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第39話

last update Huling Na-update: 2025-04-16 09:36:19
「テレビで Ign:s を見ない日はないよね。どれだけ多忙なんだろう」

テレビだけじゃない。SNSを初めとする動画にも引っ張りだこだ。それにコラボキャンペーンとかいって、企業とコラボなんぞしているのを今朝の電車広告で見た。

「クウちゃんが言うには〝レオは私たちと同い年〟なんだっけ?」

私なんて学校が終わったら疲れてもぬけの殻になっているのに、レオはこうやって朝から晩まで仕事をしているんだもんね。素直にスゴイや。

「 Ign:s の事は嫌いだけど、尊敬してる所はあるんだよね」

っていうか今日の私が疲れている理由って、皇羽さんの噓八百の設定のせいだよね?皇羽さん激似のレオを見ると、学校でのことを思い出してカチンとくる。

あらぬ設定のせいで学校で引っ張りだこになった私の苦労。皇羽さんが帰宅次第、たんまりと聞かせてやるんだから!

「お腹もすいたし、晩ご飯を食べながら見るとしますか。本当は消したいけど親友のクウちゃんのためだ、我慢して見るぞ……!」

簡単に即席ラーメンを作る。カップにお湯を注いで三分待つ間、テレビではおなじみトークショーが繰り広げられていた。メンバー皆がにこやかに受け答えしている。だけど、その中でもひときわ輝いているのがレオだ。思わず目を瞑りたくなりそうなほどキラキラした笑顔で、楽しそうに司会者と話している。

「今日は何を聞かれるんだろう」

呑気に考えていると、三分のタイマーが鳴る。リビングへ移動し、どんぶりの中で泳ぐ麺を箸で掴んだ。昨日は雑炊、今日はラーメン。ご飯作りは明日から頑張るつもり。するとタイムリーに、テレビの中でもご飯の話で盛り上がる。

『レオくんは昨日の夜、何を食べたの?』

『昨日は雑炊!めちゃくちゃ美味しかったです!』

ピタリ

掴み上げた麺が、重力に従いカップの中へ戻って行く。だって今、レオは何て言った?

「雑炊?」

そう言えば昨日、皇羽さんが食べた晩ご飯も雑炊だ。まさかねとか、偶然だよねとか。それらの言葉を強引に頭へ流し込む。そう。偶然に違いないんだ。

皇羽さん、私は信じていますからね。あなたががレオじゃないってことを。

「それに雑炊なんて家でよく作る料理じゃん」

箸から滑り落ちた麺を拾う。「フーフー」と息を吹きかけ湯気を飛ばした。その時、自分の中に湧いた「最悪の予想」も一緒に吹き飛ばす。私の体から、冷や汗なのかただの汗なのか分からない物が
またり鈴春

いつもお読みくださりありがとうございます! ここまでいかがだったでしょうか? ご感想やレビュー、お待ちしております(*'ω'*) これからも萌々と皇羽をよろしくお願いします~

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    Huling Na-update : 2025-04-22
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    Huling Na-update : 2025-04-23
  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第47話

