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第5話

作者: 匿名
彼の偽りに満ちた表情を見つめながら、彼女は小さくため息をついた。「大丈夫よ。会社で急ぎの用でもあるかもしれないし……見てなさいよ」

ガラス窓に映った妊娠検査薬に、彼女の目が止まった。はっきりとした二本の線。目が痛む。なるほど、智子が大胆にパーティに来た理由がわかった。彼女は今、啓介を脅す「切り札」を持っているのだ。

啓介の瞳の奥では、抑えきれない興奮が今にも溢れんばかりだ。冷静だった顔色は一瞬で焦りに染まり、「美穂、会社でちょっと急な用ができたんだ。すぐ行かなきゃ」と言い放った。

美穂が言葉を発するより早く、啓介は車を降りていた。座席に置いたままのスーツにも手を伸ばさなかった。

彼女はすぐにタクシーを拾い、彼の後を追った。車は啓介名義の川辺の別荘の前で静かに停まった。そこにはすでに智子が玄関先で待っており、二人は顔を合わせるなり、離れがたいほど強く抱き合った。ほどなくして、啓介の手がそっと智子の腹部へと伸びる。その慎重で優しい仕草は、美穂が一度も見たことのないものだった。

「このプレゼント、気に入った?」と智子は艶やかに笑いながら啓介の首に腕を回した。啓介はまるで宝物を抱くように彼女を腕の中に引き寄せ、「智子、両親はもう孫の顔を見ることはないと思ってたんだ。本当に君は小林家にとっての福の神だよ!」と声を弾ませた。

美穂は、あのパーティーでの光景を目にした時点で覚悟はできているつもりだった。けれど、その瞬間を目の当たりにした途端、心臓が鋭い刃でかき回されるような痛みに襲われ、息が詰まるほどだった。

――啓介は、やはり子どもを望んでいたのだ……

交際中のあの交通事故で、美穂は子を授かる力を失った。だが啓介はその事実を知っても眉ひとつ動かさず、むしろ彼女を抱きしめて言ったのだった。「子どもがいなくたっていいさ。二人きりの世界で、一生一緒にいられるじゃないか」と。

啓介は小林家の年長者たちの反対を押し切り、迷いなく彼女に求婚した。両親が会社を通じて圧力をかけても、彼は決して屈せず、むしろすべてを一人で背負い込み、「心配するな」と言わんばかりに彼女を守り抜いた。

彼女を妻として迎えた夜、啓介は背後から彼女を抱きしめ、燃えるような想いがそのまま彼女を溶かしてしまいそうだった。「美穂、愛してる。俺のそばでは、ずっと君のままでいてくれ。子どもができなくても構わない。いっそ二人で財産をすべて慈善団体に寄付したっていい。ただ、君がずっとそばにいてくれればそれでいいんだ」

やがて美穂は、どうやって家に戻ったのかさえ覚えていなかった。朦朧としながら歩き、涙で視界がぼやけ、空も地面も見えなくなるほど泣いた。

彼女は啓介が一刻も早く離婚協議書を目にすることを願いながら、同時に見てほしくないとも思っていた。だが結局、美穂は自分の想いがただの独りよがりだったことを思い知らされるのだ。

あの夜のあと、啓介は三日間家に戻らなかった。広々とした別荘には美穂ひとりきり。彼女は自分の持ち物をすべて片づけてしまおうと思った。服、靴、バッグ、そして古びた木の箱まで。

それはずっと昔のもので、中には啓介が若い頃に彼女へ宛てて書いた手紙、二人で学校の裏通りで撮ったプリクラ、彼が手ずから折った小さな星が詰まっていた……

けれど、それらはもうすっかり色あせていた。まるで彼女と啓介の愛のように、燃やしてしまうべきものだった。

美穂はそれらを庭に運び出し、火をつけた。炎に消えたのは昔のものだけではない。かつて啓介を心から愛していた美穂も、同じように灰の中に消えていった。

片づけの途中でチャイムが鳴り、美穂は胸の奥にかすかな期待を抱いて玄関へ向かった。だが、そこに立っていたのは啓介ではなく智子だった。彼女は入るなりコートを脱ぎ、薄手のインナーがわずかにふくらんだ腹の線をくっきりと浮かび上がらせた。

美穂の視線に気づいた智子は、幸せそうに微笑んだ。「奥さん、小林社長の書類を取りに来たの」
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