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第807話

作者: レイシ大好き
たった一言だけで、清那にはすぐに分かった。

中にいるのが誰なのかを。

そして最終的に、京弥の確信に満ちた眼差しから、彼女ははっきりと知った。

自分の親友、つまり紗雪が、とうとう目を覚ましたのだと。

その瞬間、清那の全身は歓喜で満ち溢れた。

あまりの嬉しさに涙が出そうになり、次の瞬間には京弥を押しのけて中へ駆け込もうとした。

元気な紗雪の姿が見られるなんて、もういつぶりだろう。

本当に奇跡のように感じだった。

しかし、京弥はすかさず清那の両手いっぱいの荷物をつかみ、その場で彼女を扉の前に押しとどめた。

「待った」

その声に、清那の眉間に苛立ちが走る。

今こそ一番大事な瞬間なのに、どうしてこの従兄は邪魔ばかりするのか。

ようやく会えるのに、ここまで来て止めるなんて――空気が読めなさすぎる。

そう思うと、清那の視線はだんだんと険しくなっていった。

以前は「うちの従兄は気が利く」とずっと思っていたのに......

今、その言葉を取り消したくなった。

それどころか、日向でさえ京弥の態度に違和感を覚えていた。

まるで彼らを門前払いするかのように立ちはだかる姿は、一体どういうつもりなのか。

自分もずっと紗雪の目覚めを待ちわびていたのに。

やっとその時が来たのに、目の前でこうも阻まれるなんて――

胸の底から不快感がこみ上げてくる。

「自分は会えたのに、他の人は会わせないつもりか?いくらなんでも理不尽すぎるだろう」

言い返そうとした日向だったが、京弥の鋭い視線と真正面からぶつかった途端、喉にまで出かかった言葉を慌てて飲み込んだ。

あの殴り合いの記憶はまだ鮮明だった。

散々痛い目を見たばかりで、もう二度と軽率に逆らう気にはなれない。

紗雪のこととなれば、京弥はまるで狂犬のように譲らない。

その事実は嫌というほど理解していた。

ここは病院だ。

余計な騒ぎを起こすのは得策ではない。

だから今は、出しゃばるのをぐっと堪えるしかなかった。

ただ......

日向はふと視線を落とし、自分の前に立ちふさがる清那の背中を見つめた。

胸の奥がじんわりと温かくなる。

ずっと一人で背負ってきた。

誰かに守られるなんて考えもしなかった。

初めて誰かが自分を庇ってくれている。

清那は、本気で自分を「友達」だと思ってくれているのか?

そん
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