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第3話

Auteur: 文芝
私は淡々と食事を続けた。静かに、穏やかに――けれど、きっぱりと彼らの「好意」を断った。

「ありがとうございます。でも、今の仕事にとても満足してるので……転職の予定はありません」

すると、周囲の同級生がまるで待ってましたと言わんばかりに声を上げた。

「詩羽、お前さ、空気読めよ!隼人と遥香遙香、すごく優しいじゃん?お金までくれて、仕事まで紹介してくれるのに!」

「ほんとだよ、今の惨めな状況で、まだプライド守ってるとか?同窓会にまで顔出して、助けてもらう気じゃなかったのかよ?今さら清廉潔白ぶるなって!」

水無瀬さんがわざとらしい声でかぶせてくる。

「みんな、そんなに言わないで。詩羽、本当に今の仕事が好きなのかもしれないし……ね?」

そして、わざと私に向き直って、優しげな微笑みを浮かべる。

「詩羽、これは私たちの厚意よ。昔の縁もあったし、だからこそ紹介してるの。見栄なんか張って、チャンスを無駄にしないでね?」

――私は、本当に理解できなかった。

どうして、こんなにも「親切」を押し売りするんだろう?

「……本当に、いりません。お気遣い、ありがとう」

水無瀬さんは、にこやかに笑ったままだった。でもその瞳には、はっきりとした侮蔑と嘲笑がにじんでいた。

隼人が、手に持ったままの小切手をギュッと握り締める。

そして、吐き捨てるように言った。

「まったく……クソのような人間だな。やっぱり、お前なんか救おうとした俺がバカだった。いっそ、一生貧乏してろよ」

――その言葉を合図にしたかのように、何人かの元同級生の男たちが、わらわらと近づいてきた。

「なあ詩羽、今の生活マジで惨めだよな?よし、一杯飲んだら俺、2万円送ってやるわ!

もうちょい可哀想に見えたら……上乗せしてもいいぜ?」

彼の視線は、まるで下卑た獣みたいにいやらしかった。なのに、周りの同級生たちはそれを見て笑ってるだけ。誰一人として止めようとはしなかった。

私は眉をひそめた……こんなの、私が思い描いてた同窓会とはまるで違う。

もしも今、私が人を待っていなかったら、とっくにこんな場所、出て行ってたと思う。

ちょうど声を上げて警備員を呼ぼうとしたその時だった。

隼人が、吸っていたタバコを無言で床に押しつけ、そのまま男の腕を掴んで引き寄せた。

その顔には、氷のような怒りが張りついていた。

「……いい加減にしろ」

男は、ねじられた腕に苦しそうに叫び声を上げる。

「痛い痛いっ、何すんだよっ!」

水無瀬さんがすぐに隼人の袖を引っぱる。

「ちょっと、隼人、何やってるの!」

隼人の目は冷たいままだった。

「見てられなかっただけだ。これは同窓会だ、バカが暴れる場所じゃない」

そう言い捨てて、彼は男の腕を放した。

男は、隼人には逆らえないとわかったのか、私に向かってだけ睨みをきかせて、悔しそうに引き下がっていった。

――私は、思わず隼人の顔を見てしまった。

……まさか、彼が私を助けるなんて。

水無瀬さんは、奥歯を噛みしめてるのがわかるくらいに怒っていた。でも、表情だけは崩さず、笑顔のままで話題を変えた。

「そういえばさ、聞いたよ?今ちょうど、成富グループの社長とお坊ちゃんが、上のフロアで会議してるんだって」

「もしかしたら、あの『A市の一番お金持ち』に会えるかもしれないわよ?」

その言葉に、場が一気に色めき立った。

A市の一番お金持ち――若くてハンサムで超富豪、まだ三十代前半にしてすでに五歳の息子がいるらしい。けど、奥さんの素性はいまだに謎のままだ。

「うそ、もしかして今日、奥さん見れるかも?私、動画撮る!」

「やば、これ完全にバズるやつじゃん!」

しばらくすると、数人のボディーガードに囲まれて、幼い男の子が会場に現れた。

その瞬間、場が一気にざわついた。

「うわっ、このお出迎え……間違いない、A市の御曹司じゃん!しかも、めっちゃカッコイイ!」

さっき私に絡んできた男は、隼人に一発殴られたのに、懲りずにまだ私に突っかかってくる。

「お前な、もし遥香遙香がいなかったら、一生こんな大物の子なんて見れなかったんだぞ?今すぐ土下座して感謝しとけよ。もしかしたら俺みたいな月給十二万の男とでも結婚できるかもな?あーありがたく思えっての」

……バカバカしい。完全にスルーして、私は御曹司の方に視線を向けた。

誰もが必死にスマホを構えて、動画を撮ったり写真を撮ったりしてる。媚びた笑顔で「かわいい〜!」と群がる大人たち。

もちろん水無瀬さんもその中のひとり。さっきまでの上から目線はどこへやら、急に「親切なマダム」を演じ始める。

「坊ちゃん坊や、何か食べたいものある?お姉さんがごちそうしてあげるわよ〜」

そう言いながら、ちゃっかりほっぺに手を伸ばそうとしていた――そのとき。

誰もが想像してなかった展開が起きた。

警備の人たちに囲まれていたその男の子は、誰にも反応せず、きょろきょろとあたりを見回したかと思うと――

私の方へ、まっすぐ駆け出してきた。

「ママ〜っ!やっと来たぁ〜!」

その笑顔は、甘えるようにキラキラしていて、次の瞬間、彼は勢いよく私の胸に飛び込んできた。

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