LOGIN主人公の優子は、母の水樹が大好きな女の子。父の不倫相手である聖愛が現れてから、水樹への愛が憎悪へと変わっていく……。 いつしか、水樹が出ていって、聖愛が自分の母親になればいいのにと望むようになる。 そんな優子に、聖愛は囁く。天使のような優しい声で、悪魔のような提案を……。
View More「私が思い出を大事にする人ってことも、知らなかったのね」「ふざけやがって……!」 歯ぎしりしながら水樹を睨みつける恭介の前に立つと、優子はスマホを見せた。「月野グループの株、68%購入完了。最近失速してたから、私でも買えちゃった」「なっ!? どこにそんな金が!」「私が高校卒業した時にくれた手切れ金。皆さん、すごいと思いませんか? 手切れ金1億も渡してくれたんですよ」 会場はどんどんざわつき、月野一家はどんどん青ざめていく。「出てけ!」「言われなくても。そうそう、あなたの会社が失速したのは、そこのふたりが勝手に会社の金を使ったからよ」「おかしいと思ったら……!」 恭介が妻と子供を睨みつけている間に、ふたりはそそくさと会場を後にした。 その後、ふわリンゴは大忙しだった。社長である水樹の発言についてのインタビューをしたいマスコミに囲まれ、その度に水樹は笑顔で答える。そのせいで、水樹がやるはずの書類が、優子や他の3人に回ってくる。「大スキャンダルだからって、会社に押しかけられてもねぇ」「それに答える水樹ちゃんも、相当肝が座ってるわ」「ほんとほんと」 3人は呆れ返り、優子は苦笑するしかなかった。 あのあと、月野グループに警察が入り、横領が発覚した。ただでさえ優子が60%以上の株を買い占め、株主になっててんやわんやとしていたのに、警察沙汰になって、会社が機能しなくなったらしい。「で、優子ちゃんはどうするの? 株主でしょ」「私は言われるままに株を買っただけですから。そのへんは母にお任せします」 そう言って笑う優子は、清々しい顔をしていた。
挨拶が終わると、白い布がかけられたマネキンがいくつか運ばれてくる。左側と右側に3体ずつ、計6体。左側に聖愛が、右側に修斗が立つ。「私の妻である聖愛と、優秀な息子の修斗が、ブランドを立ち上げました。是非、御覧ください」 恭介が聖愛に目配せをすると、聖愛は1歩前に出て優雅に一礼をする。「皆様、はじめまして。私は月野聖愛と申します。この度、新ブランドLuxeを立ち上げました。テーマはラグジュアリーです」 スタッフが白い布を取ると、豪華な服を着たマネキンが姿を表す。それぞれ宝石が散りばめられ、照明が反射して眩しい。(ダサいのはどっちだか……) 10年デザイナーとして働いてきた優子には、聖愛のブランドは笑ってしまうくらいしょうもないものだった。ただギラギラ装飾をつけただけ。実用的ではないし、洗うことを考えられていない。3流といってもまだ足りない。それほどひどいものだった。 恭介は妻がデザインした服を初めて見たのか、一瞬渋い顔をする。「次は息子のブランドをお見せしましょう」 修斗は前に出てお辞儀をするが、聖愛のような優雅さはひと欠片もない。雑で、みっともない印象を与えるようなお辞儀だ。「えー、俺のブランドは、これです」 スタッフが白い布を取ると、ダメージ加工し、はねたペンキがついた服が照明に照らされる。「気取らないかっこよさをテーマにしてまっす」 会場は苦笑いとお世辞の拍手。無理もない。出来があまりにも悪すぎる。例えるなら、有名なオーケストラが入るようなコンサートホールに、数名の小学生で結成された音楽隊が演奏するようなものだ。「では、偉大な先輩方から色々学ばせていただきましょう」 恭介が言うと、スタッフ達はマネキンを片付け、プロジェクターを出す。招待状に書かれている数字の順番で、各社3分の紹介が始まる。ふわリンゴは最後だ。 残すはふわリンゴのみとなると、恭介が司会からマイクを受け取り、紹介する。「最後はふわリンゴさん、お願いします」 意地悪な笑みを浮かべて、恭介はこちらを見る。「行きましょう」「うん」 水樹は書画カメラの前に立つと、マイクを片手に握る。「ふわリンゴの社長を務めさせていただいております、真田水樹です。本日は我が社の紹介ではなく、私の過去を紹介したいと思います」 言い終わるのと同時に書画カメラの前に置いてスクリーンに
