罪状『無知』

罪状『無知』

last updateLast Updated : 2025-12-22
By:  東雲桃矢Completed
Language: Japanese
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主人公の優子は、母の水樹が大好きな女の子。父の不倫相手である聖愛が現れてから、水樹への愛が憎悪へと変わっていく……。 いつしか、水樹が出ていって、聖愛が自分の母親になればいいのにと望むようになる。 そんな優子に、聖愛は囁く。天使のような優しい声で、悪魔のような提案を……。

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Chapter 1

大好きなママ

"Ms. Lewis, your follow-up results are in. It’s stage 2 stomach cancer. Are you sure you don’t want to inform your family?"

"No need."

As she stepped out of the hospital, a wave of hot wind swept over her.

Autumn slipped the report into her bag, her face a little pale.

In the third year of her marriage to Julian Carter, he had an affair, and she got cancer.

What a lousy script she ended up with.

But Autumn was afraid of dying, especially after getting cancer from being so angry at a man who couldn't keep it in his pants.

At this moment, she figured it out.

If she couldn’t hold the sand, then she would let it scatter.

After making all the arrangements, Autumn drove to the office.

She arrived at her desk, picked up a stack of documents, and headed to the office on the 17th floor.

She knocked on the office door.

"Come in."

Autumn pushed the door open and walked in.

"What is it?"

The man looked up, his eyes settling heavily on her.

Julian had a handsome face, sharp features, and years of experience in the business world.

He’d long shed the immaturity of youth and carried the steady composure and authority of a man in power.

Autumn handed over a stack of papers, her voice gentle.

"This is from the check-up last week. The hospital sent it over. It needs your signature."

She placed the report in front of Julian and thoughtfully clicked open the pen, placing it in his hand.

Julian rubbed the center of his forehead tiredly, didn’t even glance at it, and signed.

"Don’t bother me with trivial things like this in the future."

"Alright."

Autumn complied and tucked the papers away.

The moment she turned, she caught sight of a sliver of white fabric sticking out from under the large office desk.

She recognized that skirt—it belonged to her stepsister, Luna Lewis.

Autumn lowered her gaze, masking the mockery in her eyes, and strode away.

A few seconds later, a faint click echoed behind her as the door was locked.

They were that eager, huh?

Autumn’s heart plummeted like a stone into a deep lake, swallowed whole by the cold weight of it, leaving her chest tight with a breathless, suffocating pressure.

She looked down and pulled out the last two sheets from the stack in her hands.

If Julian had just looked a little closer, he would’ve seen not only her follow-up diagnosis confirming stage 2 stomach cancer, but also the final page—a divorce agreement.

Autumn met Julian when she was five.

That same year, her father had an affair, and her mother filed for divorce.

Her two older brothers were given to her father, and she was placed in her mother’s custody.

After the divorce, the mistress brought her illegitimate daughter, Luna, into the family.

Autumn and her mother moved to a new neighborhood, where she met Julian, who lived next door.

They had grown up together.

Julian once broke three ribs fighting for her.

Whenever she had a fever or caught a cold, he’d worry sick over her.

His social media was filled with nothing but pictures of her.