    部屋に入ってビックリ。なんとココは一面ガラス張り!しかも部屋に入った途端、何の音もしなくなった。静かすぎて怖いくらいだ。「まるで防音室みたい」病院で聴力検査をした時、こういう部屋に通された。重たくて頑丈な扉、中に入った途端に包まれる静寂――この部屋と瓜二つだ。試しに音楽をかけてみようか?もしココが防音室なら、いくら爆音で曲を流しても外からは聞こえないはずだから。「ミュージックスタート……わ、うるさ!」スマホを最大音量にして曲を流す。爆音に耐えきれなくて、スマホを置いて部屋の外へ出た。するとやっぱり何も聞こえない。少しでも重たい扉を開けると、とんでもない音で曲が流れているというのに。ということは、やっぱりココは防音室なんだ。「そういえば皇羽さんが学校に休みの連絡をしてくれた時、全く声が聞こえなかったなぁ」 ――連絡しといたからな――早!皇羽さんと私の学校、二校へ電話をしたんですよね?話し声が全く聞こえませんでしたよ⁉――ちゃんとしたっての。それに、この部屋の中の音が聞こえるわけないだろ。この部屋は…… あの時ははぐらかされたけど、きっと「この部屋は防音だから中の声が聞こえるわけない」って言いたかったんだ。あの時の私は、皇羽さんがレオをしていると知らなかった。それなのに部屋が防音室だと知ったら、私が怪しむに決まっている。だから皇羽さんは内緒にしていたんだ。部屋に入らせないようにしていた。自分がレオをしていると、少しでも私に悟られないため。「この部屋は練習部屋ってことか」机上にはタブレットが一つ置いてある。パスコードは設定されていないらしく、手が当たっただけで画面が開いた。慌てて閉じようとすると、曲が流れ始める。歌いながら踊る Ign:s が、画面いっぱいに写った。「ずっと練習していたんだ。何も知らなかった」部屋が防音なのは歌の練習のため。一面鏡張りなのはダンスの練習のため。そこまでして玲央さんの代わりを務めているなんて……。皇羽さんが健気すぎて切ない。ここまでして相手に尽くす理由は、玲央さんが双子の兄弟だから?だけど、もし私に妹か姉がいたとして……ここまで身を粉にして動ける?うぅーん、自信が無いよ。「ん?机に紙が散らばっている。書かれているのは Ign:s が出演した番組名?箇条書きだ。うわ、長いレシートみたい。一体いくつあるんだ

    Huling Na-update : 2025-04-24

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  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第60話

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     ◇「いらっしゃいませ~」「今日も元気だねぇ萌々ちゃん! でも、ちょっと顔が赤くない? 大丈夫?」「あはは……! 大丈夫です!」 現在、バイト中。 皇羽さんがコンサートで家に帰らない間に私はバイトを見つけ、借金返済のためにせっせと働いている。ちなみに何のバイトかと言うと……「にしても、娘の作った服がこんなに似合うなんてねぇ。娘の趣味に付き合ってくれてありがとうねぇ、萌々ちゃん」「いえ! 私こそこんな可愛い服で働けるなんて嬉しいです!」 ここは小さな喫茶店『Lotory』(ロトリー)。店長は60代後半の優しい紳士な男性で、真島 正浩(まじま まさひろ)さん。娘さんは秋奈(あきな)さん。 秋奈さんは服を作るのが趣味だけど、その趣味を活かせる機会がなかったらしい。 その時に店が軌道に乗り、人手不足を解消するため私を雇ったのだけど「作った服を制服にしちゃえばいいんじゃない?」と秋奈さんが提案。 よって私は、毎日ちがう服を着てお仕事をしているというわけです。「秋奈さん天才ですよね。こんなにかわいい服が作れるなんて!」「モデルがいいんだよ。可愛い萌々ちゃんだから着こなせるんだろうね」「またまた〜。秋奈さんの腕がいいんですよ!」 秋奈さんが作る服のテイストは「不思議の国のアリス」のアリスが着ているような服に近い。女の子なら憧れちゃうような、可愛いがギュッと詰まった服。何枚もレースのヒラヒラが重ねてあって、バイト服とは思えない可愛さ! コスプレさせて貰ってる気分だよ。「今まで作り貯めてたからねぇ。今年一年、同じ服を着ないと思うよ」「い、一年!?」 つまり365着はあるって事!? どこに収納しているの⁉ っていうか、そんなに服を作るお金があるんだ!「どうりでお店もお家も広いと思った。真島家、お金持ち……!」 ほぅと感心する私に、店長は優しく笑ってくれた。「よかった、本当に元気そうだ」と安心した顔でお店の奥へ入っていく。「(もしかして店長……)」 私の顔が赤いから、体調が悪いのに無理して働いてないかと心配してくれたのかな? 優しい。店長、ありがとうございます! そして、すみません……!「顔が赤いのには理由があって……っ」 思い出すのは昨日のこと。 皇羽さんとバスルームで色々あった後。 あれから私たちがどうなったかというと――・