優子がシェアハウスを始めてから10年。優子は立派なデザイナーとして、ふわリンゴで働いている。あんなにあくせくしていたシェアハウスでの生活にも慣れ、すべてが順調だ。「ねぇ、優子。来月ちょっとしたパーティがあるの。一緒にどう?」「パーティ?」「月野グループが、ファッション業界に進出するから、それを発表するパーティみたいね」 月野グループと聞いて、息が詰まる。おぞましい記憶がフラッシュバックして、気分が悪くなる。「そんな顔しないで。面白いものが見れるから」「そもそもどうやって行くの……」「じゃーん、招待状」 水樹はいたずらっぽく笑いながら、招待状を見せる。招待状には確かに、ふわリンゴの名前と、送り主である月野グループの名前が書いてある。「なんで!?」 思わず大声で言うと、水樹は両手で耳を塞ぐ。「うるさい」「ごめん……。でも、なんで!?」「ふわリンゴはもうすぐ20周年。ファッション業界では、月野グループの大先輩。無視するわけにはいかなかったんでしょ。もちろん、向こうは私だって分かってる」「うわぁ……」「そんな顔しないでってば。行きましょうよ」「はぁ、分かったよ……」 優子が渋々了承すると、水樹は子供のように無邪気に喜ぶ。「でも、やっぱり気乗りしないなぁ」「まぁまぁ。ところで優子。1億はまだある?」「あるよ。なんなら、少し増えた。それがどうかしたの?」「もしいやじゃなかったら、お買い物しない?」 楽しそうに笑う水樹だが、どことなく恐ろしいものがあった。 パーティ当日。広々としたホテルの会場には、経営者、デザイナー、モデルなど、ファッション業界の関係者が溢れかえっていた。「あらぁ、なんだか見覚えがあるような、ないような」 あいさつ回りをしていると、聖愛がニヤニヤしながら近づく。その隣には、若い青年がいる。顔立ちが恭介と聖愛に似ている。きっと修斗だろう。「お久しぶり、泥棒猫さん」「ダッサイ……失敬。独特な服を作ってるふわリンゴの社長さん。と、それは?」 わざとらしく、優子を見てニヤニヤ笑う。不愉快でたまらない。だが、それ以上に聖愛を見て、もったいないと思う。美しさや若々しさは健在だが、最後に会った時と顔が違う。整形して、元々どういう顔だったのか分からないほどに。「私の娘です」「お久しぶりです、聖愛さん」 修斗がぷ
「4人って、そんなに仲良しだったんだ……」「あぁ、私達ね、同じ地区に住んでたの。幼馴染ってやつ」「嘘!?」 予想すらしてなかった真実に、声が裏返る。4人はそんな優子を見てクスクス笑う。「登下校はもちろん、遊ぶ時も、クラブも一緒だったの。いつかこの4人で、会社作りたいねって話してたから」「私達は使用人として、付かず離れずそばにいたってわけ」「それより、今後のことを決めましょう」 女性というのは話好きだ。思い出話やお互いの近況を挟みつつ、話すこと6時間以上。決まったのは、優子が4人と住み、ふわリンゴでバイトをしながらデザインの基礎を学ぶことと、来年は服飾専門学校に通うこと。 そして、古いスマホを水樹に手渡すこと。乃愛としての優子が、彼らとどのようなやり取りをしていたのか知りたいのだと言う。「じゃあ、来月迎えに行くからね」「うん、楽しみにしてるね」 話が終わる頃にはわだかまりは解け、約10年の空白も埋まり、親子らしく笑い会えるようになっていた。 翌月、水樹は優子が住んでいたマンションまで迎えに来る。大きめのキャリーケースとアタッシェケースしか持っていない優子を見て、目を丸くする。