Share

第646話

Author: レイシ大好き
緒莉は、病院で起きた出来事を一から十まで美月に話し始めた。

院長が京弥に対して見せた態度や、京弥の傲慢な様子――

それらは、彼が紗雪を騙していたという重要な証拠だ。

紗雪がこの事実を知っているのかどうかは分からない。

けれど緒莉は思い出した。

以前、京弥は自分たちの前で、一度も「家が金持ちだ」なんて言ったことがなかった。

しかも、京弥の実家が何をしているのかも、彼女はずっと聞いたことがない。

ひとつひとつの出来事が、緒莉を次第に興奮させていく。

これって、京弥の秘密を知っちゃったってことじゃない?

緒莉は、普段の京弥の傲慢で尊大な態度を思い浮かべた。

今や彼女は、相手の秘密を握っている。

これなら、その秘密を利用して相手を操れるのではないか――

そう思った。

緒莉はさらに言葉を継いだ。

「お母さん、この病院、M州ではすごく有名なの。よく考えてみて。あの椎名、きっと私たちに隠してることがあるのよ。そうじゃなきゃ、あの院長が言いなりになるわけないじゃない。きっと後の勢力が原因よ」

それを聞いて、美月も確かに一理あると思った。

「それで、緒莉はこれからどうするの?」

美月は今、心から緒莉が次にどう動くのか気になっていた。

こんなにも真剣に娘の話を聞くのは、久しぶりのことだった。

これまで美月は、緒莉の身体が弱いからと、あまり期待もしていなかった。

だからこそ、今回の緒莉の考えを知りたいと思ったのだ。

それに、緒莉はいま海外にいる。

つまり、彼女は紗雪の現状を直接知ることができるということではないか。

なぜだか美月の胸は、少し高鳴っていた。

紗雪を思わないわけではない。

けれど、こんなにも長い間、美月自身も心身ともに疲れ切っていた。

どうやって心配してやればいいのか、どうやって労わればいいのか――

それさえ分からなくなっていたのだ。

紗雪はもう大人で、自分なりの考えも持っている。

緒莉と比べて、美月は紗雪のほうが安心できると感じていた。

たとえ紗雪のほうが年下であっても。

それでも、この長い時間の中で、紗雪への愛しさと痛ましさは、確かに増していた。

そんな美月に向かって、緒莉は真剣な声で言った。

「お母さん、椎名が私を中に入れたがらないってことは......

もしかして紗雪をわざと閉じ込めて、私たちの知らな
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第650話

    その時、彼はすでに緒莉が少し不機嫌になっているのを察していた。しかし、緒莉がどれだけ不機嫌になろうとも、自分の命を危険にさらすつもりはなかった。命は本来、とても貴重で一度きり。死んでしまえばそれで終わりだ。彼も馬鹿ではない。どうしてこんなことで、自分の将来を台無しにしなければならないのか。結局、緒莉は不満げではあったが、現在の案を出した。つまり――彼女が京弥を引き離し、その隙に辰琉が中へ入って手を下す、というものだ。終わったらすぐに出てくる。地下室には、辰琉が着替えるための服も用意してある。すべてが完璧に組まれていて、何の問題もないはずだ。辰琉ですら、この方法なら前よりずっと楽で目立たずに済む、と感じたほどだ。もともと辰琉は迷っていたが、緒莉のメッセージを見て、一瞬「もう行動しなくともいいのか」と思った。だが内容を確認すると、どうすればいいのかわからなくなった。彼には元々決断力がなく、今もなお、これからどう進めばいいのか見当もつかない。ただ、成り行きに任せて一歩ずつ進むしかなかった。緒莉との結婚ですら、家の両親が先に決めたことだ。彼自身にはほとんど選択権がなかった。だが、もう病院の入口まで来てしまった今、ここで諦めるのは不可能に近い。辰琉は震える指で、ようやく緒莉に返信した。【わかった、連絡待ってる】吐き出した息は重く、だが少しだけ楽になった。もう少しだけ時間を稼げる。彼の今の心境は、それだけで救われるような気がした。これからどうなるかはわからない。だが、今は緒莉の指示に従うしかない。それが、両親から言われてきた生き方でもある。そう考えると、辰琉はふと、自分がひどく惨めに思えた。二十年以上生きてきて、一度も自分の意思で道を選んだことがない。ただ他人が敷いたレールの上を歩くだけの人生。もし両親がいなければ、自分は何者でもないのではないか?辰琉は頭を振り、胸に渦巻く雑念を振り払おうとした。もう考えたくなかった。緒莉が病院に到着した時、すみの方に隠れている辰琉を見つけた。二人は目を合わせたが、緒莉はただ軽くうなずいただけで、何も言わなかった。諦めかけていた辰琉の心は、その瞬間、なぜか再び固まった。緒莉には、何か人を動かす不思議

