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第447話

Author: レイシ大好き
緒莉のあまりに率直な言葉に、美月は内心から驚かされた。

まさか娘が、こんなにもストレートに問いかけてくるとは思ってもみなかった。

少しも遠回しにせず、腹に一物も感じられない。

口に出すことに迷いもなく、思ったことをそのまま言っている。

美月は一瞬どう返せばいいのか分からず、口を半開きにしたまま言葉を失った。

同時に、頭の中ではどう返事をすべきか、急ピッチで考え始めた。

そんな美月の様子を見た緒莉は、気まずさを感じたのか、自ら話題を流すように口を開いた。

「どっちにしても、私と紗雪のこと、お母さんは気にしないでいいんだよ」

「これは私たちの問題だから。私たちなりに、ちゃんと自分たちで決めていくつもり。運命っていうものがあるでしょ?お母さんは元気で幸せでいてくれればそれでいいの」

そう言われて、美月も「なるほど」と思った。

確かに、これまで娘たちが自分を失望させたことは一度もなかった。

長年そばで見てきたからこそ、二人がどういう性格かもよく分かっている。

だから、緒莉の言葉は正しかった。

これからは、少し引いて見守るべきなのかもしれない。

そうすれば、二人がそれぞれのやり方で成長していくのにも都合が良い。

そう考えて、美月は納得したようにうなずきながら緒莉の手の甲を軽く叩き、満足げに笑った。

「本当に大人になったわね......」

緒莉がなにか言おうとしたそのとき、執事が辰琉を連れて入ってきた。

その瞬間、母娘は視線を交わし、さっきまでの話題をお互い口にしないという暗黙の了解が交わされた。

家庭の問題は、よそ者に見せるものじゃない。

辰琉は手に土産を持っていて、それをテーブルに置くと、すぐに美月の体を気遣う言葉を口にした。

「入院されたと聞きまして、これは父からの滋養品です。どうか受け取ってください」

それを聞いた美月は軽くうなずき、笑顔を少し控えめにしながら応じた。

「お父様によろしくお伝えして。お気遣いありがたく受け取るわ」

辰琉はそれに続けて言った。

「はい。安東家と二川家の仲ですからね」

美月は笑顔を保ったまま、何も言わなかった。

辰琉の意図が見え見えなのは、誰が見ても明らかだ。

その一方で、緒莉の顔色は明らかに曇っていた。

まさか彼が家にまで来るとは思っていなかった。

彼女は、今日こそ母と結婚の話をき
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