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3、不穏

Auteur: kgn_neko
last update Date de publication: 2026-08-26 23:06:18

この世界へ転生してから五年。

まずいことになった。

何がダメって、あの吸血鬼野郎、どうやら違法なモノをこの土地で密輸しようとしていたらしい。

私もモニカから話を聞いたから、未だに事情が飲み込めてない。

だが、仕事の出張に見せかけて、実は秘密裏に何か別のモノを懐に収めようとしていたらしく、それが何らかの理由で外部に漏れたらしい。

なんか、今回の仕事相手が、吸血鬼に加担していたらしいが…。

荷物を運ぶ予定だった人間が、なぜか別の人間にすり変わっていたらしく、それが混乱を招き、外に情報が漏れたのだと。

そのため、国家権力を持つ人間達が、真っ先にそれを嗅ぎ付けてしまった。

あの吸血鬼や、それに噛んでいた連中を捕まえようと動き出しているらしく、私やモニカはバカンスを楽しむ前に、逃亡するハメに。

慌てて屋敷に帰って隠蔽工作をするべく、馬車に揺られている状態だった。

「ったく、面倒なことになっちまったもんだよ。」

馬車の外を眺め、ブツブツ文句を言ってるモニカ。

それもそのはずだ。

独立のための金を貯めてる最中に、金の発生源が厄介事に手を出していたなんて。

モニカからしてみれば、クソが!って感じだろうな。

「触らぬ神に祟りなしって思ってたけど…やっぱり、一定数知っておかなきゃならないこともあるもんだね。」

こうなるまで全く気付かなかった。

屋敷内や、屋敷外でも、あの吸血鬼の悪どい部分なんぞ、嫌という程聞いてきたから。

「“人間”から“吸血鬼”になって暇なのは分かるがね、限度ってもんがあるよ。」

「…?」

え、人間から、吸血鬼……?

あの男、元から吸血鬼だった訳じゃないのか…?

