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第814話

Author: レイシ大好き
紗雪はとても無邪気に笑った。

まるで、そんな京弥を少しも疑っていないかのように。

その様子を見て、清那は口を開きかけて、結局言葉を飲み込んだ。

こんなこと、やっぱりよくないんじゃないか。

大事な友達を、従兄と一緒になって騙すなんて。

どう考えても気が咎める。

けれど、どう言えばいいのかもわからなかった。

結局のところ、それは二人の問題であって、自分はあくまで部外者に過ぎないのだから。

そう思った清那は、結局何も言わないことに決めた。

ただ笑ってごまかすしかない。

「さすが兄さん。人脈が広いんだね」

清那の視線を受けて、京弥もまた笑みを浮かべ、軽く頷いた。

「たまたまだよ」

目が合った瞬間、清那の体がびくりと震える。

やっぱり自分は駄目だ。

物心ついた頃から刷り込まれた印象は、今も制御できない。

従兄を前にすると、どうしても怖くなってしまう。

自分ではどうにもならないのだ。

その従兄は確かに驚くほど整った顔立ちをしているが、無表情の時の圧は本当に恐ろしい。

今日、日向を連れてここに来たのだって、相当な勇気を振り絞った結果だった。

まして、日向の前で京弥に食ってかかった時なんて、実際は足がずっと震えていたのだ。

紗雪に会って、ようやく少しだけ気が楽になった。

もっとも、それは後になってからのことだが。

紗雪は手を振って言った。

「残りは、私の体がよくなってからにしましょう。

それに姉のことだって、すぐに片がつく話じゃないし」

あの記憶を見てから、紗雪は緒莉に対する見方をすっかり変えざるを得なかった。

十代の少女が、あそこまでやってしまえるなんて、想像もしていなかったのだ。

今や大人になった彼女なら、もっと恐ろしいことをするのではないか――

そう思うと、紗雪の目は一層暗く沈む。

京弥はもちろん、清那でさえも彼女の変化に気づいた。

清那は慌てて話題を逸らす。

「そうね。まだ完治してないし、考えすぎるのも体に毒。退院したらまだ一緒に考えよう」

「うん、わかった」

紗雪は、目の前の太陽のような清那を見て、心の奥が温かくなるのを感じた。

今まで、清那を誤解していた。

記憶を見たあと、ますます彼女が愛おしく思えてならなかった。

あんなに強がって笑っているのに、本当はあまりにも多くのことを背負ってきた子だ。

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Mga Comments (1)
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敬江
京弥が身分を隠す意味がわからない。 病室ネタで5話、6話は長すぎる。 細かい描写ばかりで飽きてきます。
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