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第767話

作者: レイシ大好き
人々も一斉に沸き立った。

生命探知機の数値が変わるということは、生存の可能性が高まった、という証だ。

彼らはみんな、祖国の未来を担う花。

まだ十数年しか生きていない子どもたちが、こんなところで命を落とすなんてあってはならない。

だからこそ皆は必死に瓦礫を掘り進めた。

一刻も早く、生徒たちを救い出すために。

瓦礫の下では酸素がどんどん薄れている。

今はまさに時間との闘いだった。

一分一秒の遅れが、生存の確率を大きく削ってしまう。

そのことは誰もが分かっていた。

だからこの場にいた全員が、力を合わせて一つの方向を掘り進めた。

最初は頼りなく見えた校長でさえ、今は瓦礫を抱えて必死に外へ運び出している。

生徒たちに少しでも多くの生存のチャンスを与えようとして。

美月もその姿を見て、伊藤に声をかける。

そして自分も手を伸ばそうとした。

伊藤は慌てて止める。

「奥様、ここは休んでください。こういう作業は、私たちがやりますから」

しかし美月は毅然と言い返した。

「うちの子がまだ下にいるのよ。私にじっとしてっていうの?

止める暇があるなら、瓦礫を一つでも多く外に運んでちょうだい」

その言葉に伊藤は恥じ入り、深く頭を下げた。

「おっしゃる通りです。私の考えが浅はかでした」

自分の非をすぐに悟った彼を見て、美月もそれ以上は責めなかった。

「いいわ。それより今は人命が最優先。他のことは全部後回しよ。生徒たちが無事に出てきてこそ、未来が広がるのだから」

その言葉は多くの人の心を打ち、救助の手にさらに力がこもった。

やがて京弥の頭上の瓦礫がついに取り除かれる。

いくつかの破片が彼の体に落ちてきたが、それは大した問題ではなかった。

川島先生がその姿を目にした瞬間、感極まったように叫んだ。

「見えた!生徒の頭が見えてきましたよ!」

皆の手はますます早くなった。

数メートル掘り進めたところで、ようやく京弥に光が差し込んだ。

だが彼は助け出されるや否や、瓦礫の壁を指差して言った。

「先に紗雪を......あの向こうにいます!」

「紗雪」という名が出た途端、美月の目が大きく見開かれる。

すぐさま救助隊に向かって叫んだ。

「そっちよ!」

思いもよらない幸運だった。

それほど時間もかからずに、娘のいる場所へ辿り着けそうだ。

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