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第4話

作者: 秋の夜
部屋を空にする直前、結衣は誤ってベッドの横にあった香水の瓶を床に落としてしまった。

割れた香水は、五年前、誠一が結衣にプロポーズした時に買ってくれた、最高級のローズの香水だった。

大きな音がしたため、荷物を運ぶのに必死だった誠一が部屋の中をちらりと覗き込んだ。

「結衣、何かあったのか」

誠一の視線からは、主寝室から早く出て行ってほしいという焦りしか読み取れず、結衣を気遣う様子は微塵も感じられなかった。

結衣は布でガラスの破片を包み込み、静かに首を振った。

「ちょっと物を落としただけ。大丈夫よ」

たかが香水瓶一つだ。誠一ですら気にも留めていないのに、これ以上こだわって、何になるというのか。

結衣は静かに主寝室のドアを閉め、誠一の後に続いて自分の服や荷物をゲストルームへと運び込んだ。

誠一は急いで結衣の手から荷物を受け取り、汗だくになって運んだ。

「結衣、こういう重いものは俺が持つから、無理はしないでくれ」

ゲストルームを片付け終わった後、誠一は背後から結衣を強く抱きしめた。

「結衣、君と赤ちゃんに辛い思いをさせてしまったな」

そう言いながら、誠一は美しい包装の箱を取り出し、結衣の前に差し出した。

「これは出張の帰りに、わざわざ君のために買ってきた高級コスメセットだよ。

女は子供を身籠っている時が一番美しいと皆言うからね。俺の結衣も、うんと綺麗に飾らなくちゃ」

そのコスメセットは、軽く三十万円は下らない代物だ。誠一が自分にお金を惜しまないことは、結衣はずっと前から知っていた。

だから、誠一がプレゼントを渡してくれた瞬間も、それほど驚くことはなかった。

誠一がセットの中からファンデーションを取り出し、結衣の顔の小さなシミを少しずつ隠してくれている時、結衣は鏡の中の自分を見つめながら、ふと意識が遠のくのを感じた。

前世で、誠一が結衣に主寝室を桜子に譲るよう強要した時、結衣は泣き叫んで抵抗した。

その代償として得たのは、誠一からの三日連続の冷酷な無視だった。

今回自分が自ら身を引いたことで、誠一がこれほどまでに罪悪感を抱くことになるとは思いもしなかった。

しかし、結衣はもうどうでもよかった。あと一ヶ月で、自分は湊市を離れるのだ。

誠一がどれほど桜子を贔屓しようと、結衣には何の関係もない。

今日はあまりにも疲労困憊していたため、結衣は枕に頭を乗せるとすぐに眠りに落ちた。

誠一も横になろうとしたちょうどその時、主寝室から桜子の恐怖に満ちた悲鳴が響き渡った。

「蛇、蛇が!

ううっ、誠一さん助けて!」

物音を聞いた誠一はベッドの横の上着を掴んで飛び出し、薄いパジャマしか着ていない桜子をその腕に抱き留めた。

「桜子、この部屋は俺と結衣がずっと使っていたんだ。蛇なんているはずがない。見間違いじゃないのか」

誠一は桜子の背中を軽く叩き、根気よく彼女を慰めた。

「違うの、誠一さん、本当に蛇がいたの。ベッドの上にいたわ」

桜子の怯え方が演技には見えなかったため、誠一はゴルフクラブを手に取り、半信半疑で部屋の中へと足を踏み入れた。

案の定、ドアを開けると、一匹の蛇がベッドの上にとぐろを巻いていた。

誠一は曲がりなりにも日々の鍛錬を怠らない男であり、何度かゴルフクラブを振り下ろすと、その蛇を三段に切り裂いて外へ放り捨てた。

その光景を見て、桜子は体を震わせながら誠一の肩に寄りかかった。

「誠一さん、私のせいだわ。結衣さんの一番好きな主寝室を奪ってしまったから、結衣さんが怒るのも無理はないわ」

桜子の言葉を聞いて、誠一はすでに結衣に対して疑念を抱いていたが、口では反論した。

「馬鹿なことを言うな。結衣はそんな人間じゃない」

桜子は泣きながらベッドのマットレスをめくった。すると、濃厚なローズの香水の匂いが一気に鼻をついた。

「誠一さん、蛇は刺激的な匂いのある場所を好むのよ。

私が布団をめくったら、中に蛇がいたの。世の中にこんな偶然があるわけないわ」

桜子はさらに激しく泣き崩れた。

「誠一さん、結衣さんが好きだから私のことを信じたくないのはわかってるわ。

それなら、私が出て行くわ。これからは絶対に二人の邪魔はしないから」

桜子の一言で、誠一は完全に彼女の言葉を信じてしまった。

ゲストルームに戻った誠一は、布団の中に横たわる結衣を強引に引きずり起こした。

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