痛みが、まだ生々しく身体に残っていた。熱に浮かされたような視界の向こうで、誰かが私の名前を呼んでいる。その声が、優しかった。信じられないほどに。「……リア、目を覚ましてくれ」私の額に触れる手。男の声。低く、少し掠れていて、けれどどこか懐かしい響き。まぶたを押し上げると、目の前に一人の男がいた。漆黒の髪と鋭い輪郭。凛々しい目元。見覚えがある――でも、その顔は私にとって、最も見たくなかった顔だった。「……なんで、あんたがここに……」声がかすれる。痛みと混乱で、頭がうまく回らない。でも私は確かに、この男に殺されたのだ。胸に深く、鋭く突き立てられた剣の感触。今も、身体の奥にその記憶が刻まれている。「よかった、助かって……本当に……」男――〈カイル〉は、まるで恋人に再会したかのような顔で笑っていた。その表情が、なによりも恐ろしかった。リアは首を振ることもできなかった。傷は深く、意識はかすれていく。それでも、この状況が夢や幻ではないと、理性のどこかが告げていた。「気をつけろ。まだ完全に治ってない。しばらくは寝てた方がいい」カイルはそう言って、壊れ物を扱うように慎重にブランケットをかけ直した。その動作一つひとつが優しくて――優しすぎて、気が狂いそうだった。(どうして、こんな顔をするの? 私を殺したくせに……)涙が勝手ににじんだ。声を出す力はなかった。けれど、カイルはそれを誤解したのだろう。彼の手が、そっとリアの頬に触れた。「ごめん……怖かったよな。でも、もう大丈夫だ。俺がいるから……」その言葉が、刃よりも鋭く胸を貫いた。この男は、覚えていない。私を殺した記憶を――リアは目を閉じた。見たくなかった。あの男の顔も、声も、聞きたくなかった。「俺は……なぜ君と一緒にいるのか、よくわからない。でも……顔を見た瞬間、守らなきゃって思った」静かに語るその声音が、酷く優しい。あまりにもまっすぐで、残酷なほどに無垢だった。私を殺したあんたが、そんな顔するなんて。リアの中に、記憶が蘇る。血の匂い。倒れた感覚。剣が胸を貫いた時の衝撃。そして、崩れ落ちる意識。「……本当に、何も覚えてないの?」絞るような声で問いかけると、カイルは眉をひそめて目を伏せた。「夢を見た気がするんだ。君が泣いてて……俺は、血まみれの剣を持って……でもぼやけてて、
Last Updated : 2025-07-27 Read more