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第174話
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クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第176話
静雄は会食を終えた後、芽衣に電話をかけた。しかし、出たのはお医者さんで、慌てて病院へ駆けつけた。「芽衣、どうしたんだ？どうしてこんな姿に......」泥だらけで服も皺くちゃになった芽衣を見て、静雄は胸が締めつけられるように痛み、すぐに彼女の手を握りしめ、腫れた頬にそっと触れた。「教えてくれ。誰にやられたんだ？」芽衣はそんな彼の心配そうな表情を見て、ようやく心が安らぐのを感じた。このところ二人の間にはいろいろなことがあり、静雄の気持ちが以前ほど強くなくなったのではと芽衣は思っていた。けれど、今その瞳に宿る熱を見て、二人の間にはまだ情があるとほっと胸をなで下ろした。「大丈夫よ、静雄。何でもないの。ただ深雪さんが怒っていただけ。発散すれば、きっとまたちゃんと仕事をするわ。このプロジェクトがあなたにとってどれだけ大事か知ってる。私が少し殴られるくらい、どうってことないわ」そう言いながら芽衣の目からは涙が零れ落ちた。「深雪が...... 芽衣を殴っただと？」静雄は歯を食いしばった。最近の深雪の態度を思い返せば、確かに以前とはまるで違う。芽衣だけでなく、自分に対しても平気で手をあげ、容赦なく言葉を投げつけてくる。「違うの。私が不注意だったの。会社規定どおり、彼女にビジネスホテルを手配しただけよ」「でも彼女は贅沢に慣れてる人だから、あんなホテルを嫌がるのも当然......」芽衣はうつむき、自分を責めるような瞳を見せた。「結局は私が悪いの。不注意だった。ごめんなさい、静雄......」彼女の自責の言葉に、静雄の心は一層締めつけられ、たまらず抱き寄せて慰めた。「お前のせいじゃない。謝るな。安心しろ、必ずあの女に償わせる。必ずお前に謝罪させてやる！」「だめよ、静雄......深雪さんは、ただあなたを大事に思ってるだけ。悪いのは私......本当に私なの」芽衣は強く彼の腰にしがみついた。「私はひどい女だわ。こんなことするなんて残酷だってわかってる。それでも......私はあなたを愛してるの。もし離れるなんて考えたら、心が引き裂かれるように苦しくて......」その言葉は、静雄の心臓に突き刺さった。彼の目はますます優しくなり、痛切な愛おしさが募り、そのまま彼女を抱きしめてベッドに横たわった。「今夜は
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第175話
「私にこんな事してくるなんて！あなた頭がおかしいんじゃないの？」芽衣は目の前の深雪を信じられない思いで見つめた。かつて従順だった彼女の瞳は、今や鋭く恐ろしい光を放っていた。子どもを亡くした女は皆こうなってしまうのだろうか？「なぜ私が怖がる必要があるの？」深雪は冷たく言い放った。「芽衣、はっきり言っておくわ。このプロジェクトは松原商事にとっても静雄にとっても極めて重要なの。だからくだらない企みは今すぐ捨てなさい。さもないと身を滅ぼすことになるかどうか、私でもわからないわよ！」深雪は力強く彼女を振り払い、自分のスーツケースを奪い返すと、大股で外へ歩き出した。今の深雪の頭の中は、今回のプロジェクトを成功させることでいっぱいで、他のことなどどうでもよかった。芽衣はその背中を見つめ、複雑な表情を浮かべた後、ためらいながらも携帯を取り出し、黙ってメッセージを送った。ホテルに到着すると、深雪の表情は曇った。「ビジネスホテル？まさかあなたたちもここに泊まってるの？」「もちろん私たちは違うわ。でもあなたはルール通りでいいと言ったでしょう？」芽衣は皮肉げに笑った。「これはね、技術者にふさわしい待遇よ、深雪。静雄の妻という肩書を取ったあなたに、一体どれほどの価値が残っているの？」彼女の勝ち誇った態度に、深雪は思わず吹き出しそうになるほど滑稽さを感じた。黙ってスーツケースを持ち直すと、そのまま踵を返して立ち去ろうとした。「待ちなさい！どこへ行く気？」芽衣は慌てて追いかけ、深雪のスーツケースを掴んで睨みつけた。「せっかくここまで来たのに帰るつもり？まさか本当に、この案件があなたなしじゃ成り立たないとでも思ってるの？」「もし私が不要なら、今こうしてここに立ってはいないはずよ」深雪の声は冷ややかだった。「放しなさい！」深雪は、掴まれたスーツケースを睨みつけた。芽衣の顔はさらに険しくなり、瞳には激しい憎悪が浮かんだ。「深雪......いい加減にしなさい。私がどれだけあなたに譲歩してやってると思ってるの？」「消えなさい！」深雪は容赦なく、スーツケースを蹴り上げた。その衝撃でスーツケースは芽衣の体に激突し、彼女の体は吹き飛ばされて床に叩きつけられた。思わず手が離れ、スーツケースは解放された。「私に手