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     あの皇羽さんが素直に謝るなんて。まるで天然記念物を見たような衝撃が走る。「萌々を一人にさせた。悲しい思いをさせた。後は、コンサートのことも。全部悪いと思っている」「そんなにスラスラと謝られると、逆に〝悪い〟と思っているように聞こえません」「……」眉を下げて「手厳しいな……」と、困った顔をした皇羽さん。私を抱きしめたまま、はぁと短くため息をつく。「コンサートの後、ミヤビに怒られた。脱ぐのは〝ミヤビのキャラだから勝手にキャラブレするな〟って。確かに、今まで一度も脱いだことなかった。今日が初めてだった。萌々が見えたから、つい……」「私?」「そーだよ。まさか萌々がいるなんて思わないだろ。あれだけ Ign:s を嫌っているのにコンサートを見に来てくれてるなんて、夢にも思わないだろ。 だけど萌々がいた。俺を見てくれていた。手作りのうちわまで持って」「あ、あれは友達が!」 言い訳をする私を、皇羽さんは更に強く抱きしめた。そして「知ってるよ」と。本当に全ての事を知ってるような、落ち着ついた声のトーンで話す。「萌々がどういう経緯でコンサートに来てくれたか、何となく分かっている。まだ Ign:s を嫌っているのも分かるし、レオの代役を務めている俺を好きになるわけないって分かっている。 分かっている、つもりだけどな」 皇羽さんは私を引きはがす。切れ長の瞳を細め、眉を下げて笑った。「己惚れるつもりはない。だけど萌々が〝嫉妬した〟なんて言うから、俺は嫌でも期待してしまう。萌々は俺に気があるんじゃないか?ってな」「え……、あっ」 急いで自分の口に蓋をした私の手を、皇羽さんは上から握る。そしてちゅッと、控えめにキスを落とした。「今この場で、俺の事を〝嫌い〟って言え。じゃないと俺は、またお前に告白してしまう。飽きずに何度だって伝えるぞ。この口から〝好き〟って言葉を聞くまで、萌々を離さないからな」「!」 瞳を揺らす皇羽さんを見て、改めて自分が犯した過ちに気付く。 私を好きだと言ってくれた皇羽さんに、「嫉妬した」と言ってしまった。その言葉は、裏を返せば「好き」と言っているようなものだ。でも私は……皇羽さんの告白に応える気はない。まだ皇羽さんを〝恋愛対象として〟見られていない。 ファンに嫉妬したのも、連日一人だった寂しさから来る怒りからかもしれないし。再び一

