LOGINあれから一週間後。 今の私の手元には、ピンキー野郎の服と、銅貨が二十枚ちょっとある。 一週間、皿洗いで、みっっちりと働いた。 そして、なぜこんなにも単価が安いのか、働いていく内に分かった。 魔法だ。 ここの囚人には、当たり前のように魔法が使える術が備わっている。 ピンキー野郎から、レモンとかいうクソビッチに至るまで、みんな魔法が使える。 だから、皿洗いに関しても、あの量を片付けるのなんて、基本的な水の魔法を使えば簡単なのだ。 足元を見てたわけじゃなくて、それだけ簡単だから、単価が安いのである。 そうとは知らない私は、一週間、一枚一枚泡まみれになって皿を片付けていた。 周りのヤツらには、お前魔法すら使えねえのかよ!とバカにされまくったが、めげずに一週間通い続けた。 おかげで風呂に入れなかった分、皮肉にも泡まみれになったことで、ちょっとだけ体は綺麗になった。 で、今現在。 その成果が、目の前にあるわけだが。 「銅貨二十枚ありゃ、パンは買えるけど、一日二食分買ってたら一瞬で底が尽きるよな……。」 そう、食べ物を買うにしても、仕事一週間に対して、二、三日そこら辺の食事しか買えないことを思うと、コスパが悪いこと悪いこと。 うーん…一回で何食分か持つ方法はないものか……。 「…なんか甘い物食べたいな。」 色々、小さい脳みそを使って考えはしたが、まずは一週間頑張ったし…と、もう無駄使いの方向性へ傾いてる。 でも、買いたいものは、ケーキとかクッキーとかのお菓子ではなく、実は例のヨウシュナシ。 あれは行く店によっては、銅貨一枚で買える。 モニカと行っていた八百屋では、少なくとも銅貨一枚あったら、丸々一個買えてた。 だから、この銅貨があれば、少なくとも二十個近いヨウシュナシが手に入る。 「一個くらい良いだろ…頑張ったし。」 甘ったれた自分の意思に抗いが付けられず、結局私は懐に銅貨が入った袋を持って、食堂に出かけた。 目指す先は、コムハニーカウンターのオッサン。
「痛っ……」 ブツ、と皮膚がガラス片で裂かれる感触と同時に、スウッと数秒でなくなっていく切り傷。 やはり、コムハニーの能力で得た力は本物らしい。 こうして、その辺に落ちてたガラス片で皮膚を裂いても数秒の内に元通りになる。 ただ、一つだけ気になったことがある。 「……貧血かな…。」 そう、多分、再生させること自体に、『血』そのものが必要になってくるんじゃ?ということ。 なんでかって言うと、私はコムハニーの能力を確かめるために、さっきまで痛みを我慢して、自分を傷つけまくってた。 地雷系娘のように、めっちゃリスカして、めっちゃ再生させてた。 一度、四肢を切断というか、体を八つ裂きにされた身なので、皮膚をちょっと切るくらいなんだという倫理観になってきてる。 その弊がいか、なんか、貧血の時に来る体調不良が自分に襲いかかってきていた。 頭のモヤモヤ、めまい、体が怠いだとか。 あと、座ってるのに、重心が安定しなくてフラフラする。 ちょっとモロな話、生理の時とかにくる貧血の症状とよく似てるのだ。 今の私は食屍鬼なので、そういうのはないんだけど、元の世界にいた時は、それを幾度となく体験してきた。 なので、多分再生させるごとに、私の体は血を消費して、皮膚を作っているのではないか…? と、こんな見解に至ったのだ。 「…でも…この分だと、何回か怪我したら自動的に血を使って再生するわけだから、すぐに貧血になるな……。」 やっぱ、そこら辺の性能は、失敗作と言われる食屍鬼とだけある。 さっきボコられた時と、今の自傷回数的に、大きな怪我を一つしたらすぐに貧血になると思う。 血があれば自動的に再生しちゃうから、この怪我の治癒、ちょっと待った!とかも出来ない。 「……。」 やっぱり図体がデカイ方が、持てる血の量も、その分多くなるよなぁ……。 うーん……。 自分の小ささにはメリットもあるし、デメリットもある。 ぶっちゃけ食屍鬼ってゾンビだし、生きてるモノの血を吸うだけなら何でも良かったりしないかな……。 「あの吸血鬼みたく、誰か血袋になってくれる便利なヤツとか、いないかな……。」 そんなことありえねーだろと思いつつ、部屋の隅で大の字に寝っ転がる。 あの吸血鬼は、モニカや他のメイド達を血袋兼、お世話係として雇っていた。 言い方は悪いが、私も同じ