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第649話

    今となっては、京弥を外へ誘い出すのは問題ではない。あとは辰琉が無事に中へ入り、薬を注射するだけでいい。そう思うと、緒莉の声色も自然と弾んだ。続けて、緒莉は自分の計画をすべて美月に伝える。「まずお母さんが京弥に電話して。彼が出なかったら、その時は私にかけ直して」「緒莉は椎名くんのところに行くの?」緒莉はこくりと頷いた。「そう。だからお母さんが私に電話をつないだら、私がそのまま京弥に渡すつもり」美月は少し考えた。この方法なら、確かにできるかもしれない。ちょうど彼に聞きたいことも山ほどある。娘はたった一人しかいない。その娘を連れて行こうとしている、この男は一体何者なのか。もし本当に娘を騙していたのなら、たとえ自分の命を懸けても、絶対に許さない。緒莉と美月は段取りを整えると、電話を切る準備をした。「じゃあ、お母さん、椎名に電話するのを忘れないでね。私は先に病院で待ってるから。もし何かあったら、すぐ私に電話して。そしたら私がそのまま京弥に渡すから」緒莉はふっと笑った。「お母さんだって、彼に聞きたいこと、きっといっぱいあるでしょ?」美月は娘のそんな熱心さに、特に何も言わなかった。今回はこの子がここまで気を回してくれている。なら、自分が言うこともないだろう。手助けしてくれるならそれが一番いい。たとえ役に立たなくても、紗雪の様子を知れるだけでも十分だ。それなら悪くはない。美月はもともと人より少し冷静で、考えも単純だ。だからこそ、この短期間で経験した数々の出来事にも、何とか耐えてこられたのだ。すべては、これまでの経験があったから。それが彼女をここまで成長させた。そうでなければ、とてもやっていけなかっただろう。電話を切った緒莉は、急いで病院へ向かった。向かう途中で、辰琉にも【今は軽率に動かないで】とメッセージを送る。何しろ、薬は一本しかない。もしバレたら、すべてが無駄になる。次にこんな好機はないかもしれない。無駄にするなんてもったいない。緒莉の頭の中は、「バレて薬が無駄になる」ことだけでいっぱいだった。辰琉の身の安全など、考えもしない。むしろ、彼の存在自体を薬よりも後回しにしていた。そう思うと、緒莉の唇にはゆっくりと笑みが浮かんだ。