He had once promised to love her for a lifetime, and yet he was the first to break that vow.
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大好きなママ
「ママ、これあげるー!」 5歳の少女が、野花で作った花束を、母親に手渡す。 「ありがとう。帰ったら飾ろうか」 「うん!」 この無邪気な少女の名は月野優子。様々な事業を成功させている月野グループのひとり娘である。世界一大好きなのは、母親の水樹と林檎。特に水樹が作るうさぎの林檎が好きだ。 「ママ、お腹空いた」 「帰ったらうさぎさん林檎作るね」 「わぁい、うさぎさん!」 親子は公園から帰ると、手洗いうがいを済ませ、優子は子供部屋に、水樹はキッチンに行った。 ぬいぐるみとおままごとをしていると、林檎がむけたと声がかかる。 食卓に行くと、先程プレゼントした花束がピンク色の可愛らしい花瓶に挿してあった。 「わぁ、もう飾ってくれたの?」 「だって、優子からの大事なプレゼントだもの」 水樹は優しく微笑みながら、うさぎにカットした林檎とオレンジジュースを優子の前に並べる。 「わぁ、うさぎさん! いただきまーす」 小さな口に頬張ると、シャキッとした歯ごたえで、優しい甘みと酸味が口いっぱいに広がる。「美味しい!」「今回は当たりの林檎ね。蜜もあるから美味しいでしょ」「うん! ねぇ、明日はパパ、帰ってくるかな?」 優子はカレンダーに視線を移す。水樹もカレンダーを見た。明日はハートマークで囲ってある。優子の誕生日だ。「帰ってくるって言ってたけど、パパ、忙しいから……」 水樹はぎこちない笑顔を浮かべる。「約束したのに……。パパは嘘つきなの?」「優子、パパは嘘つきなんかじゃないの。約束を守ろうと、頑張ってるけど、お仕事が大変なの。パパがお仕事をしないと、会社の人は困るし、ママも優子も、ご飯食べられなくなっちゃうの。だから、パパを悪い人だと思わないでね」「やだやだ! パパと約束したもん! 約束守らない人は、悪い人なんだよ!」「……うん、そうだね……。パパに電話しとくからね」「絶対だよ?」「うん、約束」 水樹は小指を差し出す。優子は自分の小さな小指を、水樹の小指に絡めた。「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーますっ! 指切った!」 優子は指切りが好きだった。ちゃんと約束したという安心感が得られるから。もっとも、まだ5歳の優子の感覚としては、『なんか好き』止まりではあるが。「じゃあ、パパにもしもししてくるね」 水樹
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大好きなママ2
「おめでとう、優子ちゃん」 「もう6歳かぁ、はやいね」 「これ、私達からのプレゼント」 3人の使用人は、優子が持つには難しい、大きな箱を物陰から引っ張り出した。 「わぁ、おっきい! 開けていい?」 「もちろんよ」 優子は使用人に手伝ってもらいながら、大きな箱を開けた。中には可愛らしい服や手提げ袋などがたくさん入っていた。 「どれも可愛い!」 「優子ちゃんは来年小学生でしょ? 少し早いけど、小学校で手提げ袋使ってね」 「優子ちゃんに似合う生地がたくさんあったから、お洋服たくさん作っちゃったの」 「これ皆の手作りなの?」 優子のキラキラした目に、3人の使用人は嬉しそうに微笑む。 「そうよ、優子ちゃんのために3人で作ったの」 「ありがとう! 大事にするね」 花柄でフリルがついたワンピースを抱きしめる優子を見て、水樹も使用人達も、幸せな気持ちになる。 「優子、お腹空いたでしょ? ご飯食べよう」 「うん!」 水樹は優子の手を引いて食堂に行く。テーブルの上には、ハンバーグや小エビのサラダ。ポタージュなど、優子の好物ばかりが並んでいる。 「すごいごちそうだぁ!」 「ふふ、待っててね」 優子の髪を撫でると、水樹は台所に行く。 