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第174話
そう言うと深雪はすぐに荷物をまとめて外へ出た。ふと思い出して、延浩に電話をかけた。「これから京市に出張なの。うちに行って猫にエサあげてくれる？」「え、俺？」延浩は電話を握りしめ、思わず緊張した。あの毛むくじゃらの小さな生き物を思い浮かべるだけで心がざわつく。「でも君の家には使用人がいるんじゃない？」「他の人に任せるのは心配なの。お願いできる？」家には中子がいるとはいえ、二十四時間ずっといるわけではない。もし食事の時間に外出していたら、猫はお腹を空かせてしまうかもしれない。だからこそ、延浩に頼むのが一番安心だった。延浩はその言葉を聞いて恐怖心を押し殺し、力強く答えた。「わかった。任せて。」その言葉に、深雪もようやく安心して、照れくさそうに笑いながら言った。「ありがとう、やっぱり君が一番！お土産買ってくるから、帰ってきたら渡すね！」そう言うと深雪は延浩に話す暇を与えず、さっさと電話を切った。そしてスーツケースを引いて空間に行き、夕方には京市に到着した。だが空港から出てきたとき、思わぬ人物が迎えに来ていた。それは芽衣だった。視線が交わった瞬間、二人の間に気まずい空気が流れた。とりわけ深雪にとっては理解しがたいことだった。静雄は一体何を考えているのか？なぜ愛人を寄越すのか？「やっと来たのね。今、静雄は向こうの社長と会食中だから、私がホテルまでご案内してもいい？」芽衣は作り笑いを浮かべ、いかにも冷淡に振る舞った。そんな彼女を見て、深雪はまったく遠慮せず、スーツケースを芽衣に押し付けた。「それじゃあお任せするわ。ちょっと急ぎで悪いけど、ホテルについたらすぐデータを確認したいの」自然に荷物を渡された芽衣は、悔しさで奥歯を噛み締めた。「深雪、本当にこの案件が自分なしじゃ成り立たないとでも思ってるの？言っておくけど、相手が評価しているのは松原商事であって、あなたじゃない！」「へえ？だったら静雄がすでに来ているのに、どうして通じないのかしら？」深雪は無邪気そうに目を丸くして問いかけた。その好奇の眼差しに、芽衣は胸の奥に血が逆流するような思いを覚えた。殴っても効かない綿を相手にしているような感覚だ。「あなた、まさかこんなことで静雄の気を引けると思ってるんじゃないでしょうね？無駄よ。彼はあなたを
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第173話
芽衣はまさか相手がこんなにもまっすぐな言い方するとは思ってもみなかった。思わず背後の静雄を見やり、彼の後ろへと下がって小声で言った。「ごめんなさい、そんなつもりじゃなかったの」しかし静雄はいつものように庇い立てはせず、健治に微笑みかけ、穏やかに口を開いた。「うちの技術者たちは今、昼夜を問わず作業に追われていて手が離せません。ただ、もし足立さんが本当に我々との協力を望んでくださるなら、すぐに電話で呼び出すことは可能です」「僕はこのプロジェクトを作り上げた人としか話しません」健治ははっきりと態度を示した。その様子を見て、静雄は悟った。この案件は深雪本人が来なければ進めるのは難しいだろう。これまでの商談で彼はこんな冷遇を受けたことがなかった。だが京市に来て初めて思い知った。松原商事の資金力はここで取るに足らない。それでも静雄は、この機会をどうしても掴まなければならなかった。すぐさまうなずいて言った。「わかりました。今ここで担当者に連絡します」そう言って携帯を取り出し、深雪に電話をかけた。しかし返ってくるのは「通話中」の音声案内ばかり。何度かけても同じで、オフィスには気まずい空気が漂った。芽衣は静雄の袖を引っ張り、小声で囁いた。「もしかして、彼女にブロックされたんじゃ......」「何だと？ブロック？」一介の技術者が、自分の社長をブロックするだと？傍らでそれを聞いていた健治は呆気にとられた。だが同時に、「面白い人材だ」と心の中で少し驚かされた。静雄はその言葉に顔色を変え、歯ぎしりしながら言った。「遥斗に電話しろ！」「はい！」芽衣はすぐに遥斗へ電話をかけた。やっと、繋がったところで静雄が乱暴に奪い取った。「深雪を出せ！」その頃、深雪は資料を確認していた。突然の大声に思わず肩を震わせ、手にしていたUSBを落としそうになった。眉をひそめながら近づき、困った顔の遥斗を見て微笑み、電話を受け取った。「もしもし、静雄です。誰の許可で俺をブロックしたのですか！」静雄は怒りに震え、声を荒げた。電話越しにも殺気が伝わってくるほどだった。深雪は無言で携帯を耳から少し離し、淡々と答えた。「あの、ご用件は？」「今すぐ全てのデータと資料を持って京市へ来い！」静雄は一方的に命令した。
