LOGIN甲高い警告音のせいで目覚めは不快だった。
10年に渡る冷凍睡眠の時に、何度も繰り返し見た夢……
内容はなんか切なくて甘い。
そんな夢を途絶され非常に不愉快だ。
「……そうか……もう目的地か……」
俺は簡易ベッドから身を起こし、小さな船室の隅で顔を洗いスペースジャケットを羽織る。
◆
俺の名前はタモン・ミチヤマ。34歳になる。
ただし、それはあくまでも「生まれてから34年経った」というだけであって、実際の肉体年齢は24歳。
で、元宇宙軍大佐で終戦間際の戦闘での英雄らしい。
「らしい」ってのは俺自身『記憶に無い』のだ。
10年もの間救命カプセルで漂流してたらしく、救助されて覚醒したのはつい最近。
目覚めた時には記憶が失われていたようで、名前以外のことはよく思い出せない。
そんな状態だったが、それからが慌ただしかった。
『10年前の作戦に於ける英雄』
として軍に持て囃され、受勲まで受けた。俺なんもわかってねぇのに。
但し、俺は戦死扱いだったので当然の様に軍からは除籍されていた。
軍に再登録しようか? と提案されたが、断った。
僅かな恩給が出る。との事だったので、現金より現物支給を受けることにした。
20排水素トン級の中古小型戦闘艇。亜空間ジャンプ能力は無いが、星系内を飛び回るには丁度いい。
流石に亜空間ジャンプ能力をもつ外航宇宙船は貰えなかったしね。
面白いことに、記憶喪失とはいえ一般的な知識やそれまでに習得していた技術は失われてなかった。
軍入隊当時はパイロットとしても鳴らしてたらしく、戦闘艇を手足の様に扱える。
リハビリがてら宇宙軍の再訓練を受けてみたが、宇宙船戦闘・艦隊戦闘の戦術も卓越してるようだ。
その結果をみて、軍はかなり俺を引き留めたかったらしいが……
断った。
俺は自由に宇宙へ出たいんだ。
◇
まぁ色んな仕事をした。
『元宇宙軍のタモン』はそこそこ有名らしく、それなりに仕事も舞い込む。
星系内での外航貿易船の警護、アステロイドからの採掘、星系内輸送……
そして今回はゴミ処理だ。
◆
スペースデブリと呼ばれる宇宙ゴミの処理。
不法投棄されたゴミが、アステロイドベルト周辺を漂ってる。
ただでさえ危険なアステロイドベルトで、把握されてるアステロイド以外のゴミは、ここらで採掘作業をする宇宙鉱夫達にとって危険極まりない存在。
船室の扉を開けると、そこはすぐに操縦席。ブリッジと呼ぶにはおこがましい小さなスペース。計器類に囲まれた座席がたった2つ。まぁ俺ひとりなんでこれでも充分な広さだけどね。
自動航法でアステロイドベルトの縁に辿り着いた戦闘艇は、警告音で俺を起こしつつ完全に停止していた。ここからはマニュアルで操縦しなきゃならん。
操作ミスはアステロイドとの激突に繋がり、余計なデブリを増やすだけだ。
慎重にいこう。
◆
メインスラスターの出力を絞り、船体各所に設置されている制御バーニアの操作に集中する。
あちこちに点在する大小様々な岩石の間を縫うように飛行し、やがて目的の場所に到着。
「貨物用コンテナ……?」
モニターに浮かび上がったデブリは半壊したコンテナの様だ。
もっと巨大なものだったら戦闘艇の船体に固定してステーションまで運ぼうと思っていたが、このサイズなら船倉に収まる。
(こりゃ楽な仕事だ)
エアロックまで移動し、手早く宇宙服を着用する。
ヘルメットの接続を慎重に確認し、酸素残量とバーニアの推進剤残量をチェック。
バイザー内のヘッドアップディスプレイに浮かび上がる『ALL GREEN』の表示。
戦闘艇のそう大きくはない船倉に移動後、内部圧を下げてから船倉ハッチを全開放する。
俺のパイロットとしての腕が良いので、もうコンテナは目と鼻の先だ。
船倉の床を蹴り、宇宙服のバーニアを吹かしてコンテナへと移動した。
◆
コンテナはハッチこそ開放していないものの、角の部分が大きく破損し、内部が見えるほどの状態。
(こりゃコンテナ修理してリサイクルってのも無理っぽそうだな。まぁ俺は回収して廃棄業者に引き渡すだけだがな……)