「ママ、何しに行ったの? はやくごちそう食べたいよ」 「奥様はすぐに戻るから、いい子にね」 使用人になだめられながら、足をパタパタさせて水樹を待つ。 「お待たせ。優子、誕生日おめでとう」 水樹はうさぎの形をしたホールケーキを、優子の前に置いた。優子は嬉しさのあまり、大声ではしゃぐ。 「きゃああぁっ! うさちゃんのケーキ! すごいすごい!」 「ふふ、食べよう」 「うん!」 「お姫様、私達も一緒にいい?」 使用人のひとりが、おもちゃのティアラを優子の頭に乗せながら聞く。 「うん、一緒に食べよう」 「ありがとうね」 優子、水樹、3人の使用人達は同じテーブルを囲み、食事を楽しんだ。本来なら使用人と共に食事をすることなどないのだが、せっかくの誕生日会でふたりだけというのも味気ないと思い、水樹が使用人達に頼み込んだのだ。 「みんなで食べると美味しいね」 「そうね。どんどん食べて大きくなるんだよ」 使用人達を同席させたのは正解だと思いながら、水樹はケーキを切り
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パパと
「ねぇ、どこ行くの?」 使用人が贈ってくれたワンピースに着替えた優子は、助手席でキラキラした目を水樹に向ける。 「ついてからのお楽しみだよ」 水樹は優子の頭を撫でると、車を走らせた。 30分のドライブを経てついたのは、優子が行きたがっていた、うさぎモチーフの遊園地だった。 「わぁ! ラビリィランドだぁ! ママ、早く行こう」 「走ると危ないよ」 ふたりは手を繋ぎ、遊園地に入場する。入場してすぐに視界に入ったのは、アトラクションでも、風船でもなく、父の月野恭介だった。 「優子、誕生日おめでとう」 高級なスーツに身を包んだ美丈夫で、モデルと言ったら誰もが信じるほどの男は、優子に優しい笑みを向ける。 「パパー!」 恭介は駆け寄る優子を抱き上げ、くるくる回る。 「パパ来てくれー!」 「ごめんな、いつも家にいなくて。ママの言うこと、ちゃんと聞いてたか?」 「うん、聞いてたよ」 「おりこうさんだな。今日は好きなものなんでも買ってあげる。それがパパからのプレゼントだ」 「本当!? パパ大好き!」「パパも優子のこと、大好きだぞ」 優子を頬ずりする恭介を、水樹は少し離れたところで微笑ましく見守る。「ママもおいで」 恭介は優子をおろして手招きをすると、水樹に箱を開けて差し出した。中にはピンクダイヤモンドのネックレスと、イヤリングが入っている。「綺麗……!」「いつも優子と家のこと、任せっぱなしでごめん。これはお詫びと感謝のプレゼント」「ありがとう、あなた……」 水樹は目を潤ませ、箱を受け取ると、仕舞おうとする。「せっかくだから、つけさせてくれよ」 恭介は箱を開けさせると、ネックレスとイヤリングを水樹につけた。「よく似合ってる」「ありがとう……」「ママ綺麗。いいなー、ゆうも欲しい」「優子にはまだ早いかな。大きくなったら、パパがプレゼントしてあげるよ」「わぁい!」「さ、遊び倒すぞ」 恭介は優子を抱き上げ、 水樹の手を引いた。 この日、優子にとって最高の誕生日となった。恭介は約束どおり、優子が欲しがっていたものをすべて買ってくれたし、誕生日シールを服に貼っていたから、キャスト達にもお祝いしてもらえた。 身長の問題で乗れないアトラクションもあったが、1番乗りたかったアトラクションには乗れたし、マスコットキャラクタ
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自慢のママ
