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第358話

Author: 木憐青
延浩は入札会の詳細を深雪に伝えたあと、こう言った。

「試してみる価値があると思う。もしこの案件を取れれば、僕たちの会社の発展に大きな助けになるはずだ」

深雪はうなずき、「言う通りね。このチャンスは逃せない。でも、静雄の状況もかなり悪いみたいで、追い詰められて何をするかわからないわ」と言った。

延浩は優しく深雪を見つめ、「心配はいらない。僕が守るよ。それに、今は静雄のことよりも、入札会に集中すべきだと思う」と言った。

深雪は少し考え、彼の言葉にうなずいた。

「確かに静雄のことで心を乱されるべきじゃない。今一番大事なのは、入札会の準備を万全に整えることだわ」

その頃、芽衣は自宅で静雄の携帯を見ていて、嫉妬と不満で胸がいっぱいになっていた。

ふとした拍子に写真フォルダを開き、深雪に関するニュース記事のスクリーンショットを見つけた瞬間、怒りが込み上げてきた。

まさか、静雄がいまだに深雪の写真をこっそり残しているなんて!

芽衣は強い不安を覚えた。

静雄の心には、どうしても深雪しか埋められない場所があるのだと悟ったのだ。

ならば、変えてみせる。静雄に深雪を完全に忘れさせ、自分だけを見させるのだ。

芽衣は深雪の真似をし始めた。

栄養バランスのとれた食事を用意し、マッサージをしてやり、物語を聞かせる。そうして少しずつ、深雪が果たしていた役割を自分に置き換えようとした。

だが静雄は、その細やかな気遣いにどこかぎこちなさを感じた。

芽衣の献身は確かに行き届いている。でも、深雪のそれには自然体の温かさがあった。

静雄はいつもそれを思い出してしまう。

簡単だが家庭の温もりがこもった深雪の料理。

ちょうど良い力加減で心を解きほぐしてくれた、彼女の手のぬくもり。

芽衣の努力は認めながらも、彼女はどうしても深雪の代わりにはなれないと痛感していた。

彼の胸は混乱でいっぱいだった。自分が何を求めているのかすら、もうわからない。ただ、心が乱れて仕方がない。

一方、深雪は入札会の資料作りに取りかかっていた。

仲間を率いて連日残業を重ねた。

この入札会は落とせないため、全力を尽くさなければならなかった。

その頃、静雄もまた、会社で下瀬産業の動向に神経を尖らせていた。

下瀬産業の実力は計り知れず、もし深雪が案件を勝ち取れば、松原商事への打撃は計り知れない。

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