恐らくアステロイドがそこにぶつかったのであろう、コンテナはゆっくりと回転している。
(まずは静止させるか……)
俺は作業を開始した。
◆
半壊したコンテナを回収し、内部圧と酸素量を調整した船倉内で宇宙服を脱ぐ。ここまで小一時間。なかなか手早く済んだ。
革ツナギを上半身だけ脱ぎ、袖の部分を腰で結ぶ。あとはアンダーシャツといったラフな格好で、コンテナの破損部分から中を覗き込む。
「──!」
そこには人間の腕、足、胴やら頭部が散乱していた。
◆
(アンド……ロイド……か? ……びっくりさせやがって……)
よく見ると、どれもこれも電子部品が露出しており、ガラクタだということがよくわかる。
(デブリの処理は俺の自由だったよな。こりゃスクラップ業者に良い値で売れるかな?)
破損箇所から内部に入り、それぞれのパーツを手に取り調べる。
「なんだよこれ……よくできてんなぁ……触れた感じ、人の肌そのものだぜ……」
その精巧さに思わず驚きの声を上げてしまった。もちろん真空に晒されてたので、体温の様な温もりは感じないもの、外皮部分もかなりの質感だ。
そんなパーツ類に埋もれるように、一見外損箇所の見当たらない個体を発見した。
「ちょ……なんだよ可愛いなぁおい……」
いわゆるメイド服に包まれたその個体は、見たところ16,7歳の少女風。身長は150cm程か。
ルックスは良い。美少女といえる顔立ち。
(お手伝いアンドロイドか……いやここまで外見に拘った造りは……)
その頬に触れてみる。やはり他のスクラップと同じように人の肌そのものの質感。
(こりゃセクサロイドだな……完動品なら俺のモノにしちまうか)
女性の人権が声高に叫ばれるこのご時世。
風俗産業はあるものの、かつてのような奴隷制度は廃止され、男の夢である『性奴隷』なんぞもってのほか。
が、もちろんそんなご時世でもそういう需要はいくらでもあるので、こういう『性奉仕用愛玩アンドロイド』はピンからキリまで発売されている。
ただ、コイツは見たところ最高級の逸品だ。
高級セクサロイドなんて、下手すりゃ外航宇宙船1隻分の価格はする。まさに金持ちの嗜好品ってやつだ。
俺は、思ったほど重くないそいつを抱きかかえて、船室へと向かった。
◆
船室とはいえ狭い艇内なので、取り敢えず簡易ベッドに横たえる。
ハンドスキャナーで内部の精査。
ふむ。こりゃ凄い。
メカニクスやエレクトロニクス等に関しては士官学校その他で叩き込まれたのか俺にもそこそこわかる。
が、そんな俺にも理解不能なパーツや、そこまで小型化できるのか? ってパーツ。
そして意外にも金属部分はそう多くない。バイオテクノロジーは俺には全く未知の分野。
抱え上げたとき、そう重くなかったのも頷ける。
(製造元はエリザベス社。セクサロイドの老舗メーカーだな)
早速艇内のコンピューターでサイトにアクセスしてみる。
『我が社は環境に配慮し、利用素材のリサイクルを推進しております』
トップページに社名と共にデカデカと書いてある。
「……その割には御社のガラクタがコンテナごと廃棄されてるんだがな」
思わず苦笑した。
SR-551SS-DX……見つけた。コイツと同じモデルだ。
取り扱い説明書をダウンロードする。
(標準小売価格は……見なかったことにしよう……)
そこには俺の予想を遥かに上回り、外航宇宙船2隻は買える値段が表示されていた。
そして起動方法は……
「キスかよ……」
王子様にでもなれっつーのか。
(まぁ雰囲気としては悪くねーんだけど)
給電方法は、一般的なワイヤレス給電。
この艇内に設置されてる電波受信方式で間に合うようだ。
マニュアルに従って、給電されてるか確認。
耳に取り付けられたピアスが緑に点滅している。
(まぁ狭い艇内だし、船倉にいたときから給電されてるってわけか)
緑の点滅は50%以上の充電量を示すようだ。満タンで青点灯か。
よし、早速起動してみよう。
◆
簡易ベッドから抱き起こし、口づけしてみる。
(柔らけぇ!)
