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第3話

作者: 秋の夜
一部始終を見ていた婦人科の医師は、結局何も言わず、結衣に掻爬手術の手配をしてくれた。

病院を出た瞬間、結衣はまだ少し意識がぼんやりとしていた。

「ごめんね、冷酷なお母さんを許して。今世でもあなたがあの過酷な星野家で再び苦しむのを見るのは、本当に耐えられないの」

目尻の涙を拭い、結衣は家へ帰るためのバスのチケットを買った。

揺れるバスに乗り、太陽が沈む頃になってようやく結衣は家に着いた。

家のドアを開けた途端、誠一が肉を選んで桜子の皿に取り分け、愛おしそうな眼差しで見つめているのが目に入った。

「お腹が空いただろう。まずは少し食べて落ち着きなさい」

遠くから見ると、二人はまるで愛し合う本物の夫婦のようだった。

親密な二人の光景はひどく刺々しく、結衣はドアノブを握りしめたまま、無言で中へと入っていった。

足音が近づいて、誠一はようやく入り口にいる人影に気がついた。

「結衣、待っていろと言ったじゃないか。どうして一人で帰ってきたんだ。

まだお腹に赤ちゃんがいるのに、そんなに無理をして!」

誠一は駆け寄って結衣を支え、彼女が冷えないようにと慌てて自分の上着を脱いで結衣に羽織らせた。

誠一が赤ちゃんのことに触れるのを聞いて、結衣は無意識にお腹に手を伸ばした。

幸い彼女は均整の取れた細身の体型で、妊娠五ヶ月でもお腹は目立たず、それが誠一の目を完璧に欺いていた。

結衣は誠一が羽織らせた上着を拒むことなく、落ち着いた口調で言った。

「午後六時で、もう病院は閉まってしまったの」

結衣に上着をかけていた誠一の手が止まり、その目に一瞬だけ後ろめたさがよぎった。

「結衣、先に夕飯を作ってから迎えに行こうと思っていたんだけど、思いのほか時間がかかってしまって。

ちょうど滋養スープを煮込んだところなんだ。君も赤ちゃんもきっとお腹が空いているだろう、一杯よそうよ」

そう言うと、誠一は一杯のスープを結衣の前に運んできた。

しかしその器の中には、普段彼女が一番好きな骨付き肉が入っていなかった。

誠一の狼狽をよそに、結衣は非常に落ち着いた口調で言った。

「いらないわ。今は脂っこいものは食べられないの」

結衣は誠一の気まずそうな表情を無視し、一人で寝室へと入っていった。

結衣が寝室に足を踏み入れた途端、桜子は箸を置き、ひどく悲しそうな顔で誠一を見つめた。

「誠一さん、結衣さん……私のこと、やっぱり迷惑だと思っているのかな……

ごめんなさい、私が結衣さんに誤解させてしまったせいで」

桜子はボロボロと涙を流し、いかにも可哀想な様子を演じてみせた。

それを見た誠一も思わず眉をひそめ、苛立ちながら寝室のドアをノックした。

三回ノックしても返事がないため、誠一はドアを押し開けようとしたが、なんと内側から鍵がかけられていた。

誠一は眉を深く寄せ、不機嫌な声を上げた。

「結衣、桜子がこの家に住むことは、病院でちゃんと話し合って決めたじゃないか。

桜子がもう荷物を持ってきているのに、君がそんな仏頂面をしているのはどういうつもりだ」

誠一はわざと声を押し殺していたが、ドアの裏に立つ結衣にはその言葉がはっきりと聞こえていた。

十年間を共にした幼馴染である自分が、誠一の心の中ではこれほど嫉妬深く身勝手な人間だと思われていたとは、結衣は想像すらしていなかった。

結衣は自嘲気味に口角を上げ、最後の服をスーツケースに詰め込むと、ようやく部屋のドアを開けた。

ドアが開いた瞬間、誠一は危うくつまずいて転びそうになった。

「結衣、もうつまらない癇癪を起こすのはやめてくれないか」

誠一の表情は相変わらず優しかったが、話す時の口調は氷のように冷たかった。

結衣は急いで弁明することはせず、背後にある大きなスーツケースを誠一の前に置いてから口を開いた。

「誠一、桜子さんは体が弱いから、たくさん日光を浴びる必要があるわ。

私たちの部屋が一番日当たりが良いから、荷物をまとめたの。ちょうどいいから、桜子さんにこの部屋を使ってもらいましょう」

誠一は床に置かれたダンボールの山を見て、言葉に詰まった。

「結衣、さっき俺たちを無視したのは、部屋を片付けて、それを桜子に譲るためだったのか」

結衣は軽く頷き、その表情は相変わらず水面のように静かだった。

この部屋は二人の新居として使われ、結婚して五年、結衣は部屋の小物や配置を自分が一番好きなデザインに整え続けてきたのだ。

少しがらんとした寝室を見て、誠一の心にはなんとも言えない息苦しさが広がった。

それにもかかわらず、誠一は反対することなく、黙々と結衣の荷物をゲストルームへ運ぶのを手伝った。

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