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第274話

Author: レイシ大好き
京弥は低く問いかけた。

「それで、紗雪は?」

「俺が来たときは、彼女が出ていくのは見てない。もう一度よく考えて、彼女どこに行ったのか思い出せ」

清那は小声でぼやいた。

「......兄さんがここにいるからだよ。だから紗雪は出てくるわけないでしょ」

その一言に、京弥の表情がさらに沈んだ。

「俺を避けてるのか?」

清那は目を逸らした。

「分かんないよ。それはあなたたちの問題だし、自分で聞いてよ」

そう言い捨てて、清那はそのまま立ち去ろうとした。

今回は京弥もそれ以上引き止めることはなかった。ただ一言、警告を残す。

「また紗雪をこういう場所に連れてきたら......次からは容赦しない」

清那の背中がビクリと震え、心の中では泣きそうになっていた。

誰が誰を連れてきたって?自分のせいじゃないのに......

ただの付き添いだったのに、なんで怒られなきゃいけないの。

そう思うと、清那は本当に落ち込んだ。

でも、「親友第一」の精神で、彼女は文句を飲み込み、「もう二度と紗雪を連れてこない」と心の中で誓った。

それを聞いてようやく京弥は満足げに頷き、清那を見送った。

彼女が去った後、匠が控えめに声をかける。

「社長、これからどうしましょう?奥様を探しに行きますか?」

ここまで時間が経っていて、果たして紗雪を見つけられるかどうかも分からない。

それに、どこへ行ったのかも見当がつかない。

京弥はゆっくりと首を振った。

「いい。後にしよう」

どうせ紗雪が出て行ったとしても、行き先なんてたかが知れてる。

きっと家に帰っただけだ。行く場所なんて、他にはない。

長い時間の中で、京弥はもうそれを理解していた。

そして、紗雪もまた、まさにその通りの行動をとった。

もともと清那と軽く一杯飲もうと出てきただけだった。

まさかあの子が酔った勢いで京弥にメッセージを送るとは思ってもいなかった。

最初は止めようとした。

でも、清那の手が早すぎた。

気づいたときにはすでに送信済みで、しかも取り消そうとして間違えて削除を押してしまった。

その瞬間、紗雪の心はすっかり冷え切った。

彼女は静かに席を立ち、その場を離れる決意をした。

清那は呆気に取られた。まさか紗雪がこんなに薄情な子だったとは。

だが、紗雪の説明は筋が通っていた。

京弥は彼女の従
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