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第98話

last update Last Updated: 2025-06-23 08:53:44

「萌々、お前。俺を――俺たち Ign:s を、追いかけてくれてんだな」

「う~っ。でも一生つかまえられませんよ。カッコよすぎですもん……っ」

「ぶは、なんだそれ」

 次から次に零れる萌々の涙を、丁寧にふき取っていく。チョコも何もかもが混じって、萌々の顔はぐちゃぐちゃだ。

 だけど、それがまた堪らなく愛おしくなってしまうのだから……俺も、このチョコみたいに溶かされているんだろうな。萌々を愛する熱量が多すぎるんだ。まさに溺愛。

 いつまでもしゃくりあげるものだから、「萌々」と名前を呼ぶ。少し赤くなった目が、いつもより更に潤みを増して俺を見つめた。

「俺が言った事を覚えてるか?」

「俺への当てつけでモデルになったのか、ですか?」

「……違う」

 ちゃっかり根に持ってやがる……。

「悪かったよ」と頭を撫でながら抱きしめる。

「お前の魅力はスゴイんだって、いつか言ったろ。俺が知らない短期間の内にモデルになれるほど、編集者の目にとまるほど。萌々は魅力で溢れてるんだよ」

 俺はスマホで検索して、とある物を見せる。

 それは――

「これ……私のこと?」

「そーだよ。夢乃萌の名前で検索かけると、皆の反応がこれほど返ってくるんだよ。すごいだろ?」

「……びっくり、しすぎてっ」

 本当にビックリしたらしい。涙がピタリと止まっている。萌々の目はキラキラと輝き、画面に釘付けだ。良かった、すごく嬉しそうだ。

 だけど……いつまでも画面を見て、俺のことを見やしない。主人にかまってもらえない犬みたいに、「時間切れ」と唇を奪う。ついでにほっぺたも伸ばしておいた。

「いひゃいれすよ、こうしゃん!」

「はは、すごい顔。でも……そんな顔が見れるのは、俺だけなんだぞ」

「皇羽さん……?」

 急に真顔になった俺を見て、萌々は固まる。

 同時に、顔を少しずつ赤く染めていった。

「いくら皆がお前の魅力に気づこうが、本当の萌々を知っているのは俺だけだ」

「そ、それは私だって同じです……っ」

「ふぅん? じゃあ俺の何を知ってるんだよ?」

「……独占欲が強い所」

「ふっ、あたり」

 その時、萌々は自分の手についたチョコの塊に気づいてティッシュでふき取ろうとする。だけど俺がその指を舐め取って、パクリと食べた。

 
またり鈴春

まだ続きます❀

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