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69.

Author: 美桜
last update Huling Na-update: 2025-07-23 20:48:56

ケンは物陰に隠れて、藤堂雪乃を見ていた。

春奈が見せてくれた写真の彼女よりも何倍も美しく、好ましい感じだった。

写真の彼女は確かに美しく、たおやかで、それでいてその瞳に聡明さが窺えた。

一方、今目にしている彼女はとても溌溂としていて、瞳は太陽の光を受けてきらきらと輝いている…という感じで、全体的に強く、靭やかに見えた。

ケンは実際に彼女を初めて目にした時、混乱した。

本当に彼女が人の夫を奪ったのか?

春奈が言うには、自分たち姉妹は子供の頃から元夫、悠一のことが好きで、姉の雪乃はいつも彼女と悠一が仲良くするのを邪魔していたらしい。

それを両親にいつも注意されて不貞腐れていたのだが、ある時悠一の祖母を味方につけて婚約を交わしてしまったと言うのだ。

話を聞いた時、とんでもない女だと思った。

さぞかし意地悪で、傲慢な女に違いない!

そう思っていた。

でも、実際の彼女は……。

ケンは躊躇していた。

春奈から、「夫のことはもう諦めたけれど、子供の頃からの意地悪や今回のことに対する仕返しがしたい」と言われた時は〝よし、協力してやろう!〟と思った。

それが、彼女をちょっとだけ誘拐して怖がらせ、悠一からお金をせしめてやろう…という内容でも、雪乃が実家を破産させて、両親まで困窮させていると聞いたから、手伝ってもいいと思ったのだ。

春奈は言った。

「悠一はすっごくお金持ちだから、欲張りさえしなければお金を払って解決する方法をとるわ」

と。

「お金持ちって…どれくらい?」

そう訊いたのは単純に興味があったのと、身代金の金額の、境界線の見当をつけたかったからだ。

「う〜んとね。とにかくすごいお金持ちよ。想像がつかないくらい。だからね、このくらいなら……」

と、こっそりと耳元で囁かれた金額に驚いて、思わず生唾を飲み込んでしまった。

「そ、そんなに…?」

「うん。いい話でしょう?」

にっこり笑ってそう言う春奈に、ケンは焦った。

「もしかして、君もすごいお金持ちなのかい?」

彼はそんな環境に身を置いたことがなく、関わり合いになることを恐れた。

だが、彼女は平然と答えた。

「以前はね。でも、言ったじゃない。お姉ちゃんに破産させられたって。今は見る影もないわ」

「……」

「無理ならいいのよ?諦めるから…」

弱々しげにそう言われて、ケンは頭の中が酷く混乱した。

「いや…」

「大丈夫よ。他の人をあたって
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