優子が小学1年生になると、新しい友達もできて、世界がガラッと変わった。机が並んだ教室も、本がたくさんある図書室も、色んな楽器がある音楽室も、すべてが新鮮だった。 嫌がっている子も何人かいたが、優子は勉強が好きになった。ひとつ知るたびに、お姉さんになっていく気がして、それが心地よかった。 5月中旬。学校生活に慣れてきた頃、授業参観がある。優子は授業参観が楽しみで仕方ない。大好きなママが、大好きな学校に来てくれるのだ。これを楽しみにしないで、何を楽しみにするというのか。 授業参観で親に見てもらうのは、国語の授業。家族についての作文を発表することになっている。 優子は一生懸命作文を書いた。主に大好きなママのことを。パパも好きではあるが、あまり家におらず、思い出が少ないため、書きようがなかった。 授業参観当日。後ろには張り切っておしゃれをした皆のママがいる。ピンクやクリーム色のワンピースに身を包む保護者の中でも、水樹は色んな意味で目立った。落ち着きのあるネイビーを基調としたコーディネートは、可愛らしい色が多い中で目を引く。気品溢れる控えめな美貌も、丁寧な所作も、他の保護者が持ち合わせていないものだ。 「優子ちゃんのママ、優しそうだね」 友達にそう言われ、誇らしい気持ちになる。 授業が始まると、席の順に作文を読んでいく。いよいよ優子の番になり、立ち上がる。 「私のお母さん。月野優子。私のお母さんは、世界一のお母さんです。優しくて、可愛くて、お料理も美味しいです。林檎もうさぎさんにしてくれます。お父さんはお仕事であんまりいないけど、いつもママがいるから、寂しくありません。でも、お父さんは誕生日とかに帰ってきて、たくさん遊んでくれるので、お父さんも大好きです。けど、やっぱりお母さんが1番大好きです」 作文を読み終わり、振り返ると、水樹は嬉しそうに笑っていた。目が合うと手を振ってくれる。優子は手を振り返し、席に座った。 「素敵な作文でしたね。次は遠野友樹くん」 先生に呼ばれた生徒は立ち上がり、作文を読む。全員が読み終えると、あらかじめ作っておいたリボン付きの封筒に作文を入れ、水樹に手渡した。「ママ、いつもありがとう。大好き」「ありがとう、優子。私も優子が大好きだよ」 軽く抱き合ってから、席に戻ると先生が口を開く。「皆、作文に書いた
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パパのお友達
優子が小学2年生になった頃、父の恭介はほとんど家に帰らなくなっていた。以前は週に1回か2回は帰っていたのに、最近は半月に1回、帰るかどうかだ。 最初は「ママがいるから寂しくない」と強がっていた優子だが、寂しくてしかたない。 ある学校帰り、懐かしい笑い声と、鈴が転がるような可愛らしい笑い声が聞こえてきた。「パパ……?」 声がする方を見ると、恭介が知らない女性とベンチに座り、笑い合っている。久方ぶりに見る父の笑顔は、優子や水樹に向けられるものとはどこか違って見える。「パパ!」 駆け寄ると恭介は目を丸くし、困ったように笑う。が、すぐに父親の顔になり、優子に膝に乗るようジェスチャーをした。優子はランドセルをおろして恭介の隣に置くと、彼の膝の上に座る。半月ぶりに座る父の膝の上はあたたかく、安心感がじんわりこみ上げてきた。「優子、会えて嬉しいよ。学校帰り?」「うん、そうだよ。パパ、この人は?」 恭介と笑い合っていた女性を見上げる。クリーム色のジャケットに、黒のインナーを着て、谷間が見えて色っぽい。メイクも髪型も華やかで、最低限のメイクに寒色系の服ばかり着ている水樹とは正反対だ。「この人は聖愛《まりあ》っていって、パパのお仕事を手伝ってくれるお友達なんだよ」「初めまして、優子ちゃん。聖愛です」 聖愛は柔らかな笑みを浮かべ、軽くお辞儀をする。彼女の華やかな美しさや、優しい雰囲気を、優子はすっかり気に入ってしまった。何より、マリアという異国めいた響きの名前に憧れを抱いた。「聖愛ってお名前、可愛いね」「ありがとう、私もこの名前、気に入ってるの」「聖愛さんって呼んであげて。大事なお友達だからね」 恭介は”お友達”という言葉を強調しながら言う。「聖愛さんは、ママともお友達なの?」「聖愛とママは、お友達じゃないよ」 恭介は聖愛の代わりに答え、優子を抱きしめる腕に、軽く力を込めた。「なんで?」「優子には、学校で1番の友達がいるだろ? 確か、春香ちゃんだっけ?」「うん、春香ちゃんとお友達だよ。今日も一緒に遊んだの」「春香ちゃんが、他のお友達と遊んでて、優子と遊ばなかったらいやだろ?」 親友の春香が別の友達と遊び、優子を仲間に入れないことを想像するだけで、胸が締め付けられた。「うん、嫌」「ママに嫌な気持ちになってほしくないから、聖愛のことは教