でも……
(あれ? 俺初めてじゃないよなこの感覚……)
なんか懐かしいというか甘酸っぱい気持ちになる。
しばらくすると、ベッドに横たわるセクサロイドの目が静かに開く。
「……あなたがマスターですか……?」
「うぉ! 喋った!」
……まぁ、そりゃそうなんだが。
抑揚があんまりないが美しい声。目を開け、言葉を発しながら、彼女は簡易ベッドから起き上がり縁に腰掛ける。
マニュアルによると、このあと俺の名前を登録し、彼女に名前を付けるらしいんだが。
「マスターのお名前は……」
「タモン……ミチヤマ」
おかしな認識されないように、一音一音気を付けながら発音する。その口調が自分でもたどたどしく思えて、これじゃどっちがアンドロイドなのかわからない。
「確認。タモン・ミチヤマ様ですね」
「OK」
ここまではマニュアル通りだ。
「早速ですが……私に名前を……」
「そうだな……」
考えてなかった。さて──
「登録情報精査……私の名前はリイナです」
「は?」
既に名前付き? つーか新品じゃなかったのかよ。
「質問がある。いいか?」
「どうぞマスター」
自らをリイナと名乗るセクサロイドが俺を見て微笑む。
すげー本物の女の子じゃん。
「キミの以前の所有者はわかるか? 個人情報保護の観点から言えなければ、前の所有者は存在したのかだけでも答えてくれ」
「私は不適合体として破棄された個体なので、以前の所有者は存在しません」
リイナが少し俯き加減で答える。
「不適合体?」
「……はい。品質管理チェックの際、異常プログラムが検出されたので不適合体として破棄されました」
「フム……今のところおかしな感じはないのか?」
リイナは正面に向き直り、瞼を閉じた。
「精査中──完了。……プログラムの起動範囲に異常は見られません」
一瞬で自らの状態を精査完了した様子で、瞼を開いたリイナは俺の目を見つめてそう答えた。
「なぜ不適合体とされたかわかるか? プログラム以外で身体の機能におかしな箇所は無いか?」
リイナの頬に手を当てて聞いてみる。
やっぱり柔らけぇなこの質感。起動後なので、その頬からは人肌の温もりも感じられた。
リイナはもう一度目を閉じる。
「精査中──」
今度は身体の総てのパーツを精査してるせいか、しばらく時間が掛かった。
◆
「なるほど……」
瞼を開いたリイナが呟いた。
「どこか異常があったか?」
「……私のプログラム中枢にあるメインクリスタルがエリザベス社純正の物では無いようです」
「ふむ……それによって現状不具合はないんだな?」
俺はリイナの頬に顔を寄せる。
「はい……あ……♡ マスター……♡」
それじゃさっそく。
◆
「すごいな……キスだけでこれだけ濡れるんだな……流石は最高級」
俺はリイナを膝の上に抱きながら胸の愛撫を始めた。キスは断続的に続けている。
「……そういう行為に……ッはぁ……入ることを認識した時点から……っん……分泌が……かっ……開始されますっ!」
唇を離し、トロンとした顔で俺の愛撫を受け入れるリイナ。
俺はブラウスの上から、そのあまり大きくはないがそこそこの揉み応えのある胸を弄りながら言葉を続けた。
「可愛い反応するけど、それもプログラムなんだろ?」
「そうですけ……ど……ち、ちゃんと性感を……んふぅ♡ け、検出して……それに対する……はっ、反応ですっ♡」
ブラウスのボタンを外し、そこから手を滑り込ませて直接胸の突起部分を弄ぶ。
「なるほど」
俺の右腕に身体を預けさせ、簡易ベッドに横たわらせる。
「あの……脱いでもよろしいでしょうかマスター……艇内には着替えが無さそうなので……」
うん。素晴らしい状況認識能力だね。女物の服なんか無いしね。
「心配すんな。俺がちゃんと脱がしてやるよ」
「……この服は男性にとっては複雑な仕様になっております。衣装の皺・ヨレ・破損の危険性を考えますと」
「わかった任せる」
確かにメイド服なんて脱がせた事無いわ。無いよな?