ここへ来て、異世界の新情報を耳にした。

この五年間、メイドの仕事に追われるばかりで、情報源は全部モニカからの話だった。

偏りが出てしまうのは仕方ない。

他の連中は、私が食屍鬼だからと、マトモに口を聞いてくれたこともないから。

「ねえ、モニカ…その、あの人って元から吸血鬼だったんじゃないの…?」

「はぁ?…ああ、そういや、アンタは元から食屍鬼だったんだか。」

一瞬、怪訝な顔になったものの、知らないのも無理はないと、モニカはため息混じりに説明を入れてくれた。

「旦那様は、厳密には元人間さ。『コムハニー』の話はしてなかったか。」

それもされてない…。

だが、私の母親の女が、ハニー中毒で、食屍鬼と交わって〜みたいな話はチラッとされたな……。

「この世界にはね、『コムハニー』っつー、人間に『トクベツな力』を与える厄介なモノがあるのさ。」

「コムハニー…?」

聞いてる限りじゃ、単なる凄い蜂蜜にしか聞こえないが…。

「正式名称は、『ヴァイオネットコムハニー』。とある蜂から取れる蜂蜜のことだ。」

「ヴァイオネットコムハニー…」

「コムハニーはその蜂からしか取れない蜜。だが、莫大な可能性を秘めてる凶悪なモノ。」

モニカが言うには、政府のお偉いさんが、コムハニーの成分を調べて見たら、いわゆる、人間を進化させるためのエネルギーが大量に含まれていたのだと。

それらを摂取した人間は、皆例外なく、常人には手に入らない力を持つ。

それこそ、異世界でしか聞かないような、吸血鬼、エルフやドラゴン、獣人、人魚などなど。

ここにあげたのはあくまで一例であり、種族的にはまだまだ沢山あるのだとか。

「コムハニーは国に貢献した人間や、或いは国の兵隊さんになった時に与えられるものだ。」

「特別な役職じゃないと、貰えないの?」

「ああ、そうさ。それこそ爵位なんかを持ってなきゃ、無理だろうね。」

…そういや、この世界って、主に人外が爵位を持ってたり、高給取りであることが多い。

政府を支える役職を持った者が、人外だと思っていたが、そうじゃなかったのか。

正しくは、政府を支える役職を持った者に、コムハニーが与えられるって話だった。

「コムハニーは無限に作れるワケじゃない。さっきも言ったろ、ある蜂からしか取れない特別な蜜だって。」

「その蜂って言うのは…」

「アタシも図鑑とかでしか見た事ない。けど、本には銀色の蜂だって書いてあった。」

刺されると銃剣で肉を抉られたような痛みがあるから、ヴァイオネットワスプなんて呼ばれてるらしい。

そんな危険な蜂であれど、特別な蜜を生成する蜂となれば、当然保護され、培養される。

そして、コムハニーが作られると、爵位を与えられた者や、お国関連の職で功績を持つ者に、褒美として配当される。

文字通り、あの吸血鬼のような、トクベツな力を与えられるのだ。

「たった一口だけで、旦那様みたいになっちまうらしい。だが、何の種族になるかは、本人の素質次第だそうだ。」

「運ゲーじゃん…」

ガチャ運とも言う。

食べないと、何になるか分からないって、怖いな……。

本人に素質があっても、“ハズレ”の種族になっちゃうこともあるんだろ、ソレ…?

