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茶の香りに込められた愛、静寂の国の心の叫び

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-09-26 11:19:39

桜の国を後にして一週間。

私たちは山間の美しい国に到着していた。

霧に包まれた静かな村々。

茶畑が広がる穏やかな風景。

ここは茶の国と呼ばれているらしい。

「静かな国ね」

私は馬車から降りて辺りを見回した。

「でも、なんだか寂しい感じがする」

確かに美しい国だけれど、人々の表情が暗い。

笑顔がほとんど見えない。

まるで、感情を押し殺しているような。

「コノ クニ、シズカ スギル」

ユキさんも同じことを感じていた。

「この国、静か過ぎる」

「何かあったのかしら」

私は心配になった。

「調べてみましょう」

近くの茶屋に入ると、美しい着物を着た女性が出迎えてくれた。

年齢は三十代くらい。

上品な顔立ちだけれど、その瞳に深い悲しみがある。

「いらっしゃいませ」

女性が丁寧にお辞儀をした。

「茶をお出しいたします」

とても礼儀正しいけれど、感情がない。

まるで人形のような話し方。

「ありがとうございます」

私たちは座敷に通された。

美しい茶道具が並べられている。

女性が優雅な手つきでお茶を点ててくれる。

その動作は完璧だけれど、どこか機械的。

「美しい所作ですね」

私は女性に話しかけた。

「長い間、茶道を学ばれたのですか?」

「はい」

女性が短く答えた。

「幼い頃から」

それ以上は何も言わない。

会話を避けているような感じ。

「あの……」

私は勇気を出して尋ねた。

「この国の人々は、なぜこんなに静かなのですか?」

女性の手が微かに震えた。

「それは……」

「言えないの?」

女性が困った顔をした。

そして、小声で言った。

「感情を表に出すことは、禁じられているのです」

感情を表に出すことが禁止?

「どうして?」

「国の掟で……」

女性がさらに声を小さくした。

「感情は心を乱すもの」

「特に……愛のような感情は……」

また愛を禁止している国なのね。

でも、今までとは少し違う。

完全に禁止するのではなく、表現を禁じている。

「辛いでしょうね」

私は女性に同情した。

「感情を隠し続けるなんて」

女性の目に涙が浮かんだ。

でも、すぐにそれを隠した。

「慣れました」

嘘ね。

慣れるはずがない。

感情を押し殺して生きるなんて、人間らしい生き方じゃない。

「お名前を教えてください」

私は優しく言った。

「ミドリと申します」

ミドリさん……緑茶のような美しい名前ね。

「ミドリさん」

私は彼女
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