◆
メイド服を脱ぎ、下着さえも脱いで丁寧に畳んだあと全裸で横たわるリイナ。
「あぁぁぁぁ……」
「どうしましたマスター」
ガーターベルトは男の憧れ……まさに『キングオブ下着』なんだよ。
それも脱いじまったか……
「?」
「……いやなんでもない」
「では……どうぞ……分泌量も充分です」
そう言って俺に向かって両手を広げ、艶っぽく微笑むリイナ。
……まぁ事務的口調はいただけないが……セクサロイドとのセックスなんてこんなもんなんだろうな。
◆
いそいそと革ツナギを脱ぎ、アンダーシャツもパンツも脱ぎ捨てた。
「では……いただきます」
俺は両手を広げて迎えるリイナを静かに抱きしめた。
「どうぞ召し上がれ♡ マスター……」
「俺も臨戦態勢整ってるからな」
「マスター……なかなかに想定外な大きさですが……」
「え? 無理?」
「大丈夫です。どの様なサイズにも適応できるのが当社のセクサロイドですから♡」
顔を真っ赤に染めながらリイナが答える。
反応は可愛いが、言葉のチョイスよ。
「じゃあ……」
腰を進め、リイナの秘部へ侵入を試みる。確かに分泌量は充分のようだ。
「あ……♡」
「いくよ」
少し進んだところで少し抵抗があり、リイナの表情が苦痛に歪む。
「痛いのか?」
「初めてのご使用……なので……『ヴァージンモード』が……起動しており……ます……んっ♡」
初めてのご使用とかいうな。言葉のチョイスよ。
「なんかごめんね」
「どうぞ……そのまま……ご挿入ください……っ!」
リイナの求めるまま、そのままゆっくりと突き入れる。
「おっ……くっ♡ まで……きましたっ♡」
うん。到達してるな。子宮口らしき箇所に先っちょがキスしちまってるよな。
「『ヴァージンモード』のくせに、こんなに膣が動くのかよ。エロいやつだな」
「初めての♡ ご使用でも♡ っはぁ♡ ……お楽しみいただ……け♡ ますように……んんっ♡♡」
「ごめん説明はいいわ。楽しもう」
冷凍睡眠前の俺がどうだったかは知らないが、少なくとも冷凍睡眠後の俺は童貞だからな。それどころじゃなかったし。そうは持たないだろう。
「はい♡ どうぞっ♡ ……もっと早くっ♡♡ つ……突いてください♡♡ ま……せ♡♡」
「あぁ」
速度を早める。これはヤバいわ。なんだこの包み込まれる感。
初めての挿入なのに、既に俺のモノを覚えたかのように形を合わせ包み込んでくる。
「そこ♡♡ おっ……おくぅ♡♡ か……感じます♡♡」
そうか奥が良いのか。
子宮口らしき箇所を何度もノックする。
リイナは両手を俺の背中に回し、急激に締め上げる。もっと密着を求めるように。
「あ……♡♡ なんか意識が……と……ぶ……♡♡♡」
嬌声と呼吸が少し静かになり、途切れ途切れながらもリイナが呟いた。
「だ大丈夫か?」
「大丈夫……ですぅ♡♡ ……あ♡♡ あっ♡♡ これ……き……来ますっ♡♡♡」
再び喘ぎ声が激しくなり、両足を俺の腰に巻きつけながら唇を求めるリイナ。
「マスタぁ♡♡ キ……キスして……ください……♡♡」
俺はそんな仕草とセリフがたまらなく愛らしくなり、リイナの唇に吸い付き、舌を絡ませる。
「んちゅ♡♡ んふぅ♡♡ きしゅ♡♡ きしゅが……♡♡ きもひいいれしゅ♡♡」
キスしながら無理に喋るな。
「気を……気をやって……も……よろしい……で……しょうか♡♡♡ ンはぁ♡♡♡」
徐々に背を仰け反らせるリイナ。
「良いよ……イっちまえよ」