年頃の若い女性にしては、荷物があまりにも少ないと感じた。「荷物、それだけ?」「うん。ここ、家電も食器も全部揃ってるから」「へぇ、今のマンションって、すごいのね」 感嘆する母を見て、優子は懐かしい気持ちになる。子供の頃、優子が綺麗な野花や四つ葉のクローバーを持ってくると、大げさに喜んだり驚いていた。「さて、お城に行く前に、優子の日用品を買い揃えに行こうか」「え?」「一緒に住むんだから、ちゃんと専用の食器とかタオル用意しないとね」 水樹は優子をデパートに連れて行くと、タオルや食器、スリッパなどを買い与えた。荷物が増える度に、これから母達と一緒に暮らせるのだという実感が強くなる。「お腹空いたし、なにか食べましょうか」 デパート内のレストランに行き、食事をする。母と向かい合って食事をするのも、久しぶりだ。「スマホ見たけど、本当に酷かったのねぇ」「ある意味自業自得だけどね」 自嘲する優子の手を、水樹は力強く握った。「そんなこと言わないで、優子。あなたはもう、充分罪を償った。それに、何も知らなかったんだから」「何も知らなかったのが、私の罪だったのかな」「
「落ち着いて、深呼吸をしましょう」 和子は安心させようと、乃愛の手を握る。彼女のぬくもりが、乃愛に安心と勇気をくれた。「はい……」 乃愛は深呼吸をすると、重たい口を開いた。「当時、私は小学2年生でした。だから、子宝って意味が分からなくて、あとで聖愛さんに子宝の意味を聞いたんです。そしたら、う、うぇ……!」 おぞましい記憶を思い出しかけて、吐きそうになるのを、必死に堪える。お茶を飲みたいけど、飲み干してしまったのを思い出し、焦る。「大丈夫、大丈夫。さぁ、これを飲んで」 和子に差し出されたお茶を一気に半分ほど飲み干すと、吐き気はだいぶマシになった。「ア、アダルトビデオを、見せられ
「あの、私からも、聞いていい?」 乃愛は遠慮がちに聞く。水樹に話しかけるのは怖いけど、はっきりさせておきたいことがあった。「なに?」「贈り物を捨てたのはどうして? やっぱり、聖愛さんからだから?」「あぁ、あれね」 水樹は思い出すような仕草をすると、紅茶をひと口飲んでため息をつく。「贈り物にはね、マナーがあるの。例えば、入院してる人には、植木鉢やパジャマを贈ってはいけないとかね。それらはずっと入院してろって捉えることができるから、禁止されてるの」「聖愛さんが贈ったものも、マナー違反だったってこと?」「そうよ。忘れもしない。割れ物とスリッパだったわね。割れ物は関係が壊れることを連
「ママ、本当にごめんなさい! わた、私、最低なことをした……。謝って許されることじゃないって、分かってる。でも、どうしても謝りたくて……」 深々と頭を下げる。「頭を上げて」 冷たい声に、肩が震える。恐る恐る顔を上げると、水樹は相変わらず冷たい目で乃愛を見ていた。「言いたいことはたくさんあるけど、あなたの話も聞きましょう。今日は、お互いぶつけ合いましょう」「えっと……」 頭が真っ白になった。会って謝ることしか考えていなかったから、話せと言われても、何を話せばいいのか分からない。「私ね、愛情いっぱい込めて育ててたのよ、あなたのこと。ワガママになったらいけないから、あなたのお願いを聞
4月11日、午前9時半。乃愛は緊張した面持ちで、母に会うための準備を進める。服はこの前購入した、mizukiとのコラボ商品。髪を高い位置でポニーテールにし、薄化粧を施した。 1億が入ったアタッシェケースに、通帳、印鑑、パスワードが書かれた紙をまとめたポーチをカバンに入れると、鏡の前で最終チェックをする。「大丈夫かな……」 乃愛は電車を乗り継いで、ふわリンゴの本社を目指す。途中、手土産を買ったほうがいいのではと思ったが、10年ぶりに会う母への贈り物など思いつかず、結局やめた。 大きな駅から歩いて5分のところに、ふわリンゴの本社はあった。この辺では小さめの、5階建てのビルだ。「ここが