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第648話

    緒莉の声がふと途切れ、すぐに笑みを含んで言った。「これも......お母さんが教えたことだよ?」その言葉に、美月は何も言えなくなった。もしかしたら、この娘への態度を本気で改めるべきなのかもしれない。「じゃあ、私にどうしろと?」美月も馬鹿ではない。緒莉がここまで言うからには、きっと何か頼みごとがあるのだろう。でなければ、こんな駆け引きのような会話はしないはずだ。今になって初めて、彼女はこの長女が自分の想像ほど単純な存在ではないことに気付いた。だからこそ、そう問いかけたのだ。この娘がまだ隠している「サプライズ」が何なのか、確かめたくなった。同時に、これは彼女にとっても一つの試練の機会になるだろう。しかも、今回はその態度自体が、美月にとって意外でもあった。緒莉は母の言葉を聞いて、ほぼ問題なく話が進むと確信した。これなら、後の計画もずっとやりやすくなる。美月の性格は、緒莉もよく知っている。一度興味を持たせてしまえば、その後のことは格段に進めやすくなるのだ。「今私、病院にいるでしょ?」緒莉は笑って言った。「お母さんが椎名に電話して、紗雪の様子を聞きたいって言えばいいの」「それで?」美月にはよく分からなかった。そんなことで、京弥の目的が分かるのだろうか。緒莉が何を考えているのか、まるで見えない。緒莉は頷き、スマホ越しに真剣な声で言った。「お母さん、今回だけは私を信じて。それに、皆の反対を無視して、紗雪をここに連れてきたのは椎名でしょ?」緒莉は一拍置いて続けた。「医者が言ったこと、お母さんも知ってるよね。私だって医者の指示に従ってるだけ」「医者が言ったこと」という言葉を聞いて、美月は以前、京弥から聞いた話を思い出した。だが紗雪は今、特に問題を起こしているわけではない。その「医者の指示」だって、覆せるものではないのか?だが次の瞬間、緒莉はさらに畳み掛けた。「椎名は医者の話を無視して、紗雪の命を危険にさらしてるんだよ?それにほら、今M州まで来てるのに、まだ目を覚ましてないじゃない」その言葉に、美月は再び沈黙した。緒莉の言っていることは、確かに一理ある。今、どれだけ言葉を重ねても、問題が解決するわけじゃない。何しろ紗雪はいまだ昏睡状態なのだ

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第647話

    これだけ長い時間が経てば、相手の考えていることなんて、だいたい察しがつく。「私、お母さんが何を心配してるのか分かるよ」緒莉はゆっくりと誘導するように言った。「前の西山のこと、生きた例じゃない?忘れたの?前に妹があの男にどうやって騙されたか。最後には、金のことも一つ一つの支出まで、きっちり計算させられてたじゃない」緒莉は舌打ちし、呆れと感慨が入り混じった表情で続ける。「こんな話、外に出したら、二川家にとってもとんだ恥よ」「もう黙って」美月は思わず声を荒げた。緒莉はようやく口をつぐんだ。彼女には分かっていた。美月が怒りをぶつけているのは自分に対してではなく、加津也に対してだということが。この間、加津也がどんな人間かは、もう嫌というほど思い知った。ただの風見鶏で、実力もない。今は西山グループで何やらやっているらしいが、もう長いこと遊び歩く姿は見かけなくなった。鳴り城の上流社会では、皆がこの御曹司のことを噂している。今回は本気で更生するつもりらしい、と。何しろ、あれほど長い間姿を見せず、どの遊び場にも現れていないのだから。人々は推測する。加津也は性根を入れ替えたのか?それとも、本当に良心が目覚めたのか?そう考えると、緒莉自身も少し驚いてしまう。だが、それは彼女が関わるべきことではない。自分とは大して関係のない話だ。今の立場では、せいぜい傍観する程度だ。加津也は、彼女にとってただの道化に過ぎない。そして辰琉も、彼女の手助けに過ぎず、本気で婚約者として考えたことはない。今に至るまで、緒莉は辰琉との結婚など一度も考えたことがなかった。笑わせる。もし結婚するとしても、相手が辰琉であるはずがない。少なくとも、顔立ちは京弥よりも優れていなければならない。紗雪が持っているものは、自分も必ず手に入れる。少なくとも、紗雪に負けるわけにはいかないのだ。美月は、緒莉を叱りつけた後、内心では少し後悔していた。だが、いったん口にした言葉を簡単に引っ込めるわけにもいかない。馬鹿じゃあるまいし、自分の言葉をすぐ撤回するなどできるはずもない。だから彼女は、先ほどの言葉に沿って続けた。「もういいわ。紗雪と西山の件は、もう過ぎたことよ。いちいち蒸し返さないで。意味がな