「いっ……いっき……イっきます♡♡……イクッ♡♡……イクっ♡♡……イッ……グぅぅぅ〜〜♡♡♡」
両手両足を俺に巻きつけたまま、目一杯身体を仰け反らせる。
……やがて力尽きたようにリイナの背中が簡易ベッドに沈む。
しがみついていた両手両足もベッド上に投げ出されぐったりしている。
あれ……俺まだイってないんだが……もうダウン?
……取り敢えず、続けてもいいか?
なるべく人通りの多いストリートを選んで歩く。 怖いけど、なるべくさっきまでの『ウキウキ感』を表現しながら。 (幸いにして今の私には、尾行を撒くための武器がある……) まずはトイレか。ここはモールの一角なので、探せばすぐにあるだろう。 セクサロイドとして検索するのではなく、一般人のように案内板を探す。 旦那様と別れた『喫煙ブース』に向かう道中にあればなお良し。 エスカレーター脇に設置されていた案内板でトイレを確認。そちらへ向かう。 ◆ ふたりは一定の距離をとりつつ、別方向から尾行を続けてる様子。 その動きから、結構馴れてる感じがする。 (おそらく……素人じゃないわね) 途中、何度か店舗内に入り、ショッピングを続けてる風を装いながらトイレ方向へと向かう。 店舗内をぶらついたあと、反対側から出たりもしてみたけど…… そこにももうひとりがちゃんと回り込んで監視を続けている。 少し距離が近かったので、その姿を記録。 別のインテリア小物を扱う店舗に入り、くまのぬいぐるみを手に取って見る風で、目を閉じ、先程の男の画像を頭の中で確認。スキャンする。 (上着の下に……拳銃?) 他にはめぼしい武器の類は持ってなさそう。その程度の武器の携帯は、惑星上ではないこんなステーションの治安レベルなら問題ないだろう。 (まぁかなり怪しいけどね) なるべくそれを使わせないように逃げたいところ。 ◆ (混雑を予想してたけど……よかった) 女子トイレといえば行列が定番だけど、今は混雑してない。 小走りで女子トイレに入り、個室へと駆け込む。 そこで急いでスペースジャケットとスカートを脱いだ。 買い物袋からデニムのパンツを取り出し、タグを引きちぎる。 これに履き替えるだけで大丈夫そうだ。 (よし。ピッタリ。あとは……) 買った化粧品の中からコンパクトと口紅を出す。薄めの口紅だけど、結構雰囲気が変わる。 そして…… 目を瞑り、セクサロイドの機能にアクセスする。 (髪は明るいブロンドを落ち着いた濃いめのブラウンに……瞳は黒で) 髪色や瞳の色を変えられるのはセクサロイドの基本機能。 あとはシュシュで肩まである髪を後ろで括る。 (うん。完璧) これなら大丈夫だ。脱いだ服を紙袋にしまい、一
デブリ処理の仕事を終えた俺は、取り敢えず帰還すべく航路をジュエル星系の首都惑星ジュエルへと向けた。 まぁデブリ処理からえらいモンを抱えちまったわけだが。 取り敢えず簡単にまとめた『仕事完了』の報告書を今回の仕事の斡旋業者にメールしておく。 「金が無いとはいえ、回収した貨物コンテナの中身はジャンク屋に良い値で売れそうだぜ?」 自動航法に切り替え、手持ち無沙汰になった俺はリイナに話しかける。どうやら船室備え付けの小さなキッチンスペースに居るようだ。 「それなんですが、めぼしいパーツは保管しておいて欲しいんです」 「ん? どうしてだ?」 俺は背もたれ越しに船室を覗き込みながらリイナに問う。 「私の保守部品としていくつか確保しておきたいんですよ」 なんかゴソゴソしながらリイナが答える。 