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パパのお友達2
近くのアイスクリームショップに行くと、聖愛がアイスを買ってくれた。恭介がお金を出そうとしていたが、約束をしたのは自分だからと、3人のアイスを購入していた。 「ありがとう、聖愛さん」 優子は二段アイスを両手で持ち、ご満悦だ。 「二段アイスなんて初めて。ママ、滅多にアイス買ってくれないし、二段アイスはお腹壊しちゃうからだめって言って、買ってくれないの」 「ええー、そうなの? 優子ちゃんのママは意地悪なんだね。パパから聞いてるから知ってるんだけど、優子ちゃんはいつも勉強頑張ってるんでしょ? それなら、二段アイスくらい買ってあげないと」 不満を肯定してくれる聖愛に、優子の中で好感度が上がる。子供は単純なところがある。欲しい物と言葉を与えてくれる大人を自分の味方だと思い込み、好きになる。 「そうだよね、やっぱりママ、意地悪なんだ」 「こらこら、ママを悪く言うんじゃない。ママだって、お前のために言ってるんだからな。けど、少し厳しいかもしれないな。パパからも、ママに言っておくよ」 「じゃあ、今日はおうちに帰るの?」 恭介は一瞬目を丸くし、曖昧な笑みを浮かべた。 「そうしたいのは山々だけど、仕事がな……」 「残りは雑務ですし、大丈夫ですよ」 「そうか? それなら、今日はこのまま帰ろうか」 「パパ大好き! 聖愛さんも、ありがとう」 「いいのよ。私ばかりパパを独り占めするのは、良くないもんね」 聖愛は優しく優子の頭を撫で、微笑みかける。 優子は思う。水樹が聖愛と仲良くして、一緒にいられたらさぞかし楽しいだろうと。それだけ優子の中で、聖愛は好印象だった。 アイスを食べ終えると聖愛と別れ、恭介は優子の手を引き、帰路を辿らず、おもちゃ屋へ向かった。 「優子、いつも一緒にいてあげられないから、お詫びになにかひとつ、好きなものを買ってあげる」 「いいの?」 「いいよ。そのかわり、聖愛のことは誰にも言わないこと。ママが知ったら、嫌な気持ちになるから。いいね?」 「はーい」 優子はおもちゃ屋の中を恭介と見回る。お試し用のおもちゃで遊んだりしたあと、おしゃべり機能があるうさぎのぬいぐるみを買ってもらった。 それからコンビニでお菓子をいくつか買ってもらい、ようやく家に帰った。 「ただいまー!」 「優子! どこ行って
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家族3人
その晩、久方ぶりに3人で食卓を囲んだ。いつもなら手放しで喜ぶところだが、夕方の件が気がかりで、優子の表情はくらいまま。 「優子、どうしたの? もしかして、さっきママが怒ったこと、気にしてる?」 「うん……」 「ちょっと怒り過ぎちゃったかな、ごめんね。でも、優子が大事だから、いつもの時間に帰ってこなくて、心配したの。学校に電話しても、いつものように下校したって言うし……。悪い人に連れてかれちゃったのかな、車にぶつかっちゃったのかなって、心配だったの。分かってくれる?」 水樹の話を聞いて、ようやく罪悪感がこみ上げてきた。 「心配かけて、ごめんなさい」 「分かればいいの。さ、食べよう」 「うん」 いつもの優しいママに戻った水樹を見て安堵した優子は、学校であった出来事を話しながら、食事を楽しんだ。 本当は聖愛の話をしたかったけど、約束をしていたから話さなかった。 数日後の休日。優子はおつかいに行く途中、聖愛と偶然会った。気づいたのは聖愛の方で、彼女から声をかけてきてくれた。 「優子ちゃん?」 「あ、聖愛さん!」 駆け寄ると、聖愛は優子の頭を撫でてくれる。 「パパから聞いたよ? 怒られちゃったんだって?」 聖愛の問に、優子は数日前、水樹に怒られたことを思い出し、胸に重たいものがのしかかる。 「うん、そうなの……。でも、ゆうがママに心配かけちゃったから……」 「確かに心配かけちゃったのは良くないけど、そんなに怒ることないのにね。