「吸血鬼は当たりの方だし、もっと行けば、ドラゴンなんかもそうだね。少なくとも、一番の大当たりはドラゴンの種だ。」

「まあ、そうだよね。」

ドラゴンとか、龍とかって、ファンタジーの王道中の王道だし。

「そん中でも“最上位の種”に当たったら、国としては儲けモンだろうよ。」

「ドラゴンに最上位とかあるんだ。」

「海のドラゴン、リヴァイアサン。陸のドラゴン、バハムート、空のドラゴン、ジズ。この三種の内どれかに該当すりゃ、生活にゃ一生困らない。」

「へー……」

国からして見れば、文字通り、喉から手が出るほど欲しい種ってことか。

「ま、この国でドラゴンの種が出たっつー話はチラホラ聞くけど、そんな上位種が当たった話は全く聞かないね。」

「あくまでおとぎ話ってことか……。」

「毎回そういう、吸血鬼やらドラゴンやらが出てくれりゃいいんだがね。コムハニーは一度食えば、二度と人間には戻れない。」

「……中毒性があるみたいな話、チラッとしてたよね?それと関係ある?」

モニカはふんッと鼻を鳴らして、「大アリさ。」と怪訝な顔をした。

「コムハニーは一度口にすると、定期的に摂取しなきゃならない。そうじゃないと与えられた力が、衰えちまうんだよ。」

「人外なのに、人間みたいになっちゃうのか…」

「それだけなら良かったんだがね。コムハニーに含まれる特有の快楽物質のせいで、薬物中毒みたいな症状も出てきちまう。」

「……。」

怖い……。

あまりの闇深さに、私が黙ったのを他所に、モニカは話を続けていく。

「コムハニーの摂取を止めりゃ、最後に待ってるのは死だろうね。それが起こらないように、国からコムハニーが支給されるんだから。」

「それって、貰ったら必ず食べなきゃいけないの?」

「いや、選択権は貰った側にある。だけど、言わなくても分かるだろ?」

唯一のデメリットである中毒症状も、国から支給されるコムハニーがあるから心配ない。

食べれば、人間を超越した存在になれる上に、更にドラゴンとかいう、特別になれる可能性すら秘めてる。

そんな可能性を、わざわざドブに捨てる人間はいないだろって話。

「ま、その可能性も、時々、牙を剥くがね。」

モニカの一言に、私は「え?」と黙っていた状態から、声をあげる。

「食屍鬼さ。アンタを散々苦しめてきた食屍鬼の種。コムハニーは高確率で人間に力を与えるが、その可能性から外れた人間は、食屍鬼になっちまう。」

「……もしかして、私が今まで邪険にされてきたのって、」

「そう、アンタが食屍鬼だからだ。」

ここへ来て、嫌な事実を明かされたものである。

聞かなきゃ良かった。

いや、聞いて良かったのかな…信頼の置けるモニカの口から、ハッキリ聞ければ、受け入れは正直容易いかも……。

「どんだけ国に貢献したとしても、食屍鬼になっちまえば、それも終わりさね。」

なんてたって、普通の人間にすら備わってる知能も力も、ゾンビ化して腐り落ちるんだから。

「見た目もアンタみたいに不気味に変貌しちまうし、噛まれりゃ、アタシ達人間はゾンビ化。言葉も通じるか怪しくなる。」

「……。」

「唯一の利点といや、元々力も知能もないんだから、コムハニーを摂取しなくても生きていけるって所かね。」

「仮にコムハニーで力を手に入れたとしても、大した戦力にもならないってことか……。」

だから、程度の低い雑兵とかになるしかない。みたいな話をモニカはしていたのか……。

「アンタは食屍鬼で、しかも女だ。雑兵にすらなれない。」

「ひょっとして、あの人が捕まったら結構やばい?」

認めたくはないが、自分の雇い主でもある、あの吸血鬼の存在。

「ヤバいなんてもんじゃないよ。最悪、アタシ達共々処刑されるだろうね。」

デスヨネー。

もうそれしか出て来ない。

元から顔が青いから、さらに青くなることも出来ずに、ただただ項垂れる。

「しかも、アンタは無駄に知能がある。下手に動きゃ、アタシ達より先に処刑されちまう。」

「あ、ああ…確か母親が人間なんだっけ…?」

コムハニー中毒とは聞いてたけど、どういうことだ…?

食べたら人外になるはずだよな…?

