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第212話

Author: レイシ大好き
今のこの状況、秘書はこの先どう動くのか興味津々だった。

紗雪は首を振った。

「まだ分からないわ。今できることは、運を天に任せるくらいだよ」

「ともかく、まずは向こうの責任者に直接会って、何が起きたのか聞かないと。理由も分からず切られるなんて納得できないから」

その言葉に、秘書は何度も頷いた。本当にその通りだった。

紗雪はリストの一人を指差した。

「この早川社長がカギだよ。まずは材料工場の頭を押さえないと」

秘書はピンと来ていない様子だったが、紗雪は多くを語らなかった。

「とにかく、直接彼らの会社に行ってみるよ。あとはその場で臨機応変に動くしかないね」

秘書はしぶしぶ頷いた。

もちろん、紗雪の言いたいことは分かっている。

だからこそ、その難しさと、時間の無駄になりかねない厳しさもよく理解できた。

「会長、直接あちらの本社に行くんですか?」

紗雪は頷いた。

「それしかないよ。連絡が取れないからって諦めるわけにはいかないわ」

「分かりました。美月さんのところには私からきちんと伝えておきます」

秘書は気を利かせて言った。

上司が順調なら、自分の仕事もやりやすくなる。

何より、彼はもう紗雪との仕事に慣れていた。

紗雪は立ち上がり、バッグを手に取った。

「このあと誰かが私を訪ねてきても、全部断って。契約書があったら私に送って、確認してから決めるから」

秘書は理解したと返事をした。

「どうかお気をつけて」

「心配しないで、ちゃんと考えて動くから」

そう言い残して、紗雪はオフィスを後にした。

彼女はこの目で確かめたかった。

あの連中が一体何を考えているのか。

秘書はオフィスを注視し続け、誰かが来たら「会長は忙しいので、伝言があればお預かりします」と答えた。

それを聞いた人たちは、だいたい諦めて帰っていった。

一方、紗雪は、目当ての社長たちの会社に直接向かい、いちばん単純な方法――

待ち伏せで彼らに接触を試みた。

こういう時、一番大事なのはやっぱり「直接話すこと」だった。

どれだけ理屈を並べても、顔を合わせて話さないと意味がない。

紗雪は受付に行き、早川社長に会いたいと伝えた。

受付は彼女を上から下まで値踏みするように見たあと、内心で鼻で笑った。

二川グループ?

うちの社長、もうきっぱり断ってるのに。

まだノコ
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