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第275話

Author: レイシ大好き
先ほどまで少し陰っていた表情が、紗雪を見た瞬間、ぱっと晴れやかに変わった。

よく見ると、男の口元にはうっすらと微笑が浮かんでいるのが分かる。

京弥はベッドの傍らに立ち、女性の穏やかな横顔を見つめながら、心の奥に温かな感情が広がるのを感じていた。

「さっちゃん、俺から離れないで......」

彼は手を伸ばし、彼女の耳元にかかる乱れた髪をそっと耳にかける。

その可憐な顔立ちが、はっきりと露わになる。

そして、男の瞳の奥には、彼女への想いがじわりと浮かび上がっていく。

その瞬間、二人はしっかりと寄り添い合っていた......

翌朝。

紗雪はゆっくりと瞳を開け、伸びをしながらのんびりと身体を起こした。

右腕を伸ばしかけたところで、何かにぶつかる感覚がした。

不思議に思って顔を向けると、

目の前には、完璧なイケメンフェイスが急接近してきていて、思わず心臓が跳ねた。

京弥は目を開けていないものの、正確に彼女の右手を掴み、それを唇に近づけてキスを落とす。

「おはよう」

低くてセクシーな声を耳にした紗雪は、ようやく状況を理解する。

勢いよく京弥を押しのけ、怯んだように目を見開いた。

「いつ来たの!?」

京弥はどこか満ち足りたような目をしながら答える。

「もちろん昨夜だよ」

彼女を抱いて眠ったその一晩は、とても安らかな時間だった。

おかげで今日の気分も、すこぶる良い。

紗雪は自分の服に視線を落とし、それが昨夜のままの寝間着であることを確認して、ようやくほっと息をついた。

その様子を見た京弥の目に、ふっと悪戯っぽい光が宿る。

「なにを気にしてるの?もう夫婦なんだし、仮に何かあったとしても、全然おかしくないんだよ?」

紗雪はしばらく言い返す言葉が見つからず、悔しそうに右手を引っ込めた。

「もう、ふざけないでよ!また調子に乗って......仕事行くから!」

京弥はやれやれといった様子で言った。

「はいはい、いってらっしゃい」

紗雪は素早くベッドを降りて服を着替える。

それは、耳の裏がほんのり赤くなっているのを隠すためでもあった。

京弥の顔、何度見ても、やっぱり心が揺れてしまう。

まさに彼女の好みにど真ん中。

好きにならない方が無理というものだ。

紗雪は大きく息を吸い込み、気持ちを整えてから会社へと向かった。

会社に着いた
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