「旦那様はね、人外にならない程度の少しのコムハニーをアンタの母親に与え続けてたのさ。」

「うわ……」

思わず、ドン引きの声が漏れる。

薬物を売る時の売人みたいなことしてんじゃん、あの吸血鬼。

少しずつ違法なモンを与えて、欲しいなら金を寄越しな!って感じで、要求をドンドン悪化させていくヤツだろ、それ……。

ということは、食屍鬼と交わったのも……

「コムハニー欲しさにヤッちまったのさ。」

現代で言うところの、例の高額報酬案件じゃん……。

ヤギと性行為で一億円ってやつ……。

これが異世界では、ゾンビと性行為で、コムハニーにすり変わっただけ……。

どこの世界も、無駄に時間を持て余した金持ちが考えることは恐ろしい。

「とにもかくにも、今は屋敷に帰ることが先決さね。気をしっかり持ちな。」

「うん……。」

異世界の嫌な全貌を聞いてしまった気がして、私はしょんぼりと下を向く。

まさか人外だと思っていた者が、元は人間だったとは…。

とはいえ、蜂蜜を食べただけで、違う種になるって言うのは確かに異世界じみたものがあるな…。

「心配しなくても、アンタも連れてくよ。」

「ン?」

不意に窓の外に目をやっていたモニカが、私の方を見る。

「今回のことは、全部旦那様の独断だ。実際、アタシ達は出張に行くとだけしか聞かされてなかった。」

「そ、それはそうだけど……。」

「メイドが無関係だと分かりゃ、向こうもそこまで強くは出てきやしないだろ。」

もっと言うなら、旦那様が保釈金払って無かったことにしちまう可能性すらある。と、モニカは頬杖を着く。

「どんな結末になろうが、あの屋敷から出る時にゃアンタも連れてってやるさ。」

「モニカ……。」

「育てた分の借りは返してもらうからね。メイドの給金はアンタにも出てんだから、二人で出りゃ何とかなる。」

「……。」

私、アンタのことめっちゃ好きだ…。

男なら惚れてただろうな。

さ、ほら、しゃんとしな!と尻を叩かれた私は、改めて気を持ち直し、深呼吸するのだった。

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  • コムハニーゾンビ   10-3

    結局、あの後も火を消す課題をやり続けたが、クリアすることは叶わなかった。 べちゃりと地べたに突っ伏し、うんうん唸る私。 「体グラグラするぅ…」 絶対、血を使い過ぎたことによる貧血だ、これ…。 品がない言い方だが、生理の時ってマジでこんな感じだった…。 元の世界で、何度も経験したことのある、体の倦怠感とふらつき。 流石にここまで酷くはなかったが、されど血って大事なものなんだと今一度体感した。 「言ってる間にもう夕飯時か。日が暮れ出してるな。」 「ええ…」 ローザの言う通り、日は既に西に傾いている。 その影響で、辺りは薄暗く、寒さも心なしか強くなってる気がした。 「さむ…。」 日が落ちると急に寒くなる。 羽織っていたローザの上着を更に自分に引き寄せた。 「今日はもう止めとくか。俺も腹減ったし。」 「お前、私が火ぃ消そうとしてた時から、ずっと何か食ってなかった?」 バケツに入ったペーストの残飯を、昼から今に至るまでずっとスプーンで食ってた気がするんだけど…。 「あんな半液状のモンがバケツいっぱいあったって、腹なんか膨れねーよ。肉か魚が食いてぇ。さっきヨウシュナシも飲んじまったから、甘いモンも食いてえな。」 「身も蓋もないな…。」 しつこいようだが、やはりこの図体だしな…固形物が欲しいと言われたら、そりゃそうだとしか。 隣に立つと更にデカさが際立つ。 私の頭が、ローザの胸より少し下にしか来ないので、見上げる度に首が痛い。 「街案内は明日だな。俺、しばらくゴブリンのオッサンとこに顔出せねから暇だし。」 「あっ!、そういえばその件どうなったんだ?私、食堂とアパートしか行き来してないから知らないんだけど…。」 「あそこアパートじゃなくて寮だぞ。現状ゴブリンのオッサン共が劣勢だよ。最初は良かったんだけど、やっぱランカーと対立しちまったからな。」 「……。」 伊達にランカー張ってるワケじゃないと、ローザは喋りながら、食堂に向けて歩き出した。 「そもそも、エルダードワーフのオッサンが早めに嗅ぎつけて、手を打ってたらしくてな。」 ゴブリンをまとめるボスと、エルダードワーフのランカー、二人が『話し合い』に興じている間、部下のゴブリン共が鉱脈の一部を奪おうと動いていたらしいが

  • コムハニーゾンビ   10-2

    「フゥーッ…ゼェッ、ハァッ……ゲホッ……つ、疲れた……もうむりぃ……」 「魔力切れか?まだそこまで時間経ってねーぞ。」 「おいなに一人でメシ食ってんだよ!」 あれから数十分くらい。 目の前の課題を何とかこなそうとして、あれこれやっては見たものの、一向に炎は消えない。 当たり前だが、魔法で出来た炎だ。 単なる水をかけただけじゃ消えるわけないし、かと言って、私のカスみたいな魔法じゃもっと消えない。 その間、ローザは昼飯とバケツの残飯を取ってきて、その場でむしゃむしゃ食ってる。 クッソ、教えられてる立場とはいえ、なんか腹立つ! 「お前も食えばいいだろ。ずっとそこで課題こなせって言ってるワケじゃないんだから。」 ほらよ。と私の分の皿を差し出され、ぐっ……と怒りそうな自分がナリを潜めた。 前々から思ってたけど、コイツ結構、良い男だよな…。 女にモテると言われても、この性格ならそこまで違和感抱かないもん。 「メシは良いけど、喉乾いた……。」 ご飯を持ってきてくれたローザには悪いが、先に水が欲しい……。 「食いモンしかねえよ。それこそ自分で水出せねーのか?」 水の魔法使えんだろ?と目で訴えられたが、私は無理だと首を横に振る。 「出せるわけないだろ…魔法発現したての赤ちゃんだぞ、こっちは……。」 出そうとしても、血しか出ないよ。 ……あ、いや、ちょっと待てよ。 私が着ているローザの上着ん中に、確か……。 「?、なんだそれ。」 上着の中から出てきたのは、くっしゃくしゃの紙袋。 中を漁れば、出てきたのはヨウシュナシ。

