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第327話

Author: レイシ大好き
紗雪は秘書を連れて再びジョンのスタジオへと向かった。

今回は、紗雪本人が来たと聞いて、ジョンもさすがに態度を改め、わざわざ出迎えに出てきた。

「まさかご自身でいらっしゃるとは思いませんでした。お迎えが遅れてしまい、申し訳ありません」

ジョンは笑顔を浮かべながら紗雪を迎えに出た。

先日秘書が来た時とはまるで別人のようだった。

そんなジョンの姿を見ても、紗雪は何も言わなかった。

あたかも前に何も起こっていなかったかのように、にこやかに言う。

「そんな、迎えるも何も。私たちの間柄で、形式ばったことは要りませんよね?」

この言葉を聞いて、ジョンの顔には一瞬固い表情が浮かんだ。

だがすぐに笑みに戻り、「では、どうぞ中へ」と案内する。

紗雪は微かに頷き、ハイヒールの音を響かせながらジョンの横を並んで歩き、オフィスへと入っていった。

二人はソファに向かい合って座ったが、室内にはどこか気まずい空気が漂っていた。

紗雪は余裕のある態度で静かに腰掛け、ジョンが話し出すのを待っている。

ビジネスの世界では、忍耐と冷静さがものを言う。

先に口を開いた者が、すなわち先に屈したことになる。

このことは、紗雪もジョンもよくわかっていた。

しかしジョンがいくら待っても、紗雪は一向に動じず、まるで本当にお茶を飲みに来ただけのように、穏やかに茶を口にしていた。

その顔色すら微塵も変わらない。

その様子を見て、ジョンは思わず拳を握りしめる。

この女、一体どういうつもりだ。

わざわざ自分のスタジオまで来ておいて、こんなにも高飛車な態度を取るとは。

先に口を開いた者が、すなわち先に屈したということを、わかっていないのか?

だが紗雪の表情は終始穏やかだった。

もちろん彼女は、その道理を理解している。

だからこそ、先にここへ来るという行動だけで、すでに一度頭を下げている。

次に口を開くのはジョンの番だ。

でなければ、二川側には何の得にもならず、ただただ不利な立場に置かれるだけ。

ついに耐えきれず、ジョンが口を開いた。

「二川さん、わざわざスタジオまでいらっしゃって......何かご用でしょうか?」

紗雪はようやくカップを置き、口元に微笑を浮かべて言った。

「ビジネスの話ですから、遠回しな言い方はやめにしましょう」

その瞬間、ジョンはまさに奥歯を噛み砕
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