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第646話

    緒莉は、病院で起きた出来事を一から十まで美月に話し始めた。院長が京弥に対して見せた態度や、京弥の傲慢な様子――それらは、彼が紗雪を騙していたという重要な証拠だ。紗雪がこの事実を知っているのかどうかは分からない。けれど緒莉は思い出した。以前、京弥は自分たちの前で、一度も「家が金持ちだ」なんて言ったことがなかった。しかも、京弥の実家が何をしているのかも、彼女はずっと聞いたことがない。ひとつひとつの出来事が、緒莉を次第に興奮させていく。これって、京弥の秘密を知っちゃったってことじゃない?緒莉は、普段の京弥の傲慢で尊大な態度を思い浮かべた。今や彼女は、相手の秘密を握っている。これなら、その秘密を利用して相手を操れるのではないか――そう思った。緒莉はさらに言葉を継いだ。「お母さん、この病院、M州ではすごく有名なの。よく考えてみて。あの椎名、きっと私たちに隠してることがあるのよ。そうじゃなきゃ、あの院長が言いなりになるわけないじゃない。きっと後の勢力が原因よ」それを聞いて、美月も確かに一理あると思った。「それで、緒莉はこれからどうするの?」美月は今、心から緒莉が次にどう動くのか気になっていた。こんなにも真剣に娘の話を聞くのは、久しぶりのことだった。これまで美月は、緒莉の身体が弱いからと、あまり期待もしていなかった。だからこそ、今回の緒莉の考えを知りたいと思ったのだ。それに、緒莉はいま海外にいる。つまり、彼女は紗雪の現状を直接知ることができるということではないか。なぜだか美月の胸は、少し高鳴っていた。紗雪を思わないわけではない。けれど、こんなにも長い間、美月自身も心身ともに疲れ切っていた。どうやって心配してやればいいのか、どうやって労わればいいのか――それさえ分からなくなっていたのだ。紗雪はもう大人で、自分なりの考えも持っている。緒莉と比べて、美月は紗雪のほうが安心できると感じていた。たとえ紗雪のほうが年下であっても。それでも、この長い時間の中で、紗雪への愛しさと痛ましさは、確かに増していた。そんな美月に向かって、緒莉は真剣な声で言った。「お母さん、椎名が私を中に入れたがらないってことは......もしかして紗雪をわざと閉じ込めて、私たちの知らな

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第645話

    彼女は軽く咳払いをし、あらかじめ準備していた言葉を口にした。「そんなに焦らないでよ、お母さん。言いたくないわけじゃなくて、どう切り出せばいいか分からなかったの」それを聞いた美月は、思わず背筋を伸ばして身を起こした。語気には、歯を食いしばるような苛立ちが滲む。緒莉は、いったいどういうつもり?こんなに長い間、たった一言さえ言えないなんて。美月の忍耐はとうに切れていた。「言いたくないなら切るわよ」「ちょっと待ってよ、お母さん!」緒莉はタイミングを計り、言葉を続けた。「お母さん、実は......私、紗雪のことがすごく心配で......それで、どうにもならなくて、こっそり国外に来ちゃったの」美月は、その言葉の中にあった矛盾を即座に捉えた。「紗雪がどの国にいるか、どうやって分かったの?」緒莉の胸が「ドキリ」と跳ねた。さすがお母さん、すぐに自分の言葉のほころびを見抜く。そして、瞬時に問い返してくる。だが緒莉も、余裕のある調子で答えた。「今は交通も情報も発達してるでしょう?本気で調べようと思えば、調べられるのよ。それに、私は妹のことが心配なの。こうして一刻も早く見つけられたんだから、それが一番いいじゃない」その言葉を聞いて、美月はそれ以上追及しなかった。彼女は分かっていたのだ。この娘は、まるでタヌキのような子だということを。話をしているうちに、気づけば相手の術中にはまり込んでいる。しかも、はまっていることにすら気づかないのだ。それが、一番恐ろしい。だが今の美月には、そんなことを気にしている余裕はなかった。「じゃあつまり、あなたは紗雪の状況を知ってたのね?」美月の関心は、もはやそれだけだった。それ以外のことに心を割く暇もない。もう長いこと、紗雪の顔を見ていない。この娘への思いは、後悔ばかりだった。緒莉が幼いころから身体が弱く、そのぶん注がれた愛情は多かった。だからこそ、紗雪へのケアはどうしても手薄になってしまった。そのことを、美月自身も分かっている。けれど、どちらも自分の子。緒莉を見捨てられるはずがない。必然的に、健康な紗雪にばかり負担がかかってしまったのだ。もし清那がこの事実を知ったら、きっと黙ってはいないだろう。「どういう意味?」

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status