  • コムハニーゾンビ   10-1

    「だから、手の中で温っためるんだよ、魔力を。そしたら出るんだよ、俺の場合。」 シュボッ!と手のひらから炎を出し、それを矢の如く簡単に撃ち出していくローザ。 炎はきちんとローザの目論見通りの軌道を描いて、的となるモニュメントへぶつかっていく。 対する私は何も出来ずに、みっともなく逆ギレ。 「コンビニ弁当みたいな感覚で言うなよ!知らねーよ!」 手の中で温っためるって何? 電子レンジか何かなの、お前の手。 「こんびにべんとうぅ?何だそれ?」 「いや別に……。」 「?、お前、明け透けな知識の割に、変な言葉知ってるよな。」 「うるせえ!黙れ黙れ!」 あれから数時間。 的当てになんか撃ってみろと言われたものの、一向に私の手からは何も出ない。 痺れを切らしたヤツが、魔法を出すコツ的なのを伝授してきたが、感覚過ぎて全然参考にならない。 「つか、属性すら分からねえんじゃ、対処の仕方も分かんねえ。お前結局、あん時、何の属性魔法使ったんだ?」 「属性って何…火とか水とかの話?」 ソシャゲみたいだが、実際ローザの話じゃ本当にそれっぽい。 「みんな出し方は違うんだよ、魔力の出力方法。俺は手の中で温めるけど、他の奴らは花を咲かす感覚とか、手の中で水を沸かすとか、そんなんばっかだ。」 「水を沸かす……。」 思えば、あの細長い線みたいなもの、色は完全な血液だった。 いや、食いちぎられた指から、意志を持って出てきてたから、血なの

  • コムハニーゾンビ   9-3

    訓練所跡地にて、ローザは適当な的の前に立つと、ポキポキと指を鳴らしながら呟いた。 「そういやお前、名前は?」 「名前ぇ…?」 名前ないな、そういえば。 この世界に来た時から、ずっと食屍鬼と呼ばれ続けてきたし、モニカからすら、アンタとか、食屍鬼って言われてたし。 特段、名前らしい名前はない。 「名前ないな…」 「はぁ?んなワケねえだろ、言いたくねえのか?嫌いな名前なら、適当に偽名名乗りゃ良いだろ。」 「うーん…」 そう言われると悩む。 ローザは訝しんでいるが、名前がないのは本当だし、今更決めるのもなんかな…。 「今まで通り食屍鬼でいい。本当に名前ないし。」 「食屍鬼はこの施設にもいんだよ、いちいち個体識別番号で呼んでたら混ざるだろ。」 「ああ、そうか。」 私は見た事ないけど、食屍鬼もこの施設にいんのか。 ゲーム開始地点の名前を決める所で、デフォルトネームがダメみたいな感覚に陥った。 「うーーーん……じゃあ、モニカで……」 「モニカ?」 「うん。モニカ。」 「お前、“聖女モニカ”知ってんのか。」 え、知らないけど。誰それ。 「誰?聖女モニカって。」 「逆に知らねえのに、なんでモニカなんだよ。」 「私が世話になった人の名前……いやちょっと待って、やっぱ知ってるかも、聖女モニカ。」 確か、モニカの名前の由来が、まんま聖女モニカからだった気がする。 『昔々にいたお姫様の名前を付けられるとはね。こんなのが聖女なんて笑わせてくれるよ、ったく。』 そう言って、一度だけ、モニカが話してくれたことある。 この異世界、この連邦国における、モニカという名前の由来。 コムハニーにより発足した、魔法を持つ元人間の人外達。 時折、それらは暴走したり、破壊したりで、国を壊しかねない存在となり得る者もいた。 特にドラゴン種なんかが、魔力を暴走させ、自我を失ったら、それこそ国が崩壊してしまう。 下手すりゃ、他国にまで被害が及ぶのだ。 そんな中で、暴走した者を唯一、魔法で鎮られる、文字通りの“聖女”がいたと。 聖女という役職には、種族は関係ない。 私の世界で言う所の、看護師とかと同じ。 そして、一際、暴走した魔力を鎮られるヒールの力が強いとして、連邦国で名を馳

