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第2話

Author: 文芝
水無瀬さんは、全身がまるで高級ブランドの広告みたいだった。髪の毛の一本まで丁寧にセットされていて、動き一つとっても「育ちの良さ」を感じさせる。

一方で私は、手術室から出たばかりで、もう二十四時間近く寝ていなかった。魂が抜けたような顔をしていたに違いない。服装も街の小さな店で買ったノーブランドのスウェット。とにかく動きやすさ重視だ。

比べるまでもない。

「お気遣いなく。今のところ必要ありません」

そう答えて、私はさっさと空いている席に腰を下ろし、黙々と食事を始めた。集中力が必要な手術の連続で、丸一日まともに食べてなかったんだ。

そのときだった。

隼人がふらっと私の前にやってきて、何かをテーブルに置いた。

一枚の小切手。そこには200万円の文字が書かれていた。

「これは、昔のよしみってやつだ。お前に使ってほしい。ちゃんとした仕事に就いて、新しい服を買って、自分をもっと大事にしてくれ。

詩羽、もう過去のことは忘れよう。ずっと過去に縛られてちゃダメだ。

……もしも、あの時お前が……いや、いい。もうどうでもいいことだ。

とにかく、俺がいなくなったからって、お前が生きる意味まで見失うなんてこと、絶対にしないでくれよ?」

私は、思わず彼を見上げていた。

隼人の言葉の途中に、妙な「間」があった。その言いかけた言葉が、胸の奥に引っかかった言いかけてやめた、その「何か」が、やけに引っかかった。

……私が前の人生で、いったい何をしたというの?

彼が、あれほどあっさりと私を捨ててまで、もう一度やり直そうと思った理由は、いったい――

前の人生、私たちは――学生服から、ウェディングドレスまで一緒だった。

彼には音楽の夢があった。私は医師になりたかった。

どちらも、お金も時間も労力もかかる夢だったから、自然とどちらかが身を引かなくちゃいけなかった。

私は、彼を愛していたから――迷いもなく、自分の夢を後回しにした。大学院にも進まず、すぐに働きに出て、一人分の収入で二人の夢を支えた。

彼は何度も失敗し、落ち込み、挫折した。

私は、彼の「永遠に尽きない充電器」みたいな存在だった。家に帰るたび、どれだけ疲れていても、彼を励まして支えるのが私の日常だった。

いつか、きっとわかってくれるって思ってた。

けど。

ある日、彼がまた新しいギターが欲しいと言い出して、私はお金が足りなくて無理だと伝えた。

すると、彼は怒り狂って、そのギターを床に叩きつけた。

「わかってるか?もしあの時、水無瀬と一緒にアメリカに行ってたら、今ごろ俺、こんな苦労してなかったんだよ!

……お前と一緒になったの、ほんと後悔してる」

その一言で、私の心は静かに、音もなく壊れた。

その後、彼はギターを弾かなくなった。夢も、すべて捨てた。

そして私は、毎晩、あの「後悔してる」の一言を思い出して、こっそり枕を濡らしていた。

それでも私は、最後の希望を捨てきれなくて、震える腕で彼を抱きしめて、こう言った。

「……隼人、私、あなたの子どもが欲しい」

でも彼は、私を突き飛ばして言い放った。

「今の経済状況で子ども?正気か?それに、前にも言っただろ、俺は子どもが嫌いなんだよ!お前との子どもなんか、欲しくない!」

その言葉が、私の最後の希望すら、跡形もなく踏み潰した。

年末、帰省の道中で、私たちは大型トラックに正面からぶつかった。

その瞬間、怖くなかった。ただ、静かに「やっと終わった」と思った。

それから、私たちは同時に時を遡り、それぞれの人生をやり直すことになった。

当然のように、お互いに距離を置き、過去にはもう何の執着も持たないと決めていた。

私は、テーブルの上の小切手を、黙って隼人の前へと押し返した。

「いりません。私は、見ず知らずの人から物をもらう趣味はないのです。ありがとうございます」

隼人の眉がぴくりと動き、ややきつい声で返してきた。

「……詩羽、俺のこと『見ず知らず』ってどういう意味だよ?」

私は静かに答えた。

「服は自分で買えます。仕事だって、私自身が選んだもので、胸を張って働いてます。誰にも恥じることなんてないし、自暴自棄にもなってない。このお金は、本当に必要な人にあげてください」

隼人は、小切手を手にしたまま、その場に立ち尽くしていた。唇をきつく結んで、何も言えないようだった。

そのとき、水無瀬さんが彼の隣にすっと歩み寄ってきた。隼人の手元の小切手を見て、何かを察したらしい。

怒りを必死に押し殺したような目をしていたけれど、口元には優しげな笑みを浮かべたままだった。

「詩羽、せっかくのご厚意を断るなんて……じゃあ、もっと現実的な提案をするね。

最近ね、市役所通りにネイルサロンをオープンしたの。よかったら、うちで見習いとして働かない?月給は高くないけど、12万は出せるし、手に職もつくわよ。最悪、将来自分でネイルサロンを開業できるかもしれないし。

どう?今の仕事より、よっぽど『まとも』でしょ?」
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