を催すような励ましの色が浮かんでいる。

続けろ、と言っているようだ。

武司が斗亜を強く押しのけた。

「尾高さんがもう話せません!」

それでも斗亜は武司の手首をつかんだ。

「さっきまであれだけカメラの前で話してただろ。

どうして原稿を読ませようとした途端、話せなくなる?」

「喉頭浮腫です!

恐怖に負けないよう、気合で耐えているに間違いありません!

これ以上遅れたら死にます!」

斗亜は私を見つめ続けた。

「前はみんながあいつに合わせた。だから倒れれば問題から逃げられるって思い込んだんだ。

原稿は残り三行だけだ。あと2分間待とう」

次の瞬間、私の体から完全に力が抜けた。

額がガラスに激しくぶつかった。

体に貼られていた携帯型心電計が、鋭い警報音を上げた。

カメラの赤いランプは、まだ点いている。

十数万人の視聴者が見守る中、心拍数の波形が急速に落ちていく。

武司の顔から、さっと血の気が引いた。

「呼吸が止まっています!」

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