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    「ずっと思ってたけど、お前魔法使えるんじゃねえか、何で嘘ついたんだよ。」 ボロい住処から外に出てすぐ、ローザが不服そうな顔で私に呟いた。 魔法?と一瞬首を傾げかけたが、すぐに“あの時”の赤黒い線のことだと思い立った。 「いや、私にも分かんない……」 「発現したてってことか?」 「多分…。」 あの赤黒い線がなんなのか、私にもよく分からない。 ただ、私の感情に反応して、行動を起こしていることは少し理解出来た。 そうでなければ、ローザに噛みちぎられた指がなんの痕も残すことなく再生するはずがない。 というか、この跡形もなく怪我が再生する能力、レモンにボコられた時もそうだったような…? 「発現したてってことは、まだコムハニーそんなに食ってないのか、お前。能力に目覚めたばっかって感じだな。」 「そうなの…?」 能力や魔法は、コムハニーの摂取量で変わるってことなのかと、私はローザを見上げる。 そういえば、ローザに着けたあの細い傷、もう治ってるな。 魔法で治したのかな。 「コムハニーを初めて食った後も、継続的に摂取しないと、そりゃ魔法は発現しねえよ。ここへ来た時に、カウンターで貰ったのか?」 「ああ、一回だけ…ガスマスク付けた猫耳のオッサンに貰った。」 「キメラのオッサンか、最近出張ってること多いな。」 「そういや、元々は医者だって言ってたような…。」 “俺、ここの担当じゃねえもん。”って言ってたな。 最近出張ってるってことは、それだけ治安も悪くなってきてるってことなんだろうか。 「普段は医務室にいんだ。腕は良いぜ。なんせランカー直々に金積まれてるほどだからな。」 「ふーん。」 まあ金持ちの生まれだし、その金をたっぷり使って、たくさん勉強して来たんなら納得ではある。 「でも、マトモに診てもらえんのは、ソイツらの部下か娼婦ばっか。金とかコムハニー持ってないヤツは、基本追い払われる。」 「…まあ、うん。」 そこら辺は甘くないんだろうな。 私も多分、怪我した時とかは診てもらえないだろうから、気を付けよう…。 「でも、あのオッサン、最初はアラクネの種で通ってたはずなんだよな〜。キメラだって知ったの、俺も最近なんだよ。」 キメラって割と珍しめだから、なんかコンプレックスで

  • コムハニーゾンビ   9-1

    ドンドン、ドンドン。 ふと、目を開ければ、もう部屋は明るかった。 いつの間にか、眠ってしまったらしく、誰かがドアを叩く音で目を覚ました。 けど、ノック音は、いつもみたいな乱雑で乱暴なものじゃない。 ドアを軽く叩いてるだけのもの。 しかし、誰であろうと今日は出る気にはならなかった。 昨日のことがあってから、どうにも人と会うのが億劫になってしまった。 監獄から出たいと思うのに、監獄のスラム街に建つこの部屋から出たくない矛盾。 「……。」 「食屍鬼、食屍鬼」 「…。」 ドアの向こうで知っている声がして、思わず布の中で顔を上げた。 ローザの声がしている。 ずっとドアの外で私を呼んでいる。 「怒ってんのか?、周りのヤツらから聞いたんだ、俺、メルト起こしてたんだってな。それで、囚人と娼婦がお前使って、賭けやってたんだろ?災難だったな。」 「……。」 もぞ、と布の中で身じろぎしながら、私はローザの気だるげな声を聞く。 「お前がコムハニー持ってたおかげで助かったよ、正気に戻れた。」 あのままいたら、暴走して最悪死んでただろうから。と、ローザは何でもないような口調で呟いてくる。 なんで平然と、そういう生き死にの概念が話せるんだろう。 いや、ここは監獄なんだから当たり前か。 元の世界での価値観や、メイド時代での価値観と合わせちゃいけないんだ。 この場所はイカれてる。 改めてそう思った。 私は食堂とこの部屋しか行き来してないから、まだ本物の監獄を知らないんだ。 「出て来いよ。コムハニーくれたんだから、礼くらいはするよ。」 食屍鬼と、もう何回目か、私を呼び続けるローザ。 「食屍鬼?」 部屋にいないのか?と、ドアの向こうでわずかに、ペタリと何かに触れた音がした。 そうして少しの間の後、なんでもないように鍵をかけたドアが開く。 魔法でドアを開けたらしい。 やがて、キョロキョロと周りを見渡した後、隅っこで丸くなっていた私を見つけたらしい。 「何だよ、いるんじゃねーか。無視すんなよ。」 「………。」 ペロ、と薄い布を捲り、私の存在を確認するローザ。 だが、起き上がる気のない私を見て、少し面倒くさそうな顔をした。 「指食いちぎったの怒ってんのかよ。あんなのココじゃ日常茶飯事だぞ。俺なんか、舌噛みちぎられて死にかけたことあるし

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