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第681話

Author: レイシ大好き
この言葉を聞いて、清那の心はようやく少し楽になった。

紗雪の言う通りだ。

あの子猫は、お腹を空かせたまま去ったわけじゃない。

撫でられ、ごはんももらってから去っていったのだ。

清那は真剣に写真を見つめ、心の中でそっとつぶやく。

ねこちゃん、来世でまた会いましょう?

「紗雪、私が退院したら......あの子を見に行ってもいい?」

幼い紗雪はもちろん即答する。

「もちろんだよ。でも、そのためにはちゃんと体を治さないと」

「わかってる。約束したことは必ず守るから」

清那はこくりと頷き、ふとあの三人のことを思い出す。

「紗雪、あの人たちは......どうなったの?」

その問いに、幼い紗雪の表情がわずかに曇った。

紗雪も横でうつむいている。

この無力感を、清那はよく知っていた。

今の幼い紗雪も、まさにその時の自分と同じ気持ちなのだ。

本当にどうしようもない。黒幕すら突き止められない。

過去も、これからも、そして今も......

そう思うと、紗雪は強い挫折感に襲われた。

自分のような人間が、本当に清那の友達でいていいのだろうか。

あんなに一生懸命助けてくれているのに、自分は黒幕の正体すら掴めない。

自分なんて、なんの役にも立たないじゃないか......

今の幼い紗雪と紗雪の心境は、まったく同じだった。

二人して、まるでおそろいのように頭を垂れている。

清那はその様子を見て、事情を察した。

しょんぼりしている幼い紗雪に、ただ微笑みを浮かべると、

上体を少し起こし、そのまま彼女を抱きしめ、優しく背中をぽんぽんと叩いた。

幼い紗雪のこわばっていた身体は、その拍子にふっと力が抜け、気持ちもずいぶんと和らいだ。

「清那......」

清那は首を振る。

「いいの、紗雪。分かってるよ、全部理解してる。

紗雪はいつも私に良くしてくれてる......それに歳は私とそう変わらないのに、もう十分すぎるほど背負ってるじゃない」

清那は幼い紗雪の手を握り、真剣な眼差しで見つめる。

「だから、自分にプレッシャーをかけないでほしいの。まだ若いんだから。

私たちの人生はまだ長い。今は真相が分からなくても、きっといつか分かる時が来る」

清那はきらきらとした瞳で紗雪を見つめ、その表情には揺るぎない信頼が宿っていた。

まるで、世界のすべてを託し
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