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第207話

Author: レイシ大好き
やっぱり正直に言うしかない。

紗雪は視線の端で清那の様子を見て、彼女が何を考えているのかすぐに察した。

内心で「本当に情けない」と舌打ちする。

最初から清那がスパイだと分かっていたら、絶対に呼ばなかったのに。

紗雪は今、そのことばかりを後悔していた。

二人が車に乗り込んでからというもの、三人の間には沈黙が流れ、紗雪は未だにどうやって京弥に説明すべきか決めかねていた。

そんな時、清那が口を開く。

「兄さん、私を先に家まで送ってくれない?」

京弥が口を開こうとした瞬間、清那は両手を合わせて懇願するような表情を見せた。

「お願いだよ、兄さん。父さんと母さんには絶対に言わないで」

「今後は、何でも言うこと聞くから。一生のお願い!」

以前、両親に「またバーに行ったら足の骨を折るからな、二度と小遣いはやらん!」とまで言われていた彼女。

今回バレたら、本当に小遣いは絶たれてしまう。

そんなの、死ぬより怖い。

京弥は何気なく紗雪に目をやり、わざとらしくぼそりと呟く。

「誰がバーに行っていいと言った?」

「自分一人で行くならまだしも、紗雪まで巻き込むとは......きっちり罰を与えなきゃな」

その言葉を聞いて、清那は目を大きく見開いた。

すぐに京弥の意図を悟る。

彼女はすかさず紗雪の腕をつかみ、ゆさゆさと揺さぶりながら懇願する。

「ねえ、紗雪も知ってるでしょ?私、本当は今日は行きたくなかったって。親友のために、自分を犠牲にしただけ!」

「お願い、紗雪!兄さんに言ってあげて?」

紗雪はため息をついた。

京弥の探るような目と期待がこもった視線に出くわし、そして清那の潤んだ赤い目を見て、最後には観念して口を開く。

「もう清那をからかわないで。ご両親にも言わないであげて。今回が最後なんだから」

京弥は眉を一つ上げて、機嫌よさげに問い返す。

「でも、こういうことって誰が保証してくれるんだ?なんといっても、こいつは松尾家の一人娘なんだよ?もし何かあったら、俺も責任問われるよ」

そう言われて、清那はますますうつむいた。

それこそが、彼女が家族にバーへ行くことを一度も言わなかった理由だった。

家族は過保護すぎるほどで、危険なものからは徹底的に遠ざけられてきた。

だが、清那は子供の頃からスリルのあることが大好きだった。

それが、紗雪と馬が合
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