第294話

「はい！」

部下たちは声を揃え、元気に返事をした。

遥太の命令のもと、深雪の会社は松原商事の市場シェアを狂ったように奪っていった。

松原商事の株価は下落の一途を辿った。

社員たちも動揺し、完全に混乱状態だ。

ついに株主たちが黙っていられなくなった。

彼らは次々に静雄へ電話をかけ、すぐに帰社して事態を収拾するよう迫った。

「松原社長、一体いつ戻られるんですか！」

ある株主は電話で切羽詰まった声を上げた。

「会社はもう崩壊寸前です！このままでは本当に終わってしまいます！」

「そうです、社長！」

別の株主も追い打ちをかけた。

「今すぐ戻って采配を振るっていただかないと！」

静雄は鳴り止まぬ電話に頭を抱えた。

もちろん彼自身も今すぐ会社に戻りたい。だが、芽衣が必死に彼を引き止めていた。

「静雄、行かないで！」

病床の芽衣は蒼白な顔で、彼の手を強く握りしめた。

「苦しくて......あなたにそばにいてほしいの」

「芽衣......わかってる。でも会社の方も......」

静雄は困り果てた顔をした。

「嫌よ！」

芽衣は涙ながらに叫んだ。

「私にはあなたが必要なの！あなたがいなくなったら、一日だって生きていけない！」

「馬鹿なことを言うな！」

静雄は胸を締めつけられる思いで彼女を抱きしめた。

「俺がお前を見捨てるはずがないだろう。でも会社もこのままじゃ......」

「やっぱり私を置いて行くんだわ！」

芽衣は子どものように駄々をこねた。

「私の体を気にかけてくれるのはあなただけよ！いなくなったら、私はもう耐えられない！」

「芽衣......頼む、そんなこと言うな」

静雄は深いため息をついた。

「わかった。しばらくは行かない。会社のことは電話やオンライン会議で処理する。これでいいか？」

「本当？」

芽衣は涙に濡れた瞳で見上げた。

「私を騙さない？」

「騙すわけないだろう」

静雄は彼女の髪を撫でた。

「だが、深雪がこの隙を突いて会社を蝕んでいる。放置すれば、本当に俺たちの未来が危うくなる」

「静雄......」

芽衣は彼の胸に寄り添い、頷いた。

だがその表情には、一瞬だけ陰りが走った。

リゾートの陽光はあまりにも明るく、静雄の心の暗雲を逆に際立たせた。

彼はバルコニーのデッキチェアに腰掛け、携帯を見つ