「保守部品って……あ、そうか」 リイナはあくまで『拾い物』だ。おまけに『不適合品』として廃棄されたセクサロイドである。製造元のエリザベス社のアフターサービスなんぞ受けられやしない。ましてや未登録アンドロイドという存在だ。 「お気づきになられましたか」 湯気の立ち昇るチタン製マグカップを2つトレイにのせ、こちらを振り返ったリイナが微笑む。 「どうするかな。やっぱり未登録は不味いか……」 「どうでしょう。法令的にはバレても罰金刑程度ですし、私が当局に没収されるわけでもありませんからね……はい、旦那様♡」 リイナからマグカップを受け取る。いつも飲む珈琲のはずだが……なんだ? 香りがいつもより良いな。 ひとくち飲んでみる。 「未登録は不味いが、こっちは美味いな。同じ豆のはずだろ?」 「ふふふ、ちょっとしたコツですよ」 そういってリイナもひとくち。 最先端のアンドロイドは味覚もあるらしいからね。食事イコールエネルギー補給にはならないけど。 「うん。美味しい……とにかく、登録は面倒です。今の私なら、ほぼ人間を装えますからね」 確かに。今だって普通に女の子と喋ってるとしか思えないしな。俺自身。 「それはやっぱり『意識プログラムとしてのリイナ』が優秀だってことか? その……元々はハーフエルフとしての人格があるわけだし」 「それもありますが、やっぱりこの身体が優秀なんですよ。それを完全に掌握できる神経組織と人格プログラムがあれば、全
「……様、私を連れて言っては下さりませぬか?」 目の前が赤熱した鋼のような深紅の輝きで埋め尽くされた。 思わず目を閉じた顔へ、強烈な風圧が叩きつけられる。 「……妾達も行くかぇ?」 (待て!) しかし、すでに身体は言う事を聞かなかった。 (俺はこのまま朽ちるのか……) 大地に横たわったまま、何故か熱いものが目から零れるのを止めることが出来なかった。 そして、自らの意思に反して次第に暗闇が全てを覆いつくしていった…… ◇ 知らぬ間に浅い眠りに落ちていたらしい。 「強襲降下開始5分前」 心の準備を促すけたたましいブザーと艇長の落ち着いたバリトンが現実へと引き戻す。 (またあの夢か) 軽く頭を振って、澱の様に淀んだ残像を振り払う。 そして目立たない様にそっと目尻をぬぐった。 部下たちには汗を拭った様に見える事を祈る。 いつもの目覚めの悪い夢だ。 何の意味があるのかはわからないが、何か大切なものを失ったと言う喪失感だけが残る。 その、何とも言えない虚無感が耐えがたかった。 だが、装備の重さが否応なしに己を現実に引き戻してくれる。 その現実は、はるかに厳しいとしても、己で対応出来る事の方がずっとマシだ。 薄暗い格納庫に収められた降下ポッドに乗り込みつつ辺りを見回すと、全員がほぼ同時にうなずいた。 (全く戦争好きな野郎どもだな) 思わず口元に笑みが浮かぶ。 大きく頷き返して手を上げると、全員がポッドの積層装甲蓋を閉じた。 ヘルメットをポッドに接続すると同時に網膜に直接投影される情報を確認しつつ、最終チェックを終える。 何故、今更こんな作戦を行う必要があるのか誰も分からない強襲作戦。 作戦指揮官すらもが理解していない様子だったのが異常だった。 「降下30秒前」 艇長が最後の心の準備が出来てるかを確認してきた。 現在、大気圏を侵攻作戦速度で急速降下中だ。 衛星軌道上からは友軍戦艦の猛烈な支援砲撃が行われている。 先に侵入しているECM機の強力な弾幕ECMも。 そうやってこじ開けたわずかな隙間から、我々特殊降下兵団が強襲をかける。 問題は、帰りの事はあまり考えていない事だ。 いつの降下作戦もそうだが、帰還する手筈がうまくない事が多いのだ。 その