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第56話

    「皇羽さん、シャワーがもったいないので早くバスタブを洗いたいのですが……」「……たのか?」「え?」 シャワー音で、皇羽さんの声がかき消される。何を言っているのか聞こえない。 皇羽さん、いつもの大きな声を出してよ。そして私を解放してください! 壁ドンされたままだと落ち着かないんです……っ。  だけど皇羽さんは私の願いとは裏腹に、シャワーのホースを指でつまんで意図的に回した。するとホース先のヘッドまで回ってしまい、今までバスタブめがけていたシャワーが私たちの頭上から降って来る。 これにより私と皇羽さんは、着衣のままお湯をかぶる羽目に。「わあ⁉ ちょっと皇羽さん何をしているんですか、服がビショビショじゃないですか! 退いてください、タオルをとりますからっ」 皇羽さんの両腕から強引に抜け出し、バスルームの端を通って出ようとした。だけど皇羽さんに手をつかまれ、されるがまま彼の腕の中へ戻る。 しかも、それだけじゃなく。 気づけば私は、後ろからギュッと皇羽さんに抱きしめられていた。絶妙な力加減により、私の力では振りほどけない。例えもがいても、力を入れて静止させられる。 キツく抱きしめられると、皇羽さんの体のラインをいやでも意識してしまう。ゴツゴツした筋肉が、私の体の至る所で当たっていた。しかも服までずぶ濡れだから、余計に……!「皇羽さん、せめてお湯を止めてください。もったいないです……っ」 どんどんと温かくなるバスルームにつられて、私の顔も赤みを増す。この〝のぼせていく感覚〟。まるで大きな湯船につかっているみたい。現実は、服ごとずぶ濡れなのに。 異様な空間が、私の意識を勝手に操作している。これでもかと皇羽さんを意識してしまう。「なあ萌々、聞いて良い?」「な、なんですか……?」 クルリと向きを変えられ、皇羽さんと向かい合う。 その時に見た皇羽さんは髪がシャワーで濡れていて、いつもと違う見た目になっていた。服を着たまま濡れているからか、お風呂あがりとも違う色っぽい顔だ。 水もしたたるいい男、なんていうけど。もともと爆発的にいい男が水(シャワー)に濡れたら、一体どうなるのか。その答えは、バスルームに設置されている鏡にあった。 鏡に写っているのは、真っ赤な顔をした私。今まで見たことないほどの赤みを帯びている。これが本当に私の顔? まるで全力で皇羽さ

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第55話

    ◇ ドサッ「あー疲れた……」 帰ってきて、一番にソファへ寝転ぶ。疲れない靴で行ったはずなのに、足がジンジンして痛い。それにむくみもすごくて、一回り厚みを増している。まるで私の足じゃないみたいだ。「コンサートって体力勝負なんだね……」 喋りながら、意識が遠のいていくのが分かる。どうやら疲れすぎたらしい。眠気を我慢できない。今にも目を瞑ってしまいそう。「皇羽さん、今日は帰ってくるよね……ふわぁぁ」 お昼から始まったコンサートは二時間ほどで終わり、もう夕方。いま寝たら夜に眠れなくなってしまうからダメなのに――そう思うも体がソファへ沈んでいく。夕寝待ったなしだ。 だけど目を閉じると、瞼の裏に今日の皇羽さんが浮かび上がる。 家にいる時は誰でもない、ただの皇羽さん。 だけど今日の皇羽さんは、皆の「レオ」だった。 皆から注目されて、熱い視線を向けられて……。「しっかりしてよ玲央さん。あなたが頑張ってくれないと、皇羽さんはずっと〝皆のレオ〟だよ……」 代打でもピンチヒッターでもなく、本物のレオになってしまう。そうしたら、もうこの家に帰って来ない気がする。そう思うと不安で仕方がない。……私だっていつまでこの家にいるか分からないくせに。 そのくせ自分がココにいる間は、皇羽さんにそばにいてほしいと思う。ワガママだなぁ私。ここまで〝こじらせちゃう〟なら、人のぬくもりなんて覚えなければ良かったのに。 でも覚えてしまった。皇羽さんと一緒に過ごす時間が、あまりにも心地よくて――「ふー……ダメだ。ちょっと落ち着こう。せっかくクウちゃんとコンサートに行ったんだし、変なことばかり考えて終わっちゃダメだよね。もったいないよ」 コンサートに行って、良かったことがある。 今まで皇羽さんと玲央さんの見分けがつかなかったけど、今日のコンサートで何となくレオの特徴を掴んだ。 いつもキラキラして王子様のような、玲央さんのレオ。 たまにダークな笑みや雰囲気を纏う、皇羽さんのレオ。 今日は圧倒的に、皇羽さんのレオが多かった。 玲央さんはダンスの激しくない曲に戻ってきて、一曲歌ってまた暫く引っ込むという行為を繰り返していた。そんな玲央さんに、私が不満を抱いたのはいうまでもなく……。「しんどくない時ばかりに出てくるんだから。全くもう。次に会ったらクレームをいれてや、る……ス