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第172話
彼女はただ静雄の意志に合っていたからこそ、そばに置かれていただけで、その立場は常に不安定だった。「わかったわ、もう二度と勝手なことは言わない。静雄、怒らないで。私には私にはあなただけなの」芽衣は静雄の腕にすがりつき、涙をぽろぽろと落とし、その瞳はひたすらに縋りつくような色を宿していた。その姿に、静雄の心も少し揺らいだ。彼は優しく彼女の涙をぬぐい、その手を取って一緒に部屋を後にした。技術部へ戻ると遥斗が深雪にコーヒーを差し出し、小声で言った。「みんなわかってますよ。この生活は誰にも奪えませんよ、深雪さん！」「私たちが技術の道を選んだその日から、栄誉も歓声も最初から私たちのものじゃなかったのよ」深雪は静かに笑った。「学生時代、先生が言っていたのを覚えてる。技術者はあまり表に出るべきじゃない。裏方は裏方に徹するもの。無理に前に出れば、待っているのは奈落の底だって」遥斗は芽衣の挑発に対して、深雪がこれほど冷静でいられることに驚きを隠せなかった。彼は深く息をつき、疑わしげに深雪を見つめて小声で言った。「でも深雪さんはただの技術者じゃない。松原家の奥様でしょう？あんな愛人まがいの女が威張ってるのを黙って見ているんですか？」「じゃあ何？飛び出して行って、頬を二発ひっぱたいて、髪をつかんで放り出せばいい？」深雪は思わず吹き出した。「それじゃあ、あの女に見せ場を与えるだけじゃない。どうせ一生表に出ることのない愛人ごときに、わざわざ舞台を用意してやる必要がある？」その言葉に遥斗は目から鱗が落ちたように腑に落ち、晴れやかな顔で深雪に親指を立てた。「すごい！本当にすごい！分かりました！」「くだらないこと言わないで、仕事に戻りなさい！私たちはまだ第一段階を突破したにすぎない。この先はもっと厳しいのよ」深雪は大きく息を吸い込み、パソコンを開いて作業に戻った。彼女は画面を見つめながら、拳を握りしめた。心の中ではすでに静雄が上高月興業へ赴く光景を思い描いていた。残念ながら自分は同行できず、その場を目にすることはできない。翌朝。静雄は芽衣を伴って上高月興業へ向かった。二人は深夜の飛行機で京市に飛んできたため、疲労の色が濃かった。鏡の前で化粧を直しながら、芽衣は緊張した面持ちで静雄の手を握った。これが二人にとって初めての京
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第171話
静雄は芽衣の手を軽く叩き、穏やかにうなずいた。「技術部は今回よくやってくれた。今後もさらに努力して、絶対にお客様を失望させないようにしなければならない。上高月興業は今年度最大のプロジェクトだから、俺が直接交渉に行く。芽衣も一緒に来てもらう」静雄はもちろん芽衣の意図を理解していたので、彼女を同行させることにした。それまで和やかだった空気が一気に冷え込み、皆は信じられないというように静雄を見つめた。相手はこのソフトを作った人と会って、技術面をじっくり話し合いたいと伝えていたのに、行くのがまったく技術を理解していない二人だなんて？これでは本末転倒ではないか。一瞬で全員の視線が深雪へと向けられた。彼らの目には同情が浮かんでいた。明らかなことだ。芽衣の行為は勝利を横取りしようとしているにすぎなかった。深雪は周囲の視線を感じると、微笑んで淡々と言った。「おっしゃる通りだと思います。技術的なことは私たちが得意ですが、交渉となると私は不向きです。ですからお願いするしかありませんね」「では、みんな仕事に戻りましょう」深雪は手を叩き、皆を現実に引き戻すと、立ち上がって真っ先に外へ歩き出した。彼女は当然のように席を立てるが、残された社員たちは困惑していた。「社長、深雪さんはどういうつもりですか？あなたがまだ解散を告げてもいないのに先に出て行くなんて。まさか社長の業務方針に不満でも？」「不満があるなら、直接言うべきです。黙って席を立つなんて、意図的に分裂を招き、派閥を作ろうとしているのでは？」芽衣は立ち上がり、正義感ぶった口調で深雪を非難した。遥斗はその言葉に思わず激昂しかけた。自分の給料が松原商事に結びついていなければ、手にしたカップを彼女の顔へと投げつけていたことだろう。図々しい人間は見たことがあるが、これほどまでに厚顔無恥な人間は初めてだ。表に出せない関係の第三者が、ここで堂々と口を挟むなどあり得ない。「もういい、皆仕事に戻れ！」静雄は表情を引き締め、手を振って社員たちを解散させた。その様子を見て、芽衣は不吉な予感を覚え、小声で言った。「ごめんなさい、私は別に深雪さんを狙ったわけじゃなくて、ただ......」「今は会社が転換期にある大事な時期だ。彼女が必要なんだ。わかるか？」静雄は芽衣を厳しい
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