ドンドンドンドン!! ドンドンドンドン!! 「!?」 不意に嫌な夢を見て魘されていた所を、大音量のドアノックで叩き起された。 「おい、食屍鬼!まだ寝てんのかぁ!?」 この声は、恐らく昨日の臭い犬看守だな。 ボリボリと頭を掻きながら、ガチャ、とドアを開ければ、むわっと獣臭い嫌な臭い。 「ヴ……」 ちょっと嘔吐きそうになるのを、気合いで誤魔化し、何の用だと不細工な面して、看守を見上げた。 「おお、良い朝だな。ほらよ、返してやるよ。コレ。」 犬の看守は、ポイッと私に何かを放り投げてくる。 それが何かを確認する間に、 「さってと〜、レモンちゃんのとこにでも行くかな〜♡」 と、看守はキモイ声を上げてスタスタと行ってしまった。 お気に入りの娼婦のとこに行くついでに、“コレ”を届けに来たらしい。 私の手の中にあったのは、モニカのジュエリーボックス。 あの夜の後、私はどうやら、このアバンスプリズンに運ばれ、蘇生されたらしい。 否、蘇生というか…なんというか……。 あの犬看守から話を聞かされた所、私の記憶と相違があったのだ。 まず、あの吸血鬼について。 あの野郎は、件の雨の夜に既に死亡していたらしい。
ガシャン!と無慈悲に響いた鍵の閉まる施錠音。 特殊な手錠をされ、私が連れて行かれた先は、カビ臭い、小さなボロ部屋だった。 「今日から、ココがお前の部屋だ。食事は一日二回。食屍鬼のお前にもコムハニーが出る。」 感謝することだな。と、嘲るように呟く看守の男。 当然のごとく、看守の男は人間じゃないし、えげつないほど獣臭い。 犬の獣人らしいが、風呂入ってんのか、コイツ。 心中で悪態を着くものの、食屍鬼の非力な女では太刀打ちなぞ出来るはずもなく。 無慈悲に部屋にぶち込まれて、ドアを閉められた。 救いなのは、私が“囚人”じゃないってことだけ。 私の今いるこの場所は、いわゆる『監獄』。 コムハニー中毒の中でも、特に素行の悪いヤツらが集まる場所。 厳密には監獄と言っていいのかは怪しいけれど……されど中の様子を見れば、そうだと言われても仕方がない。 逆にそれが正しいまである。 “アバンスプリズン” そう呼ばれるこの場所は、一応、本当に一応説明すると、更生施設らしい。 私が働いていた、あの吸血鬼の屋敷が位置する国は、連邦系の国だという話をどこかでしたと思う。 あの臭い看守が言うには、ここは、そんな国の軍人や、やらかしたコムハニー中毒者が、社会復帰を目指す場所、だそうです。 プリズンとか付いてる時点で、更生出来るかは、お察しって感じなんだけど。 「………。」 ぶち込まれた薄暗い部屋を見渡しながら、私は掃除をするでもなく、とりあえずベッドを探した。 もう、今日一日で散々嘲られ、馬鹿にされ、挙句の果てには、ここで娼婦としてやっていけと。 未だ、自分に突き付けられたこの事実が受け止めきれない。 一度寝て、現実逃避がしたいと、ベッドと思わしきものを探したのだが……。 「うぇ……まさか、これがベッド……?」 ようやっと、シーツと思わしきモノを見つけたと思いきや、それは、乱雑に床に敷かれた布切れ達。 しかも湿気てるし、イカ臭ぇ……。 私が来る前に、この部屋にいた娼婦が、体躯のデカイ女だったらしい。 自分の体躯と合った男とヤるワケだから、その衝撃を逃すためか、何枚も何枚も布切れが敷かれている……。 てか、臭いどころか、ロクに洗濯もしてないらしく、布がカビてる……。 「オェ……」 ゲロ