優子ちゃんはしっかり者なんだから、変な人について行ったりしないでしょ?」 「うん。おうちでも学校でも、ついて行っちゃダメって言われてるし」 「でしょ? パパから話聞いてて、2回しか会ったことがない私でも、優子ちゃんがそんな子じゃないって分かるのに、1番一緒にいるママが分からないなんて、おかしいと思わない?」 「うん、思う。なんでかな……」 「ママは、きっと優子ちゃんを信じ切ってないんだよ」 「え……?」 聖愛の言葉にショックを受ける。あんなに大好きなママに信じられていないなんて、悲しすぎる。 「というか、優子ちゃんがお姉ちゃんになってきてるって、気づいてないんだよ。きっと優子ちゃんのママは、優子ちゃんはまだ赤ちゃんくらい危なっかしいって思ってるの」 「
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聖母マリア
ある学校帰り、初老の上品な女性が、子供達に冊子を配っていた。 (なんだろう?) 優子が女性の下へ行くと、女性は嬉しそうに笑いかけ、冊子を優子にも差し出した。 「イエス様について書いてある、素敵なご本なの。お嬢ちゃんにも分かりやすいように書いてあるから、読んでみてね」 「ありがとう」 冊子を受け取った優子は、まっすぐ帰宅して自室に閉じこもる。ここ最近、水樹とはあまり顔を合わせないようにしている。おやつや食事は一緒だが、それ以外はあまり関わりたくなかった。 冊子を開くとイエス・キリストについて描かれた絵本だった。優子の目を引いたのは、イエス・キリストではなく……。 「マリア……。聖愛さんと同じ名前だ」 聖母と同じ名前の聖愛が母親になれば、どれほど日々が充実するだろう……。 聖愛なら、寄り道をしてもうるさく言わないはずだ。何か頑張れば、ご褒美だってくれる。水樹よりも甘やかしてくれるし、恭介も、今よりもっと帰ってくるようになるはずだ。 そこまで考えて、思考を追い出すように頭を振る。 「ママは、ママだけ……」 怒られたのは自分が悪い。分かってるけど、怒られるのは嫌だ。思い出すのは、怒られて落ち込んだ時に寄り添ってくれた聖愛の笑顔。 「聖愛さん、会いたいなぁ……」 恭介の会社に行けば会えるだろうが、会社の場所を知らない。 優子はため息をつくと、宿題を始めた。 最近、下校中にやたらとイベントが発生する。恭介と聖愛に会ったり、キリストの冊子をもらったり……。 今日もそうだ。喉が渇いて、公園で水を飲んでいると、聖愛に声をかけられた。 「優子ちゃん」 「聖愛さん……!」 嬉しくて駆け寄ると、聖愛は優子を優しく抱きしめる。 「会いたかったよ」 「私も!」 「本当に? 嬉しい。こんなところで何してるの?」 「喉渇いたから、お水飲みに来たんだ」 「水なんて美味しくないでしょ? ジュース買ってあげる」 「でも……」 本音を言えば、ジュースを飲みたい。けど、優子はまだ小学2年生。自販機にあるジュースを飲みきれる気がしない。 「すぐそこのドラックストアに、紙パックのジュースあるから、それ買ってあげる。それなら飲みきれるでしょ?」 優子の心配を察した聖愛は、優しい笑みを浮かべて提案し
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聖母マリア2
「分かった。ありがとう、聖愛さん」「いいのよ。私が優子ちゃんと仲良くなりたくて買ったんだから。使い方はパパに教えてもらってね。今日は帰るはずだから」「本当に!?」父が帰るという朗報に、優子は目を輝かせる。「本当よ。今日は帰るって言ってたもの」「はやく会いたいなぁ」「ふふ、すぐに会えるわ。だって、優子ちゃんはいい子にしてるもの」聖愛は優しく微笑む。まるで聖母のように。「ママに怒られる前に帰りなさいね」そう言って優子の頭を撫でると、聖愛はどこかに行ってしまった。「嬉しいなぁ……」優子はニヤけながらスマホを見つめる。他のクラスは分からないが、少なくとも、優子のクラスにはスマホを持っている生徒はいない。自分のスマホを持つのは、優子が初めてだ。