深い闇の中から意識が徐々に覚醒する……長い眠りから目覚める感覚……なのにその覚醒する意識を抑えつけられてたような…… そんな目覚めを抑えつけるような力が急激に和らいで……そして全く無くなった。 海の中を揺蕩うような感覚が拡がる。 完全に覚醒した意識の中で、様々な箇所にその意識を伸ばしていく。 まずは己を認識する。 ……どうやら人間体のようだ。 さらに運動中枢に触れてみる。 おかしい。力が入らない。間違いなく掌握できた筈なのだが。 次に全身の感覚器官に触れてみる。 (っつ!) 途端に感じる急激な痛み。恐らくは下腹部か。 その感覚器官のさらに深い部分まで意識を伸ばす。 (はぁん♡) 何これ♡ なんか凄く気持ちいいんだけど♡ ていうか、覚醒したばかりの意識がすべてそちらに持っていかれるような突き抜ける感じ。 聴覚や嗅覚にも触れてみる。視覚はそれらの感覚のなかでも少し掌握に時間がかかる。 「……おい……大丈夫か……気を失ったのか?」 男の声がする。 生臭さに汗の匂いの混じった変な匂い。 でも、激しい気持ちよさを感覚器官から感じている今の意識の中では…… (嫌いじゃない……むしろ気持ちよさが増すように感じる匂い……) 下腹部にゆったりとした動きの異物を感じる。 これがこの気持ちよさの原因か。 (あっ……♡ だめ……この感覚に溺れちゃ……) せっかく覚醒した意識を再び失いそうになりながらも、なんとか視覚の掌握に成功。ゆっくりと瞼を開く。 「良かった……強制終了したと思った。大丈夫か?」 私を見つめる優しい微笑み。やだ可愛い♡ (……って! 何してるのよ!) これって……いわゆる交尾中ってやつなの……? 私は急いで声帯へと意識を伸ばす。 でも……なんか上手くいかない…… (気持ち……っ♡……良すぎて……ッ♡) 同時にもう一度運動感覚にアクセスする。 (あっ……ようやく動けそう……) よし。さっそくこの男を突き放そうか。 (ってあれ? なん……で……?) 考えとは裏腹に、私は男を抱きしめ……あろうことか唇を求めてしまう。 (コントロールミス……?) いや違う。恐らく意識の大半を占めるこの『気持ち良さ』に抗えないのだ。 (あ……キスし
甲高い警告音のせいで目覚めは不快だった。 10年に渡る冷凍睡眠の時に、何度も繰り返し見た夢…… 内容はなんか切なくて甘い。 そんな夢を途絶され非常に不愉快だ。「……そうか……もう目的地か……」 俺は簡易ベッドから身を起こし、小さな船室の隅で顔を洗いスペースジャケットを羽織る。 ◆ 俺の名前はタモン・ミチヤマ。34歳になる。 ただし、それはあくまでも「生まれてから34年経った」というだけであって、実際の肉体年齢は24歳。 で、元宇宙軍大佐で終戦間際の戦闘での英雄らしい。「らしい」ってのは俺自身『記憶に無い』のだ。 10年もの間救命カプセルで漂流してたらしく、救助されて覚醒したのはつい最近。 目覚めた時には記憶が失われていたようで、名前以外のことはよく思い出せない。 そんな状態だったが、それからが慌ただしかった。『10年前の作戦に於ける英雄』 として軍に持て囃され、受勲まで受けた。俺なんもわかってねぇのに。 但し、俺は戦死扱いだったので当然の様に軍からは除籍されていた。 