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第54話

    驚いたレオが瞳孔を開いた瞬間、中の人物がどちらか分かった。あの目つき、今のレオは皇羽さんだ。いつ入れ替わったのか分からないけど、あれは皇羽さんで間違いない。「萌々ー! レオがヤバい! 服を脱いでる! 一枚ずつ脱いでる!」「う、うん……」「暑いんだねぇ、それなら仕方ないねぇ!私がその服を受け止めますー!レオ、こっちに投げてー!!」「……」私のすぐ近くに、一週間ぶりの皇羽さんがいる。一緒に住んでいるのにろくに会えなくて、その会えなかった日数が不思議と寂しさを募らせて……。そう、私は寂しかったんだ。皇羽さんの姿が見えなくて声も聞けなくて、少しだけ凹んでいた。だからこそ今日は皇羽さんに会えるのを、ちょっとだけ楽しみにしていたのに。それなのに……「まだまだいくよ、ハニーたち!ついてきてるー⁉」「キャアあぁ!」「レオ―!」「投げてー!」「服でいいから抱きしめさせてー!!」「……っ」あの広い部屋で一人過ごした私のことなんて忘れてしまったように、目の前で皇羽さんは楽しそうに笑っている。歌って踊り、アイドルとしての自分を無遠慮に見せつけてくる。これでもかっていうほどに。彼の輝きは、暗い観客席にいる私とはすごく対照的だ。まるで光と影、決して交わらない二つ。そんなことを考えていると、今日埋まるはずだった胸の穴は、なぜか大きくなった。それがさっきから切なく軋んで……あぁ、なんでだろう。皇羽さんを、すごく遠くに感じるよ。「~っ!!」なんか、無理!限界を超えた私は静かに席を立ち、トイレへ直行した。会場ではいよいよ皇羽さんが服を投げたのか「キャアアア!」と大歓声が響いている。なんだ皇羽さんってば、ちゃんとレオをやれているんじゃん。そりゃそうか。家に帰るのは短時間、学校よりも練習が優先なんだから、ちゃんと出来て当然だ。そう思いつつ、洗濯カゴに積まれた大量の服を思い出す。汗をかいて何枚も着替えたんだろう。「これを本当に一日で着たの?三日じゃなくて?」って量だった。彼の努力は理解している。玲央さんの代役なのに、充分すぎるほど頑張っている。それなのに心の隅で黒い塊が出来て、意地悪なことを言っちゃうのは、きっと――「もうやだ、何も聞こえない……っ」 耳を塞いでトイレへ急ぐ。だけどいくらキツく耳を塞いだって、ファンたちの熱い声は簡単に私の手を突き抜け鼓