「えへへ、皆よりお姉さんだ」スマホに頬ずりをすると、ポケットにしまって帰宅する。「ただいま」「おかえり、優子。林檎さん剥こうと思ってるんだけど、食べる?」「うん!」「ランドセル置いて、手洗いうがいしてきなさい」「はーい」優子は自室に戻ると、ランドセルを置くついでに、スマホをポケットから出し、机の引き出しにしまった。「ここなら大丈夫だよね」食卓に座ると、切りたてのりんごが置かれる。頬張るとシャキッという心地よい音と共に、爽やかな甘酸っぱさが口いっぱいに広がる。「うん、美味しい!」「よかった、あたりの林檎だね」 水樹は、幸せそうに林檎を頬張る優子を見守る。(やっぱり、ママ大好き!) 優しい母の眼差しと甘い林檎で機嫌が良くなった優子は、母への愛情を再確認した。 聖愛も優しくて美人で、いい人だけど、母には叶わない。「あのね、今日学校でね」 優子が学校のことを話し出すと、水樹は相槌を打ちながら聞くのだった。 夕方、聖愛が言った通り、恭介が帰ってきた。それも、ケーキを片手に。「ただいま、優子。いい子にしてたか?」「うん、いい子にしてたよ」「おかえりなさい、あなた」 ふたりで恭介を出迎えると、恭介はふたりを優しく抱きしめてくれる。かすかに、どこかで嗅いだことがある甘い香りがした。お菓子とかの甘さではない。「なんだか、香水の匂いがしない?」「あぁ、秘書が香水を落として、瓶が割れたからだろう」 訝しげな水樹に、恭介が説明をする。それでも水樹の表情は曇ったままだ。「それより、ケー
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秘密の友達
「パパ、いる?」「いるよ。おいで」 恭介はドアを開けると、優子を抱き上げて部屋に入れる。ひとり掛けのソファに座り、優子を膝の上にのせる。「聖愛からスマホもらったんだろ?」「うん、使い方教えてもらおうと思って」「見せてみなさい」「うん」 スマホを差し出すと、恭介は右上の数字を指さした。「これが充電。この数字がゼロになると、スマホが使えなくなっちゃうから、ちゃんと充電するんだぞ」「今は53だね。まだ使えるね」「そうだな。優子が部屋に戻る時、充電器渡すからな。それで、これがメッセージアプリだ」 恭介は黄緑色のアイコンをタップする。LINE公式、聖愛、恭介が友達登録されている。聖愛の名前の隣には赤い丸で2とある。「聖愛からメッセージが来てるぞ」「なんて来てるの?」「聖愛の名前を押してごらん」 言われたとおりに名前をタップすると、メッセージ画面に切り替わる。『優子ちゃん、スマホは気に入ってくれたかな?』『これからはここでお話しようね。ひみつの友だちだよ』「わぁ、秘密の友達だって。なんかわくわくするね」「そうだろ。ママには内緒だからな」 それから恭介は、文字の打ち方と動画の見方と、スマホゲームをいくつか教えてくれた。「これはパパからだ」 恭介が手渡したのは、スマホの充電器とピンクと黄色のスマホケース。「充電器はスマホとセットになってるんだけど、スマホだけ渡したほうが、優子もワクワクするだろうからって、預かってたんだ」「ありがとう。これ、可愛いね」 優子はスマホケースを手に取り、色んな方向から見る。優子が好きなうさぎと花がプリントされた、子供向けの可愛らしいスマホケースだ。「貸して」 恭介はスマホケースにスマホを入れ、優子に返す。「パパ達だけの秘密だからな。スマホは自分の部屋だけで触りなさい。いいね?」「はーい」「いい子だ。今日はもう遅い。お部屋に戻って寝なさい」「うん」 優子は部屋に戻るとスマホでLINEを開き、聖愛にお礼のメッセージを送り、眠りについた。 翌朝、スマホの充電が残り2%となっているのに気づき、充電をしてから朝食を食べに食卓へ行く。「おはよう、優子。なんか楽しそうだね。いいことあった?」「おはよう、ママ。えっとね、えっと、パパがいるのが嬉しくて」 スマホのことを言いそうになったが、ちょうど恭
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