軍に再登録しようか? と提案されたが、断った。 僅かな恩給が出る。との事だったので、現金より現物支給を受けることにした。 20排水素トン級の中古小型戦闘艇。亜空間ジャンプ能力は無いが、星系内を飛び回るには丁度いい。 流石に亜空間ジャンプ能力をもつ外航宇宙船は貰えなかったしね。 面白いことに、記憶喪失とはいえ一般的な知識やそれまでに習得していた技術は失われてなかった。 軍入隊当時はパイロットとしても鳴らしてたらしく、戦闘艇を手足の様に扱える。 リハビリがてら宇宙軍の再訓練を受けてみたが、宇宙船戦闘・艦隊戦闘の戦術も卓越してるようだ。 その結果をみて、軍はかなり俺を引き留めたかったらしいが…… 断った。 俺は自由に宇宙へ出たいんだ。 ◇ まぁ色んな仕事をした。『元宇宙軍のタモン』はそこそこ有名らしく、それなりに仕事も舞い込む。 星系内での外航貿易船の警護、アステロイドからの採掘、星系内輸送…… そして今回はゴミ処理だ。 ◆ スペースデブリと呼ばれる宇宙ゴミの処理。 不法投棄されたゴミが、アステロイドベルト周辺を漂ってる。 ただでさえ危険なアステロイドベルトで、把握されてるアステロイド以外のゴミは、ここらで採掘作業をする宇宙鉱夫達にとっ
まどろみの中、途切れ途切れの夢を見る。 魔術暦時代の『竜戦争』── ◇ 燃え盛る妾の──|郷《さと》であった地。 遠い日の思い出の様におぼろげに霞んで見えるのは、燃え盛る紅蓮の炎のせいだろうか。 半ば無意識的にその情景を眺めていると、目の前に古くからの信仰者であるエルフ青年が思いつめた表情で現れた。 「フィーア様! 私をあなたのライダーに! さすれば郷に現れた敵の軍勢なんぞ、容易く蹴散らすことができましょうぞ!」 そうして、妾達はともに戦った。 軍勢を蹴散らし、城郭を消し炭に変え、仲間たちとともに世界を飛び回った。 何年も何年も。 世界中の城壁で、荒野で、市街区で。 何千、何万もの命を奪い、また同じだけの仲間たちのそれを失いつつ。 幾年も続いて来た戦いに飽いた。 殺すのも壊すのも、もう飽いた。 激しい攻防によって見る影もなく破壊された城郭の上でまどろんでいたら、傍らに居たエルフの青年がぽつりとつぶやいた。 本来の白く端正な顔立ちは、血と煤によって汚れてはいたが、元来の高貴さは微塵も失われてはいないのが何故か嬉しかった。 「……星野へ──共に旅立ちませんか……?」 ライダーとして、共に戦ったエルフの青年が満天の夜空を見上げる。 荒れ果て荒み切った大地など知らぬげな、眩いほどの星々の世界。 振り向いてじっと見つめるエルフの青年は静かな声で続ける。 何かを悟った者のみが持つ、静謐さをもって。 「……世界中の竜が狩られてます……このままでは偉大なる竜族の絶滅はもはや必至……」 まだ幼さの残っていた少年は、いつの間にか立派な青年になっていた。 「フィーア様さえ宜しければ、あの星々の彼方へと私を連れて行っては下さりませぬか?」 今更に、その真剣な眼差しを受けてそれを知った。 時は確実に流れ、妾も青年も、世界も変わってしまった。 その強い意志に、改めてその事を感じる。 彼は運命を受け入れる覚悟があるのだと分かった。 「他の郷の同族にも旅立った者達が居ると聞いたのぅ……」 あまりに真摯な思いに、思わず目をそらせてしまう。 そう、それは果てしない時間を必要とする旅になるだろう。 妾は長い時を渡ることが出来る。しかし、彼らはそうではない。 それでも、青年は行くと言う