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第53話

    ファンの熱気にあてられてか、なんだか私もザワザワしちゃって落ち着かない。皇羽さんへ抱く気持ちがなんなのか分からない。それなのに皇羽さんと距離が遠のく度、言いようのない寂しさに襲われる。今だって今日会えるかどうかわからないのに、「皇羽さんに会いたい」と願ってしまっている。あぁダメだ。こんなの変だ……っ。だってさ。これじゃあ、まるでさ。私が皇羽さんのファンみたいじゃん。早く会いたい・声を聞きたいって思う、そういうキラキラした温かい気持ち。その気持ちが、いつの間にか私にもある。ここにいる Ign:s ファンの人達と、全く同じだ。「レオ、ううん。皇羽さん……」なんでだろう。早く、早くあなたに会いたいの――胸を高鳴らせているうちにオープニング、そして一曲目が終わっていく。歌い切った後、メンバーはマイクを持ってステージに並んだ。そして、「お待たせ、ハニーたち!!」レオが、その口を開いた。「きゃあああああ!」「レオー!!」「もっと呼んで―!!」割れんばかりに歓声!メンバーが一人ずつ挨拶する度に拍手喝采!会場の熱量が、秒ごとに温度を上げていく。一方の私はというと、メンバー全員の挨拶が終わって分かったことがある。それは、一番人気はやっぱりレオだということ。彼が口を開く度にファンは絶叫していた。すさまじい声量にレオは何度もマイクを離し、喋るタイミングを測っている。だけど……「ん?なんかレオが……」Ign:s のメンバーを見ていると、レオだけ肩で息をしているように見える。まるで疲れているような……。なんで?一番よく喋ってるから?それで呼吸が追い付かないとか?でもコンサート終盤ならまだしも、一曲目が終わったばかりだ。今から呼吸が乱れているようでは、二曲目から心配すぎるよ、レオ……。クウちゃんが「 Ign:s のコンサートは10曲くらいある」と言っていた。笑っているけど、レオは明らかに疲弊している。あと九曲もあるのに体力が持つの?きっと、今のレオは玲央さんだ。雰囲気が柔らかいもん。皇羽さんの家に来て、ダラダラと過ごした日を思い出す。「体調が悪い時や気分がノらない時に皇羽さんにピンチヒッターを頼む」って自分で言っていたし、あの日もきっと練習をサボっていたんだろうな。もう!仮病を使って家でのんびりしているから本番に弱いんだよ。真面目に練習して

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第52話

    こういうこと、皇羽さんに聞きたいよ。直接「どういう事ですか?」って聞いてみたい。私に対する皇羽さんの思いを聞いたら、ソワソワした私の心も少しは落ちつく気がするから。「だけど家にいないんだから、聞きようがないよね」気になった事を放置するのは性に合わないんだけどな――と。ここで何気なくテーブルに転がる物を見る。そういえば、この前からずっと転がっている。どこかで見たような。何だっけ?もしや皇羽さんの物?と、少しワクワクしながら手に取る。目に入ったのは「バイト」という文字。そこでスゴイ速さで記憶が戻って来た。「これ、私が貰って来たバイトの情報誌だ!」なにが「気になったことを放置するのは性に合わない」だ。思いっきり放置している物があるじゃん!クウちゃんにコンサートのチケット代を返さないといけないし、皇羽さんには言わずもがな色々買ってもらってるし、そして玲央さんにも!仮病でウチにいた日にお金を借りている!私、かなりの人に借金しているヤバい人だよ! 「バ、バイト!バイトしなきゃ!時給の高いバイト~!!」再びリビングに戻り、ペンを片手にハイスピードで情報誌をめくる。自分に合いそうな求人を見つけ、片っ端から丸をしていった。「スマホがあって良かった!スグに電話ができる!」皇羽さんのことで憂う余裕は一気になくなり、情報誌とスマホを行ったり来たりと大忙し。気になるバイトはいくつかあったけど、夜遅くまでの勤務だったり、保護者の同意が必要だったりと。様々なことが原因で自ずと絞られていった。「これが最後の一件だ!」意を決して電話をかける。そのお店の採用方法は「電話で軽い面接をする」だった。つまり電話が繋がった瞬間から選考が始まるってこと!ガチャと音がして、男の人の声がする。私は頭が真っ白になりながらも、一生懸命受け答えをした。すると……「明日から?本当ですか、ありがとうございますッ!」結果は、なんと採用!明日、一応履歴書を持ってお店へ行き、そのまま働くことになった。「何とかバイトを見つける事が出来たよ~……」良かった、まずは一安心だ!スマホをテーブルに置いて、ほぅ~と脱力する。あ、皇羽さんに「バイト決まりました」って報告した方がいいよね?皇羽さんが帰ってきた時に私が家にいなかったら、絶対に心配するし。「メールで言うのもいいけど、直接いいたいなぁ」バイ

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