この世界へ転生してから五年。 まずいことになった。 何がダメって、あの吸血鬼野郎、どうやら違法なモノをこの土地で密輸しようとしていたらしい。 私もモニカから話を聞いたから、未だに事情が飲み込めてない。 だが、仕事の出張に見せかけて、実は秘密裏に何か別のモノを懐に収めようとしていたらしく、それが何らかの理由で外部に漏れたらしい。 なんか、今回の仕事相手が、吸血鬼に加担していたらしいが…。 荷物を運ぶ予定だった人間が、なぜか別の人間にすり変わっていたらしく、それが混乱を招き、外に情報が漏れたのだと。 そのため、国家権力を持つ人間達が、真っ先にそれを嗅ぎ付けてしまった。 あの吸血鬼や、それに噛んでいた連中を捕まえようと動き出しているらしく、私やモニカはバカンスを楽しむ前に、逃亡するハメに。 慌てて屋敷に帰って隠蔽工作をするべく、馬車に揺られている状態だった。 「ったく、面倒なことになっちまったもんだよ。」 馬車の外を眺め、ブツブツ文句を言ってるモニカ。 それもそのはずだ。 独立のための金を貯めてる最中に、金の発生源が厄介事に手を出していたなんて。 モニカからしてみれば、クソが!って感じだろうな。 「触らぬ神に祟りなしって思ってたけど…やっぱり、一定数知っておかなきゃならないこともあるもんだね。」 こうなるまで全く気付かなかった。 屋敷内や、屋敷外でも、あの吸血鬼の悪どい部分なんぞ、嫌という程聞いてきたから。 「“人間”から“吸血鬼”になって暇なのは分かるがね、限度ってもんがあるよ。」 「…?」 え、人間から、吸血鬼……? あの男、元から吸血鬼だった訳じゃないのか…? ここへ来て、異世界の新情報を耳にした。 この五年間、メイドの仕事に追われるばかりで、情報源は全部モニカからの話だった。 偏りが出てしまうのは仕方ない。 他の連中は、私が食屍鬼だからと、マトモに口を聞いてくれたこともないから。 「ねえ、モニカ…その、あの人って元から吸血鬼だったんじゃないの…?」 「はぁ?…ああ、そういや、アンタは元から食屍鬼だったんだか。」 一瞬、怪訝な顔になったものの、知らないのも無理はないと、モニカはため息混じりに説明を入れてくれた。 「旦那様は、厳密には元人間さ。『コムハニ
さて、この世界に、食屍鬼、いわゆるゾンビとして生を受けてから、はや数週間。 集めた情報をここで整理してみよう。 まず、私が爆誕した、この屋敷、この場所について。 私が今いる屋敷は、『ヴェルヴァン邸』と呼ばれる、吸血鬼が住んでいる大きな家だ。 家主の吸血鬼なる者が、あの燕尾服男。 読んで字のごとく、燕尾服男の種族は吸血鬼、またはヴァンパイア。 ヴァンパイアが住む土地柄とあって、この辺りはいわゆる魔物系が統治する国々が連なっているのだとか。 私の住んでいた現代で言うところの、連邦というやつ。 そして、上流階級は基本、人間ではなくそういう人外達が大半らしい。 実にファンタジックである。 あの燕尾服男は、かなり悪趣味な性悪である代わりに、仕事なら出来るらしい。仕事だけなら。 なので、格式のある貴族の立ち位置なのだと、メイドさん達が話しているのを聞いた。 ちなみに、私をおんぶしてあっちこっちに仕事しに行ってる件の優しいお姉さんメイドは、『モニカ』という名前らしい。 私と違って、モニカはちゃんとした人間。 というか、あの吸血鬼は綺麗な娘の血が好きなので、メイド兼、それ用に雇われているらしい。 はっきり言おう、キモイね。 良い歳こいて綺麗な娘の血が好きって言う、この部分。 健康な人間の血とかじゃダメなの?って聞きたい。 「はぁ…全く、人使いが荒いこと。子守りに掃除に、買い出しなんて…ったく。」 モニカは相変わらず私をおんぶして、ぶちぶち文句を呟きながらも、しっかりとやることはこなしていた。 出来るメイドというヤツである。 なんつーか、モニカは姉御肌気質な所がある。 面倒見が良いのだ。 多分、買い出しに応じたのも、半分は外に出ることで、私というエケチャンの発達を促すためだろう。 買い出しがてら、外の景色を見せることで、刺激になるからエケチャンの成長にちょうどいい。 しかも、中身が成人女性なら、屋敷外がどんな感じかが分かるチャンス。 未だ文句を垂れながら、行きつけの商店街で買い物をしているモニカの背中に揺られ、私はキョロキョロと周りを見渡していた。 当たり前だが、異世界なので、見たこともない食べ物や雑貨、洋服など、様々なモノが